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特集 精神病像を伴う躁うつ病および分裂感情障害の位置づけ—生物学的マーカーと診断・治療
画像による非定型精神病の診断的位置づけ
著者: 須賀英道1 林拓二1
所属機関: 1愛知医科大学神経精神医学教室
ページ範囲:P.155 - P.161
文献購入ページに移動生物学的研究において対象患者の設定に使われる診断が,ICD-10あるいはDSM-IVを代表とする操作的診断基準にほぼ限定されるようになってからすでに十数年が経過したが,その結果,確かに精神科診断に対する信頼性は向上したものの臨床的妥当性が損なわれる傾向にあるのも事実であろう。Kraepelinは臨床症状と経過の観察から内因性精神病を早発性痴呆と躁うつ病とに二分したが,そのどちらにも決めかねる中間群の存在を彼自身も承知していた。こうした中間群に対し,Kleistやその弟子であるLeonhardは,横断面および縦断面からの詳細な観察と遺伝調査によっていくつかの独立した疾患群を提唱し,我が国でも,満田らが厳密な臨床遺伝学的研究に基づいて「非定型精神病」の概念を提唱している。しかし,ICD-10では横断面での病像を重視することから,これらは急性一過性精神病性障害と分裂感情障害,それに精神病症状を伴う気分障害などに分散し,DSM-IVでは分裂病様障害と分裂感情障害,短期精神病性障害,精神病性の特徴を伴う感情障害などが用意されている。しかし,DSM-IIIからDSM-IVへの改訂の歴史をみても,改訂を重ねるたびに疾患名の切り貼りが続けられていることは,操作的診断基準の限界を暗示しているようにも思われる。そもそもこのような中間群の特徴は,病像が多彩で変化しやすいことであり,病相により診断が異なる場合も少なくない。このような場合には同一の患者に多くの診断を下さざるをえなくなるのである。
我々はこうした操作的診断基準の限界を踏まえた上で,満田の「非定型精神病」概念を再びとらえ直すため,その発症年齢と性差6),負因と誘因7),症状と経過8)などを様々な点から検討してきた。本稿では「非定型精神病」と精神分裂病との画像診断的指標を用いた境界づけの可能性について,これまでの我々の研究を中心に取り上げたい。
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