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雑誌目次

論文

精神医学40巻11号

1998年11月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科医のタイプ分け私案

著者: 野村総一郎

ページ範囲:P.1142 - P.1143

 会合などで精神科医同士が話すと,話しが盛り上がったように感じられても,後から考えると案外噛み合っていなかったと感じられることが多いそうである。雑談ならそれでもよいが,重大な議案をめぐる話し合いでそのようなことがあると,事態は深刻になりかねない。このズレはそれぞれの精神科医の日常が極端に違い,同じ言葉を使っても意味するところに大きな差があるからではないだろうか。特に,治療や患者処遇についての感覚のズレが大きいようだ。例えば同じ分裂病の治療といっても,ある人は社会復帰のシステムを真っ先にイメージするかもしれないし,脳内ドパミン受容体を連想する人もいる。互いの視点を知識としては知っていても,治療の原点に置く風景がどうも違うようである。
 そこで,互いの立場をはっきりさせるためにも,精神科医を大まかにタイプ分けし,それを各自自覚するようにしてはどうだろうか。これによって,自分の力と限界を知り,互いの疎通も良くなるというものではないか。筆者は,研究中心の大学人,第一線病院の医者,わりと行政的な仕事と転々と立場を変えてきており,違った立場がわかるつもりでいる。私事で恐縮だが,自分の精神科医史と重ねて,それぞれの面から感じたことを書いたうえ,精神科医タイプ分け私案を示してみたい。

展望

マインドコントロール論を超えて—宗教集団の法的告発と社会生態論的批判(第2回)

著者: 島薗進

ページ範囲:P.1144 - P.1153

■リフトンによる共産中国の「思想改造」研究
 ロバート・J・リフトンによる『思想改造の心理—中国における洗脳の研究』10)は,当時,「洗脳」として論じられていた現象を,長期にわたるインタビュー調査に基づき,人間の再教育や人格変容のあり方の問題として根本的に考え直そうとする,歴史心理学や社会精神医学の歴史に名を残す力作である。
 冒頭でリフトンは本書の副題にも用いられている「洗脳」という語について述べている。「洗脳」という言葉は,不可解で抗しがたい心の支配の方法として恐れられる一方で,通常の教育や心理療法や宗教的指導についても同じことがあてはまるのではないかという疑惑を生み,多くの混乱を生んだ。しかもそれは,「目的的に人間を変えるという心理学や倫理学の問題を看過する」結果をも生んでいるという(4ページ)。洗脳概念によるそうした混乱に代わり,再教育や人格変容のあり方についての研究という枠組みの中で現象をとらえ直す必要がある。共産中国のいわゆる「思想改造」(これも中国人自身による用語)は,個々人に対して抑圧的に働く可能性がある「人間操作」の新たな形態である。

研究と報告

てんかん患者における就労および結婚状況

著者: 和田一丸 ,   桐生一宏 ,   河田祐子 ,   岡田元宏 ,   横田浩 ,   古郡華子 ,   武田哲 ,   栗林理人 ,   近藤毅 ,   矢部博興 ,   田崎博一 ,   兼子直

ページ範囲:P.1155 - P.1162

 【抄録】5年以上外来通院を継続している20〜60歳のてんかん患者288例を対象として,社会生活状況に関する面接調査を行った。就労状況については,調査時に無職であったものが45例あり,そのうち15例はてんかんが原因で職に就けないと回答した。調査時無職であった45例では,定職を有する群(169例)と比較し,発作抑制の困難な例,神経精神医学的合併障害を有する例の割合が有意に高かった。発作が原因で職を失った経験のあるものは41例であった。結婚状況については,離婚経験者が30例認められたが,そのうち離婚の原因がてんかんと直接関係していたと回答したものが7例であった。この7例のうち結婚前に配偶者に病名を告知していたものは1例のみであった。

視力障害を有する痴呆老人における幻視—Charles Bonnet症候群との比較

著者: 石倉菜子 ,   朝田隆 ,   木村通宏 ,   斉藤英知 ,   宇野正威

ページ範囲:P.1163 - P.1169

 【抄録】複合幻視を呈した視力障害を有する痴呆患者の4症例を呈示した。症例はいずれも眼疾患による視力障害を有しており,痴呆が後発した。意識清明下に,生き生きとした人物,動物などの複合幻視が一定期間,ある頻度で継続して出現した。これらの臨床特徴はCharles Bonnet症候群の幻視のそれに類似していた。過去の器質性幻視と視力障害者の幻視に関する報告を参考に,幻視発現の機序を考察した。そして視力障害に頭頂葉および後頭葉を中心とする大脳病変が加わることが,4症例における幻視発症の重要な基盤であると考えた。さらに発症の誘因としての状況因,環境因についても言及した。

Psychiatric Munchausen's syndromeの2症例

著者: 西松能子

ページ範囲:P.1171 - P.1178

 【抄録】欧米においては身体症状を自己産出するMunchausen's syndromeの報告とともに,精神症状を自己産出するPsychiatric Munchausen's syndromeが報告されているが,本邦においてはまだ報告をみないので,自験例2例を報告した。自験例はともに(1)生活史についての虚言があり,(2)精神科症状を中心に虚偽性症状を自己産出し,(3)自殺など劇的な症状を訴え,(4)自ら精神科治療を繰り返し求めた症例であり,欧米のいわゆるPsychiatric Munchausen's syndromeの特徴に合致し,DSM-ⅣのFactitious disorder with predominantly psychological signs and symptomsの診断基準を満たした。これら自験例2例の診断および治療について検討考察するとともに,本邦におけるMunchausen's syndromeの報告例における精神症状について検討した。

非ステロイド性消炎鎮痛剤の併用によるリチウム中毒で小脳障害を残遺した2例

著者: 渋谷克彦 ,   中谷英己 ,   児矢野繁 ,   春原善治 ,   桂城俊夫 ,   荻野裕 ,   長友秀樹 ,   岩淵潔 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.1179 - P.1186

 【抄録】リチウムと抗精神病薬を服用中の躁うつ病の患者に,非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)を併用したところ,リチウム中毒となり,悪性症候群の病像を呈した後,不可逆性の小脳性運動失調を残遺した2症例を報告した。リチウムは主に腎から排泄されるため,NSAIDは腎に影響を与えリチウムの血中濃度を上昇させると考えられる。後遺症としての小脳障害は,悪性症候群やリチウム中毒ばかりでなく,heat strokeでもみられるが,発熱のないリチウム中毒でもみられ,小脳障害の原因を特定することは困難である。

癌告知に関連して心因性嘔吐を繰り返した終末期癌患者の2例

著者: 森田達也 ,   井上聡 ,   千原明

ページ範囲:P.1187 - P.1191

 【抄録】癌告知に関連した葛藤から心因性の嘔吐を繰り返した2症例を報告した。いずれも,心理的外傷体験となる破壊的な「告知」を受けたことが契機となった。患者は病気について疑念を持ったが,周囲の告知しない方針によってコミュニケーションは途絶され,不信,疎外感を強め,身体症状が強化された。ホスピスケアにおいて環境を整え,正直な病状説明を行ったところ身体症状は軽快した。

婦人科がん患者における精神の障害—その内容,罹患率,リスクファクター

著者: 田中耕司 ,   米倉ゆかり ,   峯修平 ,   弥富佳子 ,   金蔵常一 ,   吉良勲 ,   垣替芳隆

ページ範囲:P.1193 - P.1199

 【抄録】婦人科がんの患者の精神的な障害の罹患率,その内容,およびそのリスクファクターを明らかにするために,入院患者48名を対象として,診断告知後に横断的調査を行った。診断は,POMS,精神医学的面接の結果をもとにして,DSM-Ⅳに従った。加えて,大うつ病エピソードの診断は,Endicottの診断基準も用いた。その結果,8.3%が大うつ病エピソードの,20.9%が適応障害の診断基準に合致し,計29.2%の患者が,DSM-Ⅳの診断基準に合致した何らかの精神的障害を有していた。また,身近に相談相手がいないことは,精神の障害のリスクファクターの1つであることが明らかとなった。

短報

遅発性錐体外路症候群に伴い重篤な嚥下障害を来した精神分裂病の1例

著者: 松尾幸治 ,   水落由示 ,   加藤忠史 ,   福田正人

ページ範囲:P.1201 - P.1204

 遅発性錐体外路症候群に伴う不随意運動が重度に舌や咽頭に起こり,その結果,嚥下障害を来し誤嚥性肺炎や窒息により致命的になるような例は稀で,国内外での報告は数少ない1〜4,8)。今回我々はこのような嚥下障害により入退院を繰り返した治療困難な慢性精神分裂病症例を経験したので報告し,その病態について若干の考察を加えた。

うつ状態で放火により自殺を図ったACTH単独欠損症の1例

著者: 京谷泰明 ,   佐藤倫明

ページ範囲:P.1205 - P.1207

 M. Bleulerが内分泌精神症候群endokrines Psychosyndromとして述べているように,内分泌疾患に伴う精神症状は,その慢性期において,一種の人格変化のような欲動,発動性,気分の障害を示すことが知られている1,2)。下垂体機能障害の1つであるACTH単独欠損症は,1954年Steinbergら6)が50歳の主婦の症例をTrue Pituitary Addison's Diseaseと記載したのが最初であり,その後,精神症状を示すものも多く報告されるようになった3〜5)
 今回我々は,放火にて自殺を図り入院となった患者を精査したところ,ACTH単独欠損症であることが判明した。ここにその経験を報告し,簡単に考察を加えたい。

クロザピンの投与により多飲が改善した慢性期分裂病の1例

著者: 高田秀樹 ,   高橋義人 ,   久住一郎 ,   小山司

ページ範囲:P.1209 - P.1212

 精神分裂病患者の慢性期においてよくみられる多飲(polydipsia)は,心因性多飲,強迫的多飲とも呼ばれ,低ナトリウム(Na)血症や低浸透圧血症を合併することが知られている。重症例では意識障害,けいれん発作を伴う水中毒を惹起し,時に致命的となりうる。松田7)によると,一般に神病院入院患者の10〜20%に多飲がみられ,4〜12%が低Na血症を呈し,3〜4%に水中毒が発生しているという。
 一方,多飲に関する薬物療法の報告はいくつかみられるが,最近まで治療法として確立したものはなかった。しかし,Leeら6)が,1991年に精神分裂病患者の多飲がクロザピン(CLZ)によって軽快した初めての症例を報告して以来,次々に追試が行われ,その有効性が確認されつつある1,2)。CLZは1960年代にスイスで開発された薬物であり,いわゆる非定型抗精神病薬のプロトタイプとされている。特に1980年のKaneらの報告4)で,治療抵抗性の精神分裂病に対する有効性が確認されたため脚光を浴び,我が国でも1995年より臨床試験が開始されている。今回,我々は慢性期分裂病患者の多飲が,CLZの治療抵抗性精神分裂病に対する臨床前期第Ⅱ相試験(以下治験)中に軽快した1例を経験した。本邦における最初の症例となるため,ここに報告し,若干の考察を試みた。

Carbamazepineの投与で知覚音の全音低下を呈した躁うつ病の1症例

著者: 辻誠一 ,   堀口淳 ,   山下英尚 ,   加賀谷有行 ,   横田則夫 ,   山脇成人

ページ範囲:P.1213 - P.1215

 carbamazepineは抗てんかん薬として汎用されているが,躁うつ病や精神分裂病に対するmood stabilizerとしても用いられる。その副作用には眠気,運動失調,複視など種々のものがある。筆者らは躁うつ病の患者にmood stabilizerとしてcarbamazepineを投与したところ知覚音の全音低下を訴えた症例を経験した。現在までのところcarbamazepineの投与に起因して知覚音の異常を来したとする報告は極めて少なく,貴重な症例と考えられたので若干の考察を加えて報告する。

資料

精神分裂病治療におけるインフォームド・コンセントに関するアンケート調査

著者: 藤原豊 ,   石津すぐる ,   本田輝行 ,   田中有史 ,   中島豊爾 ,   黒田重利

ページ範囲:P.1217 - P.1223

■はじめに
 従来,我が国の精神科臨床では,他の医学領域に比べ,精神分裂病患者の意思決定能力の障害を理由にしたパターナリズムが広く浸透し,インフォームド・コンセント(以下IC)の導入には医師の側の抵抗が強かった。しかし,欧米の医療におけるICの普及1)は,精神科領域においても例外ではなくなってきた。1991年12月の国連総会決議「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」を受けて7),我が国では公衆衛生審議会が,「精神障害者に対するICの在り方等について検討すること」とする答申を出した。日本精神神経学会においても,ICの要件である患者の同意能力,代諾制度,強制入院下での治療の在り方,などの問題は今後の検討課題としつつ,いま必要なことは治療者が患者に対して適切な情報を伝え,治療者と患者との合意を形成しつつ治療を行うことであるとの観点から「精神科治療者のガイドライン」が提起された11)。つまり,精神科領域でのICの問題は,是非の議論からいかにこれを導入するかの具体的模索の段階へと進展してきた。一方,精神療法の立場から言えば,このようなことは臨床場面で個々の医師が試行錯誤を繰り返しながら従来から行ってきたことであり,広義にはICを得ることは精神療法そのものの過程であると言われている13,18)。しかし,ICを狭義にとらえると,告知の内容と同意の意味について,医療関係者の中に一定の合意が得られているとは言いがたく,何をどこまでどのように説明するのか明確な基準はいまだにないという意見もある4)。そこで,現在の我が国の精神科医師がどのようなICに関する認識を持っているのかをこの時点で把握しておくことは,意義のあることと思われる。

英国における精神医学研究倫理委員会—ロンドン大学精神医学研究所(およびモズレー病院)の研究倫理委員会の運用規定

著者: 五十嵐禎人 ,   武井教使

ページ範囲:P.1225 - P.1234

〈はじめに〉
 人を対象とした医学的研究に関して,ニュルンベルグ綱領やヘルシンキ宣言などの国際的倫理規定は,研究対象者のインフォームド・コンセントを原則とすることを定めている。研究や治験を行うに当たって,患者や研究対象者に十分な説明を行い,その方法・目的の理解,納得を得た上で,自発的な参加への同意を得ることは,倫理的に必要不可欠な手続である。臨床治験については,我が国では厚生省の医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)があり,日米欧医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議での合意に基づき改訂作業が行われた。
 精神医学においては,対象とする疾患の性質上,患者や研究対象者の同意能力に問題がある場合がある。インフォームド・コンセントをはじめとした研究の倫理に関する諸問題は,他の医学領域以上に複雑である。近年我が国においても諸外国の例を参考に各研究機関に研究倫理委員会が設けられている。しかしながら精神障害者を対象とした臨床研究の特殊性について十分な配慮がなされているとは言い難い。研究倫理委員会で審査され議論されるのは,臨床治験や遺伝子関連の研究といった日常臨床とはやや異なる研究についてのものが主である。既存の日常臨床に使用される薬物についての研究,心理検査や脳波,脳画像(CT,MRIなど)など確立された検査技術を用いた研究,精神療法に関する研究など精神科の日常臨床の延長上にあるような研究については,日本精神神経学会が臨床研究における倫理綱領3)を公表しているものの,その研究の倫理に関して十分な議論がなされているとは言えない現状にある。

紹介

イギリスの公共サイコセラピー・サービス—精神科病院に付属したある精神療法科を例にとって

著者: 矢崎直人

ページ範囲:P.1235 - P.1237

■はじめに
 イギリスの精神療法サービスは近年大きく変化しており,現況を把握するのが困難なほどである。その中で公共医療National Health Service(NHS)内で行われる精神療法は需要に追われる形ながら健全な発展を遂げてきたといえる。公共精神療法サービスの中で,Maudsley病院の精神療法部門と独立機関(institution)であるTavistock clinicについては我が国への紹介も多く活動もよく知られている。特殊で国全体を対象としたそれらの複合訓練機関とは別に,20年ほど前から地域の病院に付属する形で精神療法科が設立されてきた。これらはより地域の精神医療に結びつき,一般的な形で精神療法を供給してゆこうとする動きである。病院に付属する精神療法サービスについて,1地方の精神療法科を実例として紹介するとともに,近年のイギリスの精神療法サービスについて概観したい。

私のカルテから

分裂病様症状を呈した特発性大脳基底核石灰化症の1例

著者: 小玉哲史 ,   森岡洋史 ,   福迫博 ,   滝川守国 ,   小八重秀彦 ,   大保義彦

ページ範囲:P.1238 - P.1239

 近年の画像診断の進歩により,多くの病態で大脳基底核の石灰化が観察されるようになった。大脳基底核の石灰化と精神症状との関連については,これまでに多くの報告があるが3,5),今回筆者らは分裂病様症状を呈した比較的稀な特発性大脳基底核石灰化症(idiopathic basal ganglia calcification;IBGC)の1例を経験したので報告する。

シリーズ 日本各地の憑依現象(7)

徳島の犬神憑き

著者: 香川雅信

ページ範囲:P.1241 - P.1244

■犬神の歴史と伝承
 犬神は,中国・四国・九州地方にかけて広く信じられている憑きもので,特に四国の徳島県・高知県および九州の大分県において顕著である。一種の動物霊のようなものと考えられていることが多く,小さな犬のような姿をしているとも,鼠のようなものであるとも言われている。犬神はある特定の家筋に代々伝えられるとされ,その家筋のことを「犬神筋」「犬神統」などと呼ぶ。犬神筋(統)の家の者に恨まれたり,妬まれたりすると,犬神に取り憑かれて病気になると考えられている。そのため犬神筋(統)の者との縁組は現在でも忌み嫌われており,重大な社会問題となっている。これとよく似た「憑きもの筋」の俗信は日本の各地に存在するが,山陰地方の「人狐」や関東地方の「オサキ」など,狐系統の憑きものがその家筋に富をもたらすと考えられているのに対して,犬神の場合はそうした性格が希薄である。
 歴史的に犬神についての俗信がいつ頃から存在したかは正確にはわからないが,文明4年(1472)に将軍祐筆飯尾常房(常連)から阿波国の三好式部少輔長之にあてて「犬神使い」を捜し出して処罰するよう求めた下知状が出されていることから,室町末期にはすでに存在していたようである。一方,民間には,飢えた犬の首を切ってそれを呪術に用いたのが犬神の始まりとする起源伝承が伝えられている。おそらく,共同体内における何らかの葛藤や対立を背景として,ある家筋を印づけ,あるいは排除するために,邪術師(sorcerer)的なイメージが利用された結果,犬神筋というものが形成されたのであろう。

動き

「第3回日本神経精神医学会」印象記

著者: 田辺敬貴

ページ範囲:P.1245 - P.1245

 第3回日本神経精神医学会(The Japanese Neuropsychiatric Association)が1998年5月13,14日の両日,大阪大学医学部精神医学教室武田雅俊教授主催のもと,大阪の千里ライフサイエンスセンターで開催された。本会は,国際神経精神医学会(International Association of Neuropsychiatry)に呼応し,「脳・神経疾患における精神障害に関しての研究を推進し,我が国における神経精神医学の発展を図ること」を目的として,1996年京都大学三好功峰教授を代表理事とし,第1回研究会が横浜市立大学の小阪憲司教授,第2回研究会が千葉大学佐藤甫夫教授のもとで開催され,今回から学会に改組された。いまだ3回目にもかかわらず,会員数はすでに650名を超し,演題応募も66題に上り,会長講演「痴呆の精神症状」のほか,シンポジウム「強迫」,指定演題「神経精神医学の最近の話題」,ランチョンセミナー「精神機能の画像検査」と盛りだくさんの内容で,今回は2日間の日程を要した。質疑応答も活発になされ,大変盛況であった。武田会長,事務局長の西川隆先生,ならびに大阪大学の方々のご努力に感謝したい。
 ところで,シンポジウム「強迫」に関連して,座長の中嶋照夫先生も指摘され,筆者も個人的に気になったのは,精神科領域と神経心理ないし神経内科領域での「強迫」という用語ないし概念についてのとらえ方の溝である。精神科領域で「強迫」が取り上げられる際は通常,強迫神経症ないし強迫性障害(obsessive-compulsive disorders)を対象とし,obsessiveに相当する強迫思考ないし観念と,それに伴うcompulsiveに相当する強迫行為が議論される。一方,神経心理ないし神経内科領域では,前頭葉〜側頭葉の障害あるいは前方型痴呆による常同・強迫行動や,道具の強迫的使用,強迫的音読といった症状がしばしば取り上げられるが,これらの場合には通常強迫的観念は伴わない。また,道具の強迫的使用,強迫的音読などの症状は強迫的と形容されてはいるものの,現実には外界からの刺激に容易に反応してしまう症状で,前頭葉-基底核系の均衡の障害よりも前頭葉-頭頂葉系の均衡の障害が想定され,反響的ないし自動的という修飾語のほうが適当かもしれない。前頭葉〜側頭葉の障害による常同・強迫行動も,用語の上からは固執的(compulsive)行動と呼んでおくほうが妥当と思える。

「精神医学」への手紙

Letter—誰のための無告知投薬か—森山論文を読んで/Answer—レターにお答えして—議論すべきは患者の「自己決定権」との関連ではないか—伊藤氏のご質問に答えて

著者: 伊藤高 ,   森山成彬

ページ範囲:P.1246 - P.1247

 本誌1998年5月号掲載「精神科病院外来における無告知投薬の現状」1)を読んで,その治療意義について感じるところを書きたい。
 病識のない精神分裂病患者や躁病患者に対し,ハロペリドール液を告知なく投与することは,少なくとも病的体験や躁状態における問題行動を抑制する意味で,あるいは場合によっては服薬により病感が生じ,自ら服薬が可能になることもあり,拒薬している患者本人にとってもプラスに作用していると考えられる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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