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雑誌目次

雑誌文献

精神医学42巻3号

2000年03月発行

雑誌目次

巻頭言

病気が見えるということ

著者: 大森哲郎

ページ範囲:P.226 - P.227

 正常と異常の境界というのはあるのですか,と医学生からよく質問される。答え方は場合による。こういう質問を受けるのは,多くは臨床実習のさいに特定の疾患や症例を話題にした後だ。その疾患や症例について比較的よく理解が行き届いた感があり,その上での質問であれば,境界は本当はあいまいなのだと正直に話す。糖尿病や高血圧にも正常とも病気とも言えない境界領域があるじゃないか,と付け加えて,境界上にある症例が時々あっても実際の診療には大きな支障はないことを納得してもらう。
 しかし,経験上,この手の質問が出るのは,むしろ病気がまったく見えていない時である。例えば外来実習で,発症にいくらか誘因も関与する軽症うつ病を診た後である。気持ちが落ち込むことなど誰にでもあるのに,この精神科医はあっさり病気として片づけてしまった,という不満気な表情を隠して,どこからが病気なのでしょう,と聞いているのである。軽症でも,中途覚醒や日内変動などのわかりやすい特徴症状があれば解説しやすいが,そうでもないことも多いから,なかなかすっきり納得してもらえないこともある。

展望

精神病理学の課題

著者: 松本雅彦 ,   高木俊介

ページ範囲:P.228 - P.240

はじめに
 ひとりの患者を前にして,この人はどういう人なのか,これまでどう生きてきてこれからどう生きようとしているのか,そして今この時点でどのような状態にあるのか,どのように苦しんでいるのか,また家族をはじめ周囲の人たちはこの人をどう見ているのか…などを,私たち精神科医は訊ね,それを記述してゆく。精神病理学の営みはこのように目に見えない患者たちの心とその周辺との関係を心理学的に観察し,それらを記述してゆくことを出発点としている。人間の生き方が絶えず変化しその変化に終わりがないかぎり,精神病理学的記述も終わるところはない。時には,「人間はどのようにしてあるのか」,翻って「私はどのような存在なのか」といった哲学的な問いにまで下降してゆかなければならない事態にも遭遇する。
 いま「どのように」と記した。人と人との間に生起する事態は,どうやらhowで綴るしかなくwhatではないらしい。howを記述する作業が終わったところで,やっと「いったいこの人は何に苦しんでいるのか」といった「何what」が浮かび上がってくる。その「何」も,たとえば被害妄想と名づけられるものであったとしても,それらはけっして実体ではなく,これまでの精神医学によって名が与えられ,精神科医同士の約束事となっている「概念」にすぎない。
 精神病の生化学,薬理学,生理学,画像診断学など生物学的な観点からの研究を専らとする学徒も,たとえば精神分裂病と診断し,その母集団を抽出するとき,必ずや患者と面接し,その状態像を記述するという手続きを踏んでいるはずである。ただ,目前の病者の姿をありのままに描き出すことは,けっして容易なことではない。観察者=治療者の態度いかんによって病者の示す姿は幾様にも変化しうるし,それを観察する治療者の視点もごく限られたものでしかないからである。さらに,この記述という作業は,治療的にも反治療的にもなりうる。
 本稿では,精神病理学をコトバによって病者の状態像を記述し把握する方法とする立場に立って,精神分裂病を中心にその歴史と今後の展望のいくらかを綴ってゆくことにしたい。

特別企画 精神医学,医療の将来

精神分析の最近の動向

著者: 小此木啓吾

ページ範囲:P.241 - P.253

はじめに
 ここでは,精神医学とかかわる方向で,精神分析に,いま,どんなことが起こっているかについて,私に身近な二,三の動きを概説する。

社会精神医学の将来—「役に立つ」精神医学の創出に向けて

著者: 野田文隆

ページ範囲:P.255 - P.262

はじめに
 公衆衛生学や疫学といった当初から「社会」を対象とした学問は除くとして,精神医学が医学の中で特異な位置を占めるとすれば,もとより「社会」という概念を包含して成立している医学であることであろう。今「社会内科学」,「社会外科学」という造語を持ち出してもさほど奇異に感じる医療専門家はいないと思う。移植,尊厳死,インフォームド・コンセント,生活の質,医療倫理といったテーマが盛んに議論される昨今,内科学も外科学も純系科学として「社会性」を排除しては存在できないことを誰もが知っているからである。しかし,内科学も外科学もその起源において病気の存在が社会を内包していると意識していたとは言い難い。不可思議な現象が,最終的には精神医学の扱いに回ることは日常臨床ではいまだに常套的なことである。そもそも不可思議な現象を対象とする精神医学は当初から,「社会の文脈(context)の中の病」という立場を意識せざるをえなかった。病が社会の寛容度(tolerance)によって相対化されるという現象もいやというほど見せられてきた。つまり病気という明確な実体が存在するというより,社会が,あるいは病者自身が,病を認知して初めて病となる構図が多かれ少なかれ存在してきたのである。例えば,分裂病は初めから身体的分裂病として存在するのではなく,社会的不自由さに遭遇してはじめて分裂病として認知される。一方では達者に暮らしている擬陽性,偽陰性分裂病は無数にいるはずで,精神医学の立場からはそれらをあえて掘り起こす必要もない。
 このような視点は究極のcure(治癒)を目指す内科学,外科学からはかけ離れているかもしれない。しかし,Cureとcare(ケア)のはざまを行く精神医学は,もとより社会精神医学の実践であったとも言える。民族学レベルの癒しの儀式と精神医学は決して遠い距離になく,家族の研究を抜きに精神医学の実践を語ることはできず,リハビリテーションはひとつの社会学にほかならないことなど例証にいとまがない。また,内因性精神病を疾病としてきちんと体系づけたE. Kraepelinが一方では,ジャワやシンガポールで「比較精神医学」のフィールド研究を行った事実も象徴的である。
 精神医学者の日常にかくも深く入り込んでいる社会精神医学的なるものの将来を語ることは難しい。それは精神医学の将来を語ることに等しいからである。しかし,一方では,生物学的精神医学,力動的精神医学と対比されて社会精神医学なる領域が確立されている。社会精神医学的なるものと社会精神医学は似て非なる部分も多い。本稿では,上述したように,精神医学は社会精神医学的なるものと不可分であることは前提として,精神医学総体の下位領域として発展してきた「社会精神医学」について私見を述べたい。それが,社会精神医学的なるものへ共鳴する議論を含んでいれば僥倖である。

生物学的精神医学研究の限界と将来

著者: 山内俊雄 ,   海老沢尚

ページ範囲:P.263 - P.271

はじめに
 近年の精神医学研究は生物学的研究が主流を占めており,「日本生物学的精神医学会」のように生物学的研究そのものを目的とする学会はもちろんのこと,精神医学に関連する学会の多くで生物学的研究が主体となっていることは周知のとおりである。そのことは本誌「精神医学」の投稿論文を見ても,その多くが生物学的研究であり,精神病理学的研究論文が少ないことからも明らかである。
 それでは,生物学的研究の将来は赫赫たるものであろうか。ここでは生物学的研究から得られるものとその限界,ならびに可能性について,主として精神病理学との対比において考えてみたい。というのは,従来から,精神医学の領域では生物学的アプローチと精神病理学的アプローチが研究の2大主流であること,同じ精神医学研究でありながら,互いに相手を異質な世界に属するかにとらえ,棲み分けて,生物学派と精神病理学派の2つの陣営に分かれているかの観があることも意識して,あえてこの2つを対峙的にとらえ,生物学的精神医学研究の抱える問題と将来を考えてみたいと思う。
 ところで,ここでいう「生物学的研究」,「精神病理学的研究」とはあくまでも研究方法を指しており,その意味では精神疾患の「生物学的アプローチ」「精神病理学的アプローチ」とでもいうべき意味であることをはっきりさせておきたい。そしてまた,精神病理学についても,精神症状を持つ一人の“ひと”の症状の成り立ち,病理を明らかにして,その“ひと”を理解しようとする「臨床精神病理学」的方法を指すものであることをお断りしておきたい。
 なお,本稿の基本的発想はかつて,基礎医学の道から精神医学の領域に移り,それも実験研究から臨床研究へ,そして社会医学的問題へと迷走を続けた筆者のひとり(山内)の極めて体験的な考えによるものであり,データに基づく,いわゆるevidence basedなものではないことをあらかじめご了承いただきたい。

研究と報告

情動情報に対する注意過程—強迫性障害患者と非臨床的強迫者の比較

著者: 鵜木惠子 ,   春日喬 ,   松島英介 ,   太田克也 ,   土井永史

ページ範囲:P.273 - P.280

【抄録】 情動情報に対する自動的/制御的処理過程について,確認強迫症状を示す強迫性障害患者(OCD患者)と強迫傾向が高い非臨床的強迫者(OCT者)との比較を行った。方法には情動ストループテストを用いた。刺激の種類は,不安語,強迫語,ポジティブ語,中立語の4種であり,それらを閾下,閾値,閾上の3条件で呈示し,被験者は刺激語の背景についた色をできるだけ早く答えることが求められた。意識が関与しない自動的処理過程(閾下)においては,OCD患者もOCT者も健常対照者に比べ,不安情報に対する感度が非常に高いことがわかった。しかし,意識が関与し始める段階(閾値)において,OCT者はOCD患者と異なり,不安情報への自動的処理を制御できることが明らかにされた。以上より,OCDは自動的処理過程だけでなく制御的処理過程にも問題があり,特に後者が発症メカニズムに関与していることが示唆された。

うつ病治療における認知療法,薬物療法,併用療法の効果比較—医療判断学的研究

著者: 柏木信秀 ,   高橋徹 ,   井上和臣

ページ範囲:P.281 - P.289

【抄録】 単極性非精神病性うつ病の治療法として認知療法,薬物療法,認知療法と薬物療法の併用療法を選択し,その効果を医療判断学の手法で検討した。最初に治療転帰を判断樹として表現し,次に文献検索によって精選された7件の無作為臨床試験から各転帰について確率値と効用値を求め,最後にそれぞれの治療法に対する期待値を比較する感度分析を行った。その結果,併用療法が最良の治療法であることが推測された。また,治療に伴う副作用と脱落率が期待値の差異に影響すると思われた。医療判断学によって治療選択の精度を上げるには,認知療法と併用療法の副作用を明確にし,それぞれの治療転帰に対する効用の測定が不可欠であると考えられた。

強迫性障害患者の洞察と治療反応性について

著者: 松永寿人 ,   切池信夫 ,   松井徳造 ,   岩崎陽子 ,   越宗佳世 ,   笠井慎司 ,   児嶋麻里 ,   宮田啓

ページ範囲:P.291 - P.297

【抄録】 強迫性障害(OCD)患者が,症状を不合理で過剰なものとする洞察の程度をYale-Brown Obsessive-Compulsive Scaleで評価し,洞察と治療反応性との関連について検討した。対象患者70例中61%が初診時に洞察良好と評価され(良好群),39%では洞察が不良であった(不良群)。不良群は良好群に比し,対称性や正確さ,儀式行為などの強迫症状がより高頻度で,強迫観念やうつ状態の重症度がより高度であった。治療開始半年後には,不良群の52%が洞察良好の状態となり,これらの強迫症状やうつ状態の改善率は良好群と同等で,不良群の中で洞察不良を持続していた患者に比し有意に高率であった。このようにOCD患者の洞察レベルは多様で,洞察自体は治療反応性に直接的には影響しないものと考えられた。

孤発性アルツハイマー病におけるα-2マクログロブリン遺伝子多型とアポリポ蛋白E,α1-アンチキモトリプシン,プレセニリン-1遺伝子型間の相関について

著者: 柴田展人 ,   大沼徹 ,   高橋正 ,   大塚恵美子 ,   植木彰 ,   新井平伊

ページ範囲:P.299 - P.302

【抄録】 α-2マクログロブリン(A2M)はアミロイドβの代謝に関与し,アルツハイマー病(AD)発症との関連が注目されている。欧米人種においてこのA2M遺伝子多型がAD発症の危険因子であると報告された。今回我々は多因子遺伝様式発症仮説に基づき,孤発性AD患者51例,健常対照者42例において,A2M遺伝子多型とアポリポ蛋白E,α1-アンチキモトリプシン,プレセニリン-1各遺伝子多型との関連を検討した。しかし,いずれの遺伝子多型間で比較してもA2M-1/2遺伝子型の保有率には有意差は認められなかった。孤発性アルツハイマー病では多因子遺伝様式の観点から今後別の遺伝子多型との関連も含めてさらなる検討を要するものと考えられた。

短報

青年期に分裂病様症状と二重身を呈した自閉症の1例

著者: 村田英和

ページ範囲:P.303 - P.305

はじめに
 自閉症は精神分裂病との関連が議論されてきた経緯があるが,最近は脳の微細な障害や発達障害としての位置付けがなされている。自閉症は成長につれ様々な症状を呈する可能性があるが,青年期に呈する症状として精神分裂病様症状は稀であると言われている。今回追跡が不十分であるが,青年期に分裂病様症状,二重身を呈した珍しい症例を経験したため報告する。

てんかん発作重積として治療されたヒステリー発作重積状態の1例

著者: 兼本浩祐 ,   宮本敏雄

ページ範囲:P.307 - P.309

 ヒステリー発作重積状態は,精神科救急の中では最も頻度の高いものの1つであり,発作重積状態として搬送される患者の何割かを占める重要度の高い病態である9)。ヒステリー発作重積状態とてんかん発作重積状態の鑑別は意外に困難であり,発作脳波同時記録が決め手となることが多い。しかしながら,発作重積状態においては,患者は不穏状態で激しい動きを伴うことも稀ではなく,容易に脳波を装着することができず,さらに脳波を装着しても筋電図の混入などから読み取りには熟練を要する場合も少なくない。
 今回我々は,2週間にわたっててんかん発作重積状態として呼吸管理を受けつつ,大量のベンゾジアゼピンの投与を連日受けながら全く発作が止まらなかったヒステリー発作重積状態の症例を経験したが,本症例においては発作脳波同時記録における「脳波異常の存在」が,診断の1つの根拠となっていた。

私の臨床研究45年

生物-心理-社会的統合モデルとチーム精神医療(第3回)—うつ病の精神力動と家族病理

著者: 西園昌久

ページ範囲:P.311 - P.315

対象に貧欲にしがみつく傾向―執着性格の精神分析的見直し2)
 1960年前後まで,私どもの大学精神科を受診してくるうつ病患者はそれほどには多くなかった。当時,私が在籍していた九州大学を例にとっても,その記録によると1年間の外来新患総数の中で,うつ病と診断されたのは,1960年2.3%,1965年6.2%,1970年8.2%と増加しているが初めは少なかった。昨年まで勤めていた福岡大学では,この10年近くは20%後半の頻度であった。1960年以前のうつ病は数も少なかったが,同時に,いわゆる内因性の特徴を持ったものが多く,それに時々,心因反応性のものをみることがあった。いわゆる神経症性うつ状態は少なく,当時のICD-8分類(WHO)に採用されたこの概念が妥当かどうか議論のあるところであった。それでもその後のICD-9にも「神経症性うつ状態」は独立した単位として掲げられた。それをアメリカ精神医学会のDSM-IIIでは,神経症という分類そのものを破棄して「大うつ病」としたのは周知の通りである。そのような「大うつ病」も患者によっては,一方の極に従来の内因性うつ病の特徴が,他方の極に神経症性うつ状態の特徴がみられ,残りの大多数は双方に分けがたい特徴が混在している。しかも,その後の鰻のぼりの受診患者の増加は社会や価値観の変化のために対象喪失体験の機会が多く,そのために発症した不適応型うつ病によるものである。うつ病は生物-心理-社会的に病因と治療を考えるべき典型的な病態であろう。

私のカルテから

低アルブミン血症を契機に抗てんかん薬中毒を呈した3例—蛋白結合型と遊離型薬物血中濃度の解離

著者: 児矢野繁 ,   渋谷克彦 ,   久保田真司 ,   岩淵潔

ページ範囲:P.316 - P.317

 最近,全身症状が悪化したために,抗てんかん薬を服用中の患者が,低アルブミン血症となり,その結果,抗てんかん薬血中濃度(蛋白結合型)は有効治療域に保たれていたにもかかわらず,薬物中毒症状を呈した3例を経験した。日常診療では蛋白結合型の薬物血中濃度を指標としながら薬物調整することが多いが,低アルブミン血症を伴う患者の場合,遊離型の薬物血中濃度のみが上昇することがあり,注意が必要と考え報告する。

高照度光照射に伴い睡眠相後退の改善した退却神経症の1例

著者: 堀正士 ,   早川達郎 ,   馬場淳臣 ,   水挽貴至 ,   鈴木利人 ,   白石博康

ページ範囲:P.318 - P.319

 引きこもりを主症状とする退却神経症の患者では,睡眠覚醒リズムの乱れがしばしば指摘される3)。一方で,睡眠相後退症候群(Delayed Sleep Phase Syndrome;DSPS)の患者では,退却神経症と共通するような性格傾向が指摘されており5,6),退却神経症とDSPSの関連に興味が持たれる。今回我々は睡眠相後退を呈した退却神経症の症例で,高照度光療法の施行に伴って睡眠相や覚醒水準の改善した症例を報告し,退却神経症における睡眠覚醒リズムについて考察する。

動き

「第14回日本老年精神医学会」印象記

著者: 笠原洋勇

ページ範囲:P.320 - P.321

 第14回日本老年精神医学会が1999年6月29,30日の両日にわたり本間昭会長(東京都老人総合研究所精神医学部門・研究部長)のもとで開催された。新装の日本都市センター会館に300余名の参加があり,公的介護保険制度のスタートに当たる時期とも重なり,プログラムは多岐にわたった。
 まず学会開催に先立ち,6月28日の午前には4つのセミナーが開かれ,午後は特別講演とシンポジウムが開かれた。学会に連動した公開シンポジウムであり,この企画だけでも内容は充実していた。会長自身の長年の経験からテーマは老年精神医学のみならず,老年社会,老年看護,老年介護などに及ぶ幅広いものであり,公的介護保険から後見法の法律や行政の今後の展望を見据えた内容となっていた。学会前日に開かれるこの公開のシンポジウムのテーマは「新時代を迎えた老人介護」であり,近い将来あるいは未来を見通し,ひいては2000年を迎える節目であり,さらに21世紀を展望することに重点が置かれていた。

「第33回日本てんかん学会」印象記

著者: 森本清

ページ範囲:P.322 - P.323

 第33回日本てんかん学会は,1999年10月22,23日の2日間,東北大学大学院精神神経学分野の佐藤光源教授を会長に,仙台国際センターにおいて開催された。本学会が仙台市で開かれるのは初めてと聞くが,昔から大脳生理学や臨床脳波学の盛んな当地の歴史を考えると,多少の驚きをもって本学会を迎えた。プログラムは大会前夜の,恒例となっているプレコングレス・サテライト・シンポジウム「てんかん―最新の検査法と治療への応用」(司会:音成神経内科クリニック・音成龍司,国立精神・神経センター・大槻泰介両氏)により,実質的な幕を開けた。
 本学会のメイン・テーマは,「難治性てんかんとその治療」であり,大会初日のプレナリー・セッションも,そのような統一テーマに基づいたプログラム配置がなされていた。すなわち,初日午前の部は,会長講演「てんかん学の進歩とキンドリング」(司会:東京警察病院脳外科・真柳佳昭氏)で始まり,シンポジウムI「てんかん外科手術後の神経心理学的変化」(司会:国立療養所静岡東病院・八木和一,東北大学大学院高次機能障害学・山鳥重両氏)において,難治てんかん手術後の高次脳機能や精神症状の問題が議論された。難治側頭葉てんかんに対する外科手術の機会は近年増加する傾向にあるため,時宜を得た企画であると思われた。それに引き続いて,カナダBritish Columbia大学のJuhll A Wada教授による特別講演I「Predisposed Susceptibility and Partial Seizure Disorder」(司会:佐藤光源氏)を拝聴することができた。この中でWada先生は,長年の霊長類を用いたご自身の実験てんかん研究を総括されたうえで,側頭葉てんかんの自然経過中に,キンドリング現象に類似した難治化のプロセスがみられるという興味深い臨床データにも言及された。

「第40回日本児童青年精神医学会総会」印象記

著者: 棟居俊夫

ページ範囲:P.324 - P.325

 第40回日本児童青年精神医学会総会は1999年10月20日から22日まで,札幌市教育文化会館において学会史上最高の853名の参加を得て行われた。
 会長は市立札幌病院静療院の設楽雅代院長である。プログラムは,6つの会場に分かれ次の通り進められた。会長講演「発達障害へのアプローチ—静療院の実践を通して」,2つの特別講演「イギリスにおける児童保護活動の現状」(Coral Margurite McGookin)および「思春期の心理療法」(河合隼雄),3人の討論者によるシンポジウム「青年期の臨床は今—現場における具体的対応で見えてくるもの」(青木省三,広沢郁子,田中哲),福祉と法に関する委員会と教育に関する委員会による2つのセミナー「こどもの虐待」および「保健室とこころの健康相談—高等学校の現場から」,市民公開講座「学級崩壊」,6つの症例検討,そして118題の一般口演と27題のポスターセッション。口演とポスターとを合わせた145題という演題数はこれもまた学会史上最も多かった。

「精神医学」への手紙

スピード重視時代の精神医学研究

著者: 藤川徳美

ページ範囲:P.328 - P.329

 1989年のベルリンの壁崩壊により引き起こされた地球規模の市場化により現代の企業社会は大競争時代を迎え,激しい競争を勝ち抜くために各企業は事業展開の迅速性と効率性を重視するようになってきた。具体的には,経営者の(1)迅速な意志決定と実行,(2)経営資源の選択と集中,(3)在庫期間の可能なかぎりの短縮化,(4)資産回転の向上などが求められている。中でも,技術革新の激しいネット関連業界や半導体関連業界ではさらに早い意志決定と実行が求められており,そのめまぐるしい変化は「ドッグイヤーのごとく」と呼ばれる。ドッグイヤーとは,犬の平均寿命は約10年と人の1/7であるから犬にとっての1年間は人の7年分の出来事が起こることを意味しており,つまり今までの常識の7倍の速度で意志決定と実行を行わないと激しい競争を勝ち抜けないという意味に用いる。
 このスピード重視の経営改革は1990年代に入りジャック・ウエルチ会長が率いるGE(ジェネラル・エロクトロニクス)社の経営戦略に取り入れられたのが典型とされ,この考え方は最初にアングロサクソン系の欧米企業に取り入れられ,その結果として競争の勝ち組としての膨大な利益と史上稀にみる高株価をもたらした。その一方,1990年代の日本企業は,バブルの負の遺産の解消というハンディキャップがあるものの,それ以上に経営改革の遅れが目立ち,意志決定の遅れ,デパート型の多角経営による経営資源の拡散などにより時代の流れから取り残され,大手電機,商社などの日本企業は大幅な赤字を垂れ流す結果となった。ここ1〜2年日本企業も遅ればせながら経営改革の必要性に気づき,大幅なリストラ,事業分離取締役会の改革などが行われ始め経営戦略の変化が見られるようになってきた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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