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雑誌目次

雑誌文献

精神医学41巻9号

1999年09月発行

雑誌目次

巻頭言

卒後臨床研修について想う

著者: 吉益文夫

ページ範囲:P.914 - P.915

 医学教育は卒前教育,卒後臨床研修,その後の専門研修および生涯教育と一生を通じて行われるものであるが,特に医学部卒業直後2年間の臨床研修(初期臨床研修)は1968(昭和43)年にインターン制度の廃止を受けて医師法上,努力義務として制度化されたものであり,その改善・充実のために様々な努力が続けられてきた。ところで1998(平成10)年12月に国立大学医学部附属病院長会議常置委員会が公表した「国立大学附属病院卒後臨床研修共通カリキュラム」が精神科医の間に波紋を投げかけている。
 関連するこれまでの経緯を振り返ると,厚生省医療関係者審議会臨床研修部会は,1989(平成元)年6月に「卒後臨床研修目標(厚生省の到達目標)」を設定し,その具体的方策を検討してきた。この到達目標には,患者を全人的に診ることができる基本的臨床能力を身につけるため,すべての研修医が達成すべきものであり,将来の専門性を問わず医帥としての基盤形成である卒後2年間の研修期間中に身につけておくべき内容が明示されている。同部会では検討が続けられ1992(平成4)年6月に臨床研修機能小委員会最終報告として,臨床研修制度改善の基本的方向が示された。そこでは従来の「研修の場」を基本とする立場から「研修プログラム」を重視する臨床研修への移行や研修施設群の導入などが提言されている。さらに1994(平成6)年12月には,卒後臨床研修を必修化する方向性が「意見書中間まとめ」として公表され,必修化に伴う課題について意見が交わされてきた。このような状況の中で医学部および大学附属病院関係者による「大学附属病院における卒後臨床研修の在り方に関する調査研究会」より,1995(平成7)年10月に「大学附属病院等における卒後臨床研修について(中間まとめ)」が公表された。この中で,特に大学附属病院における卒後臨床研修の課題として次の4点を挙げている。(1)病院全体としての研修プログラムの作成,(2)研修方式はローテイト方式などを取り入れ,基本的な幅広い診療能力を修得させる,(3)研修プログラムの公開,(4)研修実施体制や評価体制の確立。

展望

精神分裂病のERPによる研究

著者: 古賀良彦

ページ範囲:P.916 - P.928

はじめに
 この小論のタイトルは,はじめは依頼されたとおり,「精神分裂病の電気生理学的研究」とするつもりであったが,少し考えて,標記のものに変更させていただくことにした。もちろん,筆者が事象関連電位(event-related potential;ERP)以外の電気生理学的研究についての知識をほとんど持ち合わせていないというのが最たる理山である。それとともに,精神分裂病の研究法として,電気生理学が以前ほど若い研究者の関心を集めていないという厳然たる事実があることも理由のひとつである。そこでここでは,過去の優れた研究を万遍なく取り上げてアンソロジーをものにするのではなく,現在,この分野ではもっともよく利用されている方法であるERPによる研究についてのみ述べることにした。ERPに関しては,すでにいくつもの優れた総説があり,筆者も折りにふれて解説を加えてきた24)。そこで今回は,研究の歴史については簡単に記しておくにとどめ,最近の報告の中で重要と考えられる研究についてのみ紹介し,それぞれに筆者のコメントをつけ加えることにした。ほとんどのものにはERP研究の新たなブレークスルーとなることを期待して評価したが,なかには率直な印象を述べたものもある。そのようなわけで,これはきわめて私的な観点からの展望となった。気鋭の研究者からの批判を望んでいる。

研究と報告

Risperidone responderの症状特性—PANSSを用いたオープン試験

著者: 山之内芳雄 ,   今井真 ,   粥川裕平 ,   芳賀幸彦 ,   太田龍朗

ページ範囲:P.929 - P.935

【抄録】 精神分裂病患者12名を対象に,リスペリドン単剤投与に切り替え,単剤投与開始日とその8週後にPANSSによる症状評価を行った。PANSSの各項目は陰性・陽性・思考解体・敵意/興奮・不安/抑うつの5因子に構成して症状プロフィールの解析に用いた。8週間の投与による改善度からresponderとnon-responderに分け,両群の投与前の症状プロフィールと投与前後の各因子の変化の比較を中心に検討した。
 Responder群には6名が該当し,投与前の症状プロフィール比較では敵意/興奮・陰性因子評点に有意差が認められ,投与効果の比較では陰性・陽性の各因子において有意な効果を認めた。

一般者を対象とした精神分裂病に関する疾患教育プログラムの作成(第2報)—疾患教育の受講者を対象にしたアンケート調査の結果

著者: 原田誠一 ,   岡崎祐士 ,   増井寛治 ,   高桑光俊 ,   佐々木司 ,   高橋象二郎 ,   飯田茂 ,   影山隆之

ページ範囲:P.937 - P.945

【抄録】 筆者らは,一般者を対象とした精神分裂病に関する疾患教育プログラムを作成した。このプログラムは,分裂病についての様々な情報を青年期の一般者に伝えて,分裂病の1次・2次予防の実現に寄与することを目指している。第1報では,筆者らが独自に作成した教材用のパンフレットの内容を紹介したが,今回の第2報では,疾患教育プログラムの受講者を対象として施行したアンケート調査の結果を報告する。アンケートでは,①疾患教育の内容に興味・関心を抱いたか否か,②理解可能であったかどうか,③有用性を感じたか否か,④分裂病に関する疾患教育を行う必要性についての意見,⑤疾患教育によって「不安の発生」などの副作用が生じた人の割合と,不安をおぼえた人の特徴,などを調べた。加えて,本法の有効性,限界,危険性について考察した。

Rapid cyclerの臨床背景と治療戦略—同等の平均罹病期間を有するnon-rapid cycler症例との比較を中心に

著者: 鈴木克治 ,   久住一郎 ,   小山司

ページ範囲:P.947 - P.957

【抄録】 Rapid cycler(RC)13例を対象に,平均罹病期間のほぼ等しいnon-rapid cycler(NRC)13例と比較しながら,その臨床背景,治療戦略,転帰について調査した,RC群の平均初発年齢はNRC群に比較して有意に若年であった。甲状腺機能低下所見はRC群で有意に多く認められたが,リチウム(Li)服用時のみに甲状腺機能低下を認めた症例数には差がなかった。Li単剤が有効な症例はRC群には皆無であったが,他剤との併用で有効に使用されている症例は少なくなかった。RC群の効果的治療ではレボサイロキシン(T4)の使用頻度が高いほか,双極I型では抗うつ薬の中止とバルプロ酸の併用が,双極II型ではLiの増量,抗うつ薬の再開が有効と考えられた。

衝動行為歴を有した強迫性障害患者の臨床特徴について

著者: 松永寿人 ,   宮田啓 ,   切池信夫 ,   松井徳造 ,   岩崎陽子 ,   藤本佳世 ,   箕西敦子

ページ範囲:P.959 - P.966

【抄録】 Obsessive-Compulsive Disorder(OCD)と衝動性との関連について検討するために,OCD患者の自殺企図,自傷行為,万引き,器物破損,アルコールや薬物の乱用などの衝動行為歴について調査し,その有無で患者を二分して臨床症状や合併する人格障害などを比較した。
 80例のOCD患者のうち19(24%)例が何らかの衝動行為歴を有し,これらの患者では衝動行為歴を有さない患者に比して,発症年齢が有意に低く,分裂病型などのcluster Aの人格障害や境界性などのcluster Bの人格障害が有意に高率であった。またOCD症状の内容では,攻撃的および性的な強迫観念と確認強迫が高率の傾向であった。衝動行為歴の有無によるこれらの臨床像の相違は,衝動性の程度がOCDの亜型分類の基準となりえる可能性を示唆するものと考えた。

NPSLEの診断と治療効果判定における脳波およびMR検査の有用性に関する検討

著者: 石月正憲 ,   鈴木利人 ,   安部秀三 ,   山川百合子 ,   白石博康 ,   赤間高雄

ページ範囲:P.967 - P.973

【抄録】 全身性エリテマトーデス(SLE)に基づく中枢神経障害(neuropsychiatric SLE:NPSLE)における脳波およびMRI検査の有用性について検討した。対象はSLEの診断で脳波検査またはMR検査を施行された53例で,CarbotteらのNPSLE診断基準を用いて3群に分類した。脳波検査では基礎活動の徐波化を示す傾向を認め,精神神経症状が活発な早期に測定すると異常所見の出現が有意に高かった。また精神神経症状の軽快により脳波所見が有意に改善した。MR検査はmajor NPSLEにのみ脳萎縮像を認めたが,精神神経症状の差異に関して有意差は認めなかった。以上より,今回の検討ではNPSLEの脳波検査は治療効果の判定や精神神経症状の評価に有効であった。

Benzodiazepine系薬剤により偶発性低体温症を来した3例

著者: 赤沼のぞみ ,   有馬邦正 ,   木村通宏 ,   國弘敏之 ,   堀彰 ,   宇野正威 ,   高橋清久

ページ範囲:P.975 - P.981

【抄録】 偶発性低体温症は,原疾患なく急性に深部体温が35℃以下に低下する病態を指し,救急疾患の1つである。今回筆者らは,benzodiazepine系薬剤(BDZ)の単回投与により偶発性低体温症を来した3症例を経験したので報告した。2例は精神分裂病で精神外科手術後長期経過しており,1例はMarchiafava-Bignami病であった。3例に共通してみられたのは,脳の組織欠損,加齢および身体機能の予備力の低下,向精神薬の併用あるいは長期服用歴の3点であった。これらが背景要因になり,BDZの少量投与を誘因として偶発性低体温症が出現したと考えた。

短報

出産の27年後に精神症状が出現したSheehan症候群の1例

著者: 葉室篤 ,   宮岡等 ,   伊藤恵美 ,   坂井俊之 ,   吉邨善孝 ,   上島国利 ,   高場恵美 ,   槇政彦

ページ範囲:P.983 - P.985

はじめに
 Sheehan症候群は,1937〜1939年にSheehan12〜14)によって報告された,出産後の多量の出血やショックにより下垂体に虚血性の壊死を起こす疾患である。これは非腫瘍性であり,下垂体機能低下症の原因疾患の大半を占める。多彩な身体症状のほかに,精神症状としては,無気力・傾眠傾向・易疲労感・まれに慢性の幻覚を認め,分裂病様状態を呈することもある7,10,12)
 今回我々は,出産時,胎盤剥離不全から,多量の出血を来したが,無治療のまま長期間経過し,その後糖質コルチコイド補充療法を受けていたが,補充療法中断を契機に明らかな妄想や幻聴を呈した症例を経験したので,報告する。

激しい興奮を呈して措置入院となったSLEの男性例

著者: 恩田浩一 ,   永野満 ,   加藤敏 ,   清水輝彦 ,   小川祐子 ,   大島瑞穂 ,   三森明夫 ,   簑田清次

ページ範囲:P.987 - P.990

はじめに
 医療技術の進歩に伴い,かつては致命的であった疾病の多くが長期のコントロールを要する慢性疾患としての様相を呈するようになった。膠原病もそうした疾患の1つであるが,中でもSLEは経過中に様々な精神神経症状を呈する傾向があるので精神科医が診察する機会は他の自己免疫疾患に比べて多いと考えられる2,5)。今回我々は,入院加療中に意識変容を伴う一過性の激しい興奮を呈して緊急措置入院となった男性SLE患者を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

Risperidone服用中に生じた遅発性ジストニアの1症例

著者: 佐々木幸哉 ,   田中千賀 ,   小林淳子 ,   千秋勉 ,   村木彰 ,   池田輝明

ページ範囲:P.991 - P.993

 risperidoneは,いわゆるserotonin-dopamine antagonistに分類される抗精神病薬の1つで,その至適用量の範囲内では従来薬に比べて急性の錐体外路系副作用(以下EPS)の出現が少ないことが知られている9)が,同薬の長期投与に伴う遅発性のEPSについては,その出現頻度の検討がなされるには至っていない。今回我々は,risperidoneの服用によって生じたと考えられる遅発性ジストニア(以下TDt)の1症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

紹介

終末期癌患者の実存的苦痛—研究の動向

著者: 森田達也 ,   角田純一 ,   井上聡 ,   千原明

ページ範囲:P.995 - P.1002

はじめに
 近年,終末期癌患者の心理についての関心が高まり,精神科医の緩和ケアへの参加が期待されている。癌患者の苦痛を全人的に理解するために,緩和ケアでは,霊的苦悩(spiritual pain)注),すなわち,意味の喪失に基づく実存的苦痛の重要性が強調されている。欧米では,サイコオンコロジーの標準的教科書において霊的ケアが記載され,DSM-IVでは霊的苦痛を含む診断カテゴリーとして「宗教または神の問題」(臨床的関与の対象となることのある状態)が明記された21,59)。しかし,我が国では,霊的・実存的苦痛に対するケアは重要であると考えられているものの,精神医学領域において扱われることはほとんどない。今回,我々は,霊的苦痛の概念を明確にし,今後求められる研究を明らかにするために,霊的・実存的苦痛に関する内外の知見を系統的レビューの手法に準じてまとめたので報告する。

資料

皮膚電気活動と家族の感情表出

著者: 藤田博一 ,   下寺信次 ,   氏原久充 ,   三野善央 ,   井上新平

ページ範囲:P.1003 - P.1009

 精神疾患の症状経過に及ぼす環境因子の中で,家族が患者に向ける感情の表出(Expressed Emotion;EE)が,主に精神分裂病と感情障害を対象に研究されてきた。日本においても欧米でのEE研究と同様に,家族のEEが分裂病6,18)や感情障害25)の症状経過に影響を及ぼすことが示された。また,EE研究はその対象疾患が老人の精神疾患15,26)や摂食障害2)に広がり,さらに,患者の社会機能に対する影響も検討されている5)
 これまでEE研究は,家族が患者に与える影響を主に調べてきた。その逆に,家族から向けられる感情を患者がどのように受け止めるかという点についての研究は数少ない。その中では,研究は2つの方向に分けられる。1つは,患者がEEをどのように認知しているかを測定しようとする研究である。1988年にColeらは,Level of Expressed Emotion(LEE)という60項目からなる質問紙による検査を開発した1)。これは,家族面接によってEEを測定していたそれまでの方法と違い,患者側の視点に立ったより直接的な方法である。より簡単に,また家族の協力がなくてもEEを評価できる点で便利な方法である。1990年には,Kazarianら8)が,LEEとCamberwell Family Interview(CFI)の全点数には関連があると述べている。1997年に,Gerlsmaら4)は,26人の外来でのうつ病患者と対照者を比較し,LEEとうつ症状,人間関係の不満,ストレスへの対処法と関連していたことを示している4)

精神科医のプライマリケア研修—1臨床研修指定病院におけるローテート研修に関するアンケート結果から

著者: 青木勉 ,   林裕家 ,   丁子竜男 ,   種倉直道 ,   大塚祐司 ,   白石正夫 ,   矢野望 ,   川副泰成 ,   飯塚登 ,   大津正典

ページ範囲:P.1011 - P.1014

はじめに
 医療の専門分化による弊害が叫ばれて久しい。それを是正するために,医師の卒前卒後教育の在り方を問う努力が各方面で続けられており,厚生省は2000年をめどに卒後臨床研修の義務化を提案している。そして,精神科においても,他科と同様にプライマリケアの重要性が増してきている。
 旭中央病院は,千葉県北東部に位置し,総病床数942床(一般660床,精神250床,伝染32床)で,25診療科を有し,救命救急センターを併設し,1日平均外来患者数3,350名(1998年8月現在)で,診療圏人口が約70万人の地域の基幹病院である。1981年に厚生省の臨床研修指定病院となって以来,精神科医も初期研修中に一般身体科をローテートしている。また当院では卒後5年まで救命救急センターにおける全科の来院患者への対応が義務づけられており,卒後1年間は月3回のペースで副当直として上級医の指導を受けながら診療にあたり,2年目以降は月1〜2回当直医として1回20〜50症例を診察し,自信がない場合にはoncallとなっている各科専門医にコンサルトし,指導を受ける。このようにして,研修終了時には,一通りのプライマリケアの能力が身に付くこととなる。
 今回我々は,当院において初期研修を終了した精神科医10名にプライマリケア研修のアンケート調査を施行し,興味ある結果が得られたので考察を加え報告する。

動き

“予防精神医学”をメインテーマに—「世界精神医学会(WPA)アテネ会議」印象記

著者: 小椋力

ページ範囲:P.1015 - P.1017

 世界精神医学会(World Psychiatric Associatioll;WPA)の地域会議(Regional Congress)が「予防精神医学(Preventive Psychiatry)」のメインテーマのもとにギリシャ・アテネ市・ヒルトンホテルで1999年2月24日から28日までの5日間にわたって開催された。
 参加者は,事務局によると3日目の時点で610人であり,コメディカルスタッフも出席していたが,大部分は精神科医だとのことであった。参加者を国別にみると地元のギリシャをはじめ,近隣のユーゴスラビア,ウクライナ,トルコ,イタリア,さらには北欧,アメリカ合衆国,カナダ,南米からの参加者もあった。我が国からは筆者のみであったと思う。イギリス,オーストラリアで開催された予防精神医学に関する国際学会に参加した時と比較して,質問が少なく討論にやや活発さを欠いたが,この理由の一部として英語を母国語としない者が多かったこともあろう。

「第40回日本神経病理学会」印象記

著者: 天野直二

ページ範囲:P.1018 - P.1019

 第40回日本神経病理学会は,横浜市立大学小阪憲司教授のもとで6月3〜5日の3日間にわたって開催された。会場は,横浜港を見渡せるパシフィコ横浜であり,連日の天候にも恵まれ,ゆったりとした会場で盛況かつ成功裡に行われた。
 一般演題のジャンルは,変性,老年・痴呆,神経筋,血管・循環・外傷,発達障害,炎症・免疫・脱髄,代謝・中毒,腫瘍,基礎・関連に分けられ,総数259題の発表が行われた。その中では例年のように変性と老年・痴呆に関する発表が多かった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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