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文献概要
シリーズ 日本各地の憑依現象(8)
北海道のトゥス
著者: 七田博文1
所属機関: 1札幌市精神保健福祉センター
ページ範囲:P.1315 - P.1318
文献購入ページに移動トゥスとはアイヌ語で巫術を意味する言葉で,神がかりの状態になって神と人との霊媒を行う法である。そしてトゥスを行う巫者をトゥスクルという。
アイヌ民族の信仰の基盤をなしているものは,あらゆる事物が我々人間と同様にそれ自身の霊魂をもって生きていると考えるアニミズム(精霊崇拝)と,それを背景として発展したと考えられるシャーマニズムである。
古代のアイヌ社会では男性のシャーマンが呪術やト占を行い,戦時には指揮者となりその社会を支配していたと言われている。しかし,後世のアイヌ社会においては神への祈願を行う諸々の祭事は男性の長老(エカシ)が執り行うが,神意を告げるトゥスはトゥスクルと呼ばれる女性のシャーマンが行うように変わってきた。
トゥスはどのような場合に行われていたかといえば,多くは危険な病気に罹った時にその治療法を知るためであったが,その他にも,猟運に恵まれない猟師がどこで獲物にありつけるかを問うたり,遠出の旅に出る者が天候を聞いたり,稀には,窃盗に遭った者がその盗人を捜すためなどにも行われていたようである。
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