icon fsr

雑誌目次

論文

精神医学40巻10号

1998年10月発行

雑誌目次

巻頭言

日本の将来と精神医学

著者: 森則夫

ページ範囲:P.1028 - P.1029

 今年のNHK大河ドラマはおもしろい。これまでの大河ドラマと違って女々しい場面が少ない。本木雅弘もいい。苦悩する貴族の雰囲気がよく出ている。司馬遼太郎の慶喜像とおおよそ同じである。最近,このテレビドラマが縁で,高松宮妃殿下が月刊誌のインタビューに応じられた。妃殿下は慶喜公の孫娘である。インタビューの中で,妃殿下が皇室の伝統に触れているくだりがいくつかある。まず,言葉遣いが違うらしい。両陛下へのご挨拶は「こんにちは」や「ご機嫌よう」ではなく,「こんにちはまことにお暑いことでございます」と時候の挨拶をしてから,「お揃いあそばしましてご機嫌ようならっしゃいまして」と申し上げるのだそうである。賢所は天照大神を祀る神聖な場所で,そこでは年4回の御神楽があるという。この御神楽は夜中まで続くから,その間,両陛下はもちろん,皇族の方々も起きていなければならないそうである。「ご終了」の電話が宮内庁から入ってから,休まれるという。次第に簡素化されているというが,伝統の継承とはまことに骨の折れることである。そして,日本の伝統とはかたちの美しさだとつくづく思う。和歌も能もひたすら研ぎ澄まされたかたちを追い続けている。

創刊40周年記念鼎談・21世紀への課題—精神医学の40年を振り返る(5)

向精神薬の進歩と将来

著者: 諏訪望 ,   神庭重信 ,   佐藤光源

ページ範囲:P.1030 - P.1042

 佐藤(司会) 今年は,本誌創刊40周年を記念して,精神医学のこの40年の発展を振り返り,今後を展望する鼎談シリーズを掲載しておりますが,5回目の今回は長年にわたって日本の精神医学の発展に貢献してこられました諏訪望先生にご登場願いました。日本でいちはやくクロールプロマジンの治験を手がけられた頃のお話や,その後の向精神薬の進歩,あるいは精神医学の進歩について先生のお考えをうかがえると楽しみにしております。また,躁うつ病の薬物療法を中心に臨床精神薬理学の領域で活躍されている神庭重信先生に出席していただきました。そして編集委員会からは,最近合理的な薬物選択アルゴリズム作成に関わっておりますので,私が参加しました。
 さて,精神科の薬物療法の幕開けといいますと,これは何と申しても1952年のクロールプロマジンの登場でして,精神科治療のブレークスルーになったと考えられます。そこで,クロールプロマジン登場の前後の様子を諏訪先生からおうかがいしたいと思います。フランスで,DeleyとDenikerがクロールプロマジン単独で精神科の薬物療法を行ったのが確か1952年,日本で市販されたのが1955年だと思いますが,それに先駆けて,諏訪先生が我が国で最初にお使いになったと思いますので,そのあたりのことをおうかがいしたいと思います。

展望

マインドコントロール論を超えて—宗教集団の法的告発と社会生態論的批判(第1回)

著者: 島薗進

ページ範囲:P.1044 - P.1052

■マインドコントロール論と宗教集団 批判
 オウム事件以後,宗教集団から取り返しのつかない害を被った人たちの立場について,それまで以上の注意が促されるようになったのは理の当然である。宗教法人法の改正によって,宗教集団に対して法的にもいくぶんかの規制の強化が行われた。しかし,憲法によって信教の自由が保証されており,そのことに対して一定の合意が存在することも確かである。宗教集団に対して度を超えた統制を行うことは,国民の精神の自由を侵す恐れがある。そこで信教の自由を前提とした法制の枠内で,宗教集団の及ぼす害悪についてどう取り扱っていくか,また法的取り扱いに限度があるとして,それを超えて宗教集団の被害者に対する社会的責任についてどう論じ,是正を促していくかが大きな論題となる。
 宗教集団が作る社会環境が個人に対してどのような影響を及ぼすか,特にどのような害悪を及ぼす可能性があるかという問題はいくつかのレベルに分けて論じる必要があるように思われる。他者への明確な危害の有無を論じるレベルが法的倫理的(ここで「倫理的」というのは法が倫理に基づくものであるかぎりにおいて狭くコード化できる倫理性を指す)なレベルであるとすれば,直接に刑法的責任は問いにくいが市民の心の自由や平安を脅かすかどうかにかかわる道義的社会生態論的(広い意味で倫理的ではあるが,法に具体化されるような明確な倫理コードとはなりがたいような倫理性のレベルを道義的と呼んでいる)なレベルがある。この稿では後者のレベルの問題の重要性を指摘し,宗教集団に対する道義的社会生態論的批判の方向を切り開くことを目指している。そのことによって,ここで述べるような意味で危険性の高い宗教集団の行為に対して,法的告発とは別に,世論の合意を形成していくことが可能になるかもしれない。また,野放図な「信教の自由」ではなく,節度ある信教の自由のあり方を構想していけるかもしれない。

研究と報告

抜毛癖—その発症メカニズムと衝動制御の障害について

著者: 堤啓

ページ範囲:P.1053 - P.1059

 【抄録】筆者は抜毛癖を発達論的立場から第一次分離個体化の失敗および前思春期から思春期前期にかけての母への再接近のやり直しの失敗の所産として論じた。患者は頭髪などの体毛を母等価の対象,また手首,腕をも母等価の対象とみなして,それらを抜いたり傷つけることで一次愛情対象への恨みや怒りを処理して,偽りの分離個体化を図ろうとしている病理について論じた。しかし,第一次分離個体化が損なわれ分離不安の強いためか,一次愛情対象への恨みと怒りの表現と認識にたどりつくのに様々な衝動の行動化をみた。治療者,次いで母からの受容によって得られた「対象へのアンビバレントな感情を認識すること」がこうした病理から脱出することであると考えられた。

阪神大震災被災者におけるPTSDについて

著者: 湖海正尋 ,   高内茂 ,   大原一幸 ,   守田嘉男

ページ範囲:P.1061 - P.1068

 【抄録】阪神大震災3か月後より半年間にわたり激震地帯東部にある大学病院精神科受診者においてPTSDの発生を調査した。精神病圏や痴呆などを除く疎通性良好な対象患者186名中,DSM-IV診断基準に適合したPTSDは6例であり頻度は3.2%であった。諸外国の震災報告例と比較して低頻度だが,調査対象群の設定や復旧システムによる差異が考慮され,災害精神医学の疫学的研究上の問題が示唆された。また,PTSDの4症例に関してはうつ病とのcomorbidityを認めたが,これらにおいてはPTSDがうつ病経過上の部分症状を構成しているものとも解釈された。PTSD症例は診断基準に適合してもその疾患単位性は必ずしも保証されない可能性と,我が国におけるPTSD概念の詳細な検討の必要性を指摘した。

認知療法が有効であった阪神淡路大震災によるPTSDの1例

著者: 多賀千明 ,   井上和臣

ページ範囲:P.1069 - P.1075

 【抄録】阪神淡路大震災後2年間にわたり心的外傷後ストレス障害(PTSD)が持続し,初めて精神科を受診した症例に対し,認知療法を施行した。本症例には地震の再体験,過覚醒などの症状が認められ,これにかかわる認知モデルを作成した。その中で「大きな地震が来るのでは」という否定的自動思考を生む“破局視”に焦点を当て,その修正を試みた。また地震翌日に偶然生じた夫の突発性難聴に関して「治らなかったのは自分の責任」という強い罪責感が認められ,これがPTSD症状遷延化の原因となった。この罪責感には“自己関係づけ”や“すべし表現”といった認知の歪みを伴ったため,「誰の責任かのとらえ直し」という再帰属法を行い改善に至った。

保健所定期精神保健相談の分析—再来例の特徴と経過

著者: 太田敏男

ページ範囲:P.1077 - P.1085

 【抄録】医師による定期精神保健相談例248例のうち,再来した53例(反復群)の特徴を1回のみで終了または中断した193例(1回群)と比較し,またその後の相談経過を検討した。反復群では家族のみの来所が多く,神経症・心因反応と老人性精神障害が少なく,人格障害が多かった。2度目の相談は初回のあと問を置かずに来る傾向があった。再来率(次回以降再来する割合)は反復群では約5割で,全体の初回相談のそれ(約2割)より高かった。受診行動段階の前進は反復群の約3割でみられた。精神分裂病では受診行動段階の前進が少なかった。以上の結果を踏まえ,保健所精神保健相談について考察を加えた。また,受診行動モデルの実地的有用性を論じた。

客観的評価尺度による分裂病性思考障害の検討—Thought Disorder Index(TDI)とBrief Psychiatric Rating Scale(BPRS)を用いて

著者: 山崎尚人 ,   三輪真也 ,   松本和紀 ,   工藤亜子 ,   松岡洋夫 ,   佐藤光源

ページ範囲:P.1087 - P.1094

 【抄録】精神分裂病の診断基準(ICD-10)を満たし精神症状が安定している21例の患者を対象として,思考障害をHolzmanらによるThought Disorder Index(TDI)で評価し,それとBrief Psychiatric Rating Scale(BPRS)との関連を検討した。その結果,TDI総得点はBPRS総得点およびBPRSの「思考障害」クラスター得点との間で有意な正の相関を認め,TDIが思考障害を選択的に評価可能であることが確認された。さらに,TDIを4因子に分けて検討したところ「特異的言語表現」因子のみが思考障害と高い相関を示し,これが分裂病性思考障害の特徴を反映するものであること,しかも病状の安定した時期に存在していたことから,分裂病の脆弱性と関連することが示唆された。

短報

入院日数を指標としたデイケアの効果

著者: 塚原敏正 ,   加藤元一郎 ,   笠原友幸 ,   高野佳也

ページ範囲:P.1095 - P.1097

 我が国では精神科デイケアが,分裂病の再入院の防止や症状改善に対して有効であるとの報告が多い3,8〜10,12)。一方,欧米では,デイケアによる再入院率の低下は認められなかったとする報告があり2,7,13),これらの報告では入院日数の短縮2),精神症状の改善2,7),あるいはその後の就労13)にその効果を認めている。以前に我々は,精神分裂病例を対象として,駒木野病院を退院した後,デイケアを利用した群と利用しなかった群の退院後3年間の再入院率を比較し,デイケアが1年後,2年後の再入院率を有意に抑制することを報告した12)。今回我々は,退院後デイケアを利用した群と利用しなかった群の,その後の入院日数について5年間にわたって調査し,デイケアによって再入院日数が抑制される効果とその持続期間について検討を行った。

生体腎移植後に疼痛障害を呈したレシピエントの1例—逆説的な精神症状に関する考察

著者: 福西勇夫 ,   酒井謙 ,   進藤雅仁 ,   小原武博 ,   相川厚 ,   長谷川昭 ,   溝口純二 ,   原隆 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1099 - P.1102

■はじめに
 移植は成功したが,移植後にうつ状態がみられたとする報告がある。最近,我々は親子間の生体腎移植が成功しているにもかかわらず,移植後に疼痛障害を呈した1例を経験した。移植後にみられる逆説的な精神症状3〜5)(「逆説的」という用語はく移植が成功しているにもかかわらず……〉という意味)の発症機序を考えていくうえで,示唆に富む症例と思われたので報告する。

痴呆患者の異食について

著者: 奥田正英 ,   原田浩美 ,   水谷浩明 ,   濱中淑彦

ページ範囲:P.1103 - P.1105

 痴呆性老人には異食行為がみられることがあるが,異食は毒性のある対象などでは直接生命に結び付くので医学的に,また介護・看護の観点からも重要である。しかし,異食に関する報告は少なく,異食が摂食障害かという基本的な問題8)や異食をKlüver-Bucy症候群との関連でとらえる立場の問題1)などがある。今回,我々は異食を伴う痴呆患者について,痴呆の臨床診断,異食の内容や頻度,痴呆の程度や日常生活動作(ADL)との関連,随伴する精神症状・問題行動,それに頭部CTによる画像所見を検討したので報告する。

右視床出血後に躁うつおよび精神病様症状を呈した1症例

著者: 飯島幸生

ページ範囲:P.1107 - P.1109

 視床には意識,感覚,運動,情動や自律神経といったあらゆる種類の情報が様々な脳部位から送られてくる。さらに視床はそれらの情報をただ単に中継して大脳皮質に送るという単純機能だけでなく,大脳皮質からの下行性線維を受けて統合処理するという高次機能を有することが明らかになりつつある。精神機能との関連においても注目されている一方で,これまで視床障害と精神症状に関する報告は少ない。
 今回,右視床出血後に躁うつおよび精神病様症状を呈した症例を経験し,精神症状の発現と各視床核との関連について若干の考察を加えたので,ここに報告する。

薬物療法が有効であった中年期の自己臭恐怖の2例

著者: 朝倉聡 ,   築島健 ,   北川信樹 ,   傳田健三 ,   小山司

ページ範囲:P.1111 - P.1113

 自己臭恐怖については精神分裂病との関連や,自我漏洩症候群,思春期妄想症としてとらえる方向など,臨床精神病理学的に多彩な報告がなされてきている。その多くは,これを対人恐怖の1病型として考えている8)。自己臭恐怖が青年期に好発することについては諸家の報告するところであるが,その中年期以降の経過については十分に検討されていない。また,症例報告はあるものの,その薬物療法についての有効性も十分に検討されていないと思われる。今回,青年期に発症し中年期以降に症状が再燃した自己臭恐怖で,薬物療法が有効であった2例を経験したので,これを報告し,その発症状況および薬物療法の可能性について若干の考察を加えてみたい。

経過中膵型アミラーゼの上昇を伴った悪性症候群の1症例

著者: 水田朱美 ,   飯田順三 ,   大澤弘吉 ,   木村良博 ,   扇谷嘉成 ,   大城智睦 ,   宮本敏雄 ,   岸本年史

ページ範囲:P.1115 - P.1117

 悪性症候群に認められる合併症には肺炎,腎不全,心不全,けいれん,敗血症,肺梗塞などが知られ5),死亡の原因も合併症の悪化によるものが多い。今回我々は,悪性症候群の経過中に膵由来のアミラーゼの上昇を伴い急性膵炎に準じた治療を行うに至った症例を経験したので報告する。

HIV感染症と関連して精神症状を呈した3例

著者: 山方里加 ,   石金朋人 ,   中田潤子 ,   加藤温 ,   沼上潔 ,   笠原敏彦

ページ範囲:P.1119 - P.1121

 HIV感染者数は近年増加の一途をたどっているが,それに伴いHIV感染ならびにAIDS発症と関連して精神症状を呈する患者も増えつつある。本稿では,HIV感染判明後に精神科を紹介受診した症例を紹介し,HIV感染者やAIDS発症者の精神症状に関し若干の考察を加える。なお,症例の記述については匿名性が保たれるよう配慮を加えた。

紹介

脳梗塞後遺症に対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の効果

著者: 藤川徳美

ページ範囲:P.1123 - P.1125

■はじめに
 脳梗塞後には片麻痺などの神経症状,うつ状態・情動失禁などの精神症状が存在する。脳梗塞後遺症の治療としては(1)脳梗塞の進展予防,(2)現在の神経症状,精神症状に対する治療がある。脳梗塞の進展予防には高血圧などの危険因子の管理と抗血小板療法があり,その治療方法については詳細に検討され定式化されつつある。しかし,現在の神経症状,精神症状に対する治療には脳循環改善薬,脳代謝賦活薬,および抗精神病薬,抗うつ薬などの向精神薬が試みられてきたが,十分な治療効果が得られていない。
 一方,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor;SSRI)は欧米では10年以上前から導入されており,うつ病のみならず,強迫性障害,パニック障害,神経性大食症に有効とされているが,近年脳梗塞後遺症の諸症状に用い効果を認めた報告がみられるようになった。本稿では従来の抗うつ薬と比較しつつ,SSRIの脳梗塞後遺症に対する効果,安全性について述べる。

私のカルテから

発作後に視空間認知障害を示した部分てんかん—SPECTにて右側頭部優位に集積低下が認められた1例

著者: 大橋直哉 ,   湖海正尋 ,   堀江由香里 ,   真城英孝 ,   守田嘉男

ページ範囲:P.1126 - P.1127

 Single photon emission computed tomography(SPECT)により脳血流が測定されるが,一般に脳血流と脳代謝は一致して変化する。このため,SPECTは間接的な脳機能評価法として有用であり,てんかん発作の焦点の検索にも有効であることが近年示されてきている4)。我々は,発作後の一定期間に様々な視空間認知障害を示した部分てんかん患者において,SPECTにより障害部位が強く示唆された症例を経験したので報告する。

動き

「第94回日本精神神経学会」印象記

著者: 小島卓也 ,   飯田順三

ページ範囲:P.1128 - P.1130

講演,シンポジウム
 第94回日本精神神経学会は1998年5月20〜22日の3日間,琉球大学医学部教授小椋力会長のもとに沖縄コンベンションセンター,沖縄ハイツで盛大に開催された。南国の花が美しく咲き乱れ,日差しがまぶしい沖縄では夕方8時頃になってもまだ明るく,1,300人の参加者が遅くまで熱心に精神医学・医療を語り合った。「精神医学・医療の充実と社会的貢献新しい世紀を前にして」という基本テーマを掲げて新しい試みと地道な努力の重要性を示そうとする主催者の意図を感じとることができた。プログラムは会長講演,4つの特別講演,5つのシンポジウム,5つのミニシンポジウム,3つのランチョンセミナー,18のセミナー,10の関連学会トピックスと一般演題から構成されていた。口演は4会場で行われた。一方,一般演題はすべてポスター発表であり,ポスターは朝から展示されており,口演発表がすべて終わってからポスターセッションが始まり,3日間で207題の演題が呈示され熱心に討論された。

「第13回日本老年精神医学会」印象記

著者: 三山吉夫

ページ範囲:P.1131 - P.1131

 第13回日本老年精神医学会が6月25,26日,山陰の小京都,水の都とも呼ばれる松江市で石野博志会長(島根医科大学精神医学講座教授)のもとに開催された。本学会は我が国でも加速度的に進行する高齢化社会を背景に設立され,年々盛会となっている。今回の参加者数は約400名(会員数約930名)であった。一般演題67のほか会長講演,記念講演があり,一般演題は2会場に分けられ同時進行で行われた。会長講演と記念講演は全員参加の大ホールで行われた。
 一般演題は,老年精神医学の分野で最大の課題とされる痴呆性老人対策に関する演題が最も多く,症状,診断,治療,神経病理,心理検査,ケア,脳波関連,画像,行動科学などの多岐にわたる最新の知見発表が行われた。日本痴呆学会では,より分子生物学的および遺伝学的研究発表が中心となるのに対し,本学会はより臨床一社会的研究発表が特色といえる。痴呆の早期臨床診断,重症度の判定,ケアや介護などの社会的対応に関する研究発表が数多くみられた。筆者に興味があった報告をいくつか挙げると,大都市圏では問題となる痴呆性老人の徘徊が沖縄県の石垣島では問題とはならないという痴呆性老人の社会・心理的要因(高橋幸男氏),頭頂葉機能低下が痴呆性老人の徘徊の指標となる(堀宏治氏),老年期痴呆の5年後の生命予後の比較(植木昭紀氏),アルツハイマー型老年痴呆患者の睡眠・行動障害に外因性メラトニン補充療法(大川匡子氏),痴呆性老人グループホームの状況(北村ゆり氏),痴呆性老人の法的処遇の問題点(斎藤正彦氏),過疎高齢化地域のケアシステム(栗田主一氏),非アルツハイマー型痴呆の臨床—病理(池田研二氏)などであった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?