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特集 児童精神科医療の課題
児童精神科の広がり—周産期精神医学の立場から
著者: 吉田敬子1 山下洋1
所属機関: 1九州大学医学部精神科
ページ範囲:P.1317 - P.1323
文献購入ページに移動周産期精神医学は乳幼児研究と深く関連する。この両者を連携させた代表的な研究者に英国のLynne Murrayがいる。彼女は母親の産後うつ病の発症が乳幼児の発達に与える影響という一連の研究を10年以上にわたり継続してきた。その結晶として1997年,「産後うつ病と乳幼児の発達」という論文集を監修し発表した14)。この論文集に英国の児童精神医学の第一人者であるProfessor Sir Michael Rutterがあとがきを寄せている。この中で,彼は母子相互作用研究などを含めた乳幼児研究の今後の方向性に対して慎重で緻密かつ包括的な提言を行っている。Rutterは,まず周産期精神障害と乳幼児発達の関連についてのMurrayらをはじめとする最近の研究成果をたたえている。すなわち母親の精神障害が小児の発達のrisk indexであることを明確にしたことに対して,高い評価を与えている。母親の産後うつ病が,児の認知発達,愛着パターンや行動面に与えるリスクについて,様々なエビデンスが積み重ねられてきている研究成果は大きい。しかし一方そのリスクが作用するメカニズムについてはいくつかの候補となるモデルがあり,これらは,今後解明されなければならない課題である。そして,その解明は児童精神医学における病因研究の中心的テーマであるNature-Nurture interplay(生得的素質と養育環境の双方が互いに影響し合うこと)や心身の相関の理解へと迫る領域であり,今後ますます重要性を持つであろうと述べている。これはまさにこれから述べる周産期精神医学から児童精神医学への広がりについての学問的羅針盤になっている。筆者らも同様な視点から,周産期精神医学の研究から得られる知見がどのように児童精神医学へ寄与するか,さらに臨床的には周産期精神医学と児童精神医学が速やかに連携するシステムの必要性について述べる。
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