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雑誌目次

雑誌文献

精神医学40巻12号

1998年12月発行

雑誌目次

巻頭言

100万人年の失われた時

著者: 新福尚隆

ページ範囲:P.1254 - P.1255

 1948年に世界保健機関(WHO)が設立されて,1998年はちょうど50周年にあたる。筆者は1981年から1994年まで13年間,WHO・西太平洋地域における精神保健および薬物対策の地域顧問として勤務した。

創刊40周年記念鼎談・21世紀への課題—精神医学の40年を振り返る(6・最終回)

精神医療・精神医学教育の変遷と将来

著者: 西園昌久 ,   野田文隆 ,   山内俊雄

ページ範囲:P.1256 - P.1267

 山内(司会) 「精神医学」の創刊40周年を記念して,これまで5回にわたりいろいろな方面について鼎談を行ってまいりましたが,その締めくくりとして「精神医療・精神医学教育の変遷と将来」というテーマでお話を伺いたいと思います。まず,ごく簡単に自己紹介をしていただいてから,本題に入りたいと思いますので,西園先生お願いいたします。

研究と報告

初診時の人格障害尺度評価は大うつ病の4か月予後予測に有用か

著者: 上原徹 ,   坂戸薫 ,   佐藤哲哉 ,   桑原秀樹 ,   染矢俊幸

ページ範囲:P.1269 - P.1274

 【抄録】初診時に得られた人格障害に関する情報が,うつ病の4か月治療予後を予測する要因として有用かどうかを,DSM-Ⅳ大うつ病外来患者32名を対象に検討した。人格障害評価には自己記入式の日本語版Personality Diagnostic Questionnaire-Revisedを用いた。重回帰分析では,初診時のクラスターAおよび自己愛性,依存性人格障害尺度得点が高く,初診時のHamiltonうつ症状尺度得点(HAM-D)と年齢が低いほど,4か月後のHAM-D得点が高いことが示された。4か月後のZung不安尺度得点は,初診時の強迫性人格障害尺度得点と有意な正相関を示した。クラスターA人格障害が予後不良要因となるという所見は,症状改善期に人格障害面接を行った研究結果と合致するものである。また本研究では,予後評価に用いる症状尺度の違いにより,人格の予後評価に与える影響も異なることが示唆された。

発症後約2か月半が経過し,なお高圧酸素療法が著効した一酸化炭素中毒の1例

著者: 根布昭彦 ,   池田学 ,   牧徳彦 ,   鉾石和彦 ,   小森憲治郎 ,   田辺敬貴

ページ範囲:P.1275 - P.1281

 【抄録】発症後約2か月半が経過した一酸化炭素中毒の42歳の女性に,1クール10回の高圧酸素療法(HBO)を2クール試み,HBO開始前,HBO 1クール終了時,2クール終了時の計3回,詳細な神経心理学的検査,頭部MRI,SPECTを用いて臨床経過を検討した結果,自発性の低下,注意集中力の低下の著明な改善がみられ,その時期に対応してSPECTにおいて前頭葉,側頭葉内側の血流改善が認められた。急性期,亜急性期を過ぎた一酸化炭素中毒においてもHBOが効果を示し,詳細な神経心理学的検査は客観的な臨床症状の評価に有用であった。また治療効果,症状改善の指標として脳機能画像が有用であった。

気分障害(大うつ病エピソード,遷延性)患者のECT前後における局所脳血流量の変化

著者: 大神博央 ,   穐吉條太郎 ,   森山民絵 ,   葛城里美 ,   山田久美子 ,   五十川浩一 ,   藤井薫 ,   中山晃一 ,   三宅秀敏

ページ範囲:P.1283 - P.1288

 【抄録】遷延化している気分障害・大うつ病エピソード患者3名を対象として99mTc-hexamethylpropyleneamine oximeとSingle Photon Emission Computed Tomographyを用いてElectroconvulsive Therapy治療前後の局所脳血流量を測定した。ROIはMATSUI & HIRANOアトラスをもとに左右併せて50個設定した。ECTにより抗うつ効果のあった2症例においては右海馬で若干脳血流量増加がみられたが,明らかに増加している部位はみられなかった。3例に共通してECTにより右上前部帯状回,左後部帯状回,左側頭葉において脳血流量減少がみられた。これはECTそのものの作用によると考えられた。

高脂血症の脳障害—第1報:前頭萎縮とコレステロール値

著者: 苗村育郎 ,   菱川泰夫

ページ範囲:P.1289 - P.1295

 【抄録】主として精神科を受診した1,812名の脳のMRI画像を検討し,高脂血症(HL)の役割をロジスティック回帰分析により検討した。その結果,HL患者は,前頭部を中心とする脳萎縮を高頻度に生じることが明らかになった。HLの前頭萎縮は50歳代後半から頻度を増し,60歳代以上で高頻度となる。HLの前頭萎縮に対する相対危険度は,rr=2.3(p<0.00001)で,アルコール(AL)過飲との相乗効果は認められなかった。前頭萎縮の頻度は,女性では血清総コレステロールが180mg/dlを超えると急増し,240〜260mg/dlでピークを示した。男性では160mg/dlから増加し,200〜220mg/dlでピークとなった。
 これらの結果は,HLが単独でも脳障害の危険因子となることを示すとともに,血清コレステロール値の健康域についての再考を迫るものである。

短報

摂食障害患者の血清総コレステロール値

著者: 中井義勝 ,   濱垣誠司 ,   高木隆郎

ページ範囲:P.1297 - P.1299

 摂食障害は心身症の代表的疾患で種々の内分泌・代謝異常を来す。神経性無食欲症の血清総コレステロール値は幅広く分布し,高コレステロール血症は神経性無食欲症の33〜61.1%にみられる6〜9,12)
 神経性無食欲症は制限型とむちゃ食い/排出型に下位分類されるが,最近では神経性無食欲症の既往のない神経性大食症(以下BN)が増加している2)。BNの血清総コレステロール値についての報告は少ない9,13)。今回216名という多数のBN患者を対象に血清総コレステロール値を測定し,その結果を神経性無食欲症と比較したので報告する。

心因性疼痛として治療されていた経過中にHAMが判明した1症例

著者: 北賢二 ,   森岡洋史 ,   福迫博 ,   白谷敏宏 ,   滝川守国

ページ範囲:P.1300 - P.1302

 HTLV-Ⅰ associated myelopathy(以下HAMと略す)は,臨床的には痙性対麻痺と排尿障害を主症状とする慢性の炎症性疾患であり4),日本ではHTLV-Ⅰ感染キャリアーの多い九州地方からの報告が多い11)
 今回筆者らは,腰痛を発症し,数か所の整形外科病院で1年以上検査を受けたが原因不明で,さらにうつ状態も加わるなど治療に反応せず,心因性疼痛と診断され治療を受けていた1女性例を経験した。本症例は入院精査によりその後HAMと診断され,加療により症状の軽減が得られたので若干の考察を加えて報告する。

非定型精神病像を反復した抗リン脂質抗体症候群の1例

著者: 青木勉 ,   野々村美紀 ,   丁子竜男 ,   笹平夏代 ,   飯塚登

ページ範囲:P.1303 - P.1305

 抗リン脂質抗体症候群(以下APSと略す)は,種々の血栓症と,習慣性流産,血小板減少などの臨床症状とリン脂質に対する自己抗体を特徴とする自己免疫疾患である。今回我々は,非定型精神病像を反復し,抗凝固療法が奏効した抗リン脂質症候群の1例を経験したので報告する。

紹介

英国イングランドにおける精神障害者居住ケアの現状

著者: 三野善央 ,   下寺信次 ,   津田敏秀

ページ範囲:P.1307 - P.1311

■はじめに
 我が国の精神保健サービスは1988年の精神保健法の改正以来,病院入院中心のケアから地域ケア中心へと流れを変えている3)。そうした地域ケアへの流れを実現するためには,精神障害者に対してのプライマリケアの充実,就労を含む昼間の活動の場の確保などとともに生活の場の確保が重要と言われている6)
 とりわけ居住施設は生活の拠点を持たない精神障害者が地域で生活していくために重要な役割を果たす。そうした中で,1988年施行の精神保健法において,社会復帰施設として精神障害者生活訓練施設(援護寮)および精神障害者福祉ホームが法定化された3)。また1993年の精神保健法の改正においてグループホームが精神障害者地域生活援助事業として法定化され,1996年の障害者プランーノーマライゼーション7か年計画においても2万人の精神障害者が居住可能なグループホームなどの居住施設を建設することが計画されている3)。また,精神病院協会に属する精神病院やその他の任意団体も積極的にこうしたグループホームを建設していこうと努力している。

私のカルテから

Psychogenic overlayで生じたパニック障害に対して抗精神病薬が有効であった症例

著者: 片桐秀晃 ,   西川正 ,   田中新一 ,   堀口淳 ,   山脇成人

ページ範囲:P.1312 - P.1313

 パニック障害では抗不安薬や抗うつ薬が使用される場合が多い。今回我々は三叉神経痛治療後の顔面のしびれ感に対する予期不安からパニック発作を生じ,顔面のしびれ感が増悪した症例に対して,抗精神病薬が有用であったので報告する。

シリーズ 日本各地の憑依現象(8)

北海道のトゥス

著者: 七田博文

ページ範囲:P.1315 - P.1318

■はじめに
 トゥスとはアイヌ語で巫術を意味する言葉で,神がかりの状態になって神と人との霊媒を行う法である。そしてトゥスを行う巫者をトゥスクルという。
 アイヌ民族の信仰の基盤をなしているものは,あらゆる事物が我々人間と同様にそれ自身の霊魂をもって生きていると考えるアニミズム(精霊崇拝)と,それを背景として発展したと考えられるシャーマニズムである。
 古代のアイヌ社会では男性のシャーマンが呪術やト占を行い,戦時には指揮者となりその社会を支配していたと言われている。しかし,後世のアイヌ社会においては神への祈願を行う諸々の祭事は男性の長老(エカシ)が執り行うが,神意を告げるトゥスはトゥスクルと呼ばれる女性のシャーマンが行うように変わってきた。
 トゥスはどのような場合に行われていたかといえば,多くは危険な病気に罹った時にその治療法を知るためであったが,その他にも,猟運に恵まれない猟師がどこで獲物にありつけるかを問うたり,遠出の旅に出る者が天候を聞いたり,稀には,窃盗に遭った者がその盗人を捜すためなどにも行われていたようである。

シンポジウム がん,臓器移植とリエゾン精神医学—チーム医療における心のケア

総説:コンサルテーション・リエゾン精神医学の課題

著者: 保坂隆

ページ範囲:P.1319 - P.1323

■コンサルテーション・リエゾン精神医学の歴史と現状
 米国では1902年にAlbany総合病院に初めて精神科が設置され,1939年に「リエゾン精神医学」という用語がBillingsによって初めて使われた。その後,徐々に発展・定着してきた「リエゾン精神医学」も,これまでに2回の大きな発展の時期を経て成長してきたことが知られている。第1は,1930年代のロックフェラー財団からの資金援助であり,全国で数か所の施設において常勤のリエゾン精神科医の配属が可能になった。第2は1970年代のNIMH(National Institute of Mental Health)からの研究基金の捻出であり,リエゾン精神医学領域の研究に従事できるスタッフが確保され,おびただしい数の臨床研究が報告され,数々の臨床モデルが提唱された時期である8)(表1)。
 そして,このような流れの中で,我が国には1977年に京都で開かれた国際心身医学会で,欧米,特にアメリカからの精神科医によりこの用語が輸入・紹介されたのである。その後,数年のうちに全国的にこの用語が広まり,各学術集会でもシンポジウムが組まれたり,学術誌にも特集が組まれた。しかし,米国で公的・私的基金などの経済的なバックアップがあって飛躍的な発展を遂げたことからもわかるとおり,我が国でも医療経済的な面からいえば,このコンサルテーション・リエゾン精神医学にも弱点がある。そのためか,現状では,総合病院といってもその半数近くに精神科が設置されているにすぎず,さらにその半数にしか精神科病床を有した総合病院はないという事実がある。しかし,1988年には我が国のコンサルテーション・リエゾン精神医学に関する専門学会である「日本総合病院精神医学会(理事長:黒澤尚日本医大教授)」が設立され,今後の発展が期待されているが,筆者は,このような我が国のコンサルテーション・リエゾン精神医学の歴史を「導入期」・「普及期」として振り返り,1988年以降を,今後の発展に期待を込めて,「発展期」と名づけている(表2)。

がん医療におけるリエゾン精神医学—情報開示とQOL向上にどう取り組めばよいか

著者: 内富庸介 ,   明智龍男 ,   久賀谷亮 ,   奥山徹 ,   中野智仁 ,   三上一郎 ,   岡村仁

ページ範囲:P.1325 - P.1329

■はじめに
 がん患者の精神的負担が精神医学的研究として明らかにされるようになったのは(当然であるが),がんのインフォームド・コンセントが一般化した後の1970年代から,欧米においてである。1977年,米国ではスロンケタリングがんセンターに,疼痛緩和部門と並んで精神科部門が開設された。Psycho-Oncologyは,現在では腫瘍学(medical oncology)の1分野となっているが,腫瘍病棟という特殊な医療環境の出現,癌治療成績の向上,知る権利の台頭など社会情勢の変化により患者に心理社会学的負担が生じていた背景があった。日本でも,患者のQOLや自己決定権を尊重する風潮が高まり,またがんに関する溢れんばかりの情報化社会にあって,医師と患者がコミュニケーションなしでがん治療を進めることは大きな負担となってきている。

身体医とどうコミュニケートするか

著者: 春木繁一

ページ範囲:P.1331 - P.1336

■はじめに
 企画者からの要望なので,最初に腎移植,次いでがん医療における臨床精神医学的問題の概観を述べ,その後本論であるリエゾン・コンサルテーション医療において精神科医は身体医療を行う側の身体医と現場でどう連携していけばよいのかについて,筆者のささやかな経験から私見を述べることにしたい。

腎移植をめぐる患者心理と家族内力動

著者: 成田善弘

ページ範囲:P.1337 - P.1341

 腎不全に対する人工透析治療は多くの患者の生命を救い,生存率もしだいに向上して,現在では透析歴20年を超える患者もある。しかし透析には週3回数時間の拘束,厳しい水分制限や食事制限など様々な生活上の制約がある。腎移植はこれらの困難を解消し,患者のQOLを著しく向上させる治療法である。しかし我が国では腎移植は欧米諸国と比べて数が少ないうえに,死体腎の提供が少なく生体腎移植の占める割合が高い。また生体腎移植のほとんどが血縁者から行われるため,移植に家族内力動が反映し,また移植によって家族内力動に変化が生じる。本稿では腎移植をめぐる患者(レシピエント)およびドナーの心理ならびに家族内力動について検討する。筆者は社会保険中京病院に勤務していたとき,1984年から1994年の10年間,同病院に入院し腎移植手術を受けたすべての患者に入院中週1回回診し,移植医および病棟看護婦と定期的にカンファランスを持った。本稿は主としてその時の経験に基づくものである。(その経験の一部はすでに別のところ4,5)に発表してある。)

臓器移植精神医学に関する臨床研究

著者: 福西勇夫

ページ範囲:P.1343 - P.1347

■臓器移植精神医学の歴史と欧米および日本における現状
 リエゾン精神医学の概念が我が国に導入されて,はや20年以上が経過した。その間にリエゾン精神医療は急速な普及,発展を遂げ今日に至っているが,先端医療の進歩や発展に影響を受ける領域であるために,その内容は微妙な変化を余儀なくされる。周知のように,先端医療の1つである臓器移植は腎臓,骨髄だけにとどまらず,欧米では肝臓,心臓などの様々な臓器移植が多数の施設で実施されるようになっている。
 米国では,リエゾン精神医学の1つとして,臓器移植精神医学(Organ Transplant Psychiatry)と呼ばれる領域が確立されている1,2,10,16)。学術的な側面としては,リエゾン精神医学の代表的な学会であるAcademy of Psychosomatic Medicine(APM)では,臓器移植精神医学が毎年のようにシンポジウムやペーパー・セッションとして取り上げられている。臓器移植精神医学という用語は,APMの学会誌であるPsychosomaticsの誌上に,1990年にWolcott16)によって提唱されたのが最初であると言われている。米国では,臓器移植はかなり以前から精力的に試みられているが,臓器移植医療にリエゾン精神科医が参与することはなんら抵抗なく行われている。今ではリエゾン精神科医が臓器移植医療に参与していないのが不思議なほどである。我が国においても,欧米のように,精神科医がかかわりを持っている総合病院が増加しているものの,米国ほどの積極的なかかわりはまだまだ少ないのが現状である。

【パネルディスカッション】—がん,臓器移植とリエゾン精神医学—チーム医療における心のケア

著者: 内富庸介 ,   春木繁一 ,   成田善弘 ,   福西勇夫 ,   相川厚 ,   廣瀬寛子 ,   保坂隆

ページ範囲:P.1349 - P.1354

 司会(保坂) それではパネルディスカッションを始めたいと思います。まず,春木先生,身体科の医師はターミナルケアのような場での精神的なサポートを,どこでどういうふうに学べばいいのでしょうか。

動き

「日本精神病理学会第21回大会」印象記

著者: 工藤潤一郎

ページ範囲:P.1358 - P.1358

 日本精神病理学会第21回大会は,近畿大学精神神経科教授の人見一彦会長のもとで,1998年9月24,25日に,大阪府豊中市の千里ライフサイエンスセンターで開催された。
 第1日目の人見教授の会長講演「分裂病の移行主体について」は,人見教授が敬愛するスイス・バーゼル大学のG. Benedetti教授の「移行主体」を鍵概念として,分裂病の1症例に沿いながら,その回復過程を詳細に論じられた。

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精神医学 第40巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

KEY WORDS INDEX

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精神医学 第40巻 著者名索引

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基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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