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雑誌目次

雑誌文献

精神医学40巻4号

1998年04月発行

雑誌目次

巻頭言

メンタルヘルスと精神医学—医学は健康学の一分野である

著者: 吉川武彦

ページ範囲:P.348 - P.349

 人は,病気に陥るとはじめて健康のありがたさに気づくという。では,病気と健康は対概念なのであろうか。これをいくつかのたとえでもって考えてみたいと思う。
 その1は,『健康から病気への跳躍』をすると考えてみたい。これは,あたかもお互いに世界の違う岸辺にいて,対岸のほうが気持ちよさそうだという“隣の芝”現象よろしく,まだ橋のかかっていない川を飛び越えてしまうものといえる。もちろん,そこに自己決定が潜む時もあろうが,多くは気づかぬままに飛び越える。“こっちの水は甘いよ”という誘いに乗り,幽冥境を異にしてしまう。

創刊40周年記念鼎談・21世紀への課題—精神医学の40年を振り返る

精神分裂病研究の進歩と将来

著者: 臺弘 ,   松本雅彦 ,   融道男

ページ範囲:P.350 - P.362

 融(司会) 本日は「精神医学」の創刊40周年記念の鼎談ということで,臺弘先生と松本雅彦先生をお招きして,私を含め3人で,40年間の分裂病の研究の進歩を振り返って,将来に向かって展望をしたいと思います。
 まず臺先生から,分裂病とのかかわりを含めて自己紹介をお願いいたします。

展望

精神医学卒後教育制度—諸外国と日本

著者: 西園昌久

ページ範囲:P.364 - P.374

はじめに—精神科医に求められる能力についてのアンケート調査の結果の日米比較
 筆者ら9)は現在,厚生科学研究「精神保健指定医の指導医の役割と資格要件についての研究」を行っている。精神保健福祉法下の現在の精神医療における指定医の資質を高めるには,指定医になるまでの指導・学習態勢がどのようにあったらよいかを研究目的とする研究である。研究班は大学,国立病院,自治体病院,民間病院から選ばれた11名で構成されている。この研究の一環として必要あって1997年に全国大学,国立病院,自治体病院(以上は全国全病院),民間病院(ある基準で抽出),計777施設を対象にあるアンケート調査を行った。それは指定医を志す人の指導に当たる人を仮に「指導医」と呼ぶこととして,その人たちにどのような知識と技能が期待されるかという内容のものである。回答者は教授,科長,院長,医局長など施設を代表する人々であった。502施設(64.6%)の回収率が得られた。
 内容の詳細は省くとして,「不可欠」「あったほうがよい」「必ずしも必要でない」「その他」「無回答」の選択肢のうち,「不可欠」が選ばれた項目の集計をしたものを表1に示す。内容を検討してみると,我が国の精神医療の現場の責任者たちから,「指導医」の資質として期待される知識と技能が見えてくるのである。「不可欠」なものとして75%以上の最高率に挙げられているのは「法律とその適用」に関する項目である。「向精神薬の副作用に対する対応」や「診療記録の作成技能」がこの最高率の中に入っているのも管理的心性が働いているのかもしれない。次のランク,50〜75%の回答者によって「不可欠」とされたのは,「一般精神科臨床」に関する項目であった。ただ,内容的に項目ごとに検討していくと,Q7「精神医学的面接技能」70.9%,Q6「インフォームド・コンセント」69.7%,Q12「機能性(精神病)障害についての知識と鑑別技能」68.1%,Q26「患者とその家族に対してよい治療関係を作るための知識と技能」53.8%,Q27「支持的精神療法についての知識と技能」51.4%などと首をかしげる数値が並んでくる。第3のランク,25〜50%の回答者によって支持されたのは「心理社会的アプローチ」に関する項目と呼べるものであった。この中に,Q14「児童と思春期」48.8%,Q9「家族への介入技法」48.4%,Q34「治療チーム」44.0%,Q20「身体合併症」40.2%,Q40「社会復帰施設についての知識と患者に適した選択」31.3%,Q42「退院後の適切な地域ケアを考慮したプランニング」29.9%などが含まれ,精神保健福祉法のもとでの精神医療の実務担当者としての「指導医」の責任を考えると暗然としてくる。最低のランク,回答者によって25%以下にしか「不可欠」とされなかったものには様々なものが含まれているが,Q31「心理教育」22.7%,Q32「生活技能訓練,SST」9.0%など「新しい技術に関する項目」が含まれている。Q25「心理テストについての知識」15.1%と低いのもチーム医療を考えるとき精神科医側に大きな欠陥がありはしないかと危惧される。

研究と報告

身体合併症治療困難例からみたMPUの意義と問題点

著者: 野村総一郎 ,   重村淳 ,   桑原達郎 ,   木村淑恵 ,   三賀史樹 ,   横山章光

ページ範囲:P.375 - P.380

 【抄録】精神疾患に身体疾患が合併した場合の医療システムには様々の方式が可能と思われるが,その1つとして精神科が管理責任を持ち,全科が参画する合併症治療専門ユニットMPU(medical psychiatry unit)がある。立川病院では1991年から我が国唯一のMPUを運営している。そこで経験した治療困難例を,(1)精神身体の両面が等しく重篤,(2)治療途中より身体面のみが著しく重症化,(3)慢性医療対応が主体で長期入院を要した,の3タイプに分け,各々の代表例を述べて考察を加えた。その結果,MPUでないと対応困難な症例が存在すること,現システムには構造上の問題点もあることを指摘し,合併症医療システム構築に関する提案を行った。

一級症状(Schneider, K.)の幻聴に関する1考察

著者: 濱田秀伯

ページ範囲:P.381 - P.387

 【抄録】Schneide, K. が分裂病において記載した一級症状に含まれる3つの形式(考想化声,行為批評,話しかけと応答)の言語幻聴を示した4症例を提示し,症候学的な見地から検討を加えた。言語幻聴の初期段階は考想化声であり,これは自生思考が自問自答を繰り返すうちに感覚性を帯びたものとみられる。次いで声が他者性を獲得し,行為の確認と干渉をもたらすと行為批評の形になる。問いかけの部分に他者性が生じると,他人が話しかけ自分が答える問答の形をとるが,応答にも他者性が及ぶと他人同士の会話になる。これらの幻聴は自我障害を基礎に,強迫現象に近い構造を持ち,仮性幻覚から真性幻覚へおおむね一定の進展をたどる。

若年発症の摂食障害患者の検討

著者: 切池信夫 ,   金子浩二 ,   池永佳司 ,   永田利彦 ,   山上榮

ページ範囲:P.389 - P.394

 【抄録】13歳以下で発症した若年発症の摂食障害24例(女性)について検討した。調査時の平均年齢は15.0歳,初発年齢は平均13.4歳,罹病期間は平均1.6年であった。初潮について,4例が未初来で,ほかは平均11.8±0.9歳(10〜13歳)であった。診断については,18例(75%)がanorexia nervosaで,このうち10例が摂食制限型,2例が過食/浄化型,6例は特定不能の摂食障害であった。他の6例(25%)はbulimia nervosaで,このうち4例が浄化型,1例は非浄化型,他の1例は特定不能の摂食障害であった。各症例の発症した契機や状況についてみると,ダイエットによる者は14例(58%),食思不振や食後の腹部膨満感,受験,いじめなどの状況による者が10例(42%)であった。これらの結果について若干の考察を加えた。

両眼角膜潰瘍を呈したMunchausen症候群の1例

著者: 太刀川弘和 ,   佐々木恵美 ,   小林純 ,   鈴木利人 ,   白石博康 ,   高松俊行 ,   関根康生 ,   本村幸子

ページ範囲:P.395 - P.400

 【抄録】両眼角膜潰瘍をはじめ,多彩な症状を呈したMunchausen症候群の1女性例を報告した。原因不明の角膜潰瘍や角膜穿孔のため入退院を繰り返し,疼痛,下痢,食欲不振なども出現した。所持品検査で大量の薬物やピン類などの危険物が発見された。行動療法と支持的精神療法により症状は軽快した。眼症状を呈するMunchausen症候群の報告はまれで,本邦では報告がない。本例の心理的背景および眼球自傷に関する考察を行った。本症候群の治療については,治療スタッフ間に密接な協力体制を作って治療導入を図り,治療者は虚偽症状や治療側の陰性感情にとらわれず,支持的精神療法や行動療法を行うことが有効と思われた。

インターフェロンにより遷延する痴呆症状を呈した1症例

著者: 鹿島直之 ,   朝田隆 ,   木村道宏 ,   宇野正威 ,   高橋清久

ページ範囲:P.401 - P.406

 【抄録】C型慢性肝炎に対するインターフェロン(IFN)の投与により,慢性的な記憶障害,見当識障害などの痴呆様状態を呈した1例を報告した。脳代謝改善剤などの投与では症状は改善せず,投与中止後9か月を経た現在も経過は遷延している。現在までにIFNによる精神症状の報告は多くみられ,そのほとんどが投与中止後数か月以内に改善している。IFNの中止後も,精神症状が数か月にわたって遷延した類似の症例と比較し,その特徴を検討した。その結果,神経学的にはパーキンソニズムが多くみられること,比較的高齢であること,投与されたIFNの種類はIFN-αのみであることが指摘された。

慢性分裂病患者の精神症状・生活障害と事象関連電位のP300成分

著者: 山科満 ,   岩波明 ,   岩崎晋也 ,   安西信雄 ,   風祭元

ページ範囲:P.407 - P.413

 【抄録】東京都立松沢病院の社会復帰病棟に入院中の慢性分裂病患者26名を対象として,精神症状を陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)で,生活障害を精神障害者社会生活評価尺度(LASMI)で評価し,これと事象関連電位のP300成分(P3aおよびP3b)との関連を検討した。陰性尺度とLASMIの「日常生活」「対人関係」「労働または課題の遂行」の3項目はいずれも正の相関を示した。P3b振幅と陰性尺度は有意な負の相関を示した。またP3b振幅は「労働または課題の遂行」とも有意な負の相関を示した。精神科リハビリテーションにおいては,機能障害と生活障害との関連が明らかにされることが期待されている。そのような観点から事象関連電位の意義を述べ,得られた結果について若干の考察を加えた。

短報

Paroxysmal kinesigenic choreoathetosisの1症例

著者: 伏見雅人 ,   三島和夫 ,   清水徹男 ,   菱川泰夫

ページ範囲:P.415 - P.418

 Paroxysmal kinesigenic choreoathetosis(以下,PKC)は,急激な随意運動の開始によって誘発される一過性の強直性けいれん発作症である。発作部位は,四肢や軀幹に多いが,時には顔面に及ぶこともある。発作の性状は,ジストニー様運動が主体であるが,ヒョレア様もしくはアテトーゼ様の不随意運動を伴うことが多い。
 Gowers3)や呉2)の報告以来,このような症例が,paroxysmal kinesigenic choreoathetosisのほか,conditionally responsive extrapyramidalsyndrome,kinesthetic or kinesigenic reflexepilepsy,dystonic seizures induced by movementなどの様々な名称で報告されている。PKCの病態生理はまだ不明であるが,本症を随意運動に伴う運動覚刺激により惹起される反射性てんかんであるとする見解8)と,何らかの錐体外路系機能障害による不随意運動であるとする見解7)とがある。本報告では,我々の施設でPKCと診断された1症例の臨床特徴,発作の画像記録および発作時の脳波記録を提示し,PKCの病態に関して若干の考察を加える。

下剤乱用により尿路結石を生じたと思われる摂食障害の1例

著者: 加藤温 ,   石金朋人 ,   笠原敏彦

ページ範囲:P.419 - P.421

■はじめに
 美容上の目的から減量を望み,意図的減食をしたり,自発的嘔吐や下剤乱用をして,結果的に摂食障害に陥る人が増加している3,4)。下剤乱用に伴う尿路結石の合併は,泌尿器科領域での報告はあるものの,摂食障害との関連において精神科からの報告はほとんどみられない。今回我々は,下剤乱用により尿路結石を合併したと思われる摂食障害の1例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

被害妄想で発症した歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の1例

著者: 三上智子 ,   車地暁生 ,   糸川かおり ,   土屋賢治 ,   安宅勝弘 ,   鈴木徹也 ,   吉次聖志 ,   伊澤良介 ,   藤谷興一 ,   南海昌博 ,   渥美義賢 ,   融道男

ページ範囲:P.423 - P.426

 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentato-rubro-pallido-luysian atrophy;DRPLA)は,発病年齢により異なる多彩な症状を示す常染色体優性遺伝疾患である。内藤7,8)は本症を3型,すなわち20歳以下で発症しミオクローヌスとてんかん発作を主症状とする若年型,40歳以降に発症し進行性ミオクローヌスてんかんを呈さず小脳失調と舞踏病アテトーゼが主症状である遅発成人型,20〜30歳代で発症し両型の移行型を呈す早期成人型に分類している。1994年,本症の第12染色体短腕に特異的なCAGリピートの伸長があることが確認され4,5),それとともにCAGリピートの反復回数と,発症年齢および臨床症状に一定の相関,すなわちCAGリピート回数が著しく多い症例は若年型を示し,CAGリピートの伸長が比較的少ない症例は成人型を示す傾向にあることが報告されている4,5)。以前より本症に指摘された表現促進現象には世代間でCAGリピートが伸長することが関与しており,このCAGリピートは正常対照で6〜35,DRPLA症例で54〜79とリピート数に重なりがないことから,遺伝子解析でその診断が可能とされている4,5,10)。今回,我々は被害関係妄想,追跡妄想で発症し,抗精神病薬を主剤とした薬物治療の経過中に舞踏病アテトーゼ様不随意運動および歩行障害が生じ,遅発性錐体外路性副作用を疑われたが,その後小脳失調や人格変化,痴呆症状が顕在化し,遺伝子解析にてDRPLAと診断された症例を経験したので報告する。

リスペリドン服用中に自殺企図に及んだ2例

著者: 田村達辞 ,   岡本泰昌 ,   皆川英明 ,   松岡豊 ,   塚田勇治 ,   大森信忠 ,   岡本百合 ,   松田文雄

ページ範囲:P.427 - P.429

 近年,精神分裂病の陽性・陰性両症状の改善が期待され,かつ,錐体外路症状を来しにくい新しい抗精神病薬としてリスペリドンが注目されている。本邦の臨床試験においても陰性症状への優れた効果が認められ,精神分裂病治療の第1選択薬にもなりうる薬剤と高い評価を受けているが,一方で,興奮・誇大性・敵意への悪化がみられ,鎮静効果が弱いことも指摘されている2,3)。今回我々はリスペリドン服用中に自殺企図に及んだ精神分裂病と分裂病型人格障害の2例を経験した。しかし,我々の知りえたかぎりでは,リスペリドンと自殺企図との関連性についての報告は見当たらず,興味深い症例と考えられたので報告する。

資料

総合病院精神科の医療経済におけるリエゾン精神医学の意義

著者: 森岡壮充 ,   齋藤浩 ,   寺田道元 ,   木下亜紀子 ,   倉本恭成 ,   池田正国 ,   堀口淳 ,   高畑紳一 ,   佐伯俊成

ページ範囲:P.431 - P.436

■はじめに
 米国においては総合病院精神医学が発展し,精神疾患の入院治療の大部分は総合病院で行われるようになった18)。しかし我が国においては,精神科病床のうち総合病院精神科の占める割合は4.6%であり13),1994年度版厚生省編集「病院要覧」によると,総合病院の中で精神科のない病院が47.7%,精神科外来のみの病院が31.4%,精神科が病床を持つ病院が20.8%であるというのが現状である12)。それゆえ我が国における総合病院精神医学の立ち遅れを指摘する声は多い。その要因として(1)総合病院の経営者や管理者に精神科が必要であるという意識が低いこと,(2)精神病床の主体が単科の精神病院であること,(3)多くの都道府県では地域保健医療計画上の病床数よりも上回っているため,有床総合病院精神科の新規開設もしくは増床が難しくなっていること,などが挙げられる5,18)。さらに総合病院精神科自体の問題として,採算性といった医療経済上の問題を指摘する報告は多い5,6,12,13,16,18,20)。現に精神科のない総合病院の病院長の見解として,現時点で精神科の設置は困難な状況にあるとしたものが61.9%であるが,経済的な基盤が確立したら精神科を拡張したいと答えた院長は80.4%であり13),総合病院精神科の発展のために採算性の問題は,精神障害者に対する差別と偏見の問題とともに重要な問題となっている。
 総合病院精神科の役割は,大きく分けると2つになる。第1はリエゾン精神医学であり,第2は地域精神医療の1部門として狭義の精神医療を実施することである6)。リエゾン活動は,現状の医療制度の中では総合病院精神科の診療報酬に直接結びつかないが,リエゾン精神医学の現代医療における役割,重要性を考えれば,不採算性を覚悟しても総合病院に精神科を設置して実践しなければならない分野と考えられる。しかし現実には,現在の医療事情を考えると採算性,収益性が優先されるのが現状である。以上のことから総合病院精神科の発展のためには,現状の医療制度の中でいかに採算性を向上させるかが重要となる。

口腔内に限局するセネストパチーの臨床的検討

著者: 和気洋介 ,   藤原豊 ,   青木省三 ,   黒田重利

ページ範囲:P.437 - P.440

 身体の特定の部位に限局して,奇妙な異常感覚を持続的に訴える一群の症例はセネストパチーと呼ばれている。これら体感の障害は精神分裂病,うつ病,器質性疾患などの1症状として現れる広義のセネストパチーと,異常感覚のみが単一症状性に持続する疾患概念としての狭義のセネストパチーとが区別されている5)。セネストパチーは頭部,口腔内,胸腹部,四肢,皮膚などに限局し,持続的にまた執拗に訴えられることが多いが,特に口腔内の異常感覚を訴えるものは頻度も多く,歯科で対応に苦慮しているのが現状である。
 今回,我々は口腔内の奇妙な異常感覚を主症状として狭義のセネストパチーに位置づけられると思われた18症例について,その臨床的特徴を検討し,診断的位置づけ,薬物反応性,歯科との協力関係のあり方などを考察した。

私のカルテから

腎透析を必要とした精神分裂病の2症例

著者: 小森薫 ,   楠和憲 ,   尾崎紀夫 ,   大竹なほ代 ,   武市幸子 ,   藤田潔史 ,   伊藤哲彦

ページ範囲:P.442 - P.443

 血液透析療法(以下透析と略す),透析技術の進歩は腎不全治療に寄与し,腎不全患者の生存率の向上につながってきた。その結果,透析人口が増加する一方で,透析患者への精神科的介入の必要性が高まっている3)。一般の透析患者の中にも透析に対する否定的感情を持ち,コンプライアンスに問題を生じる場合がある2)。しかし,我々精神科医にとって急を要する課題は透析を必要とする精神病患者の場合であろう。透析患者中に占める精神疾患患者の割合は1.4%(4,418名中61名)に達し4),精神疾患患者の透析療法導入時には,緊急性の高い事態である場合でも,コンプライアンスの点で問題が生ずることが多く,透析スタッフは透析治療を安全に行い,危険防止に努めるのに腐心させられることが多い3)。特に,精神分裂病患者は妄想知覚をはじめ種々の認知障害を持つうえ,時として多飲を呈するため,とりわけ透析導入とその維持に困難をおぼえることが多い。
 今回我々は,透析が導入された精神分裂病の中から対照的な経過をたどった2症例を選び,透析療法を必要とする精神分裂病患者への対応について論じたい。

シリーズ 日本各地の憑依現象

沖縄の憑依現象—カミダーリィとイチジャマの臨床事例から

著者: 仲村永徳

ページ範囲:P.445 - P.449

はじめに
 精神科臨床で憑依現象を見ることは珍しくない。憑依状態の基礎疾患は,心因反応,祈?性精神病,非定型精神病,精神分裂病など心因性疾患から内因性精神病に至るまで精神障害のすべてにわたって広範囲に発生しうるが,その表現形態は文化によっても大きな影響を受け,日本各地で様々な憑依現象が報告されてきた。文化人類学から精神病理現象にわたる多面的な憑依現象を臨床事例を通して検討してみた。以下は多分に,私見を交えた沖縄からの報告である。

動き

「第1回精神医学史学会」印象記

著者: 酒井明夫

ページ範囲:P.450 - P.451

 1997年12月5日,東京大学山上会館で,第1回精神医学史学会が開催された。入場者は100人を超え,17の一般演題,会長講演,特別講演,4人のシンポジストによるシンポジウムのそれぞれについて活発な議論が展開された。午前中は2会場に分かれて一般演題が発表されたが,内容は古代ギリシアから19世紀ヨーロッパまでの西欧精神医学史,古代から江戸,昭和にかけての日本の精神医学史など時空間的に広い領域を網羅し,テーマも,特定の個人に的をしぼったものから,通時的な概念の変遷史を取り扱ったものなど幅広い志向性を反映していた。内容はいずれも新鮮で興味深いものだったが,それとともに印象的だったのは,史的な問題にかける演者の熱意とそれを議論の場に呈示できる喜びが聞く側にも伝わってきたことである。これには,今まで精神医学史関連の問題については発表の場があまりなく,意見を交換する場も限られていたことも関係しているように思われた。

「第78回日本小児精神神経学会」印象記

著者: 中根晃

ページ範囲:P.452 - P.452

 この学会の印象記が本誌に登場するのは初めてのことであるが,この学会は日本児童青年精神医学会に比べて規模は小さいものの,臨床に密着した演題が多い学会である。今回は静岡大学教育学部の杉山登志郎助教授が会長となって1997年11月22日に静岡県医師会館で開催された。
 今回の特別講演は,最近の自閉症研究で話題になっている,セオリー・オブ・マインド研究で活躍中のF. G. Happé女史による「自閉症と心の理論」であった。女史はまだ31歳という若い心理学者で,ロンドン大学付属精神医学研究所に併設されている遺伝・発達研究センターで研究されている。1994年には“Autism:An Introduction to Psychological Theory”という著書を出版されており,すでに邦訳もされている。心の理論とは相手の心がどのようなセオリーで動いているか読み取る能力で,自閉症ではこの能力の発達が著しく遅れているとする考えである。講演は自閉症全般を射程に入れたものであるが,論点はここに集中していた。心の理論の検査には第一次誤信念課題と第二次の誤信念課題があるが,高機能自閉症には両者ともパスする人がいる。Happé女史は高次の心の理論の検査法を開発しており,この所見をもとに自閉症論を展開し,講演ではこれを大脳生理学的に説明するcentral coherenceweaknessの考えをさらに進め,右大脳半球損傷にみられる症状と,自閉症の社会機能の障害およびコミュニケーション機能の障害との対比に言及し,その類似性から自閉症は右半球に関連するのではないかということで結ばれていた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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