文献詳細
展望
精神科救急医療の現状と今後の方向—1地方の取り組みが提示する問題点と視点
著者: 酒井明夫1 鈴木満1 及川暁1
所属機関: 1岩手医科大学神経精神科
ページ範囲:P.1132 - P.1141
文献概要
現在,全国で精神科救急医療の整備が進められているが,その経過の中で明らかになってきたことが二つある。一つは,システム作りには地域差を考慮しなければならないということ,言い換えれば,各地域での精神科救急医療システムには,個々の医師—患者関係にも比せられる個別性や独自性が要求されるということであった。都市部と地方という大きな単位を取ってみても,その人口や人口構成,面積,産業基盤などが大きく異なり,自ずと精神科救急医療が対処すべき対象についても大きな差異が生じてくるのである。
もう一つは,こうした個別的なシステム形成の試みが,地域の特殊性を越えて,「精神科救急医療とは何か」という一般的な問題を提起していったことである。後者の意義はとりわけ大きく,精神科救急にとどまらず,精神医療とは何かという問題までも考えさせる地点に我々を導いたように思われる。
本稿での我々の意図は,自分たちが直接かかわり,体験したことを基盤にして「精神科救急の現状と今後の方向」を考えることである。したがってその方法は,全国的な動きを俯瞰的にとらえるというよりは,岩手県における精神科救急医療への取り組みとその現状を中心にしながら,大都市圏など他の地域との類似と差異を浮き彫りにし,その中で精神科救急に必然的に伴うと思われる問題点を抽出していくことである。問題点の中には,きわめて特殊な,地域性を反映したものとともに,一般的なものも数多く含まれている。これらの問題点を検討しながら,その解決につながるような視点を模索していきたい。
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