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雑誌目次

論文

精神医学40巻1号

1998年01月発行

雑誌目次

巻頭言

邂逅

著者: 田辺敬貴

ページ範囲:P.6 - P.7

 筆者の専門は神経心理学であるが,脳に携わる臨床医の基本は精神神経症候学だと思っている。最近は神経科学領域との研究上の接点が多くなり,またこの領域の飛躍的な展開から,精神神経疾患例が呈する言動を脳の仕組みの立場から捉える試みを模索している。例えば,最近注目されている分裂病の神経発達障害仮説がある。この説では,神経膠症(gliosis)を伴わない海馬領域などの細胞構築学的異常が指摘され,神経発達段階の初期過程での障害が想定されている。臺 弘先生が指摘する,同じ内容の幻覚や妄想が繰り返すという履歴現象,あるいは関係念慮にみられる外界からの知覚情報を過去の体験や知識と照合することの障害といった分裂病の症状は,側頭葉内側部の後天的障害でみられる通常健忘症と称せられる単なる記憶の読み込みや取り出しといった障害ではなく,記憶処理系に発達段階で機能異常が生じるため,情報の処理統合の過程に,変容が生じると解すれば魅力的であるかもしれない。

展望

思考障害の認知科学的研究—現況と課題

著者: 畑哲信 ,   中込和幸 ,   岩波明 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.8 - P.21

■はじめに
 思考障害は精神分裂病の基本障害の1つとされ,精神科領域において重要な研究テーマである。思考障害研究の意義としては,このように,精神症状の1つの核として精神疾患の病態理解の手がかりとなるという点,および思考障害の研究を通して,思考という高次精神機能の理解に迫ることができるという点が挙げられる。思考障害の研究は,主として心理学的な立場から行われてきたが,近年の認知科学の発展に伴い,思考障害についても認知科学的な研究が多く行われるようになってきた。すなわち,認知科学とは,認識機能を中心とした人間の精神機能についての認知心理学,神経生物学の立場からの総合的研究である。
 本総説では,こうした認知科学的思考障害研究の到達点と今後の課題についてまとめようとするものである。

研究と報告

大うつ病エピソードの経過と感情表出(Expressed Emotion)との関連についての検討

著者: 植木啓文 ,   深尾琢 ,   上松正幸 ,   児玉佳也 ,   井上眞人 ,   小川直志 ,   藤本和子 ,   吉田優 ,   関谷信絵 ,   田村純子 ,   井川典克 ,   高井昭裕

ページ範囲:P.23 - P.30

 【抄録】大うつ病エピソードの経過を平均11.4か月間,前方視的に観察し,家族の感情表出などと病相の経過との関連を調査した。High-EEは8名(26.7%)に認められ,その内訳は,High-EE Critical(高い感情表出・批判)が3名,High-EE EOI(高い感情表出・情緒的巻き込まれすぎ)が3名,両方の基準を同時に満たすHigh-EE Critical and EOIが2名であった。うつ病相での入院歴のある者にHigh-EEが有意に多く認められた。エントリー後,寛解へと至らず病相が持続している症例と,寛解後,再燃・再発した症例とを合わせた経過不良群と,寛解が持続している経過良好群とを比較すると,男性症例,うつ病相での入院歴のある症例,家族がHigh-EEを示す症例が経過不良群に有意に多く認められた。

軽症分裂病の類型化の試み

著者: 清田一民

ページ範囲:P.31 - P.36

 【抄録】軽症分裂病者が自分の欠陥をどのように認知しているかを問診で確かめ,それを主観的認知(subjective cognition)の型として次のように類型化した。他方,その精神病理学的特徴を客観的認知(objective cognition)として付記し,一般の人々の理解に資することを考えた。
 1)合理的一辺倒型,2)対話緊張型,3)行動途絶型,4)葛藤なき両価性型,5)我流作業固執型,6)注意障害型,7)対人恐怖,抑うつ型,8)実害なき幻覚・妄想型。

精神分裂病における精神症状に伴う自律神経機能の変化

著者: 十一元三 ,   神尾陽子 ,   村井俊哉 ,   久保田亮 ,   稲熊敏広 ,   扇谷明

ページ範囲:P.37 - P.42

 【抄録】精神分裂病患者において,精神症状の変化に伴う自律神経機能の変化を調べた。対象は26名の入院患者で,服薬内容を変更しない状態で,1か月の間隔を挟んで2度にわたり自律神経機能を評価するとともに,陽性・陰性症状評価尺度を用いて精神症状を査定した。自律神経機能は,心拍変動に基づく評価法により交感・副交感神経機能を個別に調べた。11名の患者に精神症状の変化が認められ,この群において精神症状の変動に伴う自律神経機能を比較した。その結果,精神症状の改善時(あるいは増悪前)に比べると,改善前(あるいは増悪時)には副交感神経活動は低下し,交感神経活動は明らかな変化を示さなかった。精神分裂病における自律神経機能の変化には,精神症状が密接に関連していることが示唆された。

精神科外来における成人病とMRI上の脳障害の分析—第2報:脳障害指数(BDI)による群間比較と痴呆化の推定

著者: 苗村育郎 ,   菱川泰夫 ,   林雅人

ページ範囲:P.45 - P.52

 【抄録】今日の精神科における器質的脳障害の全貌を明らかにするために,計1,812例のMRI上の脳障害の程度を,個人ごとの脳障害グレード(BDG;grade of brain damage,G0〜G4)および患者群ごとの脳障害指数(BDI;brain damage index)として解析した。BDGで分けた個人別のMRI異常所見は,60歳以上の群に限ると,G2以上が77%,G3以上が50%を占めた。基礎疾患との関係をG2以上群でみると,63%に高血圧があり,男の73%にアルコール過飲を,女の74%に高脂血症を認めた。痴呆の出現率を求めるとG3以上では75%,G4では92%であった。
 次に,各患者群のBDIの比較では,軽度群(BDI<100;N,S,EP群など),中度群(100≦BDI<200;AI,I,AL,D群など),重度群(200≦BDI<300;各群の高齢層に散在),最重度群(300≦BDI;DZ群)に判別でき,BDIが約280になると大部分の患者が痴呆化していることがわかった。以上から,「生活習慣病」に関連した脳器質症候群が精神科外来の重要部分を占め,今後の痴呆予防と精神医療のあり方を決める重要因子となっていることが判明した。

摂食障害と恐慌性障害の合併について

著者: 切池信夫 ,   日高めぐみ ,   井上幸紀 ,   松永寿人 ,   西浦竹彦 ,   中村芳昭 ,   山上栄

ページ範囲:P.53 - P.58

 【抄録】摂食障害91例中17例(19%)がDSM-IVの恐慌性障害を過去の一時期または調査時に合併した。これらの患者はこれを合併したことがない摂食障害60例に比し,罹病期間において有意に長かったが,年齢と発症年齢において差を認めなかった。そして診断において,anorexia nervosaの過食/浄化型やbulimia nervosaの浄化型が多い傾向を示した。さらに過食や嘔吐,自傷行為や自殺企図,万引き,アルコール乱用などの衝動行為や問題行動を有意に多く認めた。これらの結果から,摂食障害において恐慌性障害を高率に合併すること,これを合併している患者は過食や嘔吐,自傷行為や自殺企図,万引き,アルコール乱用などの衝動行為や問題行動をより多く示し,治療が困難で,経過が長く予後が悪いものと考えられた。

摂食障害女性患者における血漿レプチン濃度

著者: 中井義勝 ,   濱垣誠司 ,   加藤星河 ,   清野裕 ,   高木隆郎 ,   栗本文彦

ページ範囲:P.59 - P.62

 【抄録】レプチンは脂肪細胞特異的に分泌され血液および髄液中に存在し,摂食抑制作用とエネルギー消費増加作用を有する。血漿レプチン濃度を調節する因子を検討する目的で,摂食障害患者の血漿レプチン濃度と体脂肪率,内分泌機能,食行動を同時に比較した。摂食障害女性患者52例と健常女性20例を対象とした。血漿レプチンおよびインスリン濃度はラジオイムノアッセイで,体脂肪率はインピーダンス法で測定した。摂食障害患者の血漿レプチン濃度は体脂肪率(r=0.68,p<0.0001)およびインスリン濃度(r=0.55,p<0.0001)と正の相関を示した。加えて,血漿レプチン濃度は採血前日の食行動の影響を受けたが,月経の有無との間には関連はなかった。

若年に精神症状で発症し,重篤な経過をとるが回復可能な急性脳炎—急性リンパ球性髄膜脳炎の3例

著者: 深井浩介 ,   石津秀樹 ,   西中哲也 ,   山田了士 ,   秋山一文 ,   黒田重利

ページ範囲:P.63 - P.69

 【抄録】若年者で急性に精神運動興奮などの精神症状で発症し,昏睡,不随意運動,抑制困難なけいれんを伴う重篤な状態に陥り,ICU管理を要したが,1〜2年後に寛解した脳炎の3例を経験した。検査上,髄液は正常ないし軽度の細胞増多を示すにとどまり,CT,MRIで局所異常所見がなく,ウイルス性が強く疑われたが,調べえたかぎりの抗原の検査では原因ウイルスの同定はできなかった。文献上では神経病理学的に急性リンパ球性髄膜脳炎(ALME)と診断された症例の多くが類似の症状経過を示していた。ALMEはCT,MRIの所見と臨床的特徴から,臨床診断も可能と考えられ,全身管理などを適切に行えば救命のみならず寛解しうるものと考えられた。

アルツハイマー型痴呆患者の施設入所に影響を与えるデイケアの効果について

著者: 博野信次 ,   段林千代美 ,   今村徹 ,   池尻義隆 ,   下村辰雄 ,   橋本衛 ,   池田学 ,   山下光 ,   森悦朗

ページ範囲:P.71 - P.75

 【抄録】アルツハイマー型痴呆患者306名を,アンケート郵送法により1年ごとに最長3年間追跡調査した。施設入所あるいは死亡をエンドポイントとした。1年以上追跡できたのは209名で,このうちエンドポイントを迎えたのは54名であった。Coxの比例ハザードモデルの結果,年齢,性別,痴呆の重症度,主介護者の同居状態,介護介助者の存在,および他の在宅介護支援の利用状況を統制した後にもデイケアの利用はアルツハイマー型痴呆患者の施設入所などの危険率を有意に減少させることが示された。今回の結果は,介護者のデイケア利用の必要性とその意義の認識を深める必要があることを示すとともに,痴呆対策の保健福祉施策の策定に有用な示唆となると考えられる。

精神障害における暴力の原因とその予防法について—英国における1精神分裂病症例を通じて

著者: 堀彰

ページ範囲:P.77 - P.81

 【抄録】英国における精神分裂病症例を通じて,精神障害における暴力の原因とその予防法について検討し以下の結果を得た。(1)本症例の犯罪は精神分裂病の発病後に,傷害や放火というより激しいものになったと考えられた。また,患者の激しい暴力行為は発病直後,その後は再発時に起こった。さらに,患者の暴力行為は幻聴や妄想という精神病症状の結果と考えられた。(2)効果的な薬物療法(clozapine)と条件づき退院での指示・管理の両者が,再発と暴力行為の予防に対して重要な役割を果たしたと考えられた。(3)以上の結果について,最近の精神分裂病と暴力に関する実証的な研究,英国における予後調査の結果に基づいて考察した。

資料

医療従事者のメンタルヘルスに関する調査

著者: 細見潤 ,   中野素子 ,   池田政和 ,   藤本洋子 ,   安藤幸代 ,   片平久美

ページ範囲:P.83 - P.91

■はじめに
 医師,看護婦,臨床心理士やソーシャルワーカーなどの医療従事者のメンタルヘルスは,単に本人自身の問題にとどまらず,サービスを受ける患者に対しても多大な影響を及ぼし,医療の質そのものを左右するといっても過言ではない。このような医療従事者のメンタルヘルスへの関心は1970年代から米国を中心にして高まりを見せ,以後,多くの研究報告がなされるようになった。これらはバーンアウト4,5,7)や自殺3,12,13),あるいはうつ病をはじめとする精神科疾患の発生15〜17)に関するものが多く,いずれも医療従事者はハイリスクであり,その予防と対策は極めて重要な課題であることが強調されている。このため我々は宮崎県内の医療従事者のメンタルヘルス対策を検討していく際の参考資料として,本調査を行うことにした。

古典紹介

—A. Cramer—Hallucinationen im Muskelsinn des Sprachapparates(1889)

著者: 加藤敏 ,   小林聡幸

ページ範囲:P.93 - P.99

□発声器官の筋感幻覚
 子供がどうやってしゃべることを覚えるのか(Preyer),例えば,発音された言葉を正しく反復する試みを何度も新たに繰り返し,ついに言葉を記憶から自由に取り出して発声できるようになることを考えてみよう。つまり,はじめは自分の四肢と同じように,発声器官をあちこち無目的に動かして遊んでいた子供が,どうやって,その不断の努力のもと次第に発声器官を意のままにするのか,すなわちいかにしゃべることを習得するのかということを考えてみよう。さらに,これらの発語運動の習得に何が寄与するのかと問うてみよう。その際,はっきりしているのは,以下の点である。すなわち人間の耳は,他人の発音した言葉を反復する際,緻密な制御を行っており,しかも,言葉を記憶から引き出した上ですぐさま発声する能力は筋感覚Muskelsinnの助けを借りてはじめて獲得される。筋感覚は,構音に必要な正確な運動表象を我々の意識にもたらし,このようにして,運動インパルスが言葉の発音のため適切に発せられ,大きな訂正なしに,ただちに言葉が発声されるのである。
 小児が言語を習得する際に果たすこの筋感覚の支えは,大人が外国語を学ぶ際にも一般に認められる。誰しも自分の経験から,知らない単語を正確かつ迅速に発音することがしばしばいかに難しいか,しかも大声であれ小声であれ自分で繰り返し発音してはじめて,つまり,発声器官を活動させることによってはじめて単語が習得されるということを,自分自身の経験からよく知っているはずである(Wernicke)。

私のカルテから

非定型病像を呈し,CTでは検出されずMRI造影によって確認された髄膜腫の1例

著者: 京谷泰明 ,   森脇祥文

ページ範囲:P.100 - P.101

 日常の臨床において,精神症状の背景に何らかの脳器質因を想定し,それを検索しようとすることは不可欠な作業である3)
 今回,筆者らは非定型病像を呈する60歳代の患者で,脳波にみられた左右差を手がかりとして,MRI造影検査まで進めた結果,単純CT,MRIでは得られなかった脳腫瘍の所見を検出することができた。ここにその経験を簡略に紹介し,考察を加えたい。

抗精神病薬減量中に重度の嘔気,嘔吐,食欲低下および頭痛を呈した精神分裂病の1例

著者: 寺尾岳

ページ範囲:P.102 - P.103

 抗精神病薬の作用部位の1つに,chemo-receptor trigger zoneがあり,抗精神病薬がこの部位のdopamine receptorを阻害することで制吐作用が生じることが知られている。さらに抗精神病薬の慢性投与により,この部位のdopamine receptorの感受性が亢進あるいはreceptorの数が増えると考えられており2),中断時には離脱症状として嘔気や嘔吐,食欲低下が生じたという報告2,3)がある。また,頭痛も抗精神病薬の離脱症状に含まれることが知られている2,3)
 今回筆者は,非定型抗精神病薬の1つであるrisperidoneへの処方変更を目的に,それまで投与されていたbromperidolなどを減量したところ,重度の嘔気,嘔吐,食欲低下および頭痛の出現した症例を経験した。本邦においては今後,従来の抗精神病薬から種々の非定型抗精神病薬への変更が予想されるため,変更の際に念頭に置くべき副作用として報告する。

動き

「日本痴呆学会学術集会」印象記

著者: 新井平伊

ページ範囲:P.104 - P.104

 第16回目の本会は,横浜市立大学医学部精神医学教室教授小阪憲司会長のもと1997年10月3,4日に横浜市教育文化会館で開催された。我が国の精神医学系学会は伝統的に研究の方法論によって分化してきたが,本会では痴呆を主題に様々な方法論で基礎から臨床まで幅広く検討されるため,高齢社会の到来の中で存在意義は高まってきている。今回も小阪会長の痴呆疾患解明にかける情熱が感じられ,しかもそれがすばらしい形でプログラム構成に反映されていたため,また近年めざしてきた基礎医学研究者との連携がさらに進んだこともあり,これまでにない350名という参加者を数えた。
 学術発表の内容は,近年の痴呆研究の流れを反映して,アルツハイマー病(AD)関連と非AD関連に大別できた。まず,特別講演はAD関連として,都精神研森啓参事研究員ならびに大阪大学医学部精神医学教室武田雅俊教授によって行われた。森氏は老人斑のアミロイド沈着にアミロイド前駆体蛋白遺伝子変異やアポE遺伝子多型が影響する知見を挙げ,形態学的所見である老人斑は遺伝子異常が表現されたものであるとの興味深い考え方を示された。武田氏は教室で行われている多くのAD研究の中から神経原線維変化におけるタウ蛋白の異常リン酸化機序の解明をめざす研究について触れられた。特に,グリコーゲン合成酵素キナーゼなどの酵素によるタウ蛋白のリン酸化の調節機序を明らかにすることの重要性を指摘し,そこから細胞死や治療法の開発への可能性も述べられた。一方,シンポジウムは,びまん性レビー小体病(横浜市大/井関栄三氏ならびに東大薬学/岩坪威氏),石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(都精神研/池田研二氏ならびに岡山大/石津秀樹氏),そして辺縁系に限局性の神経原線維変化が出現する老年痴呆(東京医科歯科大/山田正仁氏ならびに都老人研/坂田増弘氏)といった近年小阪会長を中心として神経病理学的観点から提案されてきた非AD型変性性痴呆が主題であった。特に,びまん性レビー小体病はADに次いで頻度が高い痴呆疾患として世界的に認識されつつあるが,今後これらの疾患がどのように体系化されていくのか注目される。

「第21回日本神経心理学会総会」印象記

著者: 三村將

ページ範囲:P.105 - P.105

 第21回日本神経心理学会総会は,東京女子医科大学神経内科の岩田誠教授の会長のもとで,1997年9月25,26日に東京シェーンバッハ・サボー(砂防会館)にて開催された。あいにくの雨まじりの天候ではあったが,多数の参会者が集い,この領域への近年の関心の高さがうかがわれた。
 本学会では,新しい試みとして,一般人も参加することのできる公開シンポジウムが2日目の午後に開かれた。「神経心理学の新しい道しるべ」と題するこの公開シンポジウムでは,3つの特別講演とワークショップが行われた。特別講演は「神経機能画像法の進歩」と題され,高次神経機能の脳基盤を探る最新の手法について,第一線の研究者3人による最先端の知見が紹介された。Jonathan Cohen氏(カーネギーメロン大)は機能的MRIに関して“Functional MRI studies ofthe role of prefrontal cortex in working memory”と題する講演で,ワーキングメモリーの脳基盤としての前頭前野の働きについて概説し,Ritta Salmelin氏(ヘルシンキ工科大)は“MEGstudies of higher cognitive function”と題して,脳磁図を用いて種々の認知機能の局在を検討する方法の原理と利点について解説した。さらに,小泉英明氏(日立製作所中央研究所)は「新しい無侵襲高次脳機能計測法」と題して,PETやfunctional MRIに次ぐ新たな神経機能画像法として光トポグラフィーを紹介し,その特徴や臨床応用の有用性について報告した。

「日本精神病理学会第20回大会」印象記

著者: 孫漢洛

ページ範囲:P.106 - P.107

 第20回日本精神病理学会が,1997年9月25,26日の両日,富山県民会館で有沢橋病院高柳功院長を会長として催された。
 日本精神病理学会は,精神病理懇話会・富山として20年前に発足し,時間を経て現在の日本精神病理学会へと発展を遂げた学会である。今回で第20回を数えるが,今回は,発足当初から,学会の発展,運営へ多大な尽力をされてきた高柳先生を会長に,「発祥の地」富山へと「里帰り」を果たした。立派な姿で成人式を迎えた本学会が故郷に錦を飾った,というところであろうか。

「精神医学」への手紙

Letter—Adult Children概念の重要性について—精神科医の見落としてきたもの

著者: 橋本光彦

ページ範囲:P.109 - P.109

 「精神鑑定にかけることに異論はないが,はっきり言って,いまの日本の精神医学のレベルはきわめて低い。」 これは,カニバリズムを行い自ら精神鑑定を受けた佐川一政氏の,神戸連続小学生殺人犯少年Aに対してのコメントの一部である。精神医学が現実に起きている精神障害や犯罪に対して,適切な解答を持ちえなくなったのはいつからであろうか。
 こういった状況の中で世間ではAdult Children(以下ACと略す)という言葉が広がりつつある。これは「安全な場所」として機能しない家族の中で育った人々のことで,精神科の治療対象にならない人々もいれば,摂食障害,不登校,さらに境界例や解離性障害をはじめ様々な精神障害の症状として現れてくる人々がいる。精神障害の原因を環境因に求める考え方は,実は精神医学の歴史を振り返れば,過去に何度か注目されては自然消滅していった。例えば分裂病を作る母親に始まり,いや父親だ,いや社会そのものが悪いのだとなり,これが反精神医学運動につながった。環境因で疾病を考える際の弱点は,たとえ因果関係の中に事実が含まれていたとしてもきちんと証明しえず,また事実でないものの除外が難しいということと患者の主体性の放棄にある。そして,操作的診断基準のDSMは,III版からこのような環境による「反応」という考え方を除外してしまったのである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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