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雑誌目次

論文

精神医学4巻8号

1962年08月発行

雑誌目次

座談会

第59回精神神経学会をかえりみて(その1)

著者: 西丸四方 ,   台弘 ,   黒丸正四郎 ,   懸田克躬 ,   新井尚賢 ,   林暲 ,   島崎敏樹 ,   井村恒郎 ,   三浦岱栄

ページ範囲:P.520 - P.535

 司会者のあいさつ
 三浦 今年松本で開かれた精神神経学会総会についての座談会をもちたいと思います。そして僭越ですが,私が進行係をさせていただきます。このたびの学会は非常に天候に恵まれまして,これはまつたく西丸会長ならびに島崎副会長の人徳のしからしめるところだというように申したんですが,このお天気がよかつたということが,お引き受けになつた教室のかたにとつても,非常にやりやすかつたことは当然ですが,参会した一同が非常に楽しくすごすごとができた大きい要因であつたんではないかと思います。もちろん,こういうことは学会そのものの本筋の問題ではありませんけれども,さらに今回の松本の学会ではかねて西丸会長から,学会をもつ方式についてご自分の独自のお考えを発表になつておられましたが,そのご抱負のとおりにまつたく斬新ないわば画期的と申しましようか,1つのエポックを画したものではなかろうかというふうに感じたようなわけであります。それで最初にそのときの学会の西丸会長さんもおみえになつておりますので,どういうご方針であのような非常に斬新なそして非常に効果的であつたような形式をお考えになつたのか。その点をまずおうかがい致したいと思います。なお司会者としてつけ加えておきますが,この座談会には関西方面からもどなたかご参加願いたいと考えていたのですが,たまたま黒丸教授が過日上京されましたので井村,懸田の両教授にお願いして座談会をしていただきました。編集のさいにはそれも随所におりこんでいきますからご諒承願います。

研究と報告

敏感関係妄想書の1例—敏感関係妄想と原始関係妄想との関連について

著者: 中田修

ページ範囲:P.537 - P.541

I.はじめに
 私はずつと以前から,精神分裂病の妄想や幻覚が入院を契機として著しく消退する場合のまれでないことを経験し,そのような症例に強い関心をもつていたが,最近,興味ぶかい1症例に遭遇した。それは幻覚妄想状態を示す57才の女子であるが,その病像は人院すると早急に消失し,退院すると早晩出現するという現象をくりかえし,病像の出没が状況の変化に顕著に影響される。しかも,発病後7年以上を経過しているにもかかわらず,人格の荒廃は認められない。入院を5回くりかえし,外来治療を2カ所で受けているが,診断はまちまちで,敏感関係妄想,退行期精神病,抑うつ病,精神分裂病が疑われている。病像,経過などを検討した結果,それは敏感関係妄想に属すべきものと考えられる。敏感関係妄想についてはKretschmerの名著があり,わが国でも荻野の多数例にもとつく優れた研究があるので,いまさら症例報告の要はないかもしれない。しかし,Schneider, K. のごとく異論をいだく学者もある。また,この例は敏感関係妄想と原始関係妄想(Schneider, K.)との関連性について示唆するところがある。それから,この種の妄想性反応が実際にそうまれではないという私の臆測より,臨床の実際に参考になるところがあろう。

女子精神病者の性周期にともなう精神症状の変化について—第1報 臨床統計

著者: 山下格 ,   中沢晶子 ,   篠原精一 ,   吉村洋吉 ,   伊藤耕三 ,   高杉かほる

ページ範囲:P.543 - P.548

Ⅰ.はしがき
 興奮状態で入院した女子患者はたいてい月経の最中か直前である。筆者が精神科医になりたてのころ,ある年長の看護婦がこともなげにこういうのをきいたことがある。半信半疑で気をつけてみていると,どうやらそのようであつた。このことは最近,Mall1)によつて統計学的に確かめられた。またそのほかにも,精神病像が月経周期に一致して急激に移り変る症例をしばしば経験した。一応,月経精神病とよんだり,最近よくいわれる非定型精神病に含めてみたりしたが,しかし考えてみるとはなはだすつきりしない。月経期に精神的変化をきたすことは,正常婦人にもしばしばみられる現象である。とすると問題は,精神病者でもそれと同じことがおこるというだけのことであろうか。あるいはその程度がとくにはなはだしいのであろうか。しかしその時期にだけ幻覚や昏迷があらわれるような場合がある。これをどのように考えたらよいであろうか。またそれらの変化は,月経という身体機能と病態生理のうえでどのような因果関係をもつのであろうか。これらのどの問いにも,われわれはまだ満足のいくような説明を聞いていない。
 そこでわれわれは,さきに発表した精神疾患の内分泌学的な研究と平行して,性周期にともなう精神病像の変化を臨床的に検討することにした。まず最初にこころみたのは臨床統計である。第1報ではおもにその結果について説明することにしたい。つぎに変化の著明な症例を選んで,詳しい観察や問診を行ない,精神症状の性状を分析した。いわば精神病理の検討であつて,詳細は第2報にしるす。さらにこのような精神病像の変化が,月経という身体現象と病態生理の面でどんな関係をもつているかを調べたが,この問題は他にも発表したので,いつさい省略することにした。

分裂病離人症とその精神療法

著者: 坪井弘次

ページ範囲:P.549 - P.553

 Communicationの障害は,分裂病の諸体験のうちの主要精神徴候の1つであることはのべるまでもないが,中でも,離人症体験は自我意識の異常,なかんづく,能動性意識のそれにおいて,作為体験と並んで,興味深い現象だと思う。しかしながら,離人症的訴えは分裂病にかぎらず,正常人でも反応性にもたらされるし,神経衰弱やうつ病などの症状の一部としてもあらわれる。それゆえに,作為体験とは異なり,人格分裂傾向も少ないと考えられるが,このような対人接触における変容の現象は,さらに解明を要する問題だと思われるので,離人症状を主訴とした分裂病の1症例における離人現象の記述をも添えて,ある角度から考察を加えてみた。
 離人症の訴えかたにはいろいろあつて,1)外界意識の離人症(allopsychic depersonalization),色彩がぼやけて,灰色で,立体感がないという知覚の疎遠感,いつ,どこだかはわかるが,そんな気がしないという指南力感の喪失,2)自己精神の離人症(autopsychic depersonalization),昔みたものがはつきり頭に浮かんでこないという記憶の疎遠感,何をみても感動しないという感情喪失,ロボットが歩いているようだという行動感の喪失,3)身体離人症(somatopsychic depersonalization),自分の身体も他人のもののように思われ,空腹感も満腹感もないとか,いくら働いても疲れたと感じないという身体感覚の疎遠感などがある。

狂犬病ワクチン接種後の脳脊髄炎の1例

著者: 高山宜夫

ページ範囲:P.557 - P.562

 一時消槌していた狂犬病ワクチン接種後の精神神経障害が,発病約6年後に再燃し,顔面,左上肢,右下肢のけいれん性強直,誰妄状態,もうろう状態などの意識障害など多彩な症状を呈した症例についてのべ,Resochinの使用によつて諸症状の消槌をもたらしえたことを記した。

進行麻痺の荒廃状態に対するγ-アミノ酪酸の臨床効果

著者: 吉村洋吉 ,   伊藤耕三 ,   渡辺寛一

ページ範囲:P.565 - P.570

Ⅰ.緒論
 最近γ-アミノ酪酸(以後GABAと略す)に関して,生理学的1)2)6)11)12)15)17)ならびに臨床的な研究が広く行なわれてきており,臨床的な研究では柴田8),倉田4),清水8),近藤3)9)らにより精神薄弱への応用,谷10)らの精薄非行少年への応用などがあり,自発性の上昇,情動面の改善などかなりの効果を認められている。また一方において山口16)らの睡眼剤中毒の昏睡,村上5)らの脳血管障害による意識障害,肝性昏脈への応用,佐野7)らの外傷後のコルサコフ症候群およびゲルストマン症候群への応用,高木13)14)らのインシュリン衝撃療法への応用など広くこころみられているが,われわれは進行麻痺の荒廃状態にある患者7例に本療法をこころみたので,ここに報告する。

イソカルボキサイドの抑うつ状態に対する使用経験

著者: 田中久続

ページ範囲:P.573 - P.577

Ⅰ.まえがき
 近年,精神科領域の薬物療法が発達するにつれて,いわゆるショック療法を行なう患者数は,しだいに減少してきたようである。
 最近は,とくに抑うつ状態に対する薬剤がつぎつぎと発表されている。

Emylcamateの使用経験—とくに神経症を中心として

著者: 正橋剛二 ,   福井悟 ,   風間興基

ページ範囲:P.579 - P.584

 1.19名の精神科患者にemylcamate(1-ethyl-1-methyl propylcarbamate)を使用した。
 2.神経症例14例中7例に有効であつたが,心因反応2例,精神分裂病,軽躁状態および軽抑うつ状態の各1例についてはいずれも有効とは認められなかつた。
 3.神経症のうちでも,不安を主症状とする例にはとくに有効と考えられた。
 4.とくに副作用とするべき身体症状は認められなかつたが,8名の正常人にやや大量(600mg)を1回投与したところ,6名に軽度の酩酊感がみられたことなどから,嗜癖に注意し,必ず医師の指示により使用することが望ましいと思われた。

資料

大阪市立弘済院緊急救護所3ヵ年の歩み

著者: 金子仁郎 ,   谷向弘

ページ範囲:P.585 - P.592

 大阪市立弘済院緊急救護所では生活保護を受けている身寄りのない精神障害者に積極的に生活指導を行なつた結果,設立以来3年6ヵ月間に104名の退所者を出したが,その内訳は,就職33名(31.6%),希望退所および施設変更20名(19.4%),再発による再入院27名(26%),無断退所24名(23%)である。その昭和37年1月15日現在での遠隔成績をみると就職退所者のうち10名(30.3%)が再発ないし行方不明となつているが無断ないし希望退所した者で現在独力で就職し安定した生活をおくつている者が17名(38.6%)あり結局就職による総社会復帰率は38.5%であつた。就職者は一般に比較的若年者で,精神病院入院期間の短い者のほうに高率であり,長期の入院が慢性化ないし施設化を助長して,生活意欲を失わせる傾向がうかがわれた。しかしかなり長期にわたつて精神病院入院生活をおくつてきた精神障害者で身寄りのない者でも適当に生活指導をし,就職斡旋をしてやることによつてかなりの社会復帰者を出すことができるとの印象をうけた。なお当救護所における生活指導の経験から,後療法に関する2,3の問題点を指摘した。

動き

沖縄の精神衛生

著者: 斎藤茂太

ページ範囲:P.593 - P.595

 沖縄は昔から,貿易の中継地として生きてきたところである。いわば,国際的な「かつぎ屋」であつた。そのために,人間も,文化も,まじり合い,からみあつて,一種独特の沖縄文化が形づくられた。沖縄の舞踊をみると,能あり,雅楽あり,ポリネシアあり,タイあり,「四ツ竹」などという踊りは,まさに竹製のカスタネットをもつたスペイン舞踊である。昔から東西文化の交流点であることは沖縄の宿命であつたのであろうが,戦後大きく変わつた沖縄が,またまた同じ運命を負わされている。波は太平洋の彼岸からやつてきた。
 私は短時日ではあつたが,そこを訪れてきた。那覇から牧港を経て,カデナ,名護へ通ずる国道1号線は沖縄本島の大動脈である。道路沿いのレストランでラッキーラアガアなどをのんでいると,ふとロスの郊外にでもいるような気がするのであつた。基地の町コザ市のたたずまいは,モーテルこそないけれども,カナダあたりの国道沿いにドライバー相手にできあがつたいなか町のようであつた。街ではPIZZAを食わせ,ラブスターといえば4匹も皿の上に並んでいるアメリカ的ボリウムのはんらんであつた。そしてまた一方には,昔ながらの古典がみごとに受継がれ,琉球ガスリに偉大な体躯をつつんだ糸満の女性が石造りの豪壮な墓の前で泡盛を祖先の霊とくみかわしている姿もみられるのである。

紹介

“Founders of Neurology”から(4)

著者: 安河内五郎

ページ範囲:P.597 - P.600

 Hugo Karl Liepmann(1863〜1925)K. Goldstein
 Hugo LiepmannはBerlinの教養ある裕福なユダヤ系の家の息子として生まれた。初め哲学を修め,LeucippusおよびDemocritusの原子論に関する学位論文で文学博士の称号をえている。その後Schopenhauerに関しても論文を書いた。彼は哲学的な問題に深い興味をいだいていたが,それだけでは自ら満足できなくなり,より真実なもの,より確かなものを求めてついに自然科学と医学に転じた―と彼の友人の1人が書いている。彼は新カント主義哲学者としての名声を文字どおりなげうつて,解剖学者となるべくWaldeyerの門をたたいた。しかし彼の心の奥底には哲学への情熱が消え去つていたわけではない。そのことはのちに彼が,思考の過程と行為におけるideationの役割の解明という心身問題に,とくに深く興味を示したことからも明らかである。
 Liepmannは1894年医師試験合格後しばらくの間精神科のJollyの下に助手として働き,同時にWeigertについて解剖学の勉強をした。のちBreslauに行きWernickeの薫陶を受ける。彼は最初は彼の師を非常に尊敬してその教えを受けていたが,のちにその説から離れ,根本的な点で強く対立することとなつた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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