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雑誌目次

雑誌文献

精神医学4巻7号

1962年07月発行

雑誌目次

展望

児童精神医学の諸問題

著者: 堀要

ページ範囲:P.439 - P.451

はしがき
 昭和35年1960年に児童精神医学関係の2つの学会が発足した。1つは日本精神神経学会を母体として生まれた日本児童精神医学会で,もう1つは日本小児科学会を母体として生まれた小児精神神経学会である。あたかも世界精神衛生年にさいしての誕生であるが,両学会とも相当ながい胎動期を経過したのであろう。前者の創立には私も直接参与した者の1人であるが,私にとつては,ながく待ち望んでいたところであつた。おそらく,この学会の発生には文化的必然性があつて,のちになつて,日本の児童精神医学の史的展望にさいして,いつか誰かがこれを明らかにしてくれることを期待して,私はここで,その資料の一部にもと,私の身辺の情況の経過をのみふりかえることにする。
 1936年(昭和11年4月20日)当時の名古屋帝国大学医学部付属医院に,児童治療教育相談所という名称で,現在の名古屋大学医学部精神医学教室児童部外来診療の前身が発足した。精神科の杉田直樹教授と小児科の坂本陽教授の協力で設置せられ,精神科から助手の私が,小児科から助手の詫摩武磨(現在浜松市内で開業)が診療相談に従事することになつた。その後小児科の担当医が何人か代わり,結局私がほとんど単独で従事することが多くなつたが,当初の来訪児童についての集計1)は発表しておいた。当時問題をもつた児童が精神科外来を訪れるということはまれであつて,児童精神医学に志した私に対する杉田教授と坂本教授のあたたかい思いやりが十分こめられての設置であつた。現在,どの大学病院の精神科にも多数の児童が訪れて2),児童部を特設しなければならない必要にせまられているのとはまつたく文字どおりの隔世の感である。

研究と報告

集団療法としての組織キャンプの経験

著者: 吉川洋

ページ範囲:P.453 - P.460

Ⅰ.緒論
 今回の試行は1962年7月20日より2泊3日にわたつて行なわれたものである。このこころみは教育の面から発展してきた組織キャンプ〔Organized Camp(以下O. C. と記す)〕を主として精神病者に対する治療としてとりあげてみようということから計画されたものである。

失語症者における「いろは四十八文宇」の障害について

著者: 保科泰弘

ページ範囲:P.461 - P.464

Ⅰ.緒言
 わが国の失語症患者において,漢字に関する障害に比して仮名の障害がより顕著にあらわれることは,すでに諸家の報告に明らかなところである。この現象は,漢字が視覚的把握によつてそれ自体,象形的意味をもつ表意文字であるに対し,仮名が単音および音節の混合より成つており,内言語化から形象化の過程を必要とする表音文字であることから,多く説明されている。阪本は視覚的影響の重要性を指摘し,木村あるいは小谷もそれぞれの報告を行なつている。
 これら漢字仮名問題の追究にあつて,外国語のアルファベットに対比さるべきわが国のいわゆる「いろは四十八文字」に関して,従来あまり強い関心は寄せられず,系列言語の一障害として簡単に取り扱われているごとく思われる。しかし,わが国における言語学的修得の過程をたどつてみるならば,この「いろは四十八文字」の障害は,四季,七曜のそれのごとく,等閑にふして考察すべき問題ではなく,既述の漢字仮名問題とも密接に関連し,また,知性論,反知性論の対立にあつても,重要な位置を占めるものであり,より厳密な分析がほどこされねばならぬと考える。

分裂病画家の1症例について

著者: 田尻隆一 ,   鴇田元夫

ページ範囲:P.467 - P.473

 24才の破瓜型分裂病画家の症例について,絵画様式の変遷を症状と関連させて観察してみた。絵画のみから患者の診断や病状をうかがい知ることができるといいきるのは危険なことであるが,臨床症状と合わせて観察してゆくと,そこには臨床的価値も十分存し,幾多の興味のある問題が残されていることを知ることができる。

精神分裂病様症状をともなつたマルファン症候群の1例

著者: 杉本直人 ,   下条和敏 ,   森清則 ,   小林淳鏡

ページ範囲:P.475 - P.481

Ⅰ.緒言
 いわゆるマルファン症候群という疾患名の創設は,1931年,H. Weve29)によるものである。文献のうえでこの疾患の最初の報告は,1896年にA. B. Marfan16)による,5才の1女児に関する症例報告に始まる。彼は,四肢の骨が異常に細長く,同時に腱の短縮した特異な体型を有する患者を見出し,これを四肢の先天性奇型と考えてDolicostenomaly(Langgliedigkeit)なる名のもとに記載した。しかしこの記載では,単に四肢の特徴がとらえられたのみで全身所見の十分な観察はなされていなかつた。
 その後MarfanからWeveまでの間に,この体型の特徴のほかに他の重要な所見,たとえば眼球の水晶体偏位,虹彩震盪あるいは心臓血管系の障害などの知見がえられるとともに,諸家によつてこの疾患に種々の名称が与えられる結果ともなつた。これにArachnodactyly-Achard1)(1902) Acromacry-Moniz18)(1925)らの別命がある。

新催眠剤methyl-2 orthotolyl-3 quinazolone-4による臨床脳波賦活法

著者: 清水隆麿

ページ範囲:P.483 - P.487

Ⅰ.緒論
 臨床脳波において,閉眼・安静の状態のもとで記録された脳波に異常が認められないときでも,被検者になんらかの刺激を与えると,異常脳波が誘発されたり,あるいはすでに認められていた異常脳波がより判然とする場合がある。かような方法で,異常脳波の発見および診断を容易にすることは,脳波賦活検査法として現在では臨床脳波の必須手技となつている。その賦活の方法や種類は種々なものが行なわれ,そのおのおのの特色や脳波像への影響についても研究されてきた。
 従来行なわれてきた賦活法を概観すると,閃光刺激・音響刺激・電気刺激などの物理的刺激や,過呼吸・睡眠などの生理的刺激,Cardiazol・Diphenhydranine・Megimide・自律神経遮断剤などの薬物による化学的刺激などを単独で行なう法,さらにこれらを組合せて行なう方法などがある。これら種々の賦活法のうち,過呼吸・閃光刺激・睡眠・Cardiazol・Megimide・閃光-Cardizol・閃光-Megimideなどが一般に行なわれている。

Tetrabenazine使用による麻薬中毒者禁断症状の治療について

著者: 植山喬

ページ範囲:P.489 - P.492

Ⅰ.緒言
 麻薬中毒者は自律神経嵐とよばれる禁断症状の激しさのために病院で治療を行なうにあたつても他の精神疾患に比しもつとも手をやかせるものであるが,従来その治療法としては麻薬の漸減療法と即時禁断療法とがあり,前者としては比較的習慣性の少ないMethadoneなどが用いられ,後者の方法としては持続睡眠療法,電撃療法あるいは最近ではReserpinやChlorpromazineなどの薬物を用いる方法が行なわれているが,これらの方法をもつてしても相当苦痛をともなうのが通常である。Tetrabenazineは1957年F. Hoffmann-La Roche研究所のC. SchniderおよびC. Broceiが脳中Serotonin含量を低下させるReserbin以外の化合物を探究中に1,2,3,4,6,7-Hexahydro 11 b H-benzo[α]quinolizineの三重環状構造が種々の興味ある薬理作用を示すAlkaloidの主要成分をなしていることを発見したが,これらのAlkaloidを解明する過程において分解や合成により無数のBenzo[α]quinolizineをえたが,そのうち若干のものが鎮静および麻酔強化作用を有していることを明らかにし,その中でも2-Keto-5-isobutyl-9, 10-dimethoxy-1,2,3,4,6,7-hexahydrobenzo[α]quinolizineがもつともすぐれた効果を示すことを見出し,1959年Voelkelらが臨床上応用した。これがTetrabenazineで第1図に示すような構造式を有しているが,その後諸家により精神病の治療に用いられてその効果が認められているが,おもな薬理的臨床的特徴としては
 1.すぐれた鎮静,抗精神病作用を有し,とくに幻覚,妄想,不安,緊張などが著明に認められる急性および慢性の精神病および神経症に有効である。
 2.作用は脳幹に選択的で末梢への影響が少ないため,末梢への良好な耐薬性を示す。また血圧降下作用はない。
 3.作用発現は速かで,持続時間が短いため蓄積の危険がない。
 4.嗜眠作用がほとんどなく,過度に抑うつにすることもない。
 5.禁忌はほとんど認められておらず,電撃療法との併用もさしつかえない,などであり,またReserpinと比較して
 1.脳内でのみSerotoninおよびNoradrenalinを遊出し,末梢組織からはこれらのAminを遊出しない。したがつて腸管からのSerotonin遊離にもとづく下痢や,交感神経端枝のNoradrenalinの減少にともなう血圧低下をきたさない。
 2.Reserpinのごとく脳Serotoninを完全に遊離するのでなく,脳のSerotoninをほぼ1/2に減少させる。
 3.発効時間が速かでまた投与後速かに代謝されて24時間内に完全に排泄される。
 4.Reserpinに比し作用時間が短い。
 5.Reserpinの鎮静作用に拮抗する。ことなどが認められているが,私はその国産品たるRubigenを麻薬中毒者の禁断症状の治療に使用してきわめて良好な成績をえたのでその結果を報告する。

Chlordiazepoxideの抗けいれん作用について

著者: 中村希明 ,   美濃部欣平 ,   三宅等 ,   竜倫之助 ,   徳永純三郎

ページ範囲:P.493 - P.497

Ⅰ.緒言
 最近スイスRoche研究所より発見されたChlordiazepoxideがすぐれた抗けいれん作用を有することがKaim & Rosenstein1),Rosenstein2)によつて注目され,臨床ならびに脳波上の検討がてんかん患者9例についてなされている。本邦においても田椽ら3)は,最近本薬剤のてんかんに対する効果を報告している。われわれも山之内製薬の好意により本剤の提供を受け,主として精神病院入院中のてんかん患者20例に本剤を投与して,臨床および脳波上よりその効果を検討し,すでにその要旨は第9回脳波学会で報告したが,本剤を抗けいれん剤として使用した報告例が増加しつつある現状にかんがみ,いささかの参考となれば幸いと考えて報告するしだいである。

紹介

精神科領域における薬物療法による効果の判定について

著者: 室伏君士

ページ範囲:P.500 - P.508

Ⅰ.はしがき
 精神科領域においては,近年,向精神剤がつぎつぎに作り出され,それにともなつて治療効果に関して多くの研究が発表されている。しかし実際に詳しく検討してみると,幾百とある文献数にもかかわらず,信頼でき有用であると考えられる文献は数分の一であると称されている。これはその施行の方法や評価のしかたに,科学的な客観性を欠いているためである。このように研究の計画や評価の基準がまちまちであるため,それぞれの著者のえた成果を比較しようとしてもそれぞれの研究はそれぞれの基準によつており,その結果として他の発表と比較し対照するにあたつて大きな困難をきたしているというのが現状であるといえると思う。これらの問題を解消するには,理論的に考えられた一定の方法にしたがうこと,共通の評価の尺度が適用されることが必要であろう。このことについては,わが国においても問題であるばかりではなく,アメリカなどでもそうであるようであり,効果判定を普遍性のある有意義なものとするために,いろいろの提案がなされている。そこでわれわれは最近公けにされた著,
 1)Evaluation of Changes Associated with Psychiatric Treatment. Marvin Reznikoff, M. A., Ph. D. & Laura C. Toomey, M. A. Charles CThomas. Pub. Springfield. Illinois. U. S. A, 1959.
 2)Differential Treatment and Prognosis inSchizophrenia. Robert D. Wirt, Ph. D. & WernerSimon, M. D. Charles C Thomas. Publisher. Sprngfield. Illinois. U. S. A. 1959.
の骨子を主として紹介しつつわれわれの教室で検討しつつある薬物効果の判定についての考えをものべて参考に資したいと思う。
 ある薬物の効果についての研究には,その研究のための計画立案の原則,すなわちいかなる立場にたつているか,いかなる点に意義を認めているかなどの理論的な問題と,それに則つて行なう実施の方法,判定の基準,判定のまとめなどの実際的問題とが重要な事柄となるであろう。

海外文献

精薄4514名の性染色体—A survey of sex-chromosome abnormalities among 4514 mental defectives

ページ範囲:P.473 - P.473

 Lancet 7224:293-296,Feb. 10, 1962.染色体研究の権威を網羅して広汎に精査されたこの方面でのもつとも注目すべき論文で,関係者のみのがすことのできぬもの。イングランド・スコットランドの病院・収容所から精薄♂2607,♀1907を選び,口腔粘膜スミアから性クロマチンを検し,白血球および皮膚について性染色体を分析した。♂2607中28例性ク(+),うち23例は性ク1個,4例2個,1例3個。計10.7%。♀1907例中8例は性ク2個(4.2%)。♂28例を吟味すると,性染色体XXY 17例(6.5%),XXXY4例(1.5%),XXYY 2例(0.8%)およびモザイク5例(1.9%)。XXYの1例は21番の体染色体にトリソミーがあつた。♀8例を吟味すると性染色体XXX 7例,XX/XXX 1例。いままでのこの方面の検索中もつとも広範,もつともゆきとどいたもので,異常検出率も高い。その異常のうちモザイクだけとりあげる。XY/XXYは2例で,染色体数46本と47本の2種の細胞から成つていた。XXXY/XXXXY 1例は染色体48本と49本との2種の細胞から成り,47本(XXY)はみあたらない。XY/XXY/XXYY 1例,この48本染色体はXXYYと決定されたが体染色体21番か22番のトリソミーという可能性もあろう。XO/XY/XXY 1例は皮膚培養で,染色体45本,46本,47本,の3種がみられ,47本はXXYにまちがいない。XX/XXX 1例。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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