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雑誌目次

雑誌文献

精神医学40巻7号

1998年07月発行

雑誌目次

巻頭言

医学における科学性と臨床性

著者: 神庭重信

ページ範囲:P.690 - P.691

医学の自然科学化
 欧州でルネッサンスの効果が医学に及んだのは16世紀であった。コペルニクスの地動説に代表されるように,自然科学の勃興の波を受けて,観察と実験に基づく医学の在り方が模索され始めたのがこの頃である。例を挙げれば,ヴェサリウスを頂点とする解剖学の隆盛がそれである。人体の精密な構造が暴かれた時に,古代西洋医学の権威は失墜したと言われる。
 17世紀は,ガリレオ・ガリレイによる自然の数学化が行われ,天文学や物理学の大発見が相次いだ時代である。学問の目的は自然を支配することにあった。厳密な帰納法が医学の研究にも必要であると説いたフランシス・ベイコンの科学的世界観や,ルネ・デカルトに代表されるように,こころと体とを分離したものとみなす心身二元論の立場に立つことで,体は固体および液体の集合体であり,必ず物理的なあるいは化学的な自然法則で解明できるシステムであるとする考えが一般化した。その最たる成功例が,英国の医師ウィリアム・ハーベイによる血液循環の発見であると言われる。彼は,血液が心臓の生理学的な運動により体内を循環していることを実験と計測で説明した。

展望

セロトニン・ドーパミン・アンタゴニスト抗精神病薬の臨床的課題

著者: 黒木俊秀 ,   田代信維

ページ範囲:P.692 - P.702

■はじめに
 1950年代初頭のクロルプロマジンの精神科治療への導入に始まり,1970年代半ばよりはドーパミン仮説を有力な根拠に展開されてきた抗精神病薬研究の歴史において,1990年代におけるセロトニン・ドーパミン・アンタゴニスト(serotonin-dopamine antagonist;SDA)抗精神病薬の登場は新たなターニング・ポイントとなりつつある。その発端となったのは,1988年,米国のKaneら32)が報告したハロペリドール抵抗性の精神分裂病に対するクロザピン(clozapine)の有効性の検証であった。極めて精密にデザインされたハロペリドール抵抗性分裂病(対象患者=267名)に対する二重盲検試験の結果,クロルプロマジンは4%の患者にしか有効でなかったが,クロザピンは実に30%の患者に有効であったことが報告された。続く1989年,Meltzerら45)はクロザピンをはじめとする錐体外路系副作用(extrapyramidal symptoms;EPS)の頻度が少ないいわゆる非定型抗精神病薬の薬理学的プロフィールには,ハロペリドールなどの定型抗精神病薬と比較して,in vitroにおけるセロトニン(5-HT)2A受容体遮断作用がドーパミン-D2受容体遮断作用よりも相対的に高い特徴があることを報告した。したがって,抗5-HT2A力価:抗D2力価比の高い抗精神病薬は,古典的な定型抗精神病薬に比較して,EPS発現の頻度が少なく,かつ優れた抗精神病作用を有することが期待された。

研究と報告

多重人格症状を呈したbulimia nervosaの1例

著者: 花澤寿

ページ範囲:P.703 - P.710

 【抄録】23歳でbulimia nervosaを発症し,その約1年半後に多重人格症状を合併した症例を報告した。典型的な過食症状とともに,多重人格症状としては,幻声と記憶の欠落およびその間の患者の意に反した行動が特徴的であった。過食する主体は主人格であり,従来報告されている独立した「過食人格」は認めなかった。過食症状と多重人格症状の統一的な理解のためには,解離概念が有用と考えられ,過食症患者の少なくとも一部では,その精神病理に解離が関与している可能性を支持する症例と考えられた。発症に影響を与えた思春期の心的外傷体験としてひき逃げ体験があり,発症の直接的背景としては職業上の挫折から生じた同一性の危機状況が考えられた。

大食症質問表Bulimic Investigatory Test, Edinburgh(BITE)の有用性と神経性大食症の実態調査

著者: 中井義勝 ,   濱垣誠司 ,   高木隆郎

ページ範囲:P.711 - P.716

 【抄録】大食症質問表BITEを日本語訳し,171例の摂食障害女性患者と53例の健常女性を対象に神経性大食症診断への有用性を検討した。さらに京都府下の中学,高校,短大,企業の女性を対象に神経性大食症の実態調査を行った。神経性大食症と大食型神経性無食欲症は健常人と不食型神経性無食欲症に比し,症状評価尺度,重症度尺度ともに有意に高値であった。BITEは評価方法を工夫すれば神経性大食症の診断および実態調査に有用であることが明らかとなった。実態調査の結果,症状評価尺度20以上,重症度尺度5以上でかつ週2回以上大食のあるものを神経性大食症とすれば,その頻度は女子中学生で0.5%,女子高校生で0.4%,女子短大生で0.9%と推定された。

インターフェロン療法中にみられる精神障害における自己記入式質問票の有用性—予測とスクリーニング

著者: 萬谷智之 ,   佐々木高伸 ,   明智龍男 ,   米澤治文 ,   引地明義 ,   井上純一 ,   宮岡等 ,   堀口淳 ,   山脇成人

ページ範囲:P.717 - P.721

 【抄録】1995年3月から1996年5月の間にインターフェロン(IFN)療法を施行された患者57例に対し,Self-rating Depression Scale(SDS)とHospital Anxiety and Depression Scale(HAD尺度)を用いてprospectiveに評価を行った。精神障害の発症を10例(17.8%)に認め,IFN投与前のSDS得点,HAD尺度D得点は精神障害を認めたP群では,認めなかったN群に比して有意に高く,精神障害の発症の予測因子となる可能性が示唆された。また,IFN療法開始2週間後の時点で,精神障害のスクリーニングにおける両尺度の有用性を調べたところ,HAD尺度D得点を,区分点を5/6点として用いるのが臨床的に最も有用であった。

インターフェロンとメソトレキセートの併用時に意識混濁(嗜眠)を呈した急性骨髄性白血病の1例

著者: 佐々木信幸 ,   深津亮 ,   古瀬勉 ,   信岡純 ,   幸田久平 ,   高畑直彦

ページ範囲:P.723 - P.728

 【抄録】急性骨髄性白血病のインターフェロン(IFN)療法中にメソトレキセート(MTX)の髄注を併用した際,意識混濁(嗜眠)が出現した1例を報告した。白血病細胞の髄膜浸潤に対しIFNα-2b,3MU連日投与を行ったところ,IFN投与17日目から希死念慮と不安感が出現した。MTX 15mg髄注の追加により,全身の脱力と左顔面神経麻痺が出現し,IFN投与23日目に嗜眠状態となった。IFN中止後数日で症状は改善した。意識混濁出現時の髄液蛋白が軽度高値を示していたことから,血液脳関門の破綻が疑われ,そうした背景をもとにそれぞれが神経毒性を有するIFNとMTXの相互作用により精神神経症状が出現したと考えられた。

精神分裂病に特異的な主観的精神症状について—Bonn大学基底症状評価尺度(BSABS)による検討

著者: 刑部和仁 ,   宮腰哲生 ,   山崎尚人 ,   三輪真也 ,   酒井広隆 ,   松本和紀 ,   松岡洋夫 ,   佐藤光源

ページ範囲:P.729 - P.735

 【抄録】精神分裂病に疾患特異的な精神症状を明確にするため,Bonn大学基底症状評価尺度(BSABS)のカテゴリーC,Dを用いて,精神分裂病群と他疾患群との比較検討を行った。対象は精神分裂病群40例,躁うつ病群20例,神経症群20例,健常対照群20例であり,診断基準はICD-10に基づいた。結果はカテゴリー平均該当頻度において精神分裂病群はC3. 行動(運動)の認知障害における躁うつ病群との比較を除き,高値を示した。各下位カテゴリーごとにみるとC1. 思考の認知障害の8項目,C2. 知覚の認知障害の3項目において精神分裂病群は高値を示したが,これらの項目は要素心理学的に大別すると思考,言語,記憶,注意の障害に起因するものと考えられた。

治療前の精神分裂病者におけるMRI三次元画像計測による上側頭回容積の異常と事象関連電位P 300

著者: 平安明 ,   外間宏人 ,   小椋力 ,   大田裕一 ,   新垣元 ,   安里尚彦 ,   山口慶一郎

ページ範囲:P.737 - P.744

 【抄録】抗精神病薬療法をまったく受けていない精神分裂病者(N=8)と性・年齢を対応させた健常対照者(N=8)についてMRI三次元画像計測により上側頭回容積を計測した。同時に音刺激を用いたオドボール課題遂行中のP300成分を記録した。精神分裂病者は健常者に比較して左上側頭回の容積が小さかった。上側頭回を第一次聴覚領を含む前部とplanum temporale,Wernicke言語領を含む後部に分けて検討した結果,左後上側頭回の容積が特に小さかった。P300の潜時・振幅には健常者との間に差がなく,P300異常に先行して上側頭回異常が出現する可能性が考えられた。MRIとP300所見,これらと精神症状などとの間に相関は見いだせなかった。

若年性アルツハイマー病の臨床的検討—26歳発症痴呆の1経験例を通して

著者: 小林淳子 ,   池田輝明 ,   村木彰 ,   千秋勉 ,   武田洋司 ,   本間裕士 ,   緑川由紀

ページ範囲:P.745 - P.751

 【抄録】26歳時に記銘力障害を初発症状として発病し,診断的には若年性アルツハイマー病が疑われた若年発症痴呆の1臨床例を報告した。多彩な精神神経症状を呈しながら,比較的急速に経過し,発病後3年を経過した現在,失外套症候群の状態を呈している。画像所見上,臨床像の進行過程に対応した特徴的所見が認められた。MRIにて左側優位に側頭葉〜頭頂葉,海馬の萎縮および脳室の拡大が急速に進行し,SPECTでは左側優位に側頭頭頂部から後頭部にかけて脳血流が低下し,右頭頂部の一部を除いて脳血流の低下は著しく増強,全般化している。
 これまで若年性アルツハイマー病のMRIやSPECTを含む画像所見を経時的に追跡検討した報告はなく,本症例はこの点で貴重であると考えられた。

心的外傷と共依存—対人関係に反映される嗜癖的問題の世代間伝達

著者: 佐野信也 ,   中山道規 ,   後藤健文 ,   駒井秀次 ,   一ノ渡尚道

ページ範囲:P.753 - P.760

 【抄録】1精神科診療所を受診した891名の患者の自己陳述をもとに生育期の家族内外傷体験を調査した結果,男性83名(22.9%),女性129名(24.6%)が抽出され,その外傷が親のアルコール問題に関連するものは男性で42.2%,女性では27.9%あった。本人とその異性パートナーの嗜癖的問題を調べると,女性外傷例では男性外傷例より安定したパートナーとの関係を維持する者が多く,アルコール家族歴の有無および男女にかかわらず,本人に嗜癖的問題がある例ではパートナーも嗜癖的問題を保有する傾向が高かった。嗜癖的問題を有する患者の治療においては,患者が過去に曝された嗜癖的問題が,現在の対人関係の中で反復されている可能性を考慮した精神療法が重要である。

遅発性アカシジア患者の覚醒時に認められる周期的な下肢の不随意運動について

著者: 水野創一 ,   堀口淳 ,   山下英尚 ,   倉本恭成 ,   日笠哲 ,   横田則夫 ,   山脇成人

ページ範囲:P.761 - P.766

 【抄録】遅発性アカシジアが持続していた精神分裂病の症例で,安静覚醒時に周期的な下肢の不随意運動が認められた。症例は34歳の男性で,幻聴や被害妄想,強迫観念などの症状に対して種々の向精神薬が投与されていたが,遷延性のアカシジアが持続し,そのために不安焦燥感や不眠を呈していた。本症例に終夜睡眠ポリグラフ検査を施行したところ,入眠前の安静覚醒時に,右長母趾伸筋に筋放電の持続が約0.8秒,最大振幅が約150μV,インターバルが約1.2秒のBabinski徴候の母趾の背屈および他趾の開扇運動に類似した周期性のある不随意運動が確認された。またこの運動は日中の安静覚醒時にも視察的に認められた。日中の覚醒時にこのような運動形態の不随意運動がみられたとする報告はこれまでにはなく,本症例は覚醒時のみ認められる“Periodic Leg Movements While Awake”とでも称される現象が存在することを示唆している。そこで,アカシジアや睡眠時周期性四肢運動障害との関連などについて考察した。

短報

インターフェロン投与後にパニック発作が出現し,不安,抑うつ状態が遷延した症例

著者: 布施泰子 ,   木村恒夫 ,   吉原瑞穂

ページ範囲:P.767 - P.768

 インターフェロンの副作用の中で,精神症状は出現頻度が高く1〜3,5,6),しばしば投与中止に至る原因ともなる。その症状は,これまでの報告では不眠や抑うつ状態,軽度意識障害が主である1,2,4〜16)。筆者らは最近,インターフェロン投与開始後に初めてパニック発作が出現した慢性C型肝炎の症例を経験したので,報告する。

精神科入院患者における体温と気温との相関関係の検討

著者: 栗田征武 ,   増子博文 ,   丹羽真一 ,   上島雅彦 ,   高萩健二 ,   赤沼克也 ,   橋本直人 ,   景山和廣 ,   宍戸文男

ページ範囲:P.769 - P.772

 1994年の夏は,全国的に記録的な猛暑であり,このためか筆者らが担当した精神科病棟において脱水症や感染症でないにもかかわらず発熱する患者がしばしばみられた。これらの患者の多くは,対症的に全身の冷却,補液のみを行うことで症状が改善した。対照的にその前年の1993年は,記録的な冷夏であり,筆者らが担当した精神科病棟において発熱する患者は,ほとんどみられなかった。そこで,気温が精神科入院患者の体温に与える影響と,体温が気温の影響を受けやすい精神科患者の特徴を明らかにするため次のような検討を行った。

Risperidone投与中に“awakening”現象を呈した精神分裂病の1例

著者: 堀正士 ,   白石博康

ページ範囲:P.773 - P.775

 Risperidone(risperdal®)は,1996年から臨床の場で用いられている,serotonin-dopamine antagonist(以下SDA)である。この薬剤は従来の抗精神病薬に比較して,精神分裂病(以下分裂病)の陰性症状の改善効果が認められており,また錐体外路症状などの副作用がほとんどなく,認知機能の改善をもたらす2)とされる。このため,服薬コンプライアンスを高めることができ,ひいては分裂病の長期予後の改善が期待されている。
 しかしその一方で,認知機能の改善が急速に起こるために,clozapineなどその他のSDAにみられる“awakening”という現象が生じる場合がある1)。今回我々はrisperidoneを服用中にこの“awakening”現象を呈した分裂病の1例を経験した。現在のところ国内での報告はなく,またrisperidoneの認知機能に与える影響を考える上で示唆に富む症例と思われたので,若干の考察を加えて報告する。

Risperidoneの投与により著明な体重増加を認めた1症例

著者: 谷川真道 ,   西島康一 ,   鎌田芳郎 ,   片山仁 ,   宮崎博史 ,   加藤敏 ,   石黒健夫

ページ範囲:P.777 - P.779

 Risperidoneは,本邦においては,ドーパミンD2受容体拮抗作用とともに,強力なセロトニン5-HT2受容体拮抗作用を有しており,臨床的には他の抗精神病薬と比較すると錐体外路系の副作用が非常に少なく3),精神分裂病の幻覚や妄想などの陽性症状ばかりではなく,自発性の低下,感情の平板化,引きこもりなど陰性症状にも効果を有する有用で安全な薬剤2,3,5)であるといわれている。しかし,副作用の1つとしてまれではあるが体重増加があり,このことはあまり知られていない。実際症例報告に関しても,海外において少数の報告1,2)しかなく重度の体重増加の報告は2例6)のみであり,本邦において現在のところ体重増加に関しての症例報告は1例もない。
 今回我々は,軽度の精神発達遅滞者1名に,被注察感,作業所の指導作業員に対する被害関係念慮のほか自発性の低下,感情の平板化,引きこもりが認められた症例にrisperidone 2mg/日を投与したところ,精神症状の軽快化とともに重度な体重増加を認め,投与中止に伴い体重の増加がとまり減少傾向になった症例を経験した。しかも本症例は,遺伝性の肥満や摂食障害などの食事性の疾患は認められなかった。日常の食事摂取量に関してもほとんど変化がみられず,精神症状の軽快化とともに運動量は徐々にではあるが増えていった。治療薬も抗精神病薬ではrisperidoneのみの単剤投与であったことより,体重増加の原因としてrisperidoneによる薬剤性の体重増加が強く考えられたので,ここに報告する。

紹介

米国における摂食障害患者の治療の現況—COPE病棟(ピッツバーグ大学摂食障害専門病棟)での重症患者の治療経験から

著者: 永田利彦 ,   切池信夫

ページ範囲:P.781 - P.785

■はじめに
 神経性食思不振症は,青年期女性に好発し,顕著なやせ,正常体重の維持の拒否,身体像の異常1)を特徴とする疾患である。精神科疾患の中で最も高率の死亡率を有する3,13)重篤な疾患で,米国精神医学会などによってガイドライン21)が示されているものの,その病因,治療法ともに,未だ確立されるには至っていない。
 この30年間に神経性食思不振症やその他の摂食障害は顕著に増加した16,19)。現在,全米で少なくとも200万人の人が摂食障害に,さらに50から100万人が非定型または摂食障害の病前状態にあると考えられている9,15)。その中で摂食障害専門病棟や専門外来が,徐々に精神科一般病棟から独立する形で出来てきた。現在では全米各地に専門の外来,入院治療施設がある。例えば摂食障害治療の精神科医,心理学者などの組織であるAcademy for Eating Disorders14)には300名以上が登録しており,2年ごとのInternational Conference on Eating Disordersや,その他の小さな会議が年に何回も催され,互いに情報交換が行われている。日本と違い,各施設ごとの自由度が極めて大きいとはいえ,各施設の治療プログラムは比較的似通ったものとなっている。それが構造化された治療環境である。

シリーズ 日本各地の憑依現象(5)

滋賀県湖東の山村で発病した猫憑き—動物と人間霊が継時的に憑依した症例

著者: 東村輝彦

ページ範囲:P.787 - P.790

■はじめに
 猫は犬とともに最も身近な愛玩動物である。猫に関する俗信は多く,猫は化ける,崇る,憑きやすいと言われてきた。しかしながら,猫憑きに関する精神医学の領域からの報告は少なく,「猫男」になったという例も含めてわずか5例にしかすぎない1,3,4,14,16)。したがって猫憑きに関してその地域特異性などを検討することは困難である。
 我々4)は,かつて猫憑きの1例を民俗精神医学的立場から検討し本誌に報告したが,本シリーズでもその症例をもとに,改めて,動物と人間霊が継時的に憑依した点と祖霊信仰と憑依とのかかわりに注目し報告したいと思う。
 宮本10)は,「動物憑依と神仏・人間霊による憑依はふつう同一人物で混じり合うことがない。憑きものの俗信がなお残る山陰や四国でも,動物霊と人間霊の両方に—同時的または継時的に—憑依された症例はおそらくまだ観察されていないだろう」と述べている。
 我々の症例は,猫に続いて祖母の霊が憑依しており,これまで観察されたことのなかった貴重な憑依現象ではないかと考えている。

動き

「第20回日本生物学的精神医学会」印象記

著者: 樋口輝彦

ページ範囲:P.792 - P.793

 節目となる第20回日本生物学的精神医学会は産業医科大学,阿部和彦会長のもとで3月26日から28日の3日間,北九州市において開催された。
 今回の学会には3つの大きな特徴があった。その第1は学会がすべて産業医科大学の構内で行われたことである。大学の中に学会を開催できる大小のホールや会議室を備えているからこそ可能なのだが,いかにも手作りの雰囲気がして,学会の開催の仕方の原点を見る思いがした。最近,ともするとホテルなどが会場になることが多く,経費もかかり主催される大学に負担をかけることになる。特に,今日のような不況下では寄付を募ることも容易ではない。その意味では今回の学会の開催の仕方は今後のひとつのモデルになるかもしれないと感じた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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