文献詳細
短報
Pellagra sine pelle agra psychosisを合併したAnorexia nervosaの1例
著者: 小林裕人1 中山道規2 長嶺由輝2 野村総一郎2
所属機関: 1防衛医学研究センター行動科学研究部門 2防衛医科大学校精神科学教室
ページ範囲:P.741 - P.743
文献概要
低栄養状態を招く病態の1つとして摂食障害は注意を要するものであり,心理的ケアとともに身体合併症管理の重要性も強調されている。特にanorexia nervosa(以下AN)では,飢餓状態に基づく内分泌異常,電解質異常,低リン血症,微量元素の代謝異常などのほか,AST,ALTが4桁を示すような肝機能障害,徐脈など循環器系の異常,骨髄低形成による血液学的異常なども指摘されている。Pallaら5)によれば,10〜20歳の摂食障害患者65名の診療録を用いたretrospective studyにおいてanorexia患者の55%,bulimia患者の22%が経過中何らかの身体的合併症のために入院が必要であったという。また,中枢神経系の合併症としては,駒井ら3)によりWernicke脳症を併発して後遺症を残したANの症例も報告されている。
ペラグラは周知のように,ニコチン酸欠乏により3Dと称される皮膚炎(Dermatitis),下痢(Diarrhea)を主とした消化器症状,精神症状(DementiaもしくはDelirium)を呈する疾患である。今日ではペラグラの報告はアルコール依存症に合併したものが大半を占めており,摂食障害の合併症としての報告2,6)はほとんどなされておらず,とりわけ精神症状を呈したものの報告例は見当たらない。
最近我々は,摂食障害に皮膚炎を欠くペラグラ(pellagra sine pelle agra)を合併し,ペラグラ精神病としてのせん妄状態,幻覚妄想状態の確定診断に苦慮した症例を経験したので報告する。
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