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雑誌目次

論文

精神医学4巻3号

1962年03月発行

雑誌目次

精神病理懇話会より

疏通性の精神生理学

著者: 井村恒郎 ,   木戸幸聖

ページ範囲:P.143 - P.151

 疏通性(rapport)の語は,精神医学的面接における医師と患者の対人関係をあらわす用語として,われわれには親しみぶかい。しかし,この語がどういう事態をさしているかを,われわれは成書や講義から学んだのではなく,面接の指導をうけたり,実習をかさねたりなど,臨床の実際(praxis)を通じて経験的に知つている。いいかえると,面接における疏通性の様態についての体系的な知識なしに,面接でえた印象を積みかさねて,われわれは疏通性の概念を身につけている。
 事実,臨床的に疏通性の有無・良否が云々されるときには,面接をした医師の主観的な疏通あるいは非疏通(zuganglich od. unzuganglich)の体験がもとになり,そのうえに,面接中に観察された患者の応対態度の適切か否かについての判断が加わつている。ふつうの診断面接では,この2つが疏通性の判定根拠になつているが,そのさい,面接の行なわれる状況や面接中に観察することのできない医師自身の面接態度については―疏通性の如何を決める要因となる場合もあるのに―考慮の外におかれる傾向がある。そして,判定された疏通性の有無・良否は,すべて患者に帰せられて現症に数えられがちである。

研究と報告

慢性精神病患者に対する社会復帰教育(第1報)

著者: 井上正吾 ,   加藤孝正

ページ範囲:P.153 - P.162

Ⅰ.緒言
 身体的治療のみならず,社会復帰教育の重要性についてはいまさらのべる必要もないが,現在のわが国の事情よりみればなお未分野の状況にある。とくに精神科領域における社会復帰の困難なことはこれにいくらかでも関係したことのある人ならば痛感していることであろう。しかしながら,まことに遺憾なことであるが,社会復帰への指導方法,技術面の研究はあまりなされていないようである。したがつて今後の精神科における社会復帰教育として真に科学的,かつ効果的に建設してゆくためには,この教育方法,技術面の研究開拓が大切なことは自明であるといえよう。

集団精神療法の経験

著者: 青木秀

ページ範囲:P.165 - P.169

Ⅰ.緒言
 個人的精神療法のみを行なつていて,患者の数が多くなると,どの患者も公平に精神療法がうけられないという欠点があるので,多数の患者に同時に精神療法を行ないたいと思つて集団精神療法をこころみた。集団療法が行なわれるのは,このような目的からのみではなく,Slavson1)2)らは,「その成員の人格が根本的に変形されること」を目的としている。しかし私がおもな目的にしたのは一定のかぎられた時間内にできるだけ多くの患者に精神療法を行ないたいということであり,また集団精神療法は,テラピストにまかせるにしても,一応自ら行なつた経験をもつことは,集団療法を理解するうえに有意義と考えた。

Gerstmann症候群に対する2,3の考察—諸症候要素の消長について

著者: 佐藤道

ページ範囲:P.171 - P.180

Ⅰ.緒言
 1924年 Gerstmann5)は,手指失認が,これとは一見互いに無関係にみえる左右障害,失書(失読をともなわないという意味での純粋な失書),失算などと共存しているのに注目し,さらに同様な数例を観察して4つの症状が一定の特定限局部位,すなわち左頭頂,後頭葉移行部に病巣を有することを報告した。
 またこれに前後してHermann, Potzl(1926)が同症候群を呈するもので左隅角回転と第2後頭回転の移行部に腫瘍を確かめ,最初の剖検例を提供した。

精神病者の自殺行為—その予告徴候と動機について

著者: 山田広実

ページ範囲:P.183 - P.188

 精神病者の自殺行為はまれではなく,その頻度は多くの研究者によつて高いことが報告されている。しかしこれらの異常行為は正しい治療と適切な処置によれば未然に防ぐことができる。自殺行為を防ぐには,自殺企図前あるいは自殺観念を認めたときの主観的ならびに客観的症状と,動機を明らかにすることが重要と思われる。この見地より,自殺行為を防ぐなんらかの手がかりをうるために,自殺を企図した者あるいは自殺意図を認めた者についてそれらの点を考察することとした。

Cyanamideの抗酒作用に関する臨床的研究

著者: 米倉育男 ,   福智正士 ,   安藤春彦

ページ範囲:P.189 - P.194

I.はじめに
 わが国においては,近年アルコール中毒者の数は激増の一途をたどり,しだいに大きな社会問題として発展しつつある。
 そして,その対策としては法律による飲酒制限,飲酒犯罪者の法的抑制強化,アルコール中毒専門病院の設置などの政治的,社会的施策とともに,アルコール中毒者の医学的解明がもつとも重要であることは論をまたないであろう。
 しかしながら,これまでわが国のこの問題への関心は欧米諸国と比較してきわめて乏しく,その研究も微々たるものであり,とくにアルコール中毒者の治療の面においては,わずかにその緒を見出したにすぎないといつてよいであろう。
 慢性アルコール中毒者ないし飲酒嗜癖者治療の最終目標は,飲酒嗜癖形成化の阻止にあると考えられ,その方法としては精神療法および化学療法の2つに大別されよう。
 そして,個別的あるいは集団的精神療法,催眠療法などの研究の進歩と並んで,1948年デンマークのE. JacobsenとJ. Hald1)によつて,Tetraethyl-thiuram disulfide(Antabuse)の抗酒性が発見されて以来,アルコール中毒者の治療の領域にもようやく化学療法が導入されるようになつた。
 その後,Antabuseの難点である個体差が大であること,遅効性であること,飲酒試験時の飲酒量と反応ピークに差があること,入院治療を必要とすること,効果持続性の短いこと,副作用が出現することなどを除去しようとして,薄葉2)は石灰窒素を,Fergusonら3)や白橋ら4)はCitrated Calcium Carbimide(Temposil)を使用した治療経験を報告している。
 1960年,向笠5)は臨床的には飲酒の楽しみを奪わず危険量以下の飲酒量で十分な満足感をえられる節酒剤としてCyanamideの効果についてのべている。
 われわれおよび共同研究者は,1956年以来アルコール中毒者および飲酒嗜癖者の臨床精神医学的,身体病理学的ならびに臨床心理学的研究を行ないつつあるが,ここにその治療面への一寄与として,Cyanamideを使用してとくに飲酒試験時における病態生理学的側面を中心に観察し,その抗酒性について検討を行なつたので報告する。

資料

精神障害者の入院について—第6編 考察

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.195 - P.199

Ⅰ.非自由入院の根源と目的
 1.非自由入院の根源
 精神障害者の非自由入院は,しばしば本人の意思が無視されて行なわれ,入院後も行動の自由が制限されるが,その根源となるはつぎのごとくである。
 1)精神障害者はしばしば自他に危険性がある。
 2)精神障害者はしばしば病識や判断能力に欠け,入院治療の必要性に対する適正な認識を欠く。医師や家人の説得に応ぜず,入院後も自由状態では無断帰宅する傾向がある。

紹介

K. P. Kisker:精神分裂病者の体験変遷

著者: 島崎敏樹 ,   中根晃

ページ範囲:P.201 - P.206

 最近,われわれが手にした書物にPsychiatrieder Gegenwart(1960)がある。これには分裂病の臨床症候学がわずか27頁しかさかれていない。内因性精神病では治療のほうが前景に立つてしまつて,分裂病と名づけられている疾患にいたっては,Bumkeの精神医学全害(1932)の時代より多くは知られていないのである。
 ところがその後,分裂病は別の平面から論じられることになつた。それは精神分裂的存在の本質それ自身,そして世界,とくに人間共同世界との関係から追究され,それは多くの論文や紹介から知られているとおりである。Kiskerは分裂的存在のナゾであるその特異性を明らかにするため,心理学者Kurt Lewinの位相力学(dynamischeTopologie)を用いてこの病の経過法則,分裂病者と世界との関係を明かるみに出し,また,世界性と肉体性とをそなえた人格の心の内部の力動の法則によつて分裂病者の体験変遷がおこると説き,この心の固有法則を彼はPsychonomieと名づけた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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