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特集 精神疾患の発病規定因子
精神分裂病の発症とライフイベント—ストレス—脆弱性モデルに基づく心理社会的研究と生物学的研究との統合
著者: 酒井佳永1 大島巌1
所属機関: 1東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野
ページ範囲:P.463 - P.471
文献購入ページに移動精神分裂病において,ライフイベントや家族のかかわりなどの心理社会的要因が,その発症,経過,予後に影響を及ぼすことは経験的に知られていた。こうした心理社会的要因の影響は,1960年代後半から様々な実証的研究によって明らかにされてきた。さらに近年では,遺伝的要因や神経生理学的な異常などの生物学的要因が精神分裂病の発症に及ぼす影響を明らかにする研究が盛んになるにつれて,ライフイベントなどの心理社会的要因が精神分裂病の経過に及ぼす影響を,生物学的要因と共に研究枠組みに組み入れた研究も行われている。この理由の1つとして,ストレス—脆弱性モデルに基づき,生物学的アプローチと心理社会的アプローチの統合が模索され始めたことが挙げられるだろう。
精神分裂病の発症,経過,症状の重症度とライフイベントとの関連を実証的に検証した研究は数多く存在する。本論文では,ライフイベントを中心に,心理社会的要因と精神分裂病の発症との因果関係を洗練された方法論を用いて検証した研究を概観するとともに,生物学的な脆弱性と心理社会的要因の,精神分裂病の発症に対する交互作用的な影響を検証した最近の研究を検討する。
なお,精神分裂病におけるライフイベントの研究は,その初発と再発への影響を明確に区別したものが少ないため,本論文では,初発と再発の双方とライフイベントとの関連を取り上げることとする。
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