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雑誌目次

雑誌文献

精神医学41巻5号

1999年05月発行

雑誌目次

巻頭言

医学部教官の生活実態

著者: 岡崎祐士

ページ範囲:P.458 - P.459

 迷った未,医学部教官の生活の実状を紹介することにした。不祥事やらで医師や医療への批判が少なくない今日,意味があるかもしれないと考えた次第である。国立大学医学部の例である。
 意外に知られていないのが,医学部教官は教育職・教員だということである。勤務医(医療職)や開業医師と混同されている。大学病院には医療職俸給を支給される医師はいないというと意外な顔をされる。

展望

被害者学—最近の知見

著者: 小西聖子

ページ範囲:P.460 - P.467

はじめに—被害者学と日本の状況について
 被害者学victimologyは,学際的な学問である。と同時に,欧米を中心に1970年代以降,その対象の範囲を拡大している。1973年に国際被害者学会の第1回シンポジウムがイスラエルのエルサレムで開催されたが,以後3年ごとにシンポジウムが行われ,1997年に,被害者学の先進国の1つであるオランダで第9回が行われている40)。その研究の対象は極めて多岐にわたっている。
 日本における犯罪被害者への社会的関心は,ここ一,二年で急速に高まっており,被害者の活動やボランティアを中心とする援助組織の数も,大都市を中心に増加している。が,この小論を書くにあたり,我が国において,特に精神科領域の専門家において,「被害者学」という言葉がどのように理解されているのか,被害者援助を日常の仕事とする筆者にはどうもよくわからないというのが正直なところである。

研究と報告

精神分裂病患者の彩色樹木画の検討(第2報)

著者: 横田正夫 ,   伊藤菜穂子 ,   清水修

ページ範囲:P.469 - P.476

【抄録】 精神分裂病患者の彩色樹木画の描画特徴による精神症状の判別の可能性を検討するために,研究1では全体的描画特徴,フランクフルト質問表による自覚症状,BPRSによる精神症状評価について因子分析した。その結果,写実性と陰性症状が1つの因子を構成した。そこで写実性に含まれる4項目によって陰性症状の判別を試みたところ全体の80.0%の判別が可能であった。次いで,研究2では,描画の要素の出現率を陰性症状の高低群間で比較した。36項目中3項目においてのみ出現率に有意な差が認められた。さらに,描画要素のまとまりを数量化III類によって検討したところ立体感と一線幹に関する2軸が描出されたが,それらのサンプルスコアには陰性症状の高低群間で有意な差は認められなかった。このように陰性症状の判別のためには写実性が重要と認められた。

発症後結婚した精神分裂病女性患者15例の婚姻状況の長期経過

著者: 古橋裕子 ,   吉田文子 ,   森山成彬 ,   斉藤雅

ページ範囲:P.477 - P.485

【抄録】 同一主治医が10年以上治療し,発症後に結婚した精神分裂病女性15例の長期経過を報告した。初婚で7名が離婚,うち4名が再婚し3名が現在も結婚継続中であった。離婚は出産や怠薬による再入院例が多く,結婚,妊娠および出産後の服薬は不可欠だと思われた。18回の出産,19人の挙児のうち帝王切開は2人のみで,他は経腟分娩であり,乳児にも異常はなかった。母乳を与え続けた例でも成育に異常はなかった。結婚に際しては,相手に病気を告げておくのが望ましいが,画一的でなく柔軟な対応をし,そのかわり,いったん結婚が決まれば再入院防止に向けて万全の支援対策をとることが肝要だと思われた。

母親のうつ病治療中に明らかになった児童虐待の外来治療例

著者: 水越三佳 ,   可知佳世子 ,   星野良一 ,   大橋裕 ,   伊豫雅臣 ,   森則夫

ページ範囲:P.487 - P.493

【抄録】 母親のうつ病治療中に幼児虐待が明らかになり,母子に並行して治療を行った外来症例を報告する。母親は愛されて育った認識が希薄なうえに,自分の母親から虐待された経験を持っていた。また,結婚前よりうつ病に罹患し,自然軽快,増悪を繰り返していた。結婚,出産の後に,育児の負荷も加わり,重度の抑うつ状態を呈し精神科を受診した。母親の治療経過中に子どもへの虐待に気づかれた。子どもには未熟児,頭蓋内出血といった周産期の障害に加え,下垂体性小人症があった。子どもは母親との愛情遮断のため,多動や集団不適応を示していた。地域ネットワークの協力を得ながら,母親と子どもへの治療を行い,虐待は消失した。本論文では,うっ病が虐待の要因となりうることを指摘し,また,このような症例に対する我々の治療経験を述べる。

被虐待体験を持つ境界性人格障害の2成人例

著者: 中村曜子 ,   中田潤子 ,   飯嶋宏枝 ,   三田のりこ ,   笠原敏彦

ページ範囲:P.495 - P.500

【抄録】 幼少期から児童期・思春期まで長期にわたる母親からの虐待が外傷体験となり,様々な心理的問題を示した2成人例について報告した。両症例とも児童・思春期の心理的発達に歪みが認められ,18歳以降になると,著しい見捨てられ不安,自傷行為,情緒不安定など境界性人格障害の特徴が顕著となった。
 心的外傷を負った人の治療法として,安全性の確保が第1条件と言われている。しかし,過去に最も安心できるはずの母親から慢性的に虐待されると,他者を信頼したり依存することが不安を引き起こすため,治療関係の形成や維持も困難であった。こうした症例といかに治療同盟を結ぶかが大きな課題として残された。

神経性無食欲症と腫瘍壊死因子-α(TNF-α)

著者: 中井義勝 ,   濱垣誠司 ,   高木隆郎 ,   栗本文彦

ページ範囲:P.501 - P.504

【抄録】 腫瘍壊死因子-α(TNF-α)は,種々の免疫活性や代謝作用を有するサイトカインであり,実験動物の悪性腫瘍や慢性炎症時の体重減少に関与する。神経性無食欲症(AN)女性患者20例と健常女性(N)20例を対象に,血漿TNF-αおよびその可溶性受容体sTNF-RIとsTNF-RII濃度を鋭敏な測定系を用いて測定した。また体脂肪量と血漿レプチン濃度を測定した。血漿TNF-αとsTNF-RII濃度はAN群でN群に比し有意に高値であった。体脂肪量と血漿レプチン濃度はAN群でN群に比し有意に低値であった。TNF-αはsTNF-RIIと正の相関を,体脂肪量およびレプチンと負の相関を示した。AN患者に高TNF-α血症の存在することを報告し,その意義について考察した。

海馬および側頭萎縮と高血圧の関係についての画像疫学的検討

著者: 菅原純哉 ,   苗村育郎

ページ範囲:P.505 - P.512

【抄録】 精神科受診者1,917例のうちMRIにて両側性海馬萎縮を示した124例について,その危険因子として高血圧の役割を解析した。(1)海馬萎縮に関するロジスティック解析によれば,加齢を別にすれば高血圧が各種の生活習慣病の中で唯一の有意な危険因子であり,その相対危険度はrr=1.84(p<0.01)であった。(2)高血圧はまた,側頭萎縮に関しても有意な危険因子であった(rr=2.61,p<0.0001)。(3)側頭萎縮と海馬萎縮との関係を検討した結果,両者は互いの危険因子とはならず,海馬萎縮が側頭萎縮の部分現象として生じている可能性は否定された。(4)両側の海馬に明らかな萎縮があれば,その症例の93%(116/124例)に痴呆,75%(93/124例)に高血圧の合併があった。海馬の萎縮が,記銘力障害を前景に持つ緩徐進行型痴呆の主因となったと思われる例(海馬萎縮性痴呆)は今回の全痴呆者の8%(32/390)であり,海馬萎縮者の26%(32/124)であった。

皮質下核病変による発動性低下と傾眠を呈した4症例

著者: 水野貴史 ,   左光治 ,   岡村武彦 ,   豊田裕敬 ,   松村人志 ,   花岡忠人 ,   法橋明 ,   森本一成 ,   米田博

ページ範囲:P.513 - P.518

【抄録】 今回我々は,皮質下核病変により発動性低下と傾眠を呈した4症例を報告した。いずれも突発完成型の血管障害によるもので,見当識や記憶を含め明らかな神経心理学的異常や抑うつ気分は認めず,主たる症状は発症時より持続する発動性低下と傾眠傾向であった。頭部CTやMRIによる画像診断では,病変は視床内側部,尾状核頭部,淡蒼球,側坐核などの皮質下核に認められた。近年,前頭葉症候と類似の行動変化が皮質下病変でも観察され,前頭葉皮質下核回路の存在が注目されており,今回の4症例の呈した行動変化との関連が考えられた。

MRIで大脳,小脳の萎縮を呈した若年アルコール依存症の1例

著者: 斎藤信太郎 ,   石原修 ,   大橋健二 ,   尾上正孝

ページ範囲:P.519 - P.522

【抄録】 MRIで大脳,小脳の萎縮を呈した30歳女性アルコール依存症の1例を報告した。アルコールせん妄状態では精神症状として不眠,小動物幻視,幻聴,体感幻覚様体験,せん妄があり,神経学検査では両手の振戦,躯幹失調,失調性歩行,衝動性眼球運動がみられた。失調性歩行や躯幹失調は断酒により24日後には改善したので一過性のものと判明した。MRIでは大脳皮質の萎縮があり,小脳では小脳虫部の山頂や山腹にシダの葉状に萎縮がみられたが,虫部の小舌や中心小葉などの虫部前部に萎縮がみられなかったのでアルコール小脳変性症とは診断できなかった。しかし,大脳,小脳萎縮はアルコールによって引き起こされたと考えている。

短報

「暴力回避法」によって好結果を得た家庭内暴力の1例

著者: 宮本洋

ページ範囲:P.525 - P.527

 家庭内暴力の対応法として,文献的には「暴力に対して逃げずに対決する」ことがおおむね共通して提示されている3〜6,8)。しかし,臨床上,このような対応が逆に暴力を激化させてしまうことはしばしば体験される。筆者は,父親が激しい家庭内暴力に曝されていた症例に対して,「暴力との対決を避ける方法」(暴力回避法)で好結果を得た。従来の方法論に対するアンチ・テーゼともいえるこの対応法について報告するとともに,かかる暴力について若干の考察を加えたい。

資料

精神保健福祉法第23条の運用の実態とその問題点

著者: 江畑敬介

ページ範囲:P.529 - P.535

はじめに
 近年,障害者基本法の成立,精神保健福祉法の度重なる改正,障害者プラン〜ノーマライゼーション7か年戦略の策定など,精神障害者の地域ケアを推進する機運が熟している。
 精神障害者の地域ケアを推進するためには,地域で生活する精神障害者が危機に陥ったり病状の悪化を来した時に,迅速で適切な対応を取ることが必要なことは論を待たない。精神科救急医療体制の整備が望まれるゆえんである。しかし一方では,必ずしも救急事態とは言えないが,慢性の精神障害を患いながら治療の端緒をつかめないまま地域で生活している事例も少なからずみられる。精神保健福祉法第23条(保健所申請)は,そのような事例への対応手段の1つである。

島根県における精神科救急医療の現状—地域格差と総合病院精神科の役割

著者: 林芳成 ,   小林孝文 ,   竹下久由 ,   松崎太志 ,   山根巨州

ページ範囲:P.537 - P.545

 日本における精神医療は,従来の入院を中心とする医療から,障害者を地域で支えながら社会参加をめざす地域精神医療の充実を志向する方向へと変化してきている。地域精神医療を充実させるためには,精神状態が不安定な際に必要に応じて適切な危機介入を行うことが不可欠であり,効果的な精神科救急医療体制の整備が望まれている。しかし竹内ら10)の報告によると,現在のところ精神科救急医療体制が当該の都道府県全体を対象としたシステムとして整備されているのは,東京都など少数の地域に限られている。島根県でも,全県下を対象とした精神科救急医療体制は確立されておらず,個々の精神科医療施設が独自に対応しているのが現状である。厚生省は平成10年度中にすべての都道府県において精神科救急医療体制を整備する方針を打ち出しており,本県でも具体的なシステム作りが検討されている。しかし,このシステムが有効に機能するためには,多くの課題が残されている。例えば,精神科救急医療に求められるものは,活発な病的体験や問題行動への対処から,合併する身体疾患の治療まで,かなり幅が広く,そのすべてに単独の精神科医療施設が対応することは困難である。しかし,システムを構築するために必要な精神科医療施設間の機能分担についての論議もまだ十分には行われておらず,また,その基礎となるべき実態調査も行われていないのが現状である。西山8)が報告しているように,行われている精神科救急医療は地域によって大きく異なっており,措置入院が大半を占めるものから,通常の外来診療の延長といったものまで多岐にわたっている。したがって,精神科救急医療体制を構築するためにはその地域における救急医療の実態を十分に把握,理解しておくことが不可欠といえる。
 筆者らは島根県下において望ましい精神科救急医療体制を構築する資料とするために,本県の精神科救急医療の現状についての実態調査を行った。本稿では,現在行われている島根県における精神科救急医療の地域格差について検討した。一部,精神科医療施設の機能分担についても言及して,その概略を報告する。

精神障害者の身体合併症への対応—医科大学精神科の現状

著者: 武田龍一郎 ,   三山吉夫

ページ範囲:P.547 - P.552

はじめに
 宮崎医科大学附属病院精神科は,大学病院という卒前・卒後教育,研究機関としての役割に加えて,地域の中核病院ならびに,公立総合病院の精神科として,身体合併症を有する精神障害者の治療施設としても中心的役割を担っている。今回,1993年から1997年までの過去5年間の当科における身体合併症症例で,他科での治療を必要として当科に入院した症例について調査し,精神障害者の身体合併症への対応について考察した。

私のカルテから

阪神・淡路大震災後に発症した心因性失声の1例

著者: 藤村聡 ,   金城永治 ,   武田昭 ,   岡村武彦 ,   安藤美穂 ,   山本和利 ,   黒川渡 ,   福井次矢

ページ範囲:P.554 - P.555

症例
 52歳,男性。
 家族歴・生活歴 父親は46歳で胃癌で死亡,その後,看護婦の母親が生活を支えた。3人兄弟の3男(長男は自殺,次男は交通事故で死亡),商業高校卒業後,保険会社に勤務。高卒という学歴にコンプレックスを持っていた。20歳代に結婚,子供を2人もうけるが10年後に離婚。後に再婚した妻と2人暮らし,40歳代に会仕から独立し保険代理店を経営している。

maprotiline投与により紫斑を生じた1例

著者: 上田展久 ,   吉村玲児 ,   寺尾岳 ,   中村純

ページ範囲:P.556 - P.557

 向精神薬による副作用の1つに薬疹がある。我々はこれまでに,lithium carbonate5,9,10),amitriptyline7),amoxapine6)投与により薬疹が出現した症例を経験し,すでに報告している。ところで,抗うつ薬による薬疹の出現頻度はmaprotilineが最も高く,他の抗うつ薬の約2倍といわれ,投与開始より約2週間以内に出現するとの報告がある2)。しかし,maprotiline投与により紫斑が生じたという報告は,我々の知るかぎりではKönigら1)の報告がみられるのみであり,非常に稀である。
 今回我々は,maprotiline投与後に紫斑が出現したうつ病の1症例を経験したので報告する。

動き

「日本子どもの虐待防止研究会第4回学術集会(和歌山大会)」印象記

著者: 上出弘之

ページ範囲:P.558 - P.559

 1996年に,全国各地の子ども虐待に関する保健医療・福祉・教育・法曹などの研究者の集まりとして発足した<日本子どもの虐待防止研究会>は,1997年の横浜大会に引き続いて,1998年9月18,19日の2日間,第4回の学術集会を和歌山市において開催した。会長は和歌山県立医科大学小児科の小池通夫教授であり,同大学小児科教室と和歌山被虐待児症候群対策委員会が会の運営に当たった。当日の参加者は約1,000名で,主会場の県民文化会館をはじめ,紀の国会館,和歌山東急インの3つの会場で,数多くの発表や討論がなされ,多くの参加者に多大の感銘を与えたものと感じている。
 第1日目は,会場の都合から,それまでは2日目に開かれていた事例研究会と領域研究会とが主となった。筆者は,午前の事例研究会では,<虐待発見後の長期的援助—学童・思春期>の分科会に出席し,午後からの領域研究会では,<児童相談所の役割を考える>という分科会に参加した。ここでは,我が国の子ども虐待に関する制度の上で主に児童相談所が担わされている介入や保護の役割と,被虐待児および虐待者への指導や治療などの援助の役割を,児童相談所としてどう両立させるかが大きなテーマとなっていることから,実際に多くのケースで経験されている困難さや問題点について話し合われた。分科会のタイトルが児童相談所になっているためもあり,参加者も児童相談所関係者がほとんどになってしまったが,他の分野の方々の意見を聞くことができたらもっと有意義であったと思われた。このことは多分ほかの分科会にも当てはまるものであろう。本研究会がきわめて学際的な集まりであることから,今後の集会のあり方を考え,企画・運営するに当たって,ぜひ考慮し,工夫していただきたいものである。ちなみに,他の事例研究会としては,虐待ハイリスク家庭・法的介入・精神疾患を持つ親・被虐待児童・過去に虐待を受けた女性・施設入所児・在宅乳幼児それぞれに対する援助の8分科会,また領域別では,医師・ソーシャルワーカー・電話相談・保健所・弁護士など法律関係者・心理・看護婦・入所施設・保育者,そして教育などの12の分科会が企画実施されている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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