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雑誌目次

論文

精神医学4巻9号

1962年09月発行

雑誌目次

座談会

第59回精神神経学会をかえりみて(その2)

著者: 西丸四方 ,   台弘 ,   黒丸正四郎 ,   懸田克躬 ,   新井尚賢 ,   林暲 ,   井村恒郎 ,   秋元波留夫 ,   三浦岱栄

ページ範囲:P.608 - P.621

第1シンポジウム「めまい」
 三浦(司会) だいぶ時間もたつてきましたので,それではまたあとへ戻りまして,めまいのシンポジウム,これは台教授がさつきおつしやつたように非常にうまくいつた。
 シンポジウム参加者の間でのお話にしても,たとえば福田教授などは,またプロジェクトする物までもちやんと用意してきておられるのです。感心しちやいました。やつぱり準備をほんとうに完了しておかなければいけないということを痛感したのですが,皆さん「めまい」のシンポジウムについて何かお考えありませんか。

研究と報告

上膊神経叢麻痺のさいに出現した幻肢について

著者: 黒丸正四郎 ,   岡田幸夫 ,   増田稲子 ,   花田雅憲 ,   沢村誠志

ページ範囲:P.623 - P.628

Ⅰ.序
 幻肢phantomlimbが四肢切断者に認められるということは周知の事実であるが,四肢が切断されなくとも幻肢が出現する場合があり,たとえば脳皮質損傷の場合に出現する幻肢を,第三肢phantom thirdlimbとして特別に位置づけている。ところが上膊神経叢麻痺のさいに出現する幻肢も,肢体が切断されていないにもかかわらず,奇妙にも「もう1つ手がある」と訴えられ,第三肢としての性格をもつている。この幻肢が,脳皮質損傷の場合の第三肢とどのように異なつているか,また,四肢切断者の幻肢と比較してどのような特長をもつているかということを考察することは,幻肢現象や身体心像body-imageの研究に寄与するところが大きいと考える。事実,上膊神経叢麻痺による幻肢についてMayer-Gross6),Lhermitte5),Hasenjäger u. Pötzl2),Ajuriaguerra et Hécaen1),らの報告があるが,いずれの症例も,body-image phaenomenonに関する文献の中でも重要な位置を占めている。
 しかし,かかる症例は,比較的まれなものであり,とくにわが国においてはまだ報告例はなく,現状では,上膊神経叢麻痺のさいに幻肢の出現するという事実すら十分知られていないのではないかと思う。

Phenylketonuriaの1例および文献的考察

著者: 浜中昭彦 ,   阿部和彦

ページ範囲:P.629 - P.633

Ⅰ.緒言
 Phenylketonuriaは精神薄弱,色白,赤い毛髪,けいれん発作および錐体外路症状などの症状とともにphenylalanineのtyrosineへの加水分解が阻害される結果尿中にphenylpyruvic acidおよびその誘導体を排泄する精神薄弱の1特異型である。Wright et al21)は本症をHartnup disease,Wilson氏病とともに蛋白質代謝障害をともなつた精神薄弱として分類している。
 本症は1934年Folling7)によつて初めて報告された。その後現在まで本症に関する基礎的および臨床的研究がさかんに行なわれている。

催眠療法の著効を示した不潔恐怖症の1例について

著者: 三好郁男 ,   川端利彦

ページ範囲:P.637 - P.640

 1)思春期初期に発症した不潔恐怖症の催眠療法による治験例を示した。治療技法としては催眠誘導下での夢誘導の技法を用い,これにより直接的症状除去暗示ではえられなかつた永続的な治癒をみた。
 2)治療中えられた夢内容および症状の変化は患者の治癒過程を示すものとしてよく理解することができた。
 3)児童から成人への移行期における年代の神経症に対しては,症例を選び,適切な催眠技法を用いることにより,催眠療法が簡便で有効な治療技法として,独自な役割をはたしうると考えられ,今後この方面ではもつと臨床的に応用されてよいと思われる。

精神分裂病に対する2,3の向精神薬剤併用療法について—第1報 FluphenazineとChlordiazepoxideの併用

著者: 中村希明 ,   斧鋭次郎

ページ範囲:P.641 - P.649

Ⅰ.緒言
 精神分裂病に対する化学療法の発達はめざましいものがあり,とくに最近にいたつては,毎年のごとくに新薬が登場して,臨床医をしてその知識の整理に困惑を感じせしめるほどである。
 しかし急性期には優秀な成績を示すこれら薬剤も,陳旧患者には効果がうすく,わずかにPerphenazine,Trifluopromazine,Prochlorperazine,Fluphenazineなどが比較的良好な成績を示すのみである。

Diurex(5-chloro-2:4-disulphamyl-toluene)による難治てんかんの治療

著者: 和田豊治 ,   福島裕

ページ範囲:P.653 - P.657

Ⅰ.緒言
 精神神経科領域における薬剤の最近の進歩はめざましいものがあるが,てんかん治療の分野においても,ここ数年来種々の抗てんかん剤が登場し,こころみられてきた。ことに,最近のいちじるしい傾向は従来の抗てんかん剤とはまつたく構造・薬理作用を異にする薬剤の登場である。なかんづく,Acetazolamide1)および最近われわれが新抗てんかん剤として報告した7-chloro-4-quinoline diphosphate2)は,最初まつたく他の疾患に対する薬剤としてあらわれ,それがてんかんに対して使用されて,よい治療効果を示した点でまつたく特異的であり,特殊てんかん剤ということができよう。もちろん,これらの最近の抗てんかん剤は,単独では十分な抗てんかん作用を期待しえないとはいうものの,従来の抗てんかん剤にしばしばみられるような睡気・発疹・失調・肝障害・白血球減少などの副作用はほとんどなく,この点でこれら従来の抗てんかん剤との併用―つまり,他の副作用の多い抗てんかん剤の減量,あるいは付加的投与によつて,すぐれた治療効果を期待できる。ここに,これら最近の抗てんかん剤の特徴や利用用途を見出すことができる。
 上にのべたごとく,Acetazolamideはすでに抗てんかん剤としても認められてきているが,最近これと同様に炭酸脱水酵素抑制剤として利尿・降圧・眼圧降下に奏効する5-chloro-2:4-disulphamyl-tolueneが合成され,Davisら3)によつて動物実験で本剤が抗けいれん作用をもつことが証明された(第1図)。

うつ状態に対するChlorprothixene(TraQuilan)の効果

著者: 桜井図南男 ,   西園昌久

ページ範囲:P.659 - P.664

I.はじめに
 近年,精神科領域の治療上にかなり大きな進歩があつたもののひとつとして,うつ状態に対する薬物療法がある。近代的な精神治療薬の最初のおとずれは,Phenothiazine化合物であるChlorpromazineの精神科領域への導入であるが,その後,周知のように種々の薬物が精神治療薬として登場し,それら薬剤のうち抗うつ作用をもつものが,うつ状態の治療にこころみられてきた。いわゆる抗うつ薬はその作用のうえから 1)Neuroleptics,2)Stimulants,3)Energizers,4)Thymolepticsに分類される。それぞれ,作用に優劣があり,目標症状にも差異があり,いちがいに抗うつ作用の優劣を論じるわけにはいかない。
 これらの精神治療薬は,初めPhenothiazine核をもつたさまざまの誘導体の研究から,しだいにPhenothiazine核そのものの変換をこころみる方向とともに,また,Phenothiazine化合物とはまつたく無関係の薬物の研究の方向へと進んできている。Phenothiazine核の変換による新たな薬物として,抗うつ作用をもつものにImipramine,Amitriptylineがあるが,ここにのべるChlorprothixene(TraQuilan)もその1つで,Phenothiazine核の窒素が炭素に置換されたものである。
 ChlorprothixeneはF. Hoffman-La Roche社で合成され,臨床的にうつ状態に対して特異的な抗うつ作用をもち,興奮,不安,不穏,不眠などを緩和し,自律神経系の過敏性もゆるめる効果が認められ,Thymolepticな作用とNeurolepticな作用とがあり,薬理作用上,広範囲にわたるSpectrumをもつといわれる。
 私たちは,エーザイよりChlorprothixene(TraQuilan)の提供を受け,これをうつ状態にこころみたので以下その成績について報告しよう。

紹介

アメリカにおける精神分裂病の診断について

著者: 大野善弘

ページ範囲:P.665 - P.672

まえがき
 アメリカ精神医学のいちじるしい特徴をひとことでいえば,従来の記述的精神医学からダイナミック精神医学への移行であるといえる。精神分裂病は一個の疾患単位(disease entity)としてよりはむしろ,生活順応への反応(reaction)の1つとみなされている。すなわち通常の社会人は,社会にうまく順応し,精神生活に調和(harmony)が見出される点が重視される。この調和のある生活とは,パーソナリティーの表現に統合があり,思考が論理的で,情動動作の運びが適確,喜怒哀楽がごく自然に表現できることである。これが分裂病の場合には,情動面とくに感情生活(affect)全般になめらかさを欠き,思考は歪められ,行動は現実世界から遠ざかり,自閉的となり,いわゆる退行現象がみられるものとする。あるいは幻覚妄想をもつと,現実の生活場面に背を向けてしまう。いいかえれば,精神分裂病者は,社会生活に満足に適応できず,その順応困難のため,それなりに固有の順応テクニックを作りあげ,いわば,それによつて生活をたもつてゆく精神生物学的反応の一類型とみなされている。
 したがつて,精神分裂病患者を知るには,患者の状態像の表現に気をとられ,その記述のため美辞麗句を連ねるだけでは不十分なのである。むしろ当の個人が過去の生活史のうえで,いかなる順応態度を形成し,失敗から順応へと,いかようのテクニックによつて生活の調節をはかつてきたかを認識することが肝要となる。

資料

フランスの精神病院は現代の需要に適つているだろうか

著者: 武正建一

ページ範囲:P.673 - P.681

 最近公表された1959年の報告の中で,行政監査院は,フランス精神病院の調査に大きな部分を当てている。公衆衛生および人口に関するすべての問題について,なぜ監査院は精神病院問題の調査を選んだのか?監査院がその報告の中で説明している課題の重要性は,若干の数字で証明される。状態がかなり正確にわかつている最近の1958年において,精神病者の看護に特定化された公的機関運営の支出は430億フラン*に達した。一方,1954〜1957年および1958〜1961年の保健衛生設備計画は,この機関に関するものに80億から100億フランの投資をそれぞれ予定した。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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