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雑誌目次

論文

精神医学40巻2号

1998年02月発行

雑誌目次

巻頭言

アルコール関連問題教育の真空地帯

著者: 林田基

ページ範囲:P.116 - P.117

 我が国においてアルコール関連問題の教育は,小学校から大学のどのレベルをとっても十分に取り上げられてはいない。今日,どの教育機関においても教育の対象となる事柄が膨大な量に膨れ上がり,アルコール問題どころではないのかもしれない。しかし,アルコール問題は成人の間に限らず,青少年の間でも,薬物乱用の波とともに確実に深刻化している。このまま放置してよいものであろうか。危機感を禁じえない。しかるべき情報・教育機関の設立を提言したい。
 確かに,我が国ほど飲酒に対して無法状態で無責任な国は恐らくあるまい。先進国では考えられないことが多々まかり通っている。この国ではアルコール製品は,酒屋からはむろんのこと,自動販売機から,コンビニエンス・ストアから,駅の売店からと,どこからでも簡単に購入できる。しかも,未成年者であろうが,その時酩酊していようが,何らの保護もないまま,極めて容易に入手できる。テレビのアルコールのコマーシャルは,法的規制のないままに,飲酒シーンを堂々と見せてくれる。主婦やOLを一般から募った一気飲みのコンテストをテレビで実演してみせて,あげくの果てに多数の女性参加者が急性アルコール中毒を患って救急車で病院に運び込まれたことすらあった。バーや飲食店内での未成年者の飲酒も容易である。政府は,その上,酒類の販売のさらなる規制緩和を検討中という。このような無法状態が青少年や依存症患者や酩酊者を含めた一般庶民に与える教育上の影響を考えると空恐ろしい。「社会は,その中で最も傷つきやすい人たちのニーズにどのように応えているかによって評価される」としたら,我が国はどのような評価を受けるだろうか。

創刊40周年記念鼎談・21世紀への課題—精神医学の40年を振り返る

日本の精神医学・医療の40年

著者: 秋元波留夫 ,   浅井邦彦 ,   大熊輝雄

ページ範囲:P.118 - P.130

 戦後13年,我が国の精神医学がようやく復興の兆しを見せ始めた1958年,「臨床に則した高度な内容をわかりやすく提供する」を編集方針に誕生した本誌も今年,創刊40周年を迎えました。これを記念して,精神医学・医療のこの40年をリードし,あるいは見守ってこられた方々の鼎談を企画いたしました。隔月掲載にて,精神分裂病研究,老年精神医学,児童精神医学などのテーマでお話し合いいただく予定です。

特集 精神病像を伴う躁うつ病および分裂感情障害の位置づけ—生物学的マーカーと診断・治療

臨床遺伝学からみた分裂感情障害

著者: 南光進一郎

ページ範囲:P.131 - P.134

■臨床遺伝学の役割
 臨床遺伝学の役割の1つは,病因としての遺伝と環境の関与を検討することであるが,今1つの役割は疾病分類学に寄与することである。その疾病分類が混沌としている精神疾患においては,臨床遺伝学の方法はとりわけ有用であることが期待される。すなわちある病気(例えば躁うつ病)の罹患者の家系に別の病気(例えば分裂病)が一般集団での頻度より高く観察されるとき,これら2つの病気(躁うつ病と分裂病)は遺伝的に関連している(あるいは遺伝的にみて同一の)病気である可能性がある。一卵性双生児の一方が分裂病で,他方が躁うつ病という組み合わせが,偶然の頻度(200〜300組に1組)より高く観察されるとき,この2つの病気は遺伝学的に見て同一の病気である可能性がある。このようにして臨床遺伝学は,疾病分類学に寄与することができる。実際最近の操作的診断基準の改変は,臨床遺伝学の知識によって行われているところが大きい。

非定型精神病,精神病像を伴う躁うつ病,分裂感情障害の位置づけ—遺伝学および神経生理学的立場より

著者: 米田博

ページ範囲:P.135 - P.139

■はじめに
 精神病像を伴う躁うつ病,ことに気分と調和しない精神病像を伴う躁うつ病や分裂感情障害は,国際的な診断基準であるICD-10およびDSM-IVの中で規定されているものの,従来よりその位置づけには多くの異論がある。Gershonら4)は遺伝学的な研究から,分裂感情障害を躁うつ病の1つのスペクトルの中でとらえている。これに対して分裂感情障害の家族内には分裂病の負因が高いとする報告もある。またKendler5)は,気分と調和しない精神病像を伴う感情障害は感情障害の1亜型と考えられると報告しているものの,我々の調査では,家族内負因の変異が定型的な感情障害とは明らかに異なり,異種(heterogeneous)な疾患であることが示唆される。
 さらに我が国では,症候学的に極めて近似した非定型精神病概念が,満田8)による遺伝学的な研究から,分裂病,躁うつ病,真性てんかんとは異なる1つの疾患としてnosological(疾病学的)に規定され,内分泌学的,神経生理学的研究も加わり発展してきた10)。この非定型精神病が,精神病像を伴う躁うつ病や分裂感情障害とどのような関係にあるのか,問題も多い。
 そこでここでは,まず臨床遺伝学的な研究を基礎とした非定型精神病の概念を紹介し,さらに我々がこれまでに行ってきた臨床遺伝学的,分子遺伝学的,神経生理学的な研究を紹介し,非定型精神病,精神病像を伴う躁うつ病,分裂感情障害の位置づけを考えてみたい。

分裂感情障害および精神病像を伴う双極性障害における脳画像—その診断学的意義

著者: 加藤忠史

ページ範囲:P.141 - P.146

■はじめに
 19世紀からZeller,Neumann,Griesingerらにより単一精神病論も提唱されてきたが,Kraepelin以来,大枠では内因性精神病の中に精神分裂病と躁うつ病の両極の存在を認める方向にある。いかなる視点から内因性精神病をこの両極に分けるかという点については,表1のように多くの考え方があるが,周期性に全体的な機能の変調を来す躁うつ病と,慢性的に特定の機能系が障害されている精神分裂病,という大枠でとらえられよう。しかしながら,臨床場面においては,この両極の間には様々な移行形が存在することもまた,周知の事実である。
 本稿の目的は,精神分裂病と双極性障害の間にある疾患群の位置づけを,脳画像という生物学的視点からとらえ直すことである。そのため,双極性障害における脳画像所見を精神分裂病の所見と比較検討しながらまとめた後,精神病像を伴う双極性障害および分裂感情障害における脳画像所見をこれらと比較した。

精神病像を伴う躁うつ病および分裂感情障害の薬物反応性

著者: 森信繁

ページ範囲:P.147 - P.153

 非定型精神病という診断名のもとに,精神分裂病・躁うつ病・てんかんという三大内因性精神病の臨床症状の一部を併せ持つ独立した疾患の存在が,満田らによって提唱されてきた5,11,12)。このような病態の存在は欧米の精神科医らによっても報告されており8,12),DSM-IVで診断すれば精神病像を伴う双極型気分障害あるいは分裂感情障害に該当すると考えられる。このDSM-IVにみられる分類からいわゆる非定型精神病を考えると,精神分裂病圏に入れるべき病態か気分障害圏に入れるべき病態かという議論になると思われる。これに対して,我が国では依然としていずれにも似ていて非なる独立の疾患単位であるという立場があり,本疾患の存在をめぐっては精神分裂病圏・気分障害圏・独立した1つの精神障害という議論が行われている現状である。
 近年の精神疾患に対する診断方法上の進歩の1つに,内分泌機能検査・脳画像検査などの生物学的マーカーによる診断が挙げられる。しかしながら,うつ病診断とdexamethasone suppressiontestや,アルツハイマー病診断と脳MRI検査との関係をみてもわかるように,精神症状や治療経過の観察とこのような検査結果を照らし合わせて総合的に検討することが,診断学上重要なのは明らかである。そこで今回筆者は,「精神病像を伴う躁うつ病および分裂感情障害の位置づけ」という課題に対して,薬物治療を行いながら病状経過を1〜12年の間観察しえた非定型精神病25名を対象に,薬物反応性という視点からの本疾患の位置づけを試みてみた。

画像による非定型精神病の診断的位置づけ

著者: 須賀英道 ,   林拓二

ページ範囲:P.155 - P.161

■はじめに
 生物学的研究において対象患者の設定に使われる診断が,ICD-10あるいはDSM-IVを代表とする操作的診断基準にほぼ限定されるようになってからすでに十数年が経過したが,その結果,確かに精神科診断に対する信頼性は向上したものの臨床的妥当性が損なわれる傾向にあるのも事実であろう。Kraepelinは臨床症状と経過の観察から内因性精神病を早発性痴呆と躁うつ病とに二分したが,そのどちらにも決めかねる中間群の存在を彼自身も承知していた。こうした中間群に対し,Kleistやその弟子であるLeonhardは,横断面および縦断面からの詳細な観察と遺伝調査によっていくつかの独立した疾患群を提唱し,我が国でも,満田らが厳密な臨床遺伝学的研究に基づいて「非定型精神病」の概念を提唱している。しかし,ICD-10では横断面での病像を重視することから,これらは急性一過性精神病性障害と分裂感情障害,それに精神病症状を伴う気分障害などに分散し,DSM-IVでは分裂病様障害と分裂感情障害,短期精神病性障害,精神病性の特徴を伴う感情障害などが用意されている。しかし,DSM-IIIからDSM-IVへの改訂の歴史をみても,改訂を重ねるたびに疾患名の切り貼りが続けられていることは,操作的診断基準の限界を暗示しているようにも思われる。そもそもこのような中間群の特徴は,病像が多彩で変化しやすいことであり,病相により診断が異なる場合も少なくない。このような場合には同一の患者に多くの診断を下さざるをえなくなるのである。
 我々はこうした操作的診断基準の限界を踏まえた上で,満田の「非定型精神病」概念を再びとらえ直すため,その発症年齢と性差6),負因と誘因7),症状と経過8)などを様々な点から検討してきた。本稿では「非定型精神病」と精神分裂病との画像診断的指標を用いた境界づけの可能性について,これまでの我々の研究を中心に取り上げたい。

分裂感情障害研究の方法論的批判

著者: 北村俊則

ページ範囲:P.163 - P.165

 精神疾患をいかに分類するかという課題について,生物学的指標biological markerのこれまでの貢献は顕著なものがあった。今回の主題である分裂感情障害schizoaffective disorder(SAD)についても,4名のシンポジストの発表にあるように,当該疾患の他疾患(例えば精神分裂病や純粋の感情障害)からの峻別や,分裂感情障害内部の亜型分類について,有用な情報が与えられている。1990年までの文献検索を行った北村3)は,SADの亜型分類subclassificationの外的指標external criteriaとして症状,家族歴,転帰,治療反応性,検査結果を取り上げ,SADの躁型(双極型),主として感情病性,非慢性のものが純粋な感情病に近く,抑うつ型(単極性),主として精神分裂病性,慢性のものはむしろ精神分裂病に近いと結論した。本シンポジウムでは1990年以降の新しい知見が紹介された。
 しかし,生物学的指標の技術的進歩とは裏腹に,SADをめぐる疾病学的nosologicalな議論は残念ながら停滞しているように思える。精神分裂病—分裂感情障害—感情障害という一連の疾患群を,どのように分けるのが最も妥当であるかについての進展はみられていない。なぜこの分野の疾病分類に進展がみられないかを考えると,そもそも19世紀から20世紀にかけて非器質性重症精神疾患を精神分裂病と躁うつ病の2つに分類したことに根源的誤謬があったと考えることができよう。

研究と報告

22q 11.2欠失症候群(CATCH 22)の精神障害—自験5例の報告

著者: 岩井一正 ,   石原さかえ ,   土渕精一 ,   松木秀幸 ,   田村敦子 ,   松岡瑠美子

ページ範囲:P.167 - P.174

 【抄録】心血管奇形,顔貌異常,鼻声などを呈する円錐動脈幹異常顔貌症候群など3つの類縁症候群に共通して,染色体22 q 11の微小欠失が見つかり,これに基づいてCATCH 22の呼称が提唱された。最近は22 q 11.2欠失症候群への改名も提案されている。これまで本症候群には精神分裂病をはじめ精神障害の合併が多いことが報告されてきた。本稿では精神科診療で観察された5例の精神障害を報告する。DSM-IVでは,精神分裂病3例,分裂感情障害1例などに該当した。内因性精神病圏に該当する4例はすべて分裂病症状を呈しており,経過は寛解度が悪く,退行しやすく,また感情病的な揺れが残りやすい。ほとんどの例で社会水準は低下した。

成人病による慢性脳障害の画像疫学—第1報:大脳皮質の萎縮所見の危険因子について

著者: 苗村育郎 ,   菅原純哉 ,   菱川泰夫

ページ範囲:P.175 - P.182

 【抄録】MRI画像上の脳障害の発生要因を明らかにするために,計1,311例の精神科受診者でみられた脳障害を分類し,これらに関与する可能性のある成人病・危険因子群との関係をロジスティック回帰分析によって検討した。その結果,(1)両側対称性の前頭萎縮(FA)には過剰飲酒(AL)と高脂血症(HL)が強い危険因子であるが,両側性の側頭萎縮(TA)に対してはALと高血圧(HT),および脳卒中が有意な危険因子であった。(2)びまん性の脳溝拡大(SD)に対してはALとHTが危険因子とされた。また,海馬の萎縮に対しては,HTが正の,HLは負の危険因子である可能性が示された。(3)側脳室の拡大にはALと心不全が危険因子であり,HTとHLの寄与は少なかった。第三脳室の拡大にもALと虚血性心疾患が有意な寄与を示した。以上の諸関係は,脳画像所見の解釈の基礎となるのみでなく,成人病の脳障害と痴呆予防のためにも重要であると思われる。大脳白質と基底核,脳幹の障害類型とその危険因子については続報15)で論じる。

醜形恐怖症における強迫性の精神力動について

著者: 鍋田恭孝 ,   河本勝 ,   柏瀬宏隆 ,   一ノ渡尚道

ページ範囲:P.183 - P.189

 【抄録】醜形恐怖症については,これまでに英米圏からも様々な報告がなされているが,我々が提唱する「中核群」における精神力動を検討した報告は少ない。今回我々は,代表的な症例を示し,醜形恐怖症患者に治療的にかかわる際の基礎となりうる視点を提示した。彼らには「見たくない実際の容姿が見えてしまう不安・恐怖」の打ち消しとしての強迫心性と,「見たい容姿が見いだせない」という裏切られた気持ちに由来する妄想的心性とが混在しているが,基本的な精神病理は強迫心性にある。治療者は,上記の苦悩に対して共感・支持を持ち続けながら,現実指向的・教育的なアプローチを個人療法とグループワークの双方で行っていく必要がある。

精神分裂病の症状群に対する罹病期間の影響

著者: 渡辺慶一郎 ,   堀彰 ,   武川吉和 ,   綱島浩一 ,   石原勇 ,   寺田倫 ,   宇野正威

ページ範囲:P.191 - P.196

 【抄録】入院中の精神分裂病(ICD-10)患者254例を対象に,Manchester scale日本語版で精神症状を評価した。罹病期間10年ごとに分類し,症状項目の因子分析を行い以下の結果を得た。(1)陽性症状(幻覚,妄想)と陰性症状(感情の平板化,精神運動減退,寡言・無言)は全罹病期間を通して同一の症状群を形成することはなかった。(2)滅裂思考は罹病期間10年未満の群では独立した症状群を形成していたが,罹病期間10年以上の群では陰性症状と共に同一の症状群を形成していた。(3)不安,抑うつと幻覚,妄想は罹病期間10年未満の群では同一の症状群を形成し,罹病期間20年以上の群では独立した症状群を形成していた。

短報

リチウムおよびカルバマゼピンの血清カルシウム濃度への影響

著者: 新開隆弘 ,   吉村玲児 ,   寺尾岳

ページ範囲:P.197 - P.199

 カルシウム(Ca)は神経伝達において重要な役割を果たしていると考えられている。我々は,基礎研究(in vitro study)でリチウム(Li)およびカルバマゼピン(CBZ)が細胞内へのCa流入を抑制することを報告した6,8)。臨床研究では,Liが血清Ca濃度を上昇させるといった報告2,5)や変化させないといった報告がある3)。また,CBZに関しては,血清Ca濃度を変化させないといった報告7)やむしろ低下させるといった報告1,4)がある。すなわち,LiおよびCBZの血清Ca濃度に対する影響に関しては,まだ意見の一致がみられていない。
 そこで今回我々は,精神科患者を対象にLiとCBZの血清Ca濃度に及ぼす影響について,カルテをもとにretrospectiveに予備的な調査を行ったので,若干の考察を加えて報告する。

治療域の抗てんかん薬により精神症状が出現した脳膿瘍術後てんかんの1例

著者: 宗岡幸広 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.201 - P.203

 てんかんにみられる精神症状の発現要因の1つとして,抗てんかん薬(Antiepileptic drugs;AED)の関与が指摘されているが,多くの報告はAEDの血中濃度が中毒域を示しており5),治療域濃度において幻覚妄想状態が出現したという報告は少ない4,6)。このたび,心気抑うつ状態および幻覚妄想状態を呈し,この精神症状の発現に治療域のAEDの関与が考えられた脳膿瘍術後てんかんの症例を経験したので,精神症状の特徴および発現要因などについて,若干の考察を加えて報告する。

多発性脳梗塞を伴うdiffuse neurofibrillary tangles with calcificationと思われる1臨床例

著者: 松永勉 ,   三間清明 ,   太田憲輔 ,   谷邦彦 ,   塚本利雄 ,   関根吉統 ,   伊豫雅臣 ,   森則夫

ページ範囲:P.205 - P.207

 近年,痴呆性疾患に対する関心が世界的な高まりをみせ,それに伴ってアルツハイマー型痴呆とは異なる新しい変性性痴呆疾患が報告されるようになった。その1つに,1994年に我が国のKosaka4)によって報告されたdiffuse neurofibrillary tangles with calcification(石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病,以下DNTC)がある。DNTCは神経病理学的所見に基づいて提唱された疾患単位である。その特徴は前頭・側頭葉の限局性萎縮,Fahr病様の石灰沈着,びまん性で多数のneurofibrillary tangleを認めるが,老人斑やPick嗜銀球を認めないことにあるとされ,現在までに,我が国を中心として約20例の剖検例が報告されている6)。また,その特徴的な画像所見と臨床症状から臨床診断も可能とされているが,筆者らが調べえたところでは,現在までにわずかに3例の臨床報告があるにすぎない2,3,6)。DNTCが独立した疾患単位であることが確立されるためには,剖検例に加え,臨床例の蓄積が必要である。そこで本論文においてDNTCと思われる1臨床例を報告し,若干の考察を加えたい。

後頭葉の血流障害を認めたCharles Bonnet症候群の1例

著者: 神崎昭浩

ページ範囲:P.209 - P.211

 Charles Bonnet syndrome(CBS)は正常心理者にみられる複合幻視を特徴とし,希少な現象と考えられてきたが,最近,視覚障害のある高齢者に高頻度に認められることがわかってきた10)。しかし,本邦での報告は少なく,その原因は未だ不明である。今回,後頭葉の血流低下を認めたCBSの71歳女性例を報告し,幻視発現の機序について考察を行った。

私のカルテから

Wernicke-Korsakov脳症を呈したanorexia nervosaの1女児例

著者: 駒井秀次 ,   中山道規 ,   吉野相英 ,   一ノ渡尚道

ページ範囲:P.212 - P.213

 Wernicke-Korsakov脳症はサイアミン欠乏を原因とする疾患でアルコール依存症との合併がしばしば認められる。しかし,慢性栄養障害を呈する病態はほかにも数多く存在し,一方では病理所見からアルコール症の有無にかかわらず,生前のWernicke脳症は見落とされがちであることが指摘されてきた。今回,我々はrestrictive typeのanorexia nervosa経過中にWernicke脳症を呈し,垂直性眼球運動障害と失調歩行を残遺するに至った14歳の女児例を経験したので報告する。

シリーズ 日本各地の憑依現象

飛騨高山の憑きもの俗信牛蒡種

著者: 加藤秀明

ページ範囲:P.215 - P.218

■発症・由来・伝承
 牛蒡種の牛蒡とは植物のゴボウで,牛蒡種をゴンボダネと読む。牛薄種を端的に言えば,「牛蒡種筋と呼ばれる家系があって,その筋の者に憎悪や羨望などの感情を持たれると,牛蒡種の生霊が憑いて精神異常を来す」とされる憑きもの俗信である。牛蒡種は憑かせる人・憑くもの・憑かれる人の構造が明確で,憑依体が狐つきなどの動物ではなく,生霊である点が特徴である。岐阜県飛騨地方(この中心が高山市)にほぼ特有の迷信であるが,飛騨周辺の地方にも若干存在する。
 牛蒡種の発症・由来・伝承といった民俗学的側面については須田の研究3)を紹介しておく。牛蒡種俗信の所在地は飛騨山脈の岐阜県側登山口に一致する。人の生霊が憑くという思想が生じたのは平安時代であり,この時代は山岳宗教の修験者が競って深山幽谷に入り,厳しい修練をし,修験道が隆盛を極めた時代でもある。穂高,槍岳,双六岳,笠岳,乗鞍などの峻嶮高峰のそびえる飛騨山脈のふもとは修験者の格好の修業の場であったに違いない。飛騨地方における中世の神社仏閣の調査によれば,山岳宗教である天台宗と真言宗の寺院,および修験道と関連する白山神社は,飛騨山脈を源とするいくつかの川の流域に数多く存在している。この修験者の宗教的なまじないや祈祷によって,その地域の住民が強い情動体験を受け,祈祷性精神病に類似した特異な精神状態を惹起させられたことは想像に難くない。これを体験した地域の住民は,修験者に対し,畏怖,尊敬,嫌悪などの複雑で無気味な感情を抱き,特異な力を持つ人たちと感じるようになった。そして,修験者が村落に定着した場合,彼らの子孫は特異な力を持ったその筋の者とされ,牛蒡種筋の家系が成立したものと思われる。俗信の発症はおおむね平安時代であろうと推定される。この俗信は飛騨地方の地理文化的条件(四方を山で囲まれ,閉鎖的な部落が多いということのほかに,例えば,上宝村は今なお原始宗教の影響が残り,民俗学的研究の宝庫とされる風土)と,飛騨人の迷信を信じやすい性格傾向(例えば,1966年の出生率が丙午迷信によって全国平均より大幅に減少)などがあって今日まで伝承された。なお,牛蒡種の名称は修験者同士の呼称である「御坊」に由来し,それが植物の牛蒡(その種は人によく付着し,付着したら除去しにくい特性を持つ)に付会されて牛蒡種になった説が最も説得力がある。

動き

「第38回日本児童青年精神医学会総会」印象記

著者: 館直彦

ページ範囲:P.220 - P.221

 第38回日本児童青年精神医学会総会(会長:産業医科大学精神神経科学教室阿部和彦教授)は,1997年11月6日より8日まで,北九州市の産業医科大学で開催された。今回の学会には,一般演題のほかに,特別講演,会長講演,シンポジウム,教育に関する委員会セミナー,児童福祉ワークショップといった盛り沢山のプログラムが組まれており,参加者も約700名に上った。学会は好天にも恵まれて,成功裏に終わった。

「第10回日本総合病院精神医学会総会」印象記

著者: 金子晃一

ページ範囲:P.222 - P.223

 第10回日本総合病院精神医学会総会は,1997年10月31日,11月1日の両日,兼六園の紅葉も深みを増してきた晩秋の金沢において,金沢大学医学部神経精神医学教室の越野好文教授を会長として,同大学の歴史あるキャンパスを会場に行われた。372名の参加は学会員数1,073名(1997年9月末現在)の実に3割強を数え,これだけでも会員のこの総会にかける意気込みが伝わってくる。
 本学会は1988年に第1回総会が東京で開かれて以来,今回で10回目という,歴史は短いが,「右手に総合病院精神医学の学問としての発展を,左手に総合病院精神科に勤務する者の地位の向上を」をスローガンに活動している実践的な学会である。第10回の節目となる今回,「総合病院精神医学への期待と実践」を基本テーマとして行われたが,特別講演,1つのシンポジウム,2つのトピックス,2つのワークショップ,126の口演による一般演題,市民フォーラムという,たいへんに盛り沢山で充実した内容であった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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