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英国における精神病質をめぐる論争—殺人を犯し特殊病院に入院中の精神病質の2症例を通して
著者: 堀彰12
所属機関: 1国立精神・神経センター武蔵病院精神科 2現,栃木県立岡本台病院
ページ範囲:P.883 - P.889
文献購入ページに移動英国の法律は「精神病質」(psychopathic disorder)という用語を定義し使用している点で特徴がある。Butler報告18)は精神病質という用語は19世紀後期のドイツに源を発し,初めはすべての人格障害を含む用語として使用されたことを指摘している。米国で最初にこの用語が反社会的行動を示すものに限定され,次いで英国にも同様な用語として導入された。すなわち1959年精神保健法(Mental Health Act 1959)に精神病質という用語が取り入れられ,精神欠陥法(Mental Deficiency Act)で使われていた「背徳症」(moral insanity)と「道徳欠陥」(moral defect)という古い用語に取って代わった。精神病質という用語の意味に関する論争にもかかわらず,この用語は1983年精神保健法17)(Mental Health Act 1983,MHA 1983と略す)にも使用され続けている。
何が精神病質を構成しているのか,どのように精神病質患者を処遇し治療すべきかに関しては激しい論争がある。1992年のReed報告9,21)は英国保健省,内務省および関連団体に対して合同専門委員会を設立し,精神病質のために選択できる治療法,どこに精神病質患者を収容すべきか,治療を必要とする犯罪者を処遇する方法を検討するよう勧告した。この勧告の後に,保健省・内務省の合同専門委員会10)は精神病質の本質,病因および治療に関する知識が不足していることに注意を喚起し,精神病質が刑事裁判制度,健康社会事業および地域社会に提起する重要な問題を指摘し,英国精神医学会は精神病質に関する2冊の単行本11,24)を出版した。合同専門委員会は様々な場において多様な事業を提供することが必要であり,それらについて適切に評価することを勧告している。
筆者は1995/1996年の1年間,ロンドン大学の司法精神医学の大学院課程に留学し,そこでの症例に基づいて,これまでに「精神障害における暴力の原因と予防法について」19)および「英国における触法患者に対する法律体系と病院ネットワーク」20)を報告した。本稿では特殊病院で観察した殺人を犯した精神病質の2症例について報告し,英国での精神病質に関する論争を概観し,精神病質に関する合同専門委員会の報告を紹介する。
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