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多重人格—その批判的考察
著者: 保崎秀夫1 萩生田丹生谷 晃代2
所属機関: 1常磐大学 2慈雲堂内科病院
ページ範囲:P.122 - P.132
文献購入ページに移動多重人格は,専門家だけでなく,人間の精神に少しでも関心を持つ一般大衆をも魅了してやまないテーマであった。『ジキル博士とハイド氏』『私という他人』『24人のビリー・ミリガン』といったマスメディアによって喧伝された多重(二重)人格物語が動機の1つとなって,精神医学や臨床心理学を志望された方も,少なからずおられるのではなかろうか。しかし,臨床の現場では滅多にめぐり合えるものではなく,その後習得した専門知識や日々の多忙の下に,記憶は押しつぶされていくのが大方ではないかと思われる。
さて,ここ数年,本邦では,多重人格の発表が相次ぎ,複数の専門誌で特集が組まれるなど,今のところ症例数ははるかに少ないものの,北米より約20年遅れての多重人格症例の急増,いわば日本版の“multiple personality epidemic10)”が起きている。これは,後述するように,時代的背景と不可分の現象と考えられる。しかしながら,多重人格概念が定まった位置を得ているとは思えないのは,欧米と同様である。以下,多重人格の歴史と現状を概観し,問題点を整理してみたい。
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