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文献詳細

雑誌文献

精神医学42巻7号

2000年07月発行

文献概要

試論

境界例は人格障害か?

著者: 高岡健1 平田あゆ子1 栗栖徹至2

所属機関: 1岐阜大学医学部精神科 2羽島市民病院精神科

ページ範囲:P.753 - P.760

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はじめに
 境界例論の成立過程に関しては,すでに定説化したかのようにみえる理論史がある。それは,境界例を精神分裂病の1表現型として位置づけようとする議論から出発し,両者の移行状態とする考え方を経て,独立した臨床単位とする考え方に至り,最終的には人格の病理とする理論へ到達したというものである21)。しかし,このような境界例論の変遷は,直線的に進行してきたものではない。Schwartzberg26)の総説をみると,1950年代までの段階ですでに,精神分裂病の1表現型としての位置づけばかりでなく,臨床単位とする考え方や,人格の病理とする理論が混在して登場していることがわかる。その後,臨床単位論に属するGrinker15)を転換点として,1960年代以降の境界例論は,人格の病理としてすでに疑いなく確立されたもののように振舞うことになるのである。
 米国の1960年代は,それまで支配的であった精神分析が治療的に有効とされなくなり,その結果,生物-精神-社会的アプローチが要請されるようになるとともに,他方では「精神病は神話に過ぎない」というプロパガンダにさらされた時代である25)。すなわち,それに先立っ1950年代は精神分析の開花期であったが,1960年代になると精神分析がイデオロギーと化し,デシジョンメーカーたちは精神医学の診断能力や治療能力に疑いを持つようになるとともに,脱施設化や費用効果の問題とも相俟って,精神医学を,無限の資源を要求する地獄(ボトムレスピット)として描くようになったということである。米国経済社会の変化とデシジョンメーカーたちの動向に規定されて,Grinkerが目指したものは,第2次世界大戦後の精神分析学からの離陸であり,サイエンスとしての精神医学を企図するというパラダイムチェンジであった。彼の境界症候群は,そのような文脈のうちに位置づけられねばならない。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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