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雑誌目次

論文

精神医学41巻12号

1999年12月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学の臨床に思う

著者: 櫻井浩治

ページ範囲:P.1260 - P.1261

 精神医学の立場から心身医学に関心を持ち続けて30年余になる。そのような立場での発言なので一般性を欠くかもしれないが,最近になって特に気になることが二,三ある。
 その第1は,1996年より認可された心身医学臨床での「心療内科」という標榜科名についてである。最近,この科名を表記している精神科医が多くなっていて,しかもそうした人の中には,心療内科の母体学会である日本心身医学会に入っていない人もいる,ということを心身医学の集まりで聞かされた。

特集 児童精神科医療の課題

大学病院における児童精神科医療の現状と課題

著者: 山崎晃資

ページ範囲:P.1262 - P.1269

はじめに
 平成10年(1998)版の「厚生白書」9)によると,1996年の女性の合計特殊出生率(1.43),出生性比(女100に対して男105.2),死亡率(平均寿命男:77.01歳,女:83.59歳)がそのまま続いた場合,日本の人口は100年後には約4,900万人,500年後には約30万人,1000年後には約500人となり,1500年後には約1人になると推計されている。
 1998年度のわが国の合計特殊出生率は1.38となり,少子化がさらに進む中で,不登校,いじめ,校内暴力,家庭内暴力,摂食障害,薬物乱用,児童虐待など,子どものこころの問題が急増し,多様化し,しかも低年齢化する傾向にある。学級(学校)崩壊,援助交際のように,これまでの医学的常識では対応に苦慮する問題も出てきている。児童青年精神医学はますますその重要性を増しているが,わが国の大学医学部には「児童(青年)精神医学」講座がなく,大学病院においても,「児童(青年)精神科」があるのは東海大学および横浜市立大学など2,3の大学に限られている。システム的には諸外国に比して実に40〜50年の遅れをとってしまった。大学医学部に「児童(青年)精神医学」講座を持たず,標榜診療科名として「児童(青年)精神科」が認められていないのは,いわゆる先進諸国の中では日本のみであるといっても過言ではない。国際化が叫ばれている時代に紛れもない精神科医療の後進国となってしまった22)

こども病院における児童精神科医療の現状と課題

著者: 田野稔郎

ページ範囲:P.1271 - P.1276

はじめに
 1970年4月に開設された神奈川県立こども医療センターは,こども病院と児童福祉施設(肢体不自由児施設・重症心身障害児施設)からなる。精神科外来は開設当初から運用され,精神科病棟は1977年4月から開かれた。こどもの総合病院である当センターにおいて,これまでの経験1〜3,7)をもとにして児童精神科医療の現状と問題,将来の展望を行ってみたい。

公立精神病院における児童青年期精神科医療の現状と課題—都立梅ヶ丘病院の臨床から

著者: 佐藤泰三

ページ範囲:P.1277 - P.1283

はじめに
 激しい社会の変化と社会病理が目立つ環境の中で,子どもたちは様々な型の適応・不適応パターンを表現する。さらに私たちの想像を超える出来事が繰り返しみられ,従前から引き続く,不登校,いじめ,校内暴力,学級崩壊,虐待,心身症などが増加傾向にある。
 これらの背景に様々の理由はあれ,社会の規範や許容範囲を越えた現象や“切れる,むかつく,いきなり型”などの短絡・即行,多動や高い脆弱性を示す子どもも目立っている。
 日常生活の中で,児童青年期の子どもは,①溢れるエネルギーを望ましい目標に向けて定位させられないこと,②適切な動機づけのもとに意欲を持って取り組める課題,役割や対象のなさ,③彼らのエネルギーを十分に発散・燃焼させる受け皿機能を持つ場所のないこと,④学校・家庭生活で生ずる閉塞感,将来の見えなさやある種の無力感,⑤社会的ルール内在化の未確立,⑥対人的相互信頼関係・共感性の未成熟さ,仲間作りの困難さ,幼さと脆さ,⑦自立の問題などを示している。共通して認められるのは,子どもを取り巻く家庭・学校・地域・社会などに山積する環境問題,一方,子どもの示す短絡性,攻撃性,衝動性,回避性,不耐性,共感性のなさ,先見性の欠如,幼さ,脆弱性なども顕著である。すなわち,子どもたちの認知,情動,衝動制御,言語表現,対人関係の在り方に少なからず問題を認める。
 このような現象の正確な把握と理解,すなわち,これらの諸現象を生じさせている要因の解明と問題解決のため,①本人,②家庭,③学校,④地域,⑤社会のそれぞれに内在する顕在化している,あるいは顕在化していない複雑多岐な問題を明らかにして,本人・家庭を中心に据えて,教育・福祉・保健・医療・司法などの切り口や取り組みを異にする多くの関係分野が今までのアプローチに加えた新たなる対策・支援・対応を短期的・中期的・長期的に行うことが必要となる。
 児童青年精神科医療は大学病院,子ども病院,国公立精神病院,私立精神病院,児童青年精神科病院,クリニック,児童相談所,情緒障害短期医療施設などが主として対応している。
 すでに,多くの児童青年精神科医療の在り方,活動状況や提言がなされている1〜9,11,14〜19)
 今回,筆者は日頃の医療の実践の中から,公立児童青年精神科病院としての都立梅ヶ丘病院の立場から児童青年精神科医療の現状と課題について述べてみたい。

私立精神病院における児童精神科医療の現状と課題

著者: 竹内知夫 ,   朝倉新 ,   加藤由紀子

ページ範囲:P.1285 - P.1290

はじめに
 最近の子どもを取り巻く環境の変化の目まぐるしさに伴い,児童・思春期の心の問題がクローズアップされてきており,精神科領域においても児童・思春期症例に対する対応が苦慮されている。学校ではスクールカウンセラーの導入が試みられ,各地で親や教師を対象とした講演会が盛んに開催されている。
 子どもたちをめぐる精神科的問題も増加しており,不登校,家庭内暴力,拒食症,心身症など枚挙にいとまないくらいである。この際問題となることは,これらの状態に直面した時,直ちに対応できる児童精神科医療の地域ネットワーク体制が整っていないことである。児童・思春期の症例を主に診療する医療機関は,大学病院および公立病院の児童精神科や思春期外来であり,まだまだ数的には不足している。特に入院が必要となった時,入院できる児童・思春期病棟を持っている精神科病院はまだ国公立の一部にしかない。
 このような状況の中で我々の病院は,1995年7月から私立精神科病院ではまれな思春期病棟を開設して今日に至っている。我々が始めた思春期病棟のこれまでの4年間を振り返り,その実態を報告し,私立精神科病院における児童・思春期精神科医療の今後について述べてみたい。

クリニックにおける児童精神科医療の現状と課題

著者: 島田照三

ページ範囲:P.1291 - P.1295

はじめに
 児童精神科を中心としたクリニックを開設してすでに18年を経過しているが,その間,社会の認識度や認知度が大きく変化しているという実感はない。あえて言うならば,5年前の阪神大震災を契機として,精神医学およびメンタルヘルス全般が,皮肉にもやっと社会における市民権を得始めたのに附随して,児童精神医学の分野にも曙光が射し始めたといって過言ではないであろう。現に,我々にもっとも近い存在といっていい学校の教師(教育委員会や,校長,教師を含めて)ですら,“児童,生徒のこころの健康”についての重要性は十分理解しているにもかかわらず,児童思春期精神医学の存在に対する認識は曖昧であり,精神医学全般を包括して考えており,その特殊性,専門性に対する理解はほとんど無に等しい。それどころか,我々の医師仲間の間ですら,我々は“精神科の医者”としてみられており,“児童精神科専門医”としてはみられていない。一般の医師(内科や小児科など)には,児童精神医学の存在の認識すら乏しく,ましてやそれを専門とした開業医となると言わずもがなの存在であろう。遇々に紹介を受けても専門医というより,“あの先生は不登校児のカウンセリングをていねいにやってくれるから……”というものであることが多い。それでも少しは専門性を認められたのかと自負しているのが現状である。
 少し,辛口の現況報告になった感があるが,児童精神科クリニックの存在の希薄さは,その原因が社会的な環境や状況にのみあるのではなく,むしろ我々のほうが社会の中にその存在をアピールすることを怠ったことにもよるのではないかと考えている。
 以下,私のクリニックの現況を報告し,我々の存在を社会にどのように示し,どのように足場を得ていったらよいのかを日常の活動の中から分析し,その灯を燃やし続けていくための方向づけを考えたい。

児童相談所における児童精神科医療の現状と課題

著者: 本間博彰

ページ範囲:P.1297 - P.1302

はじめに
 児童相談所は1948年の児童福祉法制定により設立され,50年を超える歴史を有する児童専門の相談機関という位置づけにある。全国に174か所あまりの児童相談所が設置され,0歳から18歳未満の児童のありとあらゆる相談に対応することを要請されている。当然のことながら,その業務を遂行する上で精神医学の知識のみならず,精神科医による診察や治療を必要とするために精神科医が非常勤あるいは常勤で働いている。しかし,常勤の精神科医を抱える児童相談所はいまだ7都府県と7政令市にすぎず,他のほとんどの児童相談所では非常勤医師が医療業務の一部に対応しているのが実情である。ともあれ児童相談所は児童福祉の現業機関であるとともに児童精神科医療の最前線でもあり,病院医療とは異なるところも多く,また子どもを取り巻く社会環境の変化とともに社会問題化した児童虐待をはじめとして,反社会的問題行動を示す児童の相談に至るまで多くの要請が寄せられているところであり,改めて児童精神科医療の視点から現状と今後の課題について検討を試みた。

情緒障害児短期治療施設における児童精神科医療の現状と課題

著者: 杉山信作 ,   西田篤 ,   大澤多美子 ,   岡田隆介

ページ範囲:P.1303 - P.1309

はじめに
 戦後の終わりを謳った昭和30年頃に比べると,核家族は3倍に増え,それまでは5人を保っていた平均世帯人員も3人を切り,現在,合計特殊出生率は2を大きく割り込んでいる。これらを子どもの心の育ち難さの指標と見なすこともできよう。もし,児童家庭福祉50年の論点を並べるなら,今の時代が見え,今日の家庭の衰退や学校運営の困難化に親子の精神的な状況をうかがうこともできよう12,13)。その反映でもある全国の情緒障害児短期治療施設(以下「情短」と略称)を覗いてみると,その63%に不登校,40%に被虐待,22%にいじめやいじめられの関与がみられる。
 近年,心のケアは通りのよい言葉になってきたが,残念ながら,児童精神科医療は保険診療の中では未だ成立は難しく,その入院の場でもある「情短」を備える都道府県もまだ1/3にとどまっている。少子・高齢化が急で,社会の成長や発展の勢いに翳りの見えはじめた今日,少ない子どもを大切に育てるこの臨床の確立は急務である。
 情短の現状を紹介することで,児童精神科医療の今後を検討することになればと思う。筆者は,この論文が踏まえる広島市愛育園の開設にあたり,週末帰省・本校への常時交流・生活と治療の重合・外来の重視・ミーティングによる運営・プロジェクト型の組織づくりなどに努めてきた。いずれも施設化を避けるものであり,これらは,かつての精神医療を問い直す運動からの贈りものでもあった9)

児童精神科の広がり—小児科医から精神科医療への期待

著者: 桃井真里子

ページ範囲:P.1311 - P.1316

はじめに
 小児科医から,児童精神科への要望というよりも,日本の精神医療体制全体への要望として書かせていただきたいと思う。筆者は小児科医であり,小児神経科医である。この10年間で重症の精神疾患を診療する機会が確実に増加した。これは,我々の教室が地域の児童相談所や教育機関と密接な関係にあることも一因であるが,小児の精神疾患も増加し,若年化し,重症化しているのではないかと思う。小児科は,小児専門施設でないかぎり,大学も一般病院も小児の全体を診療し,病棟管理も,年齢別の管理程度の区分である。医療のコストパフォーマンスを考慮すると,大学病院や一般病院の小児科に,精神疾患を管理できる病棟,病室を維持することは困難である。病室は感染症などでも使用可能であるから維持可能だが,看護体制が不可能である。悪性疾患,呼吸管理などの医療と同時進行で,行動が激化している精神疾患患者のケアをする体制を維持することは不可能に近い。にもかかわらず特にこの数年間は,自閉性疾患のacting-out,自殺企図,10歳未満の神経性食思不振症,性的虐待後のPTSDなどで入院する小児が急増した。解決策は2つ。小児の精神疾患診療施設を地域で持つか,大学病院などの総合病院の小児科,または精神科で,小児の精神疾患の管理ができるようにするかである。前者は今後真剣に検討し,実現されるべき課題であると思うが,実現は容易ではない。後者は,全体のコストパフォーマンスから考えると,より現実的解決策であるが,障壁は小児科内でも,精神科内でも小児の精神疾患を診療できる看護体制と医師の確保である。どちらにしても,小児は精神疾患を持ちつつ成人になるのであり,精神科内においても,成人発症の問題のみが診療対象であっては不十分ではないかと思う。思春期青年期の突発的に見える犯罪の背景には,精神発達障害があることが少なからずある。それらしき事件の報道を見るごとに,より早期に精神医療へとつながっていればと思うのである。あるいはつながったが的確なフォローを受けられなかったのかもしれない。その方がより重大問題である。
 小児科医から見た,日本の精神医療への希望は2点。第1は,小児期発症の精神疾患への関心を高めていただきたいこと,第2は家族への関心を高めていただきたいことである。筆者に与えられた課題である「児童精神科医療への期待」とは多少ずれるが,しかし児童精神医学が発展し,地域がその恩恵を受けるためには,児童精神医学という講座があろうがなかろうが,精神医学界の中で,子どもの精神疾患,精神発達障害への関心が高まることが最も重要であると思う。

児童精神科の広がり—周産期精神医学の立場から

著者: 吉田敬子 ,   山下洋

ページ範囲:P.1317 - P.1323

はじめに
 周産期精神医学は乳幼児研究と深く関連する。この両者を連携させた代表的な研究者に英国のLynne Murrayがいる。彼女は母親の産後うつ病の発症が乳幼児の発達に与える影響という一連の研究を10年以上にわたり継続してきた。その結晶として1997年,「産後うつ病と乳幼児の発達」という論文集を監修し発表した14)。この論文集に英国の児童精神医学の第一人者であるProfessor Sir Michael Rutterがあとがきを寄せている。この中で,彼は母子相互作用研究などを含めた乳幼児研究の今後の方向性に対して慎重で緻密かつ包括的な提言を行っている。Rutterは,まず周産期精神障害と乳幼児発達の関連についてのMurrayらをはじめとする最近の研究成果をたたえている。すなわち母親の精神障害が小児の発達のrisk indexであることを明確にしたことに対して,高い評価を与えている。母親の産後うつ病が,児の認知発達,愛着パターンや行動面に与えるリスクについて,様々なエビデンスが積み重ねられてきている研究成果は大きい。しかし一方そのリスクが作用するメカニズムについてはいくつかの候補となるモデルがあり,これらは,今後解明されなければならない課題である。そして,その解明は児童精神医学における病因研究の中心的テーマであるNature-Nurture interplay(生得的素質と養育環境の双方が互いに影響し合うこと)や心身の相関の理解へと迫る領域であり,今後ますます重要性を持つであろうと述べている。これはまさにこれから述べる周産期精神医学から児童精神医学への広がりについての学問的羅針盤になっている。筆者らも同様な視点から,周産期精神医学の研究から得られる知見がどのように児童精神医学へ寄与するか,さらに臨床的には周産期精神医学と児童精神医学が速やかに連携するシステムの必要性について述べる。

児童精神科の広がり—思春期精神医学の立場から

著者: 青木省三 ,   村上博子

ページ範囲:P.1325 - P.1330

はじめに
 思春期の精神科臨床は児童精神科臨床の一部あるいは延長と考えることができるし,成人精神科臨床の一部と考えることもできる。しかし同時に,思春期臨床を児童精神科臨床とも成人精神科臨床とも異なる,他の年代とは異なった独特の理解と対応を必要とする独立したものと考えることもできる。
 歴史的に見ると,社会構造の変化や経済成長によって19世紀ころより,生物的な成熟と社会的な成熟との間に時間的な開きが生じ,社会的な意味での大人になる準備期間として思春期が生まれてきたと言えるであろう。特にわが国の農村や漁村部では,江戸時代の中頃より若者宿やお伊勢参りなどの「村落共同体の大人としての社会性を身につける」システムが作られていたことは興味深い。
 少年法では20歳未満が少年であるが,14歳以上20歳未満の違法行為は「犯罪」と呼ばれ,原則として家庭裁判所で審判され処分が決定される。14歳未満の違法行為は「触法」と呼ばれ,刑事責任は問われない。法律的に見ると,14歳以上20歳未満が成人と子どもの中間と見なされているといえる。
 思春期の問題や疾患が現実に考えられ始めたのは,欧米では第二次世界大戦後であり,それはエリクソンの「自我同一性」5)(1959年)やブロスの「青年期の精神医学」4)(1962年)などとして結実した。また,わが国では1960年前後から,摂食障害や不登校の論文が記されるようになり,その後,1972年には辻悟氏らにより,わが国初めての「思春期精神医学」11)の教科書が記され,その後,次々と思春期の精神病理と治療に関する著書が出版されていった。
 本稿では,思春期精神科臨床を(1)児童精神科医療の広がりとしての思春期精神科医療一児童精神科臨床に学ぶものと望むもの,(2)独自の立場としての思春期臨床の2つの点から検討してみたい。

短報

間歇的に意識障害を来した神経性大食症の1例—Refeeding syndrome(Solomon,1990)再考

著者: 藤原広臨 ,   中山道規 ,   後藤健文 ,   野村総一郎

ページ範囲:P.1331 - P.1334

はじめに
 神経性大食症(過食嘔吐タイプ)にて低ニコチン酸血症,低サイアミン血症,電解質異常(低リン血症,低カリウム血症)を認め,約2週間にわたり間歇的な意識障害を呈した症例を経験したのでその病因や治療上の留意点について検討し報告する。意識障害の経過が「間歇的」であり,これはpellagraに特徴的な所見であることから,本例の精神症状の主たる要因は低ニコチン酸血症であったと考えられたが,その他の要素による影響も軽視できなかった。

心因性ならびに自己誘発性嘔吐を呈した非定型なanorexia nervosaの1例

著者: 岩崎進一 ,   切池信夫 ,   金子浩二

ページ範囲:P.1335 - P.1338

 今回,我々はDSM-IVのanorexia nervosaの診断基準で無月経の項目以外すべてを満たし,自己誘発性嘔吐と意図的でなく無意識に,不安や緊張の緩和やストレス解消のために生じるいわゆる狭義の心因性嘔吐を呈したが,治療により改善した症例を経験した。本例にみられた自己誘発性嘔吐と心因性嘔吐の異同について若干の考察を加えて報告する。

Risperidone投与後,軽快した思春期妄想症の2例

著者: 佐藤晋爾 ,   鈴木利人 ,   塚原直人 ,   白石博康

ページ範囲:P.1339 - P.1341

 村上ら8,9)は,身体的異常の確信,状況依存的に認める忌避・関係妄想,単一症候的経過などを特徴とする一群を思春期妄想症としてまとめ,数々の報告を行っている。その症状は,堅固さゆえに治療的接近に苦慮することが多い。従来,治療として向精神薬などの使用3,7)や,精神療法的関与について検討されてきた2,7,9,11)。近年,増田ら6)によりrisperidoneが自己臭症に奏効した例が報告され,非定型的向精神薬の有効性が注日されている。今回,筆者らも同様の症例を経験したので,異なる観点から考察を加え報告する。

人格変化で発症したCorticobasal degenerationの1臨床例

著者: 成本迅 ,   上田英樹 ,   五十嵐達夫 ,   北林百合之介 ,   中村佳永子 ,   安田究 ,   守谷明 ,   村田伸文 ,   福居顕二

ページ範囲:P.1343 - P.1345

 corticobasal degeneration(CBD)については,近年,その臨床症状の多様性が注目されている。今回我々は,人格変化で発症したCBDの1亜型と考えられる症例を経験したので報告する。

資料

慢性分裂病患者に対する薬物療法の現状—宮崎県内の多施設における調査

著者: 石塚雄太 ,   黒崎毅 ,   戸松良孝 ,   日高三彩 ,   奥田裕司 ,   土井浩子 ,   徳丸潤 ,   山下賀生 ,   土井拓 ,   石田康 ,   三山吉夫

ページ範囲:P.1347 - P.1353

はじめに
 精神科領域の治療にクロルプロマジンをはじめとする抗精神病薬が1950年代に導入されて以来,40年あまりが経過している。今日,精神分裂病の治療は,抗精神病薬の出現以前に行われていた電気けいれん療法やインスリンショック療法はほとんど行われず,抗精神病薬による治療が一般的とされる。精神分裂病の慢性期の薬物療法に関しては,急性期治療後の維持療法と,初期治療で十分な効果が得られず慢性化した難治例に対する治療が主となる。現存の抗精神病薬では,15〜30%の患者には効果が期待しにくいとされる5)。このような現況で,難治例に限らず慢性分裂病患者には投与量の増加,多剤化の傾向が指摘されている14)。長期の薬物療法によって生じる遅発性ジスキネジアなどの遅発性錐体外路症状も重要な問題とされている15)。また,抗パーキンソン薬の長期併用に伴う副作用や精神症状増悪の可能性も考えられている11,13)。比較的安定した精神状態を保っている慢性分裂病患者では,投与中の向精神薬を減量することが躊躇され,長期間ほとんど同じ薬物が処方されていることも少なくない。最近,欧米を中心に作成されている精神科における合理的薬物選択アルゴリズム26)は,我が国でみられる多剤投与の傾向とは相反する立場にある。そこで我々は,宮崎県内の精神科施設に入院中で発症から5年以上経過した慢性分裂病患者を対象として,投与されている抗精神病薬の薬剤の種類と投与量を中心に調査を行い,薬物療法の投与実態を明らかにした。

動き

「第11回世界精神医学会」印象記

著者: 加藤敏 ,   大塚公一郎

ページ範囲:P.1354 - P.1355

 1999年8月6日から11日まで,ドイツのハンブルグ市で,第11回世界精神医学会が開催された(会長:N. Sartorius,ジュネーブ大学,組織委員長:W. Gaebel,デュッセルドルフ大学)。日本からも多数の人が参加し,多くの発表を行った。会場は,市内の広大な美しい公園に隣接するCongress Centrum Hamburgとハンブルグ大学およびRadison SASホテルであった。世界各地から,約1万人の参加者があり,地元のマスコミにも大きく取り上げられた。
 ドイツを代表する新聞Frankfurter Allgemeine Zeitungは,8月11日に紙面1枚すべてを学会の報告にあてていた。例えば,「精神医学は単なる生物学以上のものである」という見出しで,「宗教は精神的健康に貢献する」と宗教の重要性を主張するエジプトのA. Okashaの見解や,欧米の精神医療史を踏まえて「精神障害を経験した人や近親者が精神医療の計画,融資,質の確保に加わるべきである」と指摘するドイツのH. Häfnerの提言が紹介されていた。また,「分裂した魂の内面図」という見出しで,精神分裂病の最新の生物学的知見として,死亡脳の剖検とCT,NMR所見(脳室の拡大,視床の容量の低下,旧脳と新脳の分離の所見)などが伝えられていた。

「第11回日本アルコール精神医学会」印象記

著者: 洲脇寛

ページ範囲:P.1356 - P.1357

 第11回日本アルコール精神医学会は,1999年7月30,31日の両日,滝川守国会長(鹿児島大学神経精神科教授)のお世話で,鹿児島市民文化ホールで開催された。プログラムは,特別講演1,シンポジウム2,一般講演21と比較的小規模な学会であったが,桜島を真正面に眺望し,しかも真夏の鹿児島ということで,いかにも鹿児島らしい雰囲気の会場へ169人の参加者が集った。
 特別講演は,Scott E. Lukas博士(Associate Professor of Psychiatry, Director of Behavioral Psychopharmacology Research Laboratory, McLean Hospital/Harvard Medical School, Belmont, MA, USA)による“Neurobiological basis of drug and alcohol abuse(薬物・アルコール乱用の神経生物学的基礎)”と題した講演で,講演内容を筆者なりに要約すると,以下の通りである。機能的MRIやPETなど最近の新たな画像技術によって,物質依存の生物学的基盤-特に依存物質による強化(reinforcement),家族負因の影響,キューによって誘発される薬物欲求衝動(craving)などの理解に重要な情報がもたらされる。例えば,コカインやアルコールなどの依存物質摂取後には,短い周期の快気分(euphoric)エピソードが繰り返され,この変化と,脳波上α波の発作性出現の対応を認めている。また,アルコール依存症の家族歴のない人では,飲酒後容易にα波の増強を伴う酩酊を認めるが,アルコール依存症の家族歴を有する個人では,同じ飲酒量で,そうした変化を認め難い。さらにLukas博士は,コカイン依存症者にコカイン使用場面のビデオ呈示を行うと,ビデオ場面によってもcravillgが誘発され,その変化と,fMRIで前帯状回,左背側前・前頭葉の血流増加との関連を見出している。博士は,こうした研究の積み重ねによって各種依存物質に共通した強化のメカニズムが明らかにされ,さらに,薬物再摂取に直結するcravingを抑える新たな薬物の発見につながる可能性を指摘した。また,これは懇親会の席でLukas博士にお聴きしたことだが,競馬などへのpathological gamblerについても,コカイン依存者などと同様の変化が認められるということであった。

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精神医学 第41巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

KEY WORDS INDEX

ページ範囲:P. - P.

精神医学 第41巻 著者名索引

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基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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