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文献詳細

雑誌文献

精神医学41巻1号

1999年01月発行

特集 記憶障害の臨床

意味記憶とその障害

著者: 池田学1 小森憲治郎1 田辺敬貴1

所属機関: 1愛媛大学医学部神経精神医学教室

ページ範囲:P.35 - P.40

文献概要

意味記憶とは
 Tulvingは,1972年の論文で,科学的な記憶研究の始祖とされるEbbinghaus以来の多くの伝統的な研究で唯一の記憶システムと考えられていたエピソード記憶(episodic memory)に対して,知識に相当し思考の素材となる意味記憶(semantic memory)の存在を提唱した28)。エピソード記憶とは,日常的に我々が呼び習わしている“いわゆる記憶”に相当し,個人的,具体的な記憶であり常に時間的空間的さらには感情的文脈を伴っているという特徴を有する。生理的な老化や健忘症例で影響を受けるのは主にこの記憶システムであり,その現れは通常“もの忘れ”と呼ばれる。意味記憶システムは,エピソード記憶システムを支える系であり,普遍的,体系的で時間的空間的文脈を伴わない。Tulvingは当初,意味記憶を言語運用にかかわる記憶と定義し,単語やその他の言語性記号,それらの意味や指示物,それらの間の関係,そしてそれらの記号,概念,関係を操作するための規則,公式,アルゴリズムについてヒトが所有している体系的な知識であるとしたが,現在では相貌や物品などについての知識はすべて意味記憶として考えられている29)。意味記憶へのアクセスは,エピソード記憶やプライミングなどに比べると柔軟性に富み,複数のルートを介してアクセスできるので,意味記憶の選択的障害を呈する臨床例は稀である。このTulvingの分類に注目し,最初に神経変性疾患における選択的な意味記憶の障害を報告したのはWarringtonである30)。彼女の報告した3例のうち2例はのちに剖検によりPick病であることが明らかにされている4)
 本稿では,意味記憶の選択的障害を呈し,本邦の語義失語像11,25)とほぼ同じ病態を示していると考えられ,最近報告が続いているsemantic dementia4,24)について検討し,これらの症例の一部にみられる相貌の意味記憶障害にも言及し,自験例を紹介する。さらに意味記憶の神経基盤についても触れてみたい。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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