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特集 治療抵抗性の精神障害とその対応
対応困難な触法精神障害例とその対応
著者: 小原圭司1 五十嵐禎人1 林直樹12
所属機関: 1東京都立松沢病院精神科 2東京都精神医学総合研究所精神病理研究部門
ページ範囲:P.625 - P.629
文献購入ページに移動本稿のテーマである「対応困難」と「触法精神障害例」とは,いずれも概念の非常に曖昧な言葉である。「触法精神障害者」については,「少なくとも刑罰に触れる行為をした精神障害者」と定義される1)。しかし,覚醒剤使用などの単なる特別法犯と殺人などの重大刑法犯とでは自ずとその触法行為の位置づけも異なるはずである。「対応困難」はいわゆる「処遇困難」とほぼ同義と思われるが,「処遇困難例」という言葉について,道下5)は「(入院中の患者で)その者の示す様々な病状や問題行動のために,病院内での治療活動に著しい困難がもたらされるような患者」と定義した。しかし「精神病院の機能により,また能力により処遇困難の閾値は異なってくる」3)うえ,「処遇困難性」は,院内の暴力行為,隔離室長期使用,触法経歴,反社会的な人格傾向など種々に解釈しうる点で不明瞭であり,批判的意見が少なくない8)。筆者らの所属する都立松沢病院(以下M病院と略記)では,自治体立病院として,一般民間精神病院において対応困難とされた症例の治療を引き受けることがその役割の1つとされている。そこでこれらの点を考慮して,本稿においては「対応困難な触法精神障害例」として「他院に殺人,傷害,放火などの重大な触法行為の結果措置入院となり,入院中に何らかの理由で対応が困難となり,M病院に転院となった事例」に絞って議論を進めることとしたい。前述のように対応困難例と触法例はしばしば混同されるが,実は上記のような基準に当てはまる「対応困難な触法例」はさほど多くない。以下にそのような症例を呈示し,その対応について述べ,若干の考察を試みたい。
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