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文献詳細

雑誌文献

精神医学4巻9号

1962年09月発行

文献概要

紹介

アメリカにおける精神分裂病の診断について

著者: 大野善弘1

所属機関: 1東京大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.665 - P.672

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まえがき
 アメリカ精神医学のいちじるしい特徴をひとことでいえば,従来の記述的精神医学からダイナミック精神医学への移行であるといえる。精神分裂病は一個の疾患単位(disease entity)としてよりはむしろ,生活順応への反応(reaction)の1つとみなされている。すなわち通常の社会人は,社会にうまく順応し,精神生活に調和(harmony)が見出される点が重視される。この調和のある生活とは,パーソナリティーの表現に統合があり,思考が論理的で,情動動作の運びが適確,喜怒哀楽がごく自然に表現できることである。これが分裂病の場合には,情動面とくに感情生活(affect)全般になめらかさを欠き,思考は歪められ,行動は現実世界から遠ざかり,自閉的となり,いわゆる退行現象がみられるものとする。あるいは幻覚妄想をもつと,現実の生活場面に背を向けてしまう。いいかえれば,精神分裂病者は,社会生活に満足に適応できず,その順応困難のため,それなりに固有の順応テクニックを作りあげ,いわば,それによつて生活をたもつてゆく精神生物学的反応の一類型とみなされている。
 したがつて,精神分裂病患者を知るには,患者の状態像の表現に気をとられ,その記述のため美辞麗句を連ねるだけでは不十分なのである。むしろ当の個人が過去の生活史のうえで,いかなる順応態度を形成し,失敗から順応へと,いかようのテクニックによつて生活の調節をはかつてきたかを認識することが肝要となる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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