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雑誌目次

論文

精神医学41巻1号

1999年01月発行

雑誌目次

巻頭言

臨床の味,香り,そして雰囲気

著者: 松本雅彦

ページ範囲:P.4 - P.5

 「精神医学」誌は昨年で刊行40周年を迎えたという。戦後日本の精神医学もかなりの歴史を重ねたことになろうか。
 1965年(昭和40年)精神科医としておぼつかない歩みをはじめた私にとって,本誌はとりわけてなじみ深い。当時,「精神神経学雑誌」や専門誌「精神分析研究」を除いて,日本の臨床を伝えてくれる精神医学関係の雑誌はただ本誌だけであった。大学を離れ指導者もない単科精神病院で手探りの診療をはじめていた私にとって,自分の臨床にいろいろな示唆を与えてくれる数少ない雑誌の1つであった。毎月病院の図書室に到着する本誌をむさぼるように読み,あるいはバックナンバーを繰りながら,自分の臨床への参照をここに見いだそうとしていた。

特集 記憶障害の臨床

精神科臨床と記憶研究

著者: 濱中淑彦 ,   仲秋秀太郎

ページ範囲:P.6 - P.15

序論
1.記憶概念の細分化と問題
 近年の記憶理論は,認知心理学の導入により急速な展開を遂げ,1970年代以前の短期/長期記憶の単純な二分法を超え,記憶の概念は著しく拡張してきた。この二分法に対する批判から作働記憶(working memory;WM)の概念(Baddeleyら,1974)が登場し,他方,長期記憶はエピソード記憶(episodic memory;EM)と意味記憶(semantic memory;SM)に大別された(Tulving,1972)。長期記憶は,言語化が可能で,意識的想起を必要とする過程である宣言的/顕在記憶(declarative/explicit memory)と,意識的想起を必要としない過程である非宣言的記憶/潜在記憶(nondeclarative/implicit memory)に区別される48)。最近では,Squireら48)は,非宣言的記憶/潜在記憶を細分化し,各下位の記憶系の基盤にある神経基盤を想定している(図)。またTulving50)は,各記憶系が系統発生・個体発生的な階層的関係(表)にあると考え,手続き記憶(procedural memory;PrM)が発生史的に最も古い記憶であり,その後に,知覚表象系(perceptual representation system;PRS)50),SM,一次記憶,EMなどが出現してきたと想定している。さらにEMは,想起が繰り返されると,次第にSMの特徴を持つようになり(Cermak,1984),新しく形成されるSMは,EMの一部として獲得される可能性がある46)といった仮説が提唱され,SMとEMの概念の区分が単純ではないことが明らかになってきた。

短期記憶とその障害—認知心理学的モデルと神経基盤

著者: 加藤元一郎

ページ範囲:P.17 - P.22

はじめに
 我々が小説を読んだり,お金を計算したり,物事を考えたりする時には,何らかの情報を頭の中に一時的に保持しておく必要がある。短期記憶は,これらの活動と関連の深い認知機能である。本稿では,この短期記憶に関して,まずその認知心理学モデルを紹介し,次にその神経心理学的障害と神経基盤に関する知見を述べる。

ワーキングメモリーとその障害—アルツハイマー型痴呆とうつ病

著者: 鹿島晴雄 ,   坂村雄

ページ範囲:P.23 - P.28

 ワーキングメモリー(working memory)は神経心理学において現在,大きな関心を集めている概念である。本稿では,まずワーキングメモリーに関する認知心理学的な背景を述べ,次いでアルツハイマー型痴呆(以下AD)とうつ病におけるワーキングメモリーの障害に関する研究を紹介する。精神分裂病のワーキングメモリーの障害に関しては近年極めて多くの報告がなされており,さらに誌面の関係もあり本稿では取り上げなかった。精神分裂病のワーキングメモリーに関しては文献19,20,27とその引用文献を参照いただきたい。

自伝的記憶とその障害

著者: 元村直靖

ページ範囲:P.29 - P.33

自伝的記憶とは
 自伝的記憶(autobiographical memory)は,自己に関係した情報の記憶である28)。このような自伝的記憶は,従来の記憶図式の中ではどのように分類されるのであろうか。記憶は,時間軸に従って大きく感覚記憶,短期記憶および長期記憶に分類される。感覚記憶は,残像で代表されるような刺激がなくなった後に続く一次的な感覚の持続である。短期記憶は数秒から数十秒間程度持続し,我々にいま過ぎ去った過去を意識させる。また,記憶にはさらに長期間保持されて知識や思い出になる長期記憶(long term memory)がある。長期記憶の中には,比較的短い間,情報を保持する近時記憶(recent memory)と長期間にわたり情報を保持する遠隔記憶(remote memory)に分けられる。この中で,自伝的記憶は遠隔記憶に属することになる。また,近時記憶の障害があると前向健忘(anterograde amnesia)が生じ,遠隔記憶の障害があると逆向健忘(retrograde amnesia)が起きる。長期記憶の中のもう1つの分類は,記憶している本人の個人的な体験と結びついた記憶であるエピソード記憶(episodic memory)と個人を離れた知識としての記憶である意味記憶(semantic memory)がある。このように,エピソード記憶と意味記憶の区別をしたのはTulving26)であるが,この中では,自伝的記憶は,一応,エピソード記憶の範疇で考えられることが多い。ところが,最近の研究では,自己に関係した情報の記憶を,さらに,自叙伝的出来事記憶と個人史的意味記憶(personal semantic memory)に分けている16)。この場合,個人史的意味記憶とは教育歴や履歴などの個人の履歴に関する事実の記憶とされ,自叙伝的出来事記憶とは時間と場所が特定できるような記憶とされている。
 ところで,健常人における自伝的記憶を研究する方法としては,日誌法がある。すなわち,日々の出来事を日誌に記録し,その記憶を追跡調査する方法である。Linton18)は,この日誌法を用いて自分自身の記憶を6年間にわたって組織的に調べた。毎日少なくとも2つ以上の出来事をカードに記載し,毎日,そのファイルの中からランダムに2つを選び出し,そこに記載されている出来事を思い出す。その結果,忘却には2つのタイプがあることを見いだした。すなわち,第1は類似した出来事の個々の特徴が忘れられ,互いに区別がつかなくなるものである。もう1つのタイプは,その出来事に対して全く思い出せなくなるものである。第1の忘却では,個々の出来事のエピソードが,意味記憶の中に吸収されてゆくプロセスを反映していると考えられる。例えば,初めて会議に出席した時には,すべてが新奇な出来事であり,その出来事に固有のエピソードが形成されるが,会議が定期的に開催されると毎日の会議に共通の要素とパターンが抽象化され,会議のスキーマとでもいうべき意味記憶に吸収されてゆくと考えられる。このような事実から考えると,自伝的記憶にはエピソード的な要因と意味記憶的な要因が含まれることがわかる。前述のごとく,記憶をエピソード記憶と意味記憶に分かつことを提唱したのはTulvingであるが,このような事実を見るかぎり,エピソード記憶と意味記憶の境界は曖昧で互いに移行しうる可能性があることを示している。

意味記憶とその障害

著者: 池田学 ,   小森憲治郎 ,   田辺敬貴

ページ範囲:P.35 - P.40

意味記憶とは
 Tulvingは,1972年の論文で,科学的な記憶研究の始祖とされるEbbinghaus以来の多くの伝統的な研究で唯一の記憶システムと考えられていたエピソード記憶(episodic memory)に対して,知識に相当し思考の素材となる意味記憶(semantic memory)の存在を提唱した28)。エピソード記憶とは,日常的に我々が呼び習わしている“いわゆる記憶”に相当し,個人的,具体的な記憶であり常に時間的空間的さらには感情的文脈を伴っているという特徴を有する。生理的な老化や健忘症例で影響を受けるのは主にこの記憶システムであり,その現れは通常“もの忘れ”と呼ばれる。意味記憶システムは,エピソード記憶システムを支える系であり,普遍的,体系的で時間的空間的文脈を伴わない。Tulvingは当初,意味記憶を言語運用にかかわる記憶と定義し,単語やその他の言語性記号,それらの意味や指示物,それらの間の関係,そしてそれらの記号,概念,関係を操作するための規則,公式,アルゴリズムについてヒトが所有している体系的な知識であるとしたが,現在では相貌や物品などについての知識はすべて意味記憶として考えられている29)。意味記憶へのアクセスは,エピソード記憶やプライミングなどに比べると柔軟性に富み,複数のルートを介してアクセスできるので,意味記憶の選択的障害を呈する臨床例は稀である。このTulvingの分類に注目し,最初に神経変性疾患における選択的な意味記憶の障害を報告したのはWarringtonである30)。彼女の報告した3例のうち2例はのちに剖検によりPick病であることが明らかにされている4)
 本稿では,意味記憶の選択的障害を呈し,本邦の語義失語像11,25)とほぼ同じ病態を示していると考えられ,最近報告が続いているsemantic dementia4,24)について検討し,これらの症例の一部にみられる相貌の意味記憶障害にも言及し,自験例を紹介する。さらに意味記憶の神経基盤についても触れてみたい。

手続き記憶とその障害

著者: 博野信次 ,   森悦朗

ページ範囲:P.41 - P.47

手続き記憶とは
 手続き記憶(procedural memory)とは「技能を繰り返し経験,練習することにより,その操作の規則性を学習,獲得するもので,個々の運動や操作の結果等の記憶にはよらないもの」(CohenとSquire4))であり,これらの技能の獲得は,操作を繰り返していく中で所要時間や誤り回数の減少という形で表現される。手続き記憶は系統発生的にも個体発生的にも最も古い記憶であると考えられている25)。
 手続き記憶の概念には歴史的な変遷があり,当初は陳述記憶declarative memoryの対極に位置するものとして定義され,この中にはプライミングprimingや単純な古典的条件付けsimple classical conditioningなども包含されていた25)(図a)。プライミング現象とは,経験により一度見せられた単語とか形などが,意識に記憶が呼び戻されることなしに可能性のある選択肢の中から高い確率で選択されるものをいい,プライミングが心像想起を問題にしている以上,手続き記憶の中に含めるのは理屈に合わないという指摘もあった。Squireは1988年の総説26)の中で,無意識的に情報を獲得する記憶学習能力の異質な集合を非陳述記憶nondeclarative memoryという用語でまとめ,手続き記憶は非陳述記憶の一部であり,技能学習能力skill learning abilityを表現するとし,プライミングやadaptation-level effectなどとは区別した(図b)。本稿では,この後年のSquireらの立場に立ち,手続き記憶を技能skillの学習能力のみを表す用語とし,プライミングや古典的条件付けなどは含めないものとする。

記憶障害のリハビリテーション—実際的見地から

著者: 三村將

ページ範囲:P.49 - P.54

はじめに
 精神神経科の臨床において記憶障害患者に接することは稀ではないが,その治療や対応には難渋することも多い。記憶障害のリハビリテーション(以下,記憶リハ)の理論的枠組みや概念上の問題点については,最近,他で論じる機会があった9)。本稿では,実際の臨床場面で遭遇する健忘症候群(以下,健忘症)患者に即して,実地的な記憶リハの方法の概説を試みたい。

研究と報告

季節性感情障害の兄妹発症例

著者: 渡辺慶一郎 ,   高橋清久

ページ範囲:P.57 - P.62

【抄録】 季節性感情障害の兄妹発症例を経験した。両者は治療前まで連続して秋冬期に抑うつ状態となり,活動性低下,易疲労性,過眠といった症状が目立っていた。治療には光療法を用いて良好な結果を得た。季節性感情障害には経過や治療反応性の異なる亜型の存在が指摘されている。また近親者の高い発症率から遺伝的背景について検討されている。今回報告した2症例は兄妹であり,臨床的特徴も類似していたため,本疾患の遺伝的要因を検討するうえで示唆的な症例と考えられた。遺伝的背景を有する亜型の存在について,今後さらなる症例の集積と研究が必要と思われる。

臨床的にSudanophilic leukodystrophyと診断された1症例

著者: 鹿島直之 ,   朝田隆 ,   上間武 ,   木村通宏 ,   田平武 ,   宇野正威 ,   高橋清久

ページ範囲:P.63 - P.68

【抄録】 46歳発症の臨床的にsudanophilic Ieukodystrophyと診断した1女性例を報告した。精神症状としては主として無為,自閉,無関心などからなる前頭葉症候群が認められた。神経学的には,嗅覚低下,水平性眼振,強制把握反射,緊張性足底反射などの所見が認められた。頭部CT,MRIでは,両側前頭葉領域の皮質下に広汎性の白質病変がみられた。SPECTでは,全般性の血流低下,および前頭葉白質と皮質に顕著な血流低下がみられた。さらにPETでは,前頭,側頭葉皮質でのグルコース代謝の低下が顕著であった。

一次性変性痴呆における痴呆症状の構造について—因子分析による解析

著者: 一宮厚 ,   山田尚吾 ,   田北昌史 ,   尾籠晃司

ページ範囲:P.69 - P.77

【抄録】 アルツハイマー型痴呆(DAT)の痴呆症状の潜在構造を調べる目的で,主としてDATからなる一次性変性痴呆患者において,種々の症状評価項目に対する反応の関連を連関係数により検討し,さらに連関係数の大小に基づいて主成分分析を行った。対象は82名の軽度ないし中等度痴呆の患者で,症状評価には記憶,見当識,計算,注意,判断,言語,視空間機能,人格などに関する41の評価項目を用いた。解析の結果,9つの症状因子が得られた。これにより,痴呆症状は,記憶(近接記憶と遠隔記憶)の障害,言語の障害(失読失書と呼称障害),統合的認知(判断,計算,および注意力)の障害,それに人格(情意)の障害に関する症状群に分けられることが示された。

パニック障害における治療抵抗性の予測因子について

著者: 古田真理子 ,   工藤貴代美 ,   山田久美子 ,   穐吉條太郎

ページ範囲:P.79 - P.83

【抄録】 パニック障害の薬物治療抵抗性を予測する因子について調査・検討した。対象は大分医科大学付属病院外来にてパニック障害と診断された98症例で,このうち完全寛解が47症例(48.0%),何らかの症状を残した症状残存群が51症例(52.0%)であった。症状残存群は,DSM-III-Rの心理社会的ストレスの強さ尺度および社会再適応評価尺度(SRRS)が完全寛解群に比べて有意に高かった。すなわち症状残存群には初診時から続くストレスの強いものが多かった。この結果は,パニック障害の治療抵抗性の予測因子として初診時より続くストレスとその程度の強さが重要であることを示唆している。

短報

大動脈—冠動脈バイパス手術後のうつ病エピソードにタンドスピロンが効果を示した1例

著者: 鈴木映二 ,   八木剛平 ,   渡辺智幸 ,   塚田攻 ,   浅井昌弘

ページ範囲:P.85 - P.88

 うつ病そのものが,血圧上昇,頻脈,心拍出量の増加を誘導する7)ので,心臓病を伴ううつ状態に対しても薬物療法をいたずらに躊躇すべきではない3)との指摘がある。しかし心毒性のある抗うつ薬は,心疾患を伴う患者には投与しにくい。特に大動脈—冠動脈バイパス手術(ACバイパス術)後の患者に対しては注意が必要であると思われる。しかし,このような患者を対象にした向精神薬の安全性に関する報告はこれまでにあまりない。今回,心筋梗塞の既往歴を持ち,ACバイパス術を受けた数週間後にうつ病エピソードを呈した患者に,クエン酸タンドスピロン(TD)による治療を試みたので結果を報告する。

社会生活技能訓練が奏効した再燃と寛解を繰り返す慢性精神分裂病の1例

著者: 森内幹 ,   川端茂雄 ,   川端正義 ,   仁木繁 ,   井上和臣

ページ範囲:P.89 - P.91

 SSTは脱施設化の流れの中で,精神分裂病患者の社会復帰を助けるために,適切な対人行動がとれるように援助していく治療体系である9)。精神分裂病患者にとって社会的な適応機能が,その予後に大きな影響を及ぼすことが実証され,その生活技能を改善していくことにより社会的自立を促すことが可能となった。
 SSTは我が国において,まずデイケアなど外来を中心に実施され効果を上げた。その後,1994年4月の診療報酬改定時に,精神科専門療法として入院生活技能訓練療法が新設され,さらに入院患者にも広く行われるようになっている。我々も入院中の精神分裂病患者にSSTを行い,患者の持つ問題を解決して社会的な対応能力を高めてきた。この結果,対人緊張が減少し労働意欲が高まり,発病以来初めて就労ができた症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

妄想性抑うつと重度のパーキンソニズムが同期して消長した2症例—リチウム単剤治療の効果

著者: 武重理英 ,   羽場篤嗣 ,   荻野麻紀 ,   鈴木二郎 ,   加藤佑子 ,   加藤尹之輔

ページ範囲:P.93 - P.96

 妄想性うつ病の治療経過中に重度のパーキンソニズム(PS)が出現し,治療に難渋した2症例にlithium(Li)が奏効した。これら症例の特異な点として,Liにより精神症状のみならずPSも同時に軽快している点が挙げられる。本稿ではこの病態について,Liというキーワードから若干の考察を加えてみたい。

抗トロンビン剤Argatrobanが有効であったアルツハイマー型痴呆の1例

著者: 宮本洋

ページ範囲:P.97 - P.99

 アルツハイマー型痴呆(ATD)には種々の薬剤療法が試みられている。近年トロンビン受容体が発見され,トロンビンが脳内においても様々な活性を示すことが明らかになった6)。ATDの病理へのトロンビンの関与も解明されつつある1)。これまでの抗痴呆剤で十分な効果の得られなかったATD症例に対し,抗トロンビン剤argatrobanを使用して好結果が得られたので報告する。

資料

1総合病院の救急外来における精神科救急—特に身体科医の関与

著者: 田村達辞 ,   岡本泰昌 ,   皆川英明 ,   松岡豊 ,   塚田勇治 ,   大森信忠

ページ範囲:P.101 - P.103

 近年,包括的精神医療システムの構築の上で総合病院精神科に求められる機能として,身体合併症治療とともに精神科救急の必要性が指摘されている。精神科救急については,西山3)は自傷他害行為を伴う精神障害のため強制的に緊急な治療的介入を必要とする場合の「ハード救急」,精神症状のため自ら医療機関を受診する場合の「ソフト救急」と分類している。総合病院に求められる精神科救急としてはソフト救急が主体と考えられる。当院では身体科当直医が一次対応し,対応困難で精神科的関与が必要と判断された症例には精神科医の対応が要請されるシステムをとっている。そのため,身体科当直医の精神科患者への対応のあり方,頻回救急受診者の存在などが重要な問題となっている。そこで,今回我々は当院における身体科当直医のみで対応できた症例,および救急外来頻回受診者の臨床的特徴について調査,検討したので報告する。

神奈川県における応急入院の実態

著者: 安井正 ,   村岡英雄 ,   中島節夫

ページ範囲:P.105 - P.109

はじめに
 1988年の精神保健法改正により,新たな入院形態として応急入院制度が導入された。この入院制度は,精神科救急医療への対応の一環として導入されすでに10年が過ぎようとしている。しかしこれまでの応急入院の実態に関する調査・報告例は,江畑ら1)の報告を除いて極めて乏しい。一方,厚生省は応急入院指定病院の指定の促進を図っているにもかかわらず,1995年現在いまだに全国の応急入院指定病院数は45施設にとどまり,15の道県において応急入院指定病院が存在していない(表1)のが現状である。これらの県では応急入院に相当する症例が発生した場合に,いかに対応しているのであろうか。
 神奈川県では応急入院制度は1990年度から開始され,県下では北里大学東病院のみで応需している5)。すなわち,北里大学東病院で対応した症例が神奈川県の応急入院そのものの実態を反映している。本稿では,当院に応急入院となった全症例について調査し,神奈川県における応急入院の実態について報告するとともに,応急入院の問題点を指摘する。さらに全国の応急入院の状況を提示したうえで,今後の応急入院の運用についても検討する。

動き

「第8回日本臨床精神神経薬理学会」印象記

著者: 高橋三郎

ページ範囲:P.110 - P.111

 1991年に福島で旗揚げされたこの学会も,今年は第8回を数え,1998年9月17,18日の2日間,北海道大学精神科小山司教授を会長として札幌市で開催されたが,年々演題も増えてきており,今年は300名に達する参加者があった。臨床精神薬理学,すなわち,種々の精神疾患に薬物療法を行う場合の理論と実践についての知識の重要性が認識されてきている。
 さて,学会第1日は,教育講演として「チトクロームP450の基礎」(熊本大学石崎高志教授),「チトクロームP450の臨床」(山形大学大谷浩一教授)があった。石崎氏は主に薬理学の面から臨床医が投薬した向精神薬が肝臓のチトクロームP450(CYP)によって代謝され,これらの薬物の血中濃度を決定する最も大きな因子となっており,したがって,その効果や副作用発現に最も強くかかわっている因子であることが近年よく知られていること,このCYP酵素活性は,各個体が有するCYPの遺伝子型によって決定されており,また,併用される内科系薬剤ばかりか種々の向精神薬自身がこの酵素を阻害することによって,相互作用を生じていること,などを紹介した。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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