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雑誌目次

論文

精神医学41巻6号

1999年06月発行

雑誌目次

巻頭言

コトバの問題

著者: 土居健郎

ページ範囲:P.568 - P.569

 最近聞いた話だが,医学部教授の選考に当って,候補者を評価する際,次のような方法が取られるという。それは候補者がこれまで書いた論文がどのような雑誌に載ったかということをもって判断の目安とすることだが,この場合その雑誌が権威あるものであれば,それだけ多くの人に読まれ,引用される機会が多くなるので,評価点が高くなる。これをimpact factorと称し,発表される雑誌の序列によってそれぞれ何点ときめておき,各候補者の優劣は各自の業績の合計得点によって判定するというわけである。
 私はこの話が本当かどうか知らない。いかにもありそうな話だから,多分本当だろう。このやり方がすべての大学で一様に行われているかどうかも私は知らない。仮にこの話が本当で,かなりの大学で現に行われている教授選考の方法であるとすると,これは昨今識者の間でしばしば話題となる大学受験の際の偏差値重視の事実とあまりにも類似してはいないか。もっとも教授候補者の間に優劣をつけねばならぬというのはわかる。また彼らの論文の質をimpact factorで測ろうというのもわからぬではない。しかし問題は個々の論文をそれが発表された雑誌の序列によって点数化することだ。というのはこの場合,国際的に評価の高い雑誌に発表された英語の論文だけが高得点を獲得することになるからである。聞くところによると,日本語の論文はほとんど業績の中に数えられないというのである。

特集 治療抵抗性の精神障害とその対応

治療抵抗性分裂病—その疫学と治療

著者: 稲垣中 ,   八木剛平 ,   内村英幸

ページ範囲:P.570 - P.576

はじめに
 分裂病治療に抗精神病薬が導入されてまもなく半世紀が経過しようとしている。chlorpromazine(以下CPZ)やhaloperidol(以下HPD)といった定型抗精神病薬(typical antipsychotics)の導入と心理社会的介入の併用によって多くの分裂病患者の症状が改善し,社会復帰あるいは退院するようになった。しかし,その一方で定型抗精神病薬の投与によっても十分に症状が回復するに至らない患者も多数存在する。これらの患者は一般に治療抵抗性分裂病(または難治性分裂病)と呼ばれ,現在の分裂病治療上の最大の問題の1つと考えられている。筆者ら8)は治療抵抗性分裂病の概念や診断基準,および治療に関する問題について本誌1997年7月号において詳細な総説を発表した。その総説において筆者らは,定型抗精神病薬の時代から治療抵抗性分裂病の治療薬であるclozapineが諸外国において再評価され,次いでrisperidone(以下RIS)が開発される時代に至るまでの治療抵抗性分裂病について論じた。しかし,この前後から世界の分裂病治療には数々の重要な変化がもたらされた。1つはclozapine,RISに続く非定型抗精神病薬であるolanzapine,quetiapineなどの開発・導入が進みつつあること,もう1つは様々な治療アルゴリズムが作成されたことである。この2つによって今後は分裂病の標準的治療に大きな変革がもたらされることが予測され,それに伴って治療抵抗性分裂病の概念も大きく変動する可能性がある。
 そこで,本稿は次のような順で論述することとする。まず最初に,従来の治療抵抗性分裂病の概念や診断基準に関して簡単に述べる。次いで,前回の総説の執筆時に進行中であった日本における治療抵抗性分裂病の疫学的調査の結果とその問題点について述べる。そして,1997年以降の治療抵抗性分裂病の治療学の進歩に関して論じ,最後に筆者らの意見を述べることとする。

治療抵抗性の分裂病の薬物療法—現在投与中のclozapine使用経験も含めて

著者: 小林一広 ,   村崎光邦

ページ範囲:P.579 - P.584

はじめに
 1952年にchlorpromazineが精神分裂病に対する治療薬として登場し,今日に至るまで様々な抗精神病薬が世に送り出されてきた。しかし約半世紀経過した現在においても,その効果としての限界や,錐体外路症状,遅発性ジスキネジア,悪性症候群といった副作用の問題は完全に解決されるには至らない。実際我々の臨床の場において,種々の抗精神病薬を投与しても十分な薬効が得られない,もしくはそれらの副作用によって十分量の投薬が不可能となった状態の症例は数多く存在する。本稿ではその治療抵抗性分裂病(treatment-resistant schizophrenia)に対する薬物療法について,現在筆者が外来にて加療継続中のclozapine投与例を報告したうえで,セロトニン・ドーパミン阻害薬(serotonin-dopamine antagonist;SDA)から,多種受容体作用薬(multi-acting receptor targeted agent;MARTA)といわれる今後の薬物療法の中心になると思われる薬剤について解説したい。

保護室使用の長期化した分裂病への対応—看護の主体性とチーム医療

著者: 前田護 ,   前川依久恵 ,   七井裕子 ,   金文秀 ,   橋本喜次郎 ,   内村英幸

ページ範囲:P.585 - P.588

はじめに
 激しい暴力行為のため保護室使用が長期化する対応困難例について,どう対応してゆくかは常に試行錯誤である。暴力のため10年間長期保護室使用を余儀なくされてきた症例への対応過程を示し,対応のあり方を考えたい。

長期予後調査からみた高齢分裂病患者の諸問題

著者: 堀彰

ページ範囲:P.589 - P.594

はじめに
 高齢分裂病患者の諸問題については,Schizophrenia Bulletin-19巻4号(1993年),老年精神医学雑誌5巻5号(1994年)が特集を組んでいる。ここでは精神分裂病の長期予後調査の報告に基づいて,高齢分裂病の病態,特に難治性分裂病および痴呆症状について検討したい。

治療抵抗性の気分障害の診断基準と治療

著者: 樋口輝彦

ページ範囲:P.595 - P.599

はじめに
 精神分裂病に比べてうつ病は治りの良い病気と考えられてきた。確かに自然治癒率は分裂病よりはるかに高いのは事実である。しかし,最近の研究において躁うつ病の再発率が意外に高いこと,うつ病の自殺率が高いこと,難治のうつ病が存在することなどがクローズアップされるにつれて,「うつ病は予後の良い病気」とは言い切れなくなってきた。難治のうつ病がどれくらい存在するかについては,十分な疫学的調査は乏しいが,難治性(治療抵抗性)うつ病を慢性うつ病に置き換えてみると,およそ12〜17%程度存在するとされる24,1)。難治例の多くは年余に及ぶ病相の持続のために社会生活が円滑に行えず家族の負担も大きい。難治に至る要因は生物学的,心理・社会的要因が複雑に絡み合っている場合が多く,その要因の解明には総合的,多面的な観点が必要である。ここでは,とりあえず治療抵抗性うつ病をさらに「薬物治療抵抗性」に限定して,その診断,治療の現状について総説する。また,しばしば,「難治性うつ病」という用語が用いられ「治療抵抗性うつ病」との異同が論じられるが,ここでは便宜的に同じ概念とみなして文献の紹介などを行うことをあらかじめお断りしておく。

遷延化した気分障害に対する精神療法的アプローチ

著者: 鈴木幹夫 ,   広瀬徹也

ページ範囲:P.601 - P.606

はじめに
 気分障害の軽症化や遷延化が話題になってからすでに久しい。一般に予後がよいとされるうつ病の患者に,抗うつ薬と十分な休養,環境調整を含む支持的なかかわりを尽くし,順調に回復していた矢先に,そのペースが鈍り,霧の中を抜けきれないかのように停滞してしまう人々がいる。臨床家ならだれでもそのような臨床的な「事態」に気づいていよう。近年の軽症うつ病の多発は,内因性という従来の考え方では理解困難で,個人の社会的条件の変化に対する不適応とみるべき者も多い。従来のように数か月で寛解する患者は少なく,かなりの期間服薬と通院を必要とするのが今日の平均的うつ病だ,とする意見もある16)。しかし,遷延うつ病の病相予後は良好とはいえないが,長期予後は良いものもあることを忘れてはならない6)

薬物療法が困難な老人性うつ病の治療

著者: 粟田主一

ページ範囲:P.607 - P.612

はじめに
 老年期のうつ病には,抗うつ薬に対して抵抗性(resistance)を示すものや,低い耐容性(intolerance)のために十分な薬物療法の継続が困難となるものがあり,経過が遷延化し,治療が長期化する症例も少なくない。このような症例では,しばしば精神症状も重篤化し,薬物の副作用,身体疾患の合併,脱水や栄養障害による身体的衰弱,自殺の危険などによって,生命的な危急事態に陥る場合もある。
 当科では,このような症例を地域医療機関より受け入れて,詳細な臨床評価と治療プランの再検討を行い,薬物療法の継続が困難な症例や,治療の緊急性が認められる症例には,修正電気けいれん療法(modified ECT;m-ECT)を実施している。
 m-ECTの適応や具体的な治療過程についてはすでに論じている3)ので,ここでは,老年期うつ病の遷延化要因としての抗うつ薬抵抗性と低い耐容性の問題について言及し,薬物療法が困難な老年期うつ病に対するm-ECTの効果と当科における実施状況について報告した。

重症強迫神経症と治療—引きこもり,治療意欲の乏しい例や家庭内暴力を伴う例への対応

著者: 川谷大治

ページ範囲:P.613 - P.617

はじめに
 強迫神経症の治療は薬物療法と支持的精神療法の併用が一般的である。支持的精神療法は,患者の話に耳を傾け,より具体的な対話を心がけながら,「今・ここで」起きている治療者患者関係に留意し,内面の感情の言語化を援助し,時には指示や保証を与え,必要であれば家族への助言・指示を行うなどして,治療関係を築いていく過程である。そして特殊な心理療法として行動療法や精神分析療法や森田療法が行われる。ところが,このような治療に反応しない強迫症者がいる。治療抵抗性の重症強迫神経症である。

難治性の摂食障害とその治療

著者: 舘哲朗

ページ範囲:P.619 - P.623

はじめに
 治療に対する抵抗性や難治性は,治療を行う側が摂食障害という問題をどのように定義しているか,あるいは何を治療目標と考えているかに関係した概念である。例えば,神経性無食欲症の治療において,低体重や無月経など身体的機能における障害こそ解決すべき問題であると定義するなら,その改善を図るための治療に進展があるかぎり難治性は問題にならない。その意味で,中心静脈栄養法や経管栄養法を用いて体重の回復を目指すアプローチでは,そもそも難治性患者はいないのかもしれない。あるいは,低体重という症状は思春期青年期の発達危機としての独立と依存をめぐる葛藤の表現であると定義して治療を進めるならば,治療者は食事制限という態度の意味を患者と一緒に理解しようとし,そうした葛藤の解決を目指すが,その場合難治性は患者の体重の程度ではなく,食へのこだわりを変えようとしない患者の態度の執拗さで示されるだろう。また,他者に援助を求めることや依存することに根本的な葛藤があるケースでは,難治性は食や体型に対するこだわりの強さなど,摂食障害に特有の精神病理の重症度で測られるのではなく,治療スタッフとの治療関係の展開の中で検討される必要がある。
 また,難治性や治療抵抗性は治療アプローチの特異性との関連で考える必要がある。摂食障害の治療として多様な試みがあり,あるアプローチは全く奏効しないが,同じ患者に別のアプローチを試みるとうまく行くこともあるからである。その意味で,これから述べる内容は,筆者の治療的立場,つまり,障害された食行動の修復と健康な食事習慣の回復を目標とする認知行動療法的アプローチに,家族システムの中で問題を理解する視点と力動的アプローチを取り入れた統合的治療の立場5,6)から考える難治性摂食障害であることを断っておきたい。また,神経性無食欲症(AN)と神経性過食症(BN)では治療における目標設定や治療の進め方に異なる点があるので,両者を区別して難治性患者について考えたい。

対応困難な触法精神障害例とその対応

著者: 小原圭司 ,   五十嵐禎人 ,   林直樹

ページ範囲:P.625 - P.629

はじめに
 本稿のテーマである「対応困難」と「触法精神障害例」とは,いずれも概念の非常に曖昧な言葉である。「触法精神障害者」については,「少なくとも刑罰に触れる行為をした精神障害者」と定義される1)。しかし,覚醒剤使用などの単なる特別法犯と殺人などの重大刑法犯とでは自ずとその触法行為の位置づけも異なるはずである。「対応困難」はいわゆる「処遇困難」とほぼ同義と思われるが,「処遇困難例」という言葉について,道下5)は「(入院中の患者で)その者の示す様々な病状や問題行動のために,病院内での治療活動に著しい困難がもたらされるような患者」と定義した。しかし「精神病院の機能により,また能力により処遇困難の閾値は異なってくる」3)うえ,「処遇困難性」は,院内の暴力行為,隔離室長期使用,触法経歴,反社会的な人格傾向など種々に解釈しうる点で不明瞭であり,批判的意見が少なくない8)。筆者らの所属する都立松沢病院(以下M病院と略記)では,自治体立病院として,一般民間精神病院において対応困難とされた症例の治療を引き受けることがその役割の1つとされている。そこでこれらの点を考慮して,本稿においては「対応困難な触法精神障害例」として「他院に殺人,傷害,放火などの重大な触法行為の結果措置入院となり,入院中に何らかの理由で対応が困難となり,M病院に転院となった事例」に絞って議論を進めることとしたい。前述のように対応困難例と触法例はしばしば混同されるが,実は上記のような基準に当てはまる「対応困難な触法例」はさほど多くない。以下にそのような症例を呈示し,その対応について述べ,若干の考察を試みたい。

特別寄稿

「了解と説明」についての覚え書

著者: 諏訪望

ページ範囲:P.631 - P.634

 本稿は,先般,埼玉医科大学退職に際して行った講演(1998年12月17日)の概要である。たまたま,最近発表した一連の論文をまとめた単行本「精神医学とともに60年―新たな展開への期待」(世論時報社)が発刊されたので,ここでは,その源泉となっているK. Jaspers(1883〜1969)の「了解と説明」について,できるだけ簡潔に総括的に解説しようと試みた。
 Jaspersという名を初めて私に教えてくれたのは,実は,ある洋書店の主人であった。医学部2年生の頃,「精神病理学」という言葉を聞いて好奇心を抱き,何か適当な参考書でもあるかと思って東京本郷通りの何軒かの本屋を探したが見当らず,福本という洋書店で,そこの主人に尋ねてみた。その主人はなかなか権威のある人で,さっそく書棚から取り出してくれたのが,JaspersのAllgemeine Psychopathologie 第3版(1923)であった。一応購入して読んでみたが,もちろんさっぱり判らないので,放置したままであった。入局してから,それが精神科医としては必読の書であることを知ったわけである。

研究と報告

精神分裂病の陽性症状群と陰性症状群に及ぼす精神科デイ・ケアの効果

著者: 大山博史

ページ範囲:P.635 - P.642

【抄録】 精神科デイ・ケアに通所を開始した20名と,同時期,年齢,性および重症度の一致した通院中の15名の精神分裂病者を陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)により,1年間,前方視的に評価した。陽性尺度,陰性(N)尺度および総合精神病理(G)尺度の得点の経時的変化を2要因分散分析により解析し,また,各尺度の改善度を比較した。その結果,分散分析では3尺度ともデイ・ケアの併用による効果を認めず,また,N尺度とG尺度で改善傾向を示す症例のみが増加した。最近の知見を考慮すると,二症候群仮説を前提とした場合,精神科デイ・ケアは陽性症状群に対し長期的な効果がなく,一方,陰性症状群と全般的重症性に対する効果はPANSSの下位尺度により検出できないと考えられた。

精神科患者における多重債務の問題とその対応

著者: 中尾智博 ,   坂田美穂 ,   竹田康彦 ,   木村光男 ,   菅原英世 ,   脇元安 ,   森山成彬 ,   斉藤雅

ページ範囲:P.643 - P.650

【抄録】 近年,社会的にもよく取り上げられる多重債務の問題が,精神科の臨床に及ぼしている影響について調査を行った。筆者らが現在治療中の症例のうち8症例が,多重債務の問題を抱えていた。本人の疾患は精神分裂病4例,躁うつ病1例,うつ病1例,病的賭博1例,薬物依存1例であった。精神症状に続発して多重債務の問題が発生したり,多重債務が精神症状を惹起したりするなど,両者間に種々の関連性を見い出すことができた。債務は,生活苦,ギャンブル,浪費などを機に,クレジットカード使用によって拡大していた。入院治療と同時に,個別弁済,自己破産,任意整理など様々な対応がなされていたが,多くは家族が肩代わりしており,その経済的,精神的な負担は大きかった。今後も多重債務問題の増加が予想され,本人,家族の精神,経済両面の安定のために,臨床の場で適切な対応を行う必要があることを説いた。

病的悲嘆反応から精神科入院治療を要した老年期患者に関する検討

著者: 石井久敬 ,   徳永雄一郎 ,   川谷大治 ,   西園昌久

ページ範囲:P.651 - P.655

【抄録】 近親死から病的悲嘆反応を来し精神科を受診した老年期患者で精神科入院治療を要した重篤な者の臨床的特徴について,入院治療を要したもの(入院群)と外来治療のみだったもの(非入院群)とで比較しながら検討した。対象は1991年4月から1995年3月までに福岡大学病院精神神経科を受診した老年期患者で,病的悲嘆反応のもの31例である。診療録の遡及的調査を行い,以下のことが明らかとなった。入院群は非入院群に比し,急死された例が多い傾向にあり,死別から病的悲嘆反応を発症するまでの期間が長い,悲嘆の遅延反応型が有意に多く,幼少期における親との死別体験のあるものが有意に多かった。これらの老年期における病的悲嘆反応の経過に影響する因子の持つ意味について考察を加えた。

短報

てんかん性笑い発作の2症例について—自験例の報告と文献的考察

著者: 須江洋成 ,   中山和彦 ,   三宅永 ,   高橋千佳子 ,   笠原洋勇 ,   牛島定信

ページ範囲:P.657 - P.660

 てんかん性笑い発作の報告は近年では少なくないが,いまだ興味深い症状である。我々も笑い発作の2例を経験したが視床下部過誤腫に伴うものと前頭葉てんかんによるものであった。そこで,過去の報告に自験例を含めた計36例を視床下部過誤腫によるもの,前頭葉,側頭葉てんかんによるものに分け相違を検討したので報告する。

やせ薬(Fenfluramine)の離脱症状として錯乱状態を呈した1例

著者: 中西重裕 ,   吉野祥一 ,   甲斐利弘 ,   池永佳司 ,   中西亜紀 ,   赤埴豊

ページ範囲:P.661 - P.664

 近年,若年女性を中心にダイエットが注目を浴びている。現在ダイエットを目的とした医薬品は日本では認可されておらず,病的肥満の治療薬としてβ-アドレナリン系を刺激して食欲を抑制するマジンドールだけが認められている。しかしダイエット先進国の欧米では,セロトニン作動薬のフェンフルラミン,そしてマジンドール同様β-アドレナリン作動薬であるフェンテルミンが幅広く使用されてきた。今回我々は,中国製フェンフルラミンを個人輸入し2年8か月にわたり内服し,内服中止後約2週目より不眠,多弁,感情不安定,易刺激性といった症状に始まり,1か月後に錯乱状態を呈した症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

硬膜下水腫が合併した遷延性アルコール離脱せん妄の1症例

著者: 山吉佳代子 ,   多田幸司 ,   鈴木匡 ,   笠茂公弘 ,   松浦雅人 ,   小島卓也

ページ範囲:P.665 - P.667

 アルコールの離脱せん妄は断酒2,3日後から起こり,多くの場合5日以内に症状が消失する。しかし,時には意識障害が遷延する場合があり,その際はWernicke脳症や肝性脳症などを疑って診断,治療を進めていかなければならない。また,アルコールの離脱せん妄では硬膜下血腫,肺炎や髄膜炎などの感染症,膵炎,肝障害などを併発することがあり,これらの合併症に注意して治療を進めていく必要がある1)。今回,我々は硬膜下水腫とアルコール離脱せん妄が合併し,48日間せん妄が持続した40歳の男性例を経験した。硬膜下水腫は外傷によってクモ膜が断裂し,髄液が硬膜下に貯溜する病態である。多くの場合頭部外傷後に生じるが,頭部外傷が軽微で本人が気づかないこともある5,7)。最近では画像診断の進歩により頭部外傷後硬膜下水腫が生じ,その後硬膜下血腫に進行する症例,水腫のまま経過する症例などが報告され注目を集めている4)。本症例の診断,治療についてこれまでの報告と比較検討した結果,若干の知見を得たので報告する。

私のカルテから

成人発症のReye症候群が疑われたてんかん患者の2例

著者: 渋谷克彦 ,   児矢野繁 ,   岩淵潔

ページ範囲:P.668 - P.669

 抗てんかん薬を服用中の患者が,冬場のほほ同時期に風邪症状を契機として,成人発症のReye症候群が示唆される急性の意識障害と高度の肝機能障害を来した。同症候群は成人では稀であるが,日常診療で注意すべきと考え報告する。

「精神医学」への手紙

不登校児(者)と居場所—青木氏の一文に関連して

著者: 青野哲彦

ページ範囲:P.673 - P.673

 最近,「居場所」という言葉に識者の関心が集まっている。本誌41巻・2号の「巻頭言」で,青木1)は言う。おとなの管理のもとの空間でもなく,子どもたちだけの空間でもない安全な居場所が,街の中で失くなってきている,と。
 近年,増加傾向にある不登校児(者)の多くは「居場所がない」と訴えて,自室(子供部屋)に引きこもる。家族や他人が来ると,部屋の入口にバリケードを築いたり,押し入れの中に隠れたりする者もいる。彼(女)らには,学校のみではなく,家庭内にも「居場所」がないと思わざるをえない。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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