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私の臨床研究45年
生物—心理—社会的統合モデルとチーム精神医療(第7回,終章)—治療と予防—家族機能,そして精神科医への期待
著者: 西園昌久12
所属機関: 1心理社会的精神医学研究所 2福岡大学
ページ範囲:P.769 - P.773
文献購入ページに移動精神障害の成因に関する生物—心理—社会的統合モデルは,1999年の世界精神医学会ハンブルグ大会の機会に創設された同学会学会賞の選考基準にもされたほど理念的には国際的に受け入れられている。しかし,これら3つの要因が精神医学の領域で揃って総合的に治療や研究に活かされているかというと決してそうとは言いきれない。早い話が,この生物—心理—社会的統合モデルを提唱したのはこのシリーズ第2回にも述べたように1977〜80年ごろのアメリカのG. Engelであるが,その頃から皮肉なことにアメリカの精神医学は徹底した生物学指向になっていったのである。しかしそのアメリカでも最近,様子がまた変化してきている。Dr Weissman,Sabshin,Eist7)が編集した“Psychiatry in the New Millennium”には現在のDSM-IVの5軸診断を8軸診断に変更することが提案されている。その中にこの統合モデルが具体化されることが述べられている。その内容については後述したい。
私が精神科に入局した頃と言えば,精神分裂病に関しては,我が国の精神科医はほとんどがクレペリアンであった。一部,精神分析の影響を受けた人たちが心因の可能性を主張して日本精神神経学会でもそのためのシンポジウム(新潟学会)が開かれたが,ほとんど不毛の論議に終わったと思われた。しかし,その後,精神分裂病の疾病モデルをめぐる状況は変化している。具体的には図に示したように,KraepelinやJaspersの脳の病的過程論,あるいは了解不能—説明理論を超えて,Zubinのストレス脆弱性モデル,あるいはCiompiの脆弱性—長期展開モデルへと変化している。それらはかつての生物因論と心因論との対立を超えて生物—心理—社会的多次元の原因が重なり合ったものという統合モデルへと発達しているのである。ことに,社会復帰に関しては,さらに医療と福祉との統合モデルが求められている。
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