特集 アジアにおける最近の精神医学事情
東アジアにおける対人恐怖の発見とその治療
著者:
北西憲二1
李時炯2
崔玉華3
中村敬4
所属機関:
1成増厚生病院
2社会精神医学研究所
3精神衛生研究所
4東京慈恵会医科大学精神医学教室・第三病院
ページ範囲:P.493 - P.498
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最近の東アジアの神経症研究と治療に最も重要な事項は,韓国,中国における対人恐怖の発見とその治療に関することであろう。対人恐怖はいうまでもなく,日本の精神科医森田が最初に記述し(1909年)6),その治療法を確立した(1919年)症候群である。そして対人恐怖症は日本の代表的な文化結合症候群(culture-bound syndrome)として理解されてきた。しかしDSM-IIIの社会恐怖の項目の採用(1980年)1),韓国で李時炯が対人恐怖を発見し(1982年),その臨床や治療の報告(1987年)4),中国での社交恐怖への注目(1986年)や森田療法の導入(1990年)11)は,比較文化精神医学の常識を揺るがす事態であった。日本の精神科医のみならず多くの比較文化精神医学者や文化人類学者は,対人恐怖が日本の社会文化構造と密着した神経症であると理解し,またそのような観点から対人恐怖を論じてきたからである2)。
それは対人恐怖を主たる治療対象とする森田療法に関しても同様なことがいえよう。森田療法は日本独自の精神療法で,日本の社会文化構造との親和性を指摘されてきた。森田療法の中国への導入は,このような限定した理解に疑問を突き付けるものである。森田学派である筆者の立場からいえば,昨今の東アジアにおける動向は日本で見いだされた森田神経質と森田療法の再発見であるともいえる。