精神医学41巻2号

1999年02月発行

私のカルテから

興奮性舌炎の1例

著者： 安陪光正¹

所属機関： ¹泯江堂油山病院

ページ範囲：P.214 - P.215

　舌炎の原因には，①感染症，細菌あるいはウイルス感染によるもの，アレルギー・毒物・全身的疾患に伴う二次的のもの，②薬物により誘発されるもの（鎮痛剤・降圧剤・抗生物質・抗腫瘍剤・重金属・抗けいれん剤・抗マラリア剤・ペニシラミンなど），③栄養異常に由来するもの（ビタミンB₁₂・鉄・葉酸・その他のビタミンなど）が挙げられている^5）。文献を調べたが，舌炎の原因として興奮を挙げる者はない。
　精神障害者の興奮は，激しくかつ持続的である。分裂病における精神運動興奮や躁病性興奮，あるいはうつ病における強い内的不穏などにおいても舌炎がみられた。それは抗精神病薬との相関がなく，興奮と並行するものであった。このような経験から，興奮によって起こる舌炎を，筆者は興奮性舌炎と名付けた^3,4）。今回は，興奮性舌炎の経過観察中，初めに厚い舌苔を生じ，それが数日にして落剥し，牛肉様赤色舌（興奮性舌炎）に変化してゆく6例を経験したので，その代表的1例を紹介する。