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雑誌目次

雑誌文献

精神医学4巻10号

1962年10月発行

雑誌目次

展望

感覚遮断—その生理学的,心理学的,精神医学的側面

著者: 大熊輝雄

ページ範囲:P.687 - P.703

Ⅰ.感覚遮断sensory deprivationの定義
 中枢神経系の機能は,生体に対して環境からたえまなく与えられる外界あるいは内界の刺激を受容し,これを統合し,末梢の効果器を通じて広い意味での行動として表出することであり,これは生体の環境に対する適応ともいうことができる。また一方,生体の側からみると,中枢神経系の機能が正常に発達し,かつ維持されるためには,変化にとんだ適度の外的あるいは内的刺激がつねに中枢神経系に与えられている必要がある。
 生体に対する刺激が極度に減少したり,あるいは過度に増大したりして,ある限度をこえると,中枢神経系は正常な活動を維持することができず,生体は環境に適応した行動をとることができなくなる。たとえば,各種の感覚刺激が冠的に極度に減少した状態,あるいはpatternをもたない感覚刺激や,単調に反復する刺激だけが与えられるような状況,いわゆる感覚遮断sensory deprivationの場合には,知覚の障害,錯覚,幻覚の出現,認識の障害,見当識の障害,不安などの感時障害,など種々の異常精神現象が出現することが知られている。

研究と報告

書きまちがいの研究

著者: 挾間秀文

ページ範囲:P.707 - P.711

I はじめに
 書きまちがいは,われわれが日常生活において始終経験することがらであるが,それがどんなときに,どのようなぐあいにおこるかを注目するのは興味深いことである。人によつては書きまちがいを多くする傾向のある者がいるし,時によつては,1つの文章の中でことさら何度も書きまちがいをする場合もある。また,書き誤つて訂正する個所をふたたび書きまちがうこともある。
 同じ書きまちがいでも,正常成人,子供あるいは精神薄弱者の場合ではそれぞれその傾向が異なるし,進行麻痺患者や精神分裂病者には,もつと病的な独特な誤りかたがあるように思える。このような書きまちがいは,経験的な筆跡鑑定の1つの方法としても実用的に利用される場合がある1)
 さて,こうした書字現象に対して従来いろいろな研究がなされてきたが,方法論的に大きく2つに区別することができると思われる。その1つはKleist2),Isserlin3)初め多くの研究者がやつたように,失語症の失書(Agraphia)または錯書(Paragraphia)に関連して内言語過程といつた面から研究するゆきかたで,脳生理学とともにゲシタルト心理学にもとづく実験心理学的方法4)もこれに加えたい。とくにわが国のこの方面の研究では失語症の錯語(Paraphasia)が第1に取扱われたようであるが,その錯書にも日本語の特殊性に関して種々の考察がなされ,正常者の書き誤りと比較して論じられた5)6)7)。他の1つはFreudが「日常生活の精神病理8)」において書きそこない(Verschreiben)としてとりあげたように,この失錯行為に対して無意識過程からの意味づけを行なう方法である。一方は脳の機能を基礎にして失語症という病的現象を説明しようとする大脳生理学的ゆきかたで,正常者の書きまちがいだけを問題にすることは少ないのに反し,他方は精神分析学の立場からこういつた正常者の問題に心理学的接近をこころみようとするものである。
 1つの思想が内言語過程を経て書字運動に移されるまでの複雑な大脳の経路については,いろいろな学説はあるがまだ十分解明されていないし,それが書き誤まられるための要因について論じることは,なお困難な問題であろうと思われる。
 私はこの書きまちがいに学生時代から関心があり,以来10余年間に集めた正常者の例について書きまちがいがどのようになされているか報告したい。ここに集められた例は,手紙,日記,講義録,診察カルテ,試験答案その他「書かれたもの」の中から,明らかに書きまちがいと思われる約600例を選び整理したもので,あて字,思い違いによる誤字と思われる例などは含まれていない。またなんらかの精神障害のある者による例はのぞき,成人正常者のもののみにかぎられた。多くは書きまちがい部分だけをひろい集めたが,一部は前後のかなり長い文章とも書きとつて資料にしたものもある。なおこの中には私自身の書きまちがい例が多く含まれている。
 こうして集められた雑多な資料をどのように整理すべきかに苦心したが,今回は書きまちがいの事実が1つの現象としてどのような傾向をもつているか,という立場からみることにした。従来失語症の例において井村教授ら5)6)9)が,日本語の特殊性として表音文字としての仮名と,表意文字としての漢字に分けて論じていることにならい,つぎのごとく整理した。

入院患者精神衛生調査表について—各科患者の心構えの検討

著者: 黒田知篤 ,   杉山善朗

ページ範囲:P.713 - P.722

I.はじめに
 いとぐち疾病を単に器質的,生物学的にみるだけでなく,その疾病をになう人間をも対象とし,患者の心理面や社会面もとりあげて,総合的,全体的に把握すべきことは,つねに精神身体医学の主張するところであり,また,実際臨床にたずさわるすべての人々の感ずるところであろう。これまでの精神身体医学の業績は,かかる把握の重要なることを示している。しかし,患者の心理面の重視は,単に個々の患者に向けられるばかりでなく,結局は,ふたたび個々の患者の心理が問題になるにしても,これら患者の心理面に影響を与える諸要因(心理的環境といつたもの)にも向けられなければなるまい。患者をとりまくいろいろの事態は,そのまま心理的環境を作り,患者のうえに投影されて影響しあうに違いない。
 このような点から,病院という1つの集団をみてみると,疾病という,多かれ少なかれ生命的危惧を自己の身体にもつ者の集まりは,心理面の管理,すなわち,精神衛生管理のきわめて必要なる集団といわなければなるまい。しかも,このような患者の心理に関しての研究は,結核患者においてはかなりに注目されているけれども2)3)4)8),その他の患者に対しては,いまだなお未開拓な分野といえよう1)
 私どもは,この入院患者の精神衛生面の把握を,より明確ならしめるために,7つの態度次元をもち,尺度としての内的整合性のたもたれた調査表を作製した。その概要と,2,3の成績を記してご批判を仰ぎたいと思う。
 目的 本調査表作製の目的は,入院患者を対象とし,罹患入院によつて惹起される精神衛生上の諸問題とその推移,変動を把握しようとするもので,その基底にある患者の心的態度を,尺度化されたスケールによつて,数量化し,比較対照することが可能なものにし,あわせて,医療上の精神衛生管理についての指標を与えようとするものである。
 患者の心理面についての事柄は,さまざまの角度からとらえることができようが,本調査表においては,入院患者の具体的な個々の問題における心理についてではなく,それらの基底になる心的態度のありようとその推移の把握に中心がおかれている。したがつて,その方法として,問題となる心的態度の諸側面に関した一連の質問群を作製し,各質問に5段階の自己評定(Self-rating)を行なわせるような相加評定尺度(Summated-rating scale)として成立させ,数量的に態度を測定する方法をとつたわけである。このような態度測定の技術を導入することによつて,より明確に態度の変動を把握し,個々の事態を対照して論じうるように意図したわけである。

女子精神病者の性周期にともなう精神症状の変化について—第2報 症例の検討

著者: 山下格 ,   中沢晶子 ,   篠原精一 ,   伊藤耕三 ,   吉村洋吉 ,   諸治隆嗣

ページ範囲:P.725 - P.731

Ⅰ.はしがき
 第1報1では入院中の女子精神病患者について,月経時に精神症状変化のおこる頻度その他の統計的な検討をこころみた。本報告ではその変化の性状や発生機制などを,症例について具体的に吟味してみたい。

精神疾患者の開放管理について—第3報 精神病院職員の開放管理に対する態度

著者: 柴原堯 ,   渡辺朝子

ページ範囲:P.733 - P.739

 精神病院職員の自己の精神病院が行なつている精神疾患者の開放管理に対する意識調査を行ない,つぎのような結果をえた。
 イ)開放管理を行なうことによつて生ずる困難な問題については,病者の急激な病状の変化が直接地域社会ひいては病院の運営に大きな影響を与えることが強調され,また一面では単純な物理的な開放管理は病者に無目的な日常生活を与えるにすぎないし,また閉鎖患者の処遇の相対的低下をもたらすことが指摘された。
 ロ)これらの困難な問題に対する処理の方法としては,閉鎖病棟への再収容がやむをえないが,しかしその決定を行なう以前に十分な病者の人問性についての理解の努力が必要であることがのべられた。
 ハ)開放管理は病者に自主性,精神的自由を与え,その日常生活の態度にのびやかさ,明かるさがみられるが,しかしそれは一方では完全な社会的適応状態を意味するのではなく,単に病者の内面的放縦性を表現しているにすぎないのであつて,これらのことから今後の開放管理の運営に関しては,一定の社会的行動の可能性を規準として開放病者を選別し,それにさらに自由時間を利用して,社会的規範の十分な教育を行なうことが必要であることがのべられた。

精神分裂病に対するLevomepromazine大量療法

著者: 桜井図南男 ,   西園昌久 ,   能登原典子 ,   北原尊雄

ページ範囲:P.741 - P.754

I.はじめに
 1952年にPhenothiazine系化合物であるChlor-promazineが精神科領域の治療に導入されて以来,さまざまの精神治療薬が提供され,それらは薬物学的には,1)Phenothiazine核をもつたものからの誘導体,2)Phenothiazine核そのものの変換をこころみたもの,3)Phenothiazine系化合物とはまつたく無関係に新たな構想でえられたものの3群に分けられる。
 現在用いられている精神分裂病に対する精神治療薬は,主としてPhenothiazine系化合物であるが,側鎖の違いによつて,すなわち誘導体の種類によつて多少の臨床薬理作用を異にするものである。すなわち,精神分裂病の症状は便宜的に1)感情鈍麻,疎通性欠如などの情動障害,2)幻覚,妄想などの異常体験,3)自閉,意欲鈍麻などの行動異常(精神運動障害)の3つに分けられるが,これら精神分裂病の症状に対するPhenothiazine誘導体の作用にも,誘導体の種類によつて,若干の違いと特徴とをもつものである。たとえば,一般に広く用いられているChlorpromazineはこれらの症状のいずれにも同じようにある程度の作用をもつことが認められるが,Perphenazineには意欲鈍麻の解消,すなわちActivationの作用が強く,それはChlorpromazineよりも強力であるといわれる。一方,Levomepromazineは情動障害の改善の作用が特徴的で,Phenothiazine系化合物のうちでもつとも強いようである。なお,幻覚,妄想などの異常体験に対しては近ごろ,Phenothiazine系化合物ではないが,Tetrabenazineの作用が注目されつつある。
 さて,日常臨床でこれらの薬物のどの程度の量を使うのがもつとも適当であるかは問題のあるところで,従来は多くの場合,社会保険の治療指針が指示している投与量,あるいはそれをいちじるしく超えない程度のものが使用されてきたが,その後の臨床経験によれば,ある程度の大量投与が,その効果を高める場合があること,あるいは時には大量投与が必要である場合もあることなどが報告されてきた。たとえば,私たちの教室における経験によると,Perphenazineは錐体外路性の刺激症状や,パーキンソン様症状を副作用としてあらわしやすいことから,それらの副作用があまり強くはあらわれない1日投与量30mg程度の量を従来使用してきていたのを,アーテンを使用して副作用をおさえながら,比較的大量60〜70mg程度まで増量することによつて,精神分裂病に対する効果をいちだんと高めることができた事実がある。このような経験から,Perphenazineとは臨床薬理作用が対照的なLevomepromazineを大量投与した場合にどんな効果をもたらすかは,はなはだ興味をおこさせる事柄である。
 精神分裂病に対するLevomepromazine(以後L. P. と略記)の作用についての研究にはわが国では野村8)三浦7),藤間3),金子4),江副2),岡本9),松本6),高塩12)氏らの報告があり,外国ではLambert5),Payne10),Achaintre1),Sigwald11)らの報告がある。野村らは1日最高75〜150mgのL. P. を17例の分裂病患者に投与し,興奮,不眠,拒絶にもつとも効果があり,幻覚,妄想にも有効で接触性の改善が大多数に認められ,自発性の増加もみられたという。三浦らは1日投与量150mg程度でC. P. と似た作用があることを報告し,藤間らは陳旧性分裂病に100〜200mg/日のL. P. を投与し60%の有効率をあげたという。金子らの報告によると9例の精神分裂病患者に1日最高300〜500mgのL. P. を投与して有効1例,やや有効5例,使用中有効1例,無効2例であり,C. P. の2/3量で同じくらいの効果があるという。江副らは緊張病性興奮状態を鎮静する効果があり,急性症状に対して100〜150mg 1〜2週間で十分であり,陳旧例には50〜75mgの維持量の連用が適当であるとのべている。岡本らは200〜300mgのL. P. を数例の分裂病患者に使用しC. P. 同様の作用があつたという。松本らは12例の分裂病患者にL. P. 1日最高150〜225mgを用い,著効5例,有効5例,無効2例でC. P. に勝るとも劣らない成績をあげ,使用量はC. P. の2/3が適当といい,症状についてはとくにL. P. の特徴と思われるものは報告していない。高塩らは19例の陳旧性分裂病に最高150mgを使用し,著効2例,有効4例,やや有効4例,無効9例であり,不安感,心気念慮が速やかに消失すると報告している。LambertらはL. P. が薬理作用,副作用ともC. P. に酷似し,とくに不安症状に効果があり,28例の精神分裂病に1日量100〜400mg,なかには800mgのL. P. を投与し,C. P. と同様の効果をあげたと報告している。Payneらは陳旧性分裂病86例を含む慢性精神病100例に対し,1日最高600mgのL. P. を投与し,社会的寛解1例,著効18例,有効38例,無効41例,悪化1例の結果をえたことを報告している。AchaintreはL. PがC. P. の無効例にも効果があること,投与量は一般にはC. P. の2/3でたり,1日300〜400mgで効果があるが,時に800mgでよい効果をあげたことを報告している。SigwaldはL. P. をC. P. と比較して,9例中前者が後者より明らかにすぐれていたもの3例,同程度のもの4例,劣つていたもの2例とし,使用量はだいたいC. P. の1/3量少なく用いることができるとのべている。
 以上のように内外の文献をみてみると精神分裂病に対してC. P. と同様の鎮静作用をもつことが確認され,使用量はC. P. より少なくてすむことがのべられている。しかし使用量がどの程度がもつとも適当であるかはさきにのべたPerphenazineの例もあつて,再検討を要するところであり,また,これらの報告ではいずれもL. P. の独自の作用というものにはふれられていない。これらの事実を考慮して私たちはここにL. P. の大量投与を精神分裂病にこころみてみた。

難治性てんかんにおけるCrampol(P-3981)の治療効果について

著者: 高信雄太郎 ,   若林瑞穂 ,   栗田秀秋 ,   吉田潤一 ,   浅間弘恵

ページ範囲:P.757 - P.763

Ⅰ.緒言
 てんかんの薬物療法は1938年MerrittおよびPutnamによるHydantoin誘導体の発見以来こんにちまで画期的な進歩を遂げている。しかし数々の抗てんかん剤の発見にもかかわらず,なお十分controlできないいわゆる難治性てんかんとよばれるものが約30%はあるのが現状である。したがつて現在てんかんの治療上の関心はこの難治性てんかんに集まつているわけであるが,これらは精神運動発作と混合型発作がその中心をなしている1)。すなわち精神運動発作は他の発作型に比しspecificな薬剤に乏しく,また発作を抑制できても精神症状の増悪をみることがある。一方大発作に著効をあらわすHydantoin誘導体は小発作を増悪させ,小発作に著効を示すOxazolidine誘導体は大発作を増悪させることがあるという両者の関係が知られ,両発作を共有する患者で治療上の困難をしばしば経験するところである。薬理学的にもHydantoin誘導体は動物の電撃ショックにより作られたけいれんに対して強い抵抗力を有し,一方Oxazolidine誘導体はMetrazolけいれんに対して強い抵抗力を有する物質として求められたのであり,臨床成績と相まつて,EverettおよびRichardsは動物の抗Metrazol作用は人間では抗小発作作用を意味し,また電撃けいれんに対して抵抗性が高いということは抗大発作作用を意味すると推論している。
 Hydantoin環が開環したPhenacetylurea(Phenurone)はSpielmanにより合成され,動物のMetrazolけいれんおよび電撃けいれんの両者に対して抵抗性を有するという意味で最初のgeneral antiepileptic substanceであった。臨床的には1949年Gibbs,EverettおよびRichardsにより初めてこころみられ,他剤で無効であつた発作,とくに精神運動発作に対して著効を示すことが報告され2)以後数々の追試を受けている。その結果抗てんかん剤としての作用は確認されるところとなつたが,不幸にもこの薬剤に鋭敏で重篤な肝障害や形成不全性貧血で反応し致死的経過をとつたものが報告され,その他精神症状の増悪,胃腸障害,傾眠,発疹,疲労感,頭痛,発熱などの副作用が時にあらわれることがわかつている。

Thioproperazine少量持続法の検討

著者: 松本胖 ,   佐々木司郎 ,   渡辺位 ,   山上竜太郎 ,   石川鉄男 ,   高室昌一郎 ,   大山修 ,   長谷川源助 ,   長島鋼典 ,   田辺昭二

ページ範囲:P.765 - P.770

 1.われわれはThioproperazineの不快な随伴症状を軽減し,その特異な効果を広い範囲に適応させる目的から少量持続法をこころみ,漸増法との比較を行なつた。
 2.対象は精神分裂病30,うつ病3,心因反応3,計36例であるが,1日量6mg以下の少量持続法においてもある程度の効果がみられ,漸増法との間にいちじるしい差異を認めなかつた。
 3.本剤の適応症状としては意志発動性減退および被影響性減退症候群と感情疎通性減退症状があげられ,これらの情意障害に対する効果は漸増法に比して勝るとも劣らない程度と考えられる。
 4.随伴症状は漸増法に比して一般に軽微であり,ことに運動元進症状を認めることはほとんどない。

動き

精神医学世界連合について

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.772 - P.773

 昨年6月モントリオールの世界精神医学大会のおりに,精神医学世界連合(World Assodation of Psychiatry, l' Association mondiale de Psychiatrie,Weltorganisation fur Psychiatrie)の設立が各国代表委員会で決議されたこと,ならびにその細則の決定は1962年にジュネーブで開かれる特別理事会で行なわれるはずであることなどについては,昨年の本誌7月号に,「第3回世界精神医学会に出席して」と題した私の寄稿の中ですでにのべたごとくである。その後日本精神神経学会の秋元理事長あてに,本年7月に予定のごとくジュネーブで特別理事会を開くので本邦からも代表者を送つてもらいたい旨の招請状がキャメロン会長からきたので,たまたまその時期に欧州に滞在しておられる中教授にわが国を代表して出席してもらうことが松本の総会の評議員会で決したこともご存じのことと思う。したがつて精神医学世界連合の細目は中教授の帰朝を待つて判明することと思うが,キャメロン会長はこれにさきだつて,なぜこんにちわれわれは精神医学世界連合を必要とするかという理由を詳細に発表されたので,以下簡単に紹介しようと思う。
 精神医学世界連合はモントリオールにおける第3回精神医学世界大会(1961年6月)において設立された。精神医学の異例な発展を前にして,それは必然的な時期であつた。精神病の範囲の拡大の通俗的ならびに職業的知識が増大したので,精神科医,一般市民,政府および科学の連合した努力に訴えねばならぬことは明らかとなつた。

紹介

Suicide Prevention Center

著者: 大原健士郎

ページ範囲:P.776 - P.779

はしがき
 自殺を研究している者なら誰でもその名を知つているEdwin S. Schneidman博士と文通する機会をえた。博士は,Clues to SuicideやThe Cryfor Helpなどの著書で,わが国の自殺学者に広く親しまれている。
 筆者は,かつてA. M. J. Psychiatry 117:12(1961)で博士がRobert E. Litman,Norman L. FarberowらとともにLos AngelesにSuicidePrevention Centerを設置し,自殺の防止ならびに自殺の基礎的な要因の研究調査を行なつていることを知つたが,その詳細を知るにはいたらなかつた。筆者はかねてから,自殺防止機関の必要性を痛感し,機会あるごとに,国立精研の加藤部長らとその具体案をねつてきたが,このたび,神研に内村先生,加藤部長らのきもいりで精神衛生相談室が併設され,広くこの方面の活躍が期待されるはこびとなつた。この機会に,米国においてSuicide Prevention Centerを中心とした自殺防止活動がどのように行なわれているかその実態を知りたいと希望していたが,最近の博士からの手紙により,そのあらましを知ることができたので紹介したいと思う。

“Founders of Neurology”から(5)

著者: 安河内五郎

ページ範囲:P.782 - P.785

Tkeodor Meynert(1833-1892)
 J. W. Papez
 神経学と精神医学の歴史の中で,Theodor Meynertは,予言者的な存在としてめだつ人である。Flechsig,WernickeおよびForelは彼によつてinspireされた。彼はまたFreudの師でもある。こんにちの神経学および精神医学におけるdynamicな概念の,ある部分はMeynertに負うている。
 MeynertはDresdenの産。Viennaに医学を学び,1861年に学位をとつた。1865年Vienna大学の講師,1866年Wien国立精神病院の屍体解剖者となり,1870年Vienna大学精神科臨床部長,そして1873年には神経科正教授の地位についた。Meynertの精神科のほうのあとがまはKraft Ebing,その後がLeidesdorfである。その後になつて,神経科をもくるめて椅子を引継いだのが,Wagner-Jauregg,Poetrl,Kaudersおよび現在のHoffということになる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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