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雑誌目次

雑誌文献

精神医学42巻4号

2000年04月発行

雑誌目次

巻頭言

帰納的な思索態度

著者: 岸本年史

ページ範囲:P.336 - P.337

 春になった。桜の便りも聞かれる頃である。自分の体内に祭典のような蠢めきを感じる。新入生を迎えるごとくどの大学の教室も新しい教室員を迎えるだろう。つきなみな表現だが,彼らは期待で胸をふくらませ不安で胸を焦がしているだろう。私もそうだった。大学を卒業して,国家試験の発表を待っている時に観た映画を思い出す。ロバート・レッドフォードが初めて監督した作品,「普通の人々」。アメリカ中西部中産階級のとある家族,主人公の高校生コンラッドは,兄と2人で乗っていたヨットの事故で兄が死んだ後の自殺企図で精神科に入院し,その退院後に再び学校に戻っているが,生活に絶えず疎外感を感じ自分の感情がつかみきれない。父の勧めでバーガーという名の精神科医に通院し,次第に自分の感情を取り戻していく。夢でヨットの転覆事故にうなされる場面,泣きながらバーガーに電話をかけ,助けを求める場面などコンラッドの苦悩が伝わる。しかし兄を溺愛していた母は,そんなコンラッドに冷たくあたる。その妻の態度に父は結婚以来初めて疑念を抱き始める。家族が崩壊していく過程で真の家族が見える。素晴らしい映画だった。バックに流れていたパッフェルベルのカノンもよかった。映画館が明るくなったときに,私は涙を眼にためていたために一緒にいた人から優しく笑われた。説明はしなかったが,コンラッドが頼るバーガーの姿に患者の苦悩につきあう精神科医を見て,そこに入局を前にして不安の漲っていた私は素直に感情移入できたのだろう。バーガーをまねて,精神科医として当たり前のことだが,患者からの電話にはできるかぎり応じるように心がけている。当時PTSD(外傷性ストレス障害)という概念は日本には紹介されていなかったが,コンラッドはPTSDだったと思う。自分の診ていたなかなか合点のいかなかった患者がPTSDだと腑に落ちたとき,コンラッドもPTSDだったと気づいた。
 この「腑に落ちる」という体験はどういうものだろうか。それは何例か同じような症例にあたって,自分の経験というものができ,ある程度考えがまとまり,一応の診断はし,自分の頭の中で整理はする,しかしなんとなく引き出しの場所が間違っているのじゃないかという感覚をひきずっている,そこで,正しい引き出しを見つけたという感覚だろうか。このような帰納的な思索態度が重要ではないかと,私はこの頃考えている。

展望

薬物乱用者における脳障害の画像解析

著者: 関根吉統 ,   伊豫雅臣 ,   森則夫

ページ範囲:P.338 - P.344

はじめに
 現在我が国の薬物依存,乱用は低年齢者の増加も目立ち,大きな問題となっている。依存,乱用薬物は報酬効果以外にも様々な脳機能への作用を有し,一部は可逆的であり,一部は不可逆的なものである。ところで,X線CTやMRIは主に形態的変化を,そしてポジトロンCT(PET)やシングルフォトン・エミッションCT(SPECT),さらにファンクショナルMRIは機能的変化を調べるのに有用である。そして薬物依存についてのこれらの手法を用いた研究は,依存症発症機序の解明および乱用による精神毒性または神経毒性の発生機序の解明,またはそれらの毒性の診断を目的に行われている。
 依存性薬物の脳への作用は種類や使用量,使用期間によって異なると考えられる。また,薬物摂取行動に伴う非特異的な作用も脳の形態や機能に影響を与えるので,薬物依存症者を対象とした画像診断の場合,これらの要因について分析する必要がある。ここでは薬物依存の脳画像に及ぼす要因について考察し(図1),また,各種薬物依存の脳画像的特徴および現在までの研究成果を紹介する。

研究と報告

月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder:PMDD)の10例

著者: 山田和男 ,   神庭重信

ページ範囲:P.345 - P.352

【抄録】 DSM-IVの月経前不快気分障害(PMDD)の研究用基準案を満たす10症例を経験した。いずれの症例も,黄体期以外の時期には通常の生活を送れている(平均GAF得点=91.3±2.8点)ものの,黄体期の最も重症な時期では,不安症状を伴う中等症程度の大うつ病性障害に該当する状態を呈しており(ハミルトンうつ病評価尺度(17項目)合計点=19.2±3.6点),日常の社会生活にもかなりの支障を来していた(平均GAF得点=58.1±4.8点)。今後は,PMDDが広く一般にも認識されること,そして原因解明の研究が行われることを期待したい。

Maslowの欲求階層からみた過食症患者の心理と治療過程

著者: 野見山晃 ,   田代信維

ページ範囲:P.353 - P.362

【抄録】 過食嘔吐を主症状とする25歳の女性M子の治療を経験した。一般に精神療法において,何が重要であり,何に働きかけ,何が起こり,病態水準がどこにあるかを検討した時,明確にそのことを整理提示することや,患者が抱えていた苦悩,状態の変化,治療者の介入解釈の意味,姿勢を同僚にわかりやすく伝えることは容易ではない。
 そこで,M子の治療過程を,Maslowの5段階欲求分類によって吟味した。M子は所属と愛情の欲求で挫折しており高次の欲求へ進めず,また高次の欲求は低次の欲求を脅かしていた。その結果低次の欲求の充足に甘んじていた。その欲求をめぐる治療者の介入によって治癒していた。治療の場に表出された欲求の段階を推測し,その相互性に留意し,治療者の介入がどの欲求に向けられているかを意識しておくことが,早期に患者の中核的葛藤を把握し,治療の見通しを平明とすることに有用であると考えた。

自己の妄想性誤認

著者: 岩瀬利郎 ,   豊嶋良一 ,   加藤温 ,   溝口明範 ,   山内俊雄

ページ範囲:P.363 - P.371

【抄録】 妄想性人物誤認症候群の中には他者だけではなく,対象として自己を含むものが存在し「リバース・タイプ」と呼ばれていた。今回筆者らは自己を対象とする「リバース・タイプ」の3症例を呈示し,「自己の妄想性誤認」という精神病理現象について考察を試みた。これら3症例はそれぞれSilvaらの提唱する妄想性人物誤認症候群の分類のうち,「自己の心理的同一性の変容症候群」,「自己の身体的同一性の変容症候群」,「自己の身体的および心理的同一性の変容症候群」のそれぞれ異なるサブタイプカテゴリーに属しており,そのうち2例はカプグラ症候群など他のカテゴリーが共存していた。3症例の診断はそれぞれ心因反応,覚醒剤精神病,精神分裂病であった。リバース・タイプは従来のタイプとは病因論的に異なること,さらに自己分身症候群は自己対象とはいえず,リバース・タイプには含まれないことが示唆された。

直腸悪性カルチノイド腫瘍によるparaneoplastic temporal epilepsyと考えられた1例

著者: 松岡豊 ,   新垣浩 ,   田中邦明 ,   上田諭 ,   中林哲夫

ページ範囲:P.373 - P.378

【抄録】 症例は55歳女性。直腸悪性カルチノイド腫瘍術後,約2か月半後に自動症を伴う複雑部分発作とそれに関連したせん妄を呈し,その後痴呆状態に至り,術後約6か月後に腫瘍の局所再発を来した。本症例は画像所見,髄液所見よりカルチノイド腫瘍の中枢神経系への直接的障害は否定的で,亜急性の経過,精神症状より術後に残存していたカルチノイド腫瘍の遠隔効果であるparaneoplastic limbic encephalitisが疑われた。画像所見上,最初病変は認めなかったが,20日目の頭部MRIでは両側側頭葉内側・海馬において,FLAIR法で高信号を示し,69日目には同部位のFLAIR法で高信号の消失および海馬の萎縮という変化を認めた。

血漿中HIV-RNA量の増加とともにAIDS痴呆コンプレックスが進行した1症例

著者: 平林直次 ,   前原良子 ,   金子雅彦 ,   飯森眞喜雄 ,   山元泰之 ,   福武勝幸

ページ範囲:P.379 - P.385

【抄録】 AIDS痴呆コンプレックス(ADC)またはHIV脳症は中枢神経系へのHIV感染症によって引き起こされることが知られているが,ADCの重症度と血漿中のHIV-RNA量との関係は明らかではない。本症例は,免疫機能が重度に低下したHIV感染症の32歳男性で,CDC分類でC3期に相当していた。本症例は痴呆を示し,ADCと診断された。ADCによる症状は,血漿中HIV-RNA量の増加に伴って進行した。脳波上は,基礎律動が徐波化し,MRI,T2イメージでは脳萎縮と皮質下における異常高信号域が認められた。本症例では,ADCの進行と血漿中HIV-RNA量との問には正の相関が観察された。ただ,髄液中HIV-RNA量は測定しておらず,不明であった。
 ほとんどの抗HIV薬は血液・脳関門を経て十分に中枢神経系へ移行することは困難である。このように抗HIV薬の中枢神経系への移行率は低値であることから,血漿中と髄液中とではIHV-RNA量に解離が起こる可能性がある。また,血漿中と髄液中では薬剤耐性が異なるHIV株が出現する可能性もある。以上を踏まえると,今後ADCの進行と,血漿中さらには髄液中HIV-RNA量,および薬剤耐性との関係を検討する必要がある。

β遮断薬が有効であった遅発性ジスキネジアの1症例

著者: 佐々木幸哉 ,   小林淳子 ,   池田輝明 ,   田中千賀 ,   千秋勉 ,   村木彰

ページ範囲:P.387 - P.391

【抄録】 β遮断薬が著効した遅発性ジスキネジア(TD)の1症例につき報告する。症例は精神分裂病の25歳女性で,抗精神病薬の投与開始2年後より種々の不随意運動が出現し,ADLが大きく障害されるようになった。TDの診断のもとに,propranololの投与を開始したところ,明らかな副作用を伴うことなく,不随意運動の著明な改善が得られた。TDはpropranololの減量・中止によって再燃し,選択的β1遮断薬であるmetoprololの投与によってもやはり改善した。様々な知見から,β遮断薬は線条体においてβ1受容体を遮断することでドーパミン伝達を抑制し,TDに奏効する可能性が考えられた。

精神分裂病およびその他の精神病性障害のECT前後における局所脳血流量の変化

著者: 大神博央 ,   穐吉條太郎 ,   児島克博 ,   堤隆 ,   葛城里美 ,   清田晃生 ,   中山晃一 ,   三宅秀敏 ,   永山治男

ページ範囲:P.393 - P.398

【抄録】 ここ10数年,精神分裂病患者における脳機能画像研究が盛んに行われるようになった。しかし一致した所見が得られているとは言い難い。今回我々は精神分裂病および特定不能の精神病性障害と診断された患者7名を対象として,99mTc-hexamethylpropyleneamine oximeとSingle Photon Emission Computed Tomographyを用いてElectroconvulsive Therapy治療前後の局所脳血流量を測定した。ROIはMATSUI & HIRANOアトラスをもとに左右併せて50個設定した。緊張病症状が改善した2例においては左側頭葉,左前頭葉,左頭頂葉において脳血流増加がみられた。被害妄想が消失した3例,幻聴が消失した4例においては部分的に左側頭葉の血流増加がみられた。血流増加は緊張病症状に状態依存的に関係すると考えられた。左側頭葉へのECT自体と健忘の影響を考慮すると幻聴,妄想の改善に伴い状態依存的に血流が増加したとは断言できないと考えられた。

短報

タンドスピロンの単独投与によってうつ病の再発が抑制された1例

著者: 西嶋康一

ページ範囲:P.399 - P.401

 タンドスピロンは我が国で開発されたセロトニン(5-HT)1A受容体のpartial agonistで,欧米で使用されているブスピロンと同じazapirone系に属する抗不安薬である3)。現在,我が国で神経症,心身症に使用されている。一方,タンドスピロンには抗うつ作用もあるといわれており,うつ病に対する臨床使用も期待されるが,今のところ内因性うつ病に対する報告はほとんど認められない。今回筆者は,副作用のため従来の抗うつ薬が使用できず,頻回にうつ病相を繰り返す症例にタンドスピロンを単独投与したところ,うつ病相が抑制された症例を経験したので報告する。

過食症状に対するブロモクリプチンの治療効果

著者: 四宮雅博 ,   永田貴美子 ,   四宮滋子

ページ範囲:P.403 - P.406

 過食は,神経性大食症ばかりでなく,様々な精神障害や人格障害患者に出現する症状であり,しばしば慢性化し治療が困難である。過食の薬物治療としては,三環系抗うつ薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬をはじめ,モノアミン酸化酵素阻害薬,感情調整作用を持つ抗てんかん薬などが用いられているが,いずれも十分な効果が期待できるとは言い難い。
 摂食行動の調節には,セロトニン,ドパミン,ノルエピネフリンなどの神経伝達物質が関与していると考えられている2)。なかでもセロトニンは満腹感の調節に,ドパミンは食物による快楽反応(満足)に関連することが知られている。選択的セロトニン再取り込み阻害薬をはじめとする抗うつ薬による治療は,セロトニン作動性のシナプスへの効果を期待して用いられている。今回我々は,ドパミン系に作用するブロモクリプチンによる過食症状の治療を試みたので報告する。

資料

身体表現性障害の臨床的検討

著者: 大門一司 ,   野口俊文 ,   山田尚登

ページ範囲:P.407 - P.411

はじめに
 身体症状を訴えて内科などの専門科を受診し診察検査を受けたものの異常が認められないため,精神科への受診を勧められたり,自らが受診する症例が少なからずある。そしてその症状が,大うつ病による身体症状であったり,精神分裂病の病的体験症状であったりする場合がある。一方,身体症状の病因として心理社会的ストレスが強く関与していると判断され,適切な検査の後にも既知の身体疾患によって説明できない場合があり,これは以前から転換型ヒステリー(DSMでは転換性障害)として知られている。その典型的な症状(転換症状)は,麻痺,失声,視野狭窄,盲,知覚異常などである。
 前回,我々は転換性障害の臨床的特徴を調査検討し,(1)女性に多いこと,(2)40歳までの発症数が全体の約70%を占めること,(3)心理社会的ストレッサーでは,職場関係の頻度が高いこと,(4)67%の症例が発症してから1か月以内に治療機関を受診していること,(5)初診時は中等度から重度に社会的機能が障害されていること,(6)外来通院を継続し治療終結した症例が30%であるのに対して,初回もしくは途中で外来通院を中断した症例が58%を占めることを報告した3)

有意味語消失で示される発達退行を呈する広汎性発達障害児の早期発達についての研究

著者: 久保田友子 ,   立森久照 ,   長田洋和 ,   渡邊友香 ,   瀬戸屋雄太郎 ,   長沼洋一 ,   栗田広

ページ範囲:P.413 - P.418

 広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder;以下PDDと略す)は,①相互的な社会的かかわりの質的障害,②コミュニケーションの障害,および③興味・関心,活動の狭さ,偏りや執着的あるいは常同的な傾向という3つの大きな発達領域の障害によって特徴づけられる状態とされている2)。このPDDの下位カテゴリーの中核をなすのは自閉性障害であり,我が国での有病率は1/1,000強とされている7,15)。またPDD全体の有病率は,子どもの人口中で2/1,000程度と推定されている18)
 発達障害児の早期発達についての研究は,主に母親による回顧的情報によってなされているものが多い。発達の遅れは,明確な一時点で発現はせず,一定の経過中に徐々に明確になるものであり,回顧的方法に依存する部分が大きいことはやむをえないことである。しかし回顧的方法の限界や,得られた情報の不確実性が指摘されてきた5,17)

私の臨床研究45年

生物—心理—社会的統合モデルとチーム精神医療(第4回)—ライフサイクル精神医学

著者: 西園昌久

ページ範囲:P.419 - P.423

ライフサイクル精神医学の提唱―神経症症状から見たライフサイクル
 後にWHO事務局長になった中嶋宏さんがパリの国立研究所から帰国して日本ロシュ社に入られたことがあった。彼は日本の精神科医の間に神経症に対する関心の薄いことを憂えて全国的な研究会を作ることを提案された。その領域の教授たちのすすめもあってはじめのうちは大変な数の精神科医が集まっていた。しかし,ちょうど大学紛争の激しくなるのと時が一致し,また,本来神経症に特に興味がある人ばかりではなかったので急速にしりすぼりになって,最後は私一人残ることになった。その後,中嶋さんとは少なくとも月1回はあって議論する時期があった。彼が統計的処理をするのに専門家の便宜を図ってくれたので,私は神経症の分類を因子分析法を用いて行った。
 もう1つ統計的処理を用いて研究したのが,今回紹介する「世代別にみた神経症病像の特徴」2)である。Freud, S. の精神分析理論のように数少ない症例についての深い洞察から神経症理解に至る方法とともに,数多くの症例についての統計的処理によって仮説の論証に努める方法があるはずである。私は精神分析治療によって前者の方法をとり,あわせて後者の方法も採用したのである。

私のカルテから

臭化ジスチグミン(ウブレチド®)投与によりコリン作動性クリーゼを生じた1例

著者: 田村みずほ ,   小原圭司 ,   本井ゆみ子 ,   風祭元

ページ範囲:P.424 - P.425

 日常の精神科臨床において,向精神薬の副作用として出現する排尿困難に対し,臭化ジスチグミン(ウブレチド®)の投与はしばしば行われている1)。今回我々は,臭化ジスチグミンの投与により,コリン作動性のクリーゼを呈したうつ病の1症例を経験したので,ここに報告する。

右側頭葉腫瘍摘出後に全生活史健忘を呈した1例

著者: 松村雄彦 ,   佐藤裕 ,   宮川朋大 ,   前田正 ,   後藤健二 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.426 - P.427

 全生活史健忘とは,自己の記憶および自己と密接な記憶のみが失われる特異な健忘であり,おおむね心因性の障害と理解されている。一方,てんかん2,3,9)や正中過剰腔1)を伴った症例も報告されており,症例によっては器質的要因の関与も否定できない。今回我々は右側頭葉脳腫瘍の摘出術後に全生活史健忘状態を呈した症例を経験したが,全生活史健忘の器質的要因について考える上で貴重な症例と考えられたので,若干の考察を加え報告する。

動き

「第12回日本総合病院精神医学会総会(佐賀市)」印象記

著者: 篠原隆

ページ範囲:P.428 - P.429

 第12回日本総合病院精神医学会総会は,1999年12月3日から4日まで佐賀市において開催された。会長は佐賀医科大学の武市昌士教授で,基本テーマは「プライマリ・ケアと総合病院精神医学の接点」であった。300名あまりが参加したという。
 大会は教育講演,会長講演,招待講演,ランチョンセミナー,ワークショップ,ポスターセッション,金子賞受賞記念講演を軸に,81題に及ぶ一般演題が集まった。全体として,法整備や保険制度に関連した医療システムの話題からリエゾン精神医学の実践や脳器質疾患の治療や診断に関する話題,さらには症例の報告にわたる,活発でバランスのとれた発表内容であった。

「精神医学」への手紙

米田論文への文献の追加

著者: 飯田真

ページ範囲:P.431 - P.431

 貴誌1999年8月号の「展望」,米田博・横田伸吾著「精神疾患における双生児研究の歴史と今後の方向」を拝読しました。私は,米田氏とは「精神医学レビュー No. 28,1998」の座談会「精神疾患の遺伝をいかに解明するか」で同席し,その席上で私どもの双生児研究の成果を詳しく説明したのですが,それらの研究に全く言及していただけなかったことを残念に思っています。
 以下に,私どもの双生児研究についての代表的な論文を列記させていただきますので,双生児研究に関心のある読者の方々は,「展望」欄とあわせてお読み下さいますようお願いいたします。

精神医学における2つの「知」

著者: 長嶺敬彦

ページ範囲:P.432 - P.434

はじめに
 真実は1つであるとしても,そこに至る手法は必ずしも1つとは限らない。科学的手法を用いた明解な医学論文でさえ,真実を100%その通りに表現しているわけではない。あくまでも真実に近似し,表現しているにすぎない。さらに科学的手法による数量化されたデータより,定量化できない感覚によるデータのほうが,より真実を伝えていることもある。
 最先端の明解な医学論文と臨床現場の隔たりを感じていたところ,本誌第41巻第11号の2つの論文を拝読し,共感,賛同した。「精神医学における科学性,知性,倫理性」という前田久雄氏の巻頭言3)と,「精神医学は本当に日進月歩?」という藤川徳美氏の「精神医学への手紙」1)である。両氏とも,精神医学が発展していくには,科学的手法を精神医学に応用するだけでは不十分で,目の前の患者さんに向き合い,そこからいかに真実を見つけていくかが大切であることを強調しておられた。両氏の視点を「科学の知」と「神話の知」という文脈で読み直してみたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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