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妄想発展に神経解剖的素質はあるか?—症例ワーグナーへの追加
著者: 岩脇淳2 中村俊規3 仙波純一4
所属機関: 1 2獨協医科大学精神神経科 3獨協医科大学越谷病院救急部 4放送大学教養学部
ページ範囲:P.627 - P.634
文献購入ページに移動チュービンゲン大学精神科でもっとも有名な症例のひとりは教頭Wagner(ワーグナー)である。Wagnerは1913年の11/11から12/24までの6週間,Gauppの鑑定を受けるためチュービンゲン大学病院に入院した。その後,彼は1938年4月の死に至るまで精神病院に在院した。Wagnerは世界的にも最も大量かつ詳細な症例記録を残し,学問的にも最も精力的に討論された個人症例の1つである。Gaupp自身もWagnerについての著作をしばしば公刊し,英訳も出されている。
私はここで改めてこの症例について報告したいと思うが,それは紛失したと思われ,今まで調べられていなかったWagnerの脳が,デュッセルドルフ大学フォークト脳研究所の脳標本の中から見つかったからである。その脳は左の海馬傍回に,限局性であるが明らかな皮質発達障害を示していた。同様の所見は分裂病患者にも記述されているものであり,今日の辺縁系の生理学によれば,分裂病および分裂病様症状の広範なスペクトラムの素地となる病理組織的な基盤と考えることができる。
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