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境界例—その後の知見
著者: 牛島定信1 上別府圭子1 樋口英二郎1 石黒大輔1 岩谷泰志1 小野和哉1
所属機関: 1東京慈恵会医科大学精神医学講座
ページ範囲:P.346 - P.359
文献購入ページに移動「現代精神医学大系年刊版'88 B」(1988年)72)において,筆者は,同大系12巻(1981)の境界例記載がKernberg OFを中心にした精神分析的な人格障害の記述が主体で,せいぜい最新情報としてDSM-IIIの紹介がなされているにすぎないが,その後の10年間は,この領域の臨床的研究はその内容を非常に幅広いものにしていると述べている。つまり,精神分析的な治療的接近に限らず,広く精神医学的な視点からの研究が展開されているという印象を与えたのであった。そして,その10年後の今,再び同じテーマで論述を始めようとするとき,さらにその感を強くしている45)。主要なBPD研究が精神医学の領域に移り,様々な角度から発言されるようになっているのである。そこでまず,おさらいの意味をこめて,境界例に関する歴史的概観から始めることにする。読者のすべてがこの領域に明るいわけではないと思うからである47,73)。
歴史的にみて,その端緒は神経症症状を訴えて精神分析療法を受けに来る患者のうち,治療過程で一過性の精神病状態を呈したり激しい行動化に走るものがいることに対する注目から始まった。そうした症例に境界例という言葉が使用されるようになるなかで,様々な概念が提唱されるようになった。偽神経症性分裂病29),潜在性精神病16)などがそうであるが,それらをまとめる形で,Knightが,1953年に「境界状態」39)という概念を提唱したことは有名である。この種の患者はここで臨床的足場を得ることができたが,基底には精神分裂病的要因があるというのは暗黙の考え方であったことは周知の通りである。
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