展望
精神科リハビリテーションの治療・支援技法の現状と課題
著者:
池淵恵美1
安西信雄2
所属機関:
1帝京大学医学部精神科学教室
2東京都立松沢病院
ページ範囲:P.118 - P.129
文献購入ページに移動
我が国の精神科リハビリテーションは,新しい変化の時を迎えつつある。1972年に江副の編集により精神科リハビリテーションのそれまでの集大成ともいうべき著作23)が世に出されたが,そこでは昭和30年代より病院精神医学が盛んになり院外作業療法とナイトホスピタルが試みられ,またデイケア,家族会など地域医療の萌芽的な試みが行われた様子がまとめられている。当時は病院を起点として精神科リハビリテーションが組み立てられたということができるが,現在では共同作業所やデイケアの普及,さらにグループホームなどの広がりにより,視点を地域に移さなければ全体の動向を理解することができない。職業リハビリテーションの分野も,新しい発展を遂げつつある。近年,精神科リハビリテーションの成書5,28,36,38,47,63,76)が次々と出版されており,英米の教科書2,54,85,86)の訳出も盛んであるが,これらは今後の精神科リハビリテーションの発展のための模索の試みの中から生まれているもののように思われる。
精神科リハビリテーションの技法も,いくつかの分野の発展により豊富になってきている。生活技能訓練(SST)や心理教育的家族療法の普及はめざましく,これらは患者・家族の精神障害観を変えるのみならず,支援者の側の障害観の変容をももたらしつつある。こうして,身体障害のリハビリテーションの中で発展してきた「障害論」との接点が拡大し,生物学的精神医学との接点も広がりつつある。生物学的な視点からの障害の本質の解明は,リハビリテーションの科学的な基盤を明らかにするであろう。