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雑誌目次

論文

精神医学43巻10号

2001年10月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学におけるEBMとNBM

著者: 加藤敏

ページ範囲:P.1052 - P.1053

 概して,欧米の考え方が日本に導入される際,あるひとつの局面のみが誇張した仕方で喧伝されることが多い。例のEvidence-based medicine(EBM)にもこのことがあてはまるように思われる。最近,私はEvidence-based medicine,およびNarrative based medicine(NBM)(以下,それぞれエビデンス立脚医学,語り立脚医学と試訳する)をめぐるイギリス,アメリカの動きに目を通す機会を持ち,この観を強くした次第である。
 エビデンス立脚医学の術語,および考え方が最初に提出されたのは,1992年のアメリカ医学会誌の論文「エビデンス立脚医学―医療実施の教育への新しいアプローチ」(JAMA268:242-246)のようで,著者は大半が臨床疫学を専門にしている学者から構成され,「エビデンス立脚医学研究グループ」となっている。その4年後に,その有力なメンバーであったD. L. Sakettらは,イギリス医学誌(BMJ 312:71-72,1996)にて,エビデンス立脚医学が実際の医療現場においてもつ意義と限界を明確に論じた。この論稿で重要なのは次の条りである。

研究と報告

Beck自己評価尺度を通してみたアルコール依存症とうつ症状

著者: 宮川朋大 ,   飯塚博史 ,   松本俊彦 ,   岸本英爾 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.1055 - P.1062

【抄録】 入院アルコール依存症患者に対し,Beckのうつ病自己評価尺度(BDI)を実施し,治療者の臨床診断,退院の転帰,退院後6か月の予後との関係を検討した。BDIの合計点平均が,入院直後で19.8点,1か月目で15.5点,3か月目で12.5点と経時的に減少した。うつ症状を有する症例は高得点であったが,臨床所見とBDIが一致しない症例もあった。項目別では,「罰を受けている」という意識が3か月経っても持続する傾向があった。退院転帰や6か月予後とBDI合計点との間に相関を認めなかった。アルコール依存症者にうつ症状が遷延する場合,症例によっては,抗うつ薬治療を含む特別の対応がうつ症状の改善やアルコール依存症治療に有効であると考えられた。

時計描画テスト—簡易痴呆重症度評価法

著者: 北林百合之介 ,   上田英樹 ,   成本迅 ,   中村佳永子 ,   北仁志 ,   福居顯二

ページ範囲:P.1063 - P.1069

【抄録】 時計描画テスト(CDT)は,被検者に時計を描画させる簡便な認知機能評価法である。海外では優れた検査法として広く臨床にも用いられているが,本邦ではCDTに関する研究は少なく,その有用性が十分に認知されるに至っていない。本研究では,これまで海外を中心に報告されたCDTの施行・採点法について紹介し,それらの中の1法を用いてアルツハイマー病患者96名,脳血管性痴呆患者40名に対しCDTを施行した。いずれの痴呆群でもCDT得点と代表的な認知機能検査であるMMSE得点の間には有意な正の相関が認められた。CDTは本邦においても簡易痴呆重症度評価法として有用な検査法と考えられた。

Fluvoxamine投与2週間後にセロトニン症候群を呈したうつ病の1例

著者: 山田恒 ,   松井徳造 ,   松永寿人 ,   橋本博史 ,   勝元栄一 ,   切池信夫

ページ範囲:P.1071 - P.1076

【抄録】 今回我々は,うつ病の治療中にfluvoxamineを投与し,2週間以上経過後にセロトニン症候群を呈した1例を経験した。症例は56歳の主婦で,3年前からうつ病のため,入院および外来治療を行っていた。三環系および四環系抗うつ剤やsulpirideによって副作用を生じていたので,今回の入院時にfluvoxamine 50mg/日の単独投与を開始した。しかし約2週間経過した後に,意識障害,反射の亢進,発熱,焦燥感などの神経,精神症状が突然出現した。身体所見や検査結果より,セロトニン症候群と診断し,fluvoxamineの投与を中止したところ,大部分の症状は2日以内に消失したが,腱反射亢進のみ5か月以上遷延した。fluvoxamineにより引き起こされるセロトニン症候群について,症状発現ならびに消失までの期間,発症の危険要因などについて,既報告の結果を踏まえて若干の考察を加えた。

塩酸ドネペジル使用により,介護負担が増したアルツハイマー婦病の1例

著者: 牧徳彦 ,   繁信和恵 ,   池田学 ,   鉾石和彦 ,   小森憲治郎 ,   田辺敬貴

ページ範囲:P.1077 - P.1080

【抄録】 アルツハイマー病の治療薬として,現在わが国で唯一使用されている塩酸ドネペジル(アリセプト)を半年に渡り用いたところ,日常生活動作能力の改善を来したが,活動量の増加と易怒性の亢進,性欲亢進により,逆に介護者の介護負担感を増した中期アルツハイマー病例を経験したので報告する。塩酸ドネペジルの副作用ととらえるべきか,塩酸ドネペジルの薬効による日常生活動作能力改善の1つととらえるべきかの判断は困難であるが,塩酸ドネペジルの使用に際して介護者の介護負担感に配慮する必要性を示唆すると考えられた。

短報

リスペリドン投与中にピサ症候群を呈した精神分裂病の1症例

著者: 原田研一 ,   佐々木信幸 ,   橋本恵理 ,   土岐完 ,   池田官司 ,   中野倫仁 ,   小澤寛樹 ,   齋藤利和

ページ範囲:P.1081 - P.1084

はじめに
 ピサ症候群あるいは薬剤誘発性側方反張はEkbomら4)によって初めて報告された主に抗精神病薬によって惹起されるジストニア様の不随意運動の一種であり,体幹が後方に軽度同旋しつつ側方に屈曲するという特徴的な姿位を呈する。
 ピサ症候群の原因薬物について,抗うつ薬投与中に発症したとする数例の報告11)を除いて,大多数の症例がhaloperidolなどのいわゆる古典的抗精神病薬投与中に発症している。しかしながら近年,錐体外路系の副作用を起こしにくい抗精神病薬としてclozapineなどの非定型抗精神病薬が臨床場面で普及するにつれ,それらの投与中にピサ症候群が発症したとする報告が散見されるようになった1,6,7)
 今回,我々は非定型抗精神病薬の1つでありserotonin-dopamine antagonistであるrisperidone投与中にピサ症候群を呈した精神分裂病の1症例を経験したのでここに報告する。我々の知るかぎりにおいて,これまでにrisperidone投与中のピサ症候群発症の報告はなされていない。

拡張型心筋症(DCM)に重症うつ病を併発し,Milnacipran(SNRI)が有効であった1症例

著者: 三澤仁 ,   伊藤耕一 ,   田吉伸哉 ,   金井貴夫 ,   青野成孝 ,   関由賀子 ,   笠原敏彦

ページ範囲:P.1085 - P.1087

はじめに
 これまで低心機能の慢性心不全患者にうつ病が合併した場合,従来の三環系および四環系抗うつ剤では刺激伝導系障害などの心毒性が問題となり,薬物療法を行ううえで障害となることが指摘されている1)。また,不安焦燥感や希死念慮が強く,緊急治療としてm-ECTが必要と思われる症例にも,治療が心臓に与える影響を考慮すると麻酔科管理の下でも大きなリスクがあると言わざるをえない6)。今回,我々は拡張型心筋症(DCM)で心不全を合併し,なおかつ,強い自殺念慮を伴う重症うつ病の症例を経験した。種々の薬物療法を試みたが十分な効果を上げることができず,結局milnacipranを中心とした抗うつ剤治療で短期間に著明な抑うつ状態の改善を得たうえ,心機能をはじめとして身体的にもなんら臨床的悪影響を与えなかった症例を経験したので,ここに報告する。

Subclinical Hyperthyroidism下で躁状態を呈したBasedow病の1例

著者: 千葉寛晃 ,   塩入俊樹 ,   染矢俊幸

ページ範囲:P.1089 - P.1091

はじめに
 最近,Basedow病の治療により甲状腺機能は正常化したものの甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低下した状態となるsubclinical hyperthyroidism(SCHT)下における精神疾患が注目されている8)。SCHTとは①甲状腺機能は正常で,②TSH低値(<0.5μU/ml)である状態と定義され,①甲状腺機能亢進症で治療により甲状腺機能が正常化した場合,あるいは②甲状腺機能低下症で甲状腺末を服用している場合に生じることが多い8)。しかし,これまでの数編の論文ではSCHTとうつ状態との関連性を示唆するものがほとんどである5,8,11)。今回我々はSCHT下において躁状態を呈したBasedow病の1例を経験したので報告する。

デイケアにおける精神分裂病患者に対する就労援助

著者: 宮本歩 ,   金城淳恵 ,   長尾喜代治 ,   長尾喜一郎 ,   山田亘 ,   長尾喜八郎

ページ範囲:P.1093 - P.1096

はじめに
 ねや川サナトリウムでは1989年に精神科デイケアを開設し,1日の通所者数が1996年度には70数人となったが,同年度にデイケアを退所した72人の退所理由を調査したところ,就労のためデイケアを退所したのはわずか6人であり,デイケア通所者の48%が一定期間就労したという宮内らの報告6)よりもかなり低い就労率であった。これは精神科デイケアを医療型,訓練型,生活支援型,憩いの場型の4種類に区分した場合5)当院のデイケアが憩いの場型となっているために,通所者の就労意欲が低下しているのではないかと考えた。そこで,1997年7月より単純な作業内容で就労への動機づけを行う就労援助プログラムを導入したところ,プログラム参加者24人中11人が職業に就き,スタッフが評価しうる尺度により,ある程度就労予測をすることができたので若干の考察を加え,報告する。

資料

痴呆患者のターミナルステージにおける医学的介入と身体抑制

著者: 藤川徳美

ページ範囲:P.1097 - P.1103

はじめに
 痴呆のターミナルステージ(終末期)は,狭義には,(1)痴呆があり,(2)患者との意志疎通が極めて困難か不可能な状態にあり,(3)痴呆の原因疾患による神経症状として嚥下が困難か不可能な状態にあり,これらの状態が非可逆的である状態を示し,広義には,狭義の状態に加え,身体疾患がターミナルステージにある状態と定義される3)。がん患者におけるターミナルケア(最近ではend-of-life careと呼ばれることが多い)に関しては以前から数多くの報告があり,過剰な延命処置を行わないホスピスケアが導入されているが,痴呆患者におけるターミナルケアの報告は少ない。
 痴呆のターミナルステージでは,患者が同意能力を欠くため,医学的介入に際し身体抑制が必要となることも多く,我々医療者はその施行の是非の判断に苦慮することが多いが,今までこのものを検討した報告はほとんどない。前回我々は,当院の痴呆病棟に勤務した経験のある看護スタッフに対して,医療者の立場から重度痴呆患者のターミナルステージにおける各種医学的介入の施行の是非についてどのように考えるかを調査した1)。その結果,「積極的に行う」との意見はほとんどなく,「最低限のみ行う」「行わない(身体抑制をしない)」という意見に分かれた。点滴については,24時間持続身体抑制が必要となる「IVH」「24時間持続点滴」は行わないが,「500mlの点滴2本」「100mlの点滴2本」は時間を限定した身体抑制を行ってでも行うという意見が多数を占めた。その他の医学的介入の是非については意見が分かれ,統一した見解が得られなかった。
 今回は,徘徊を主訴とする重症痴呆患者のターミナルステージにおける各種の医学的介入の是非について,身体抑制との関係も含めて(A)自分自身が患者となった場合どうしたいか,(B)自分の家族が患者となった場合どうしたいかを調査し,前回の医療者の立場での調査と比較した。また,痴呆のターミナルステージにおいて,医療者として医学的介入に伴う身体抑制についてどのように考えるかを尋ねた。「身体抑制はできるだけ減らすべきだ」と答えた人には,医学的介入に伴う身体抑制を行う場合の1日あたりの上限(時間)と,身体抑制を行う場合の日数の上限(日)をどのように設定するかを調査した。

精神医学における日本の業績

島薗安雄の功績

著者: 小島卓也

ページ範囲:P.1105 - P.1111

はじめに
 島薗安雄(1920〜1997)は1943(昭和18)年9月東京帝国大学医学部医学科を卒業し,東大精神医学教室に入った。当時戦争の真っ最中で大部分が軍医として戦地に赴いたが,少数のみ大学院特別研究生として大学に残る制度が作られ,130人中の4人だけ大学に残ることになった。身体だけでなく心も扱う医師になること,最も不思議な臓器である脳の働きの謎を解きあかしたいという2つの理由から精神医学の道を選んだという。
 島薗安雄の功績は大きく分けると3つになると思う。第1は精神医学に対する功績であり,第2は精神医療(行政)に対する功績で,第3は関連する学会の発展に大きく貢献したことである。この順に従って述べてみたい。なお,島薗安雄の教室員との関係や人柄などについては別の論文3)や追悼集2)をご覧いただきたい。
 なお本稿の「精神医学に対する功績」の部分は島薗安雄自ら記した「脳の働きと心の関係を求めて一島薗安雄論文選集」23)をもとにしてまとめたものである。

私のカルテから

39歳まで経過を観察したFraser症候群の1症例

著者: 中山浩 ,   黒川新二

ページ範囲:P.1112 - P.1113

 Fraser症候群については明確な定義はないが,一般的にはcryptophthalmia(潜在眼球症),手指や足指の癒合,泌尿生殖器系奇形の3つの奇形の組合せを指すことが多い。今回,これまでの報告の中では最も長く経過を観察できたFraser症候群と考えられる症例を経験したので,その経過を知能面を含めた精神状態を中心に報告する。

シンポジウム 精神分裂病の心理社会的治療の進歩

精神分裂病の心理社会的治療についての議論の今日的意義

著者: 松下正明 ,   林直樹

ページ範囲:P.1115 - P.1115

精神分裂病治療における心理社会的治療の位置づけ
 精神分裂病の治療にはさまざまな方向からの実践が含まれているが,特に心理社会的援助は,その中の基本的なものの一つとしてとらえることができる。それは,精神障害の治療が本来,患者と医療スタッフのかかわりの中で進められる営為であり,対人関係もしくは社会的場における働きかけが前提とされなければならないからである。また,近年長足の進歩を遂げ多くの期待を集めている薬物療法においても,そこに心理社会的援助の下支えがやはり不可欠である。
 さらにこの基本的領域では現在,特定の技法を用いたさまざまな治療法の開発,研究が進められている。最近,この治療をテーマとする総説や特集が国際誌に相次いで掲載されているが(J Nerv Ment Dis 188:187-201,2000,Schizophr Bull 26:2000の特集,Acta Psychiatr Scand 102:98-106,2000,Am J Psychiatry 158:163-175,2001),このことは,この治療の実績が十分に確認され,さらにその見直しの時期に差しかかっていることを物語るものであろう。本シンポジウムの目的の一つは,そのような心理社会的治療の現状の一部を示し,その成果を共有することである。

概説:精神分裂病の心理社会的治療

著者: 林直樹

ページ範囲:P.1117 - P.1121

はじめに
 精神分裂病の治療では,広い領域でごくさまざまな心理社会的援助の試みが重ねられてきている。本シンポジウムは,これをテーマとして,そのいくつかが取り上げられるけれども,その全体をカバーすることはもとより不可能である。ここでは,その導入として,それに属する治療方法の概略を提示することとしたい。

認知行動療法

著者: 池淵恵美

ページ範囲:P.1123 - P.1128

 慢性精神障害者,ことに精神分裂病を抱える人たちの治療にはいくつもの困難がある。薬物療法抵抗性の精神病症状,急性期後の生活障害やそれに伴う挫折感,病識の乏しさを主原因とする治療の中断と再発,薬物療法による不可避的な副作用などである。近年は障害者基本法の制定や精神保健福祉法の改定などが進み,社会全体で援助していこうとする動きが活発であるが,ヒューマニズムと社会制度の充実で問題がすべて解決しないこともまた明らかである。これらの困難に対して,薬物療法と協同した心理社会的治療が役立ちうると筆者は考えている。本稿ではまず,SST(社会生活技能訓練)を中心とした認知行動療法について述べ,次いで困難を克服する上で,どのような心理社会的治療プログラムが有用であるか考察を試みたい。

精神分裂病を持つ人たちに対するケースマネジメントと心理教育—エンパワーメントとノーマライゼーションの視点から

著者: 大島巌 ,   長直子

ページ範囲:P.1129 - P.1133

はじめに
 心理教育は,精神障害など受容しにくい問題を持つ人たちに対して,正しい知識や情報を心理的に十分配慮しながら伝えて,病気や障害によってもたらされる諸問題・諸困難の対処方法を習得していただき,主体的な療養生活を営めるよう援助する方法である11)。対象者が自ら抱えた困難を十分に受け止め,現実に立ち向かう力量を身に付けること,必要な援助資源を主体的に利用できることを目指している。一方,ケースマネジメントは,生活全般にわたるニーズとさまざまな社会資源との間に立ち,複数のサービスを包括的かつ継続的に提供する方法である13)。利用者のニーズや意欲を引き出し,包括的なサービスを提供することにより,生活の質が確保された当たり前の生活を実現することを目指している。
 精神障害者およびその家族に対する心理教育とケースマネジメントは,それぞれ効果評価研究によって有効性が世界的に確認されつつある。これらは,欧米で脱施設化を推進し地域ケアを効果的に進めるために開発された援助方法である。世界最多の精神病床を持つ日本では退院促進やより良い地域ケアの実現に活用される必要がある。
 本稿では,日本の地域精神保健福祉に必要とされている心理教育とケースマネジメントという2つの援助方法の効果研究の知見を整理するとともに,それらを統合的に提供することによって,日本においてノーマライゼーションと利用者のエンパワーメントを促進するのに有効なプログラムのあり方と,その効果評価研究のあり方を検討する。
 なお,ケースマネジメントは行政用語ではケアマネジメントと呼ばれているが,本稿では同義で用いる。

幻覚妄想体験への認知療法

著者: 原田誠一

ページ範囲:P.1135 - P.1140

はじめに
 筆者は幻覚妄想体験に対する新しい精神療法2〜5)を考案して,臨床の場で活用している。本論でこの治療法について述べるが,論の進め方としては(1)まず,新しい精神療法を考案した目的を記し,(2)本法の概要を紹介した上で,(3)筆者が,この治療法が認知療法に属すると考える理由を示し,(4)最後に,本法の臨床場面での用い方に触れる,という順をとる。

精神分裂病患者に対する集団音楽療法の効果—対照比較研究から

著者: 林直樹 ,   田辺陽子 ,   中川誠秀 ,   杉田邦子 ,   堀内恵子 ,   佐々木愛子 ,   小池泉 ,   野口真紀 ,   岩田智夏子 ,   勝呂祐美子 ,   渡辺実千代 ,   奥居美穂 ,   高木景子

ページ範囲:P.1141 - P.1147

はじめに
 すべての文化では,音楽演奏や舞踏など音楽を中心とするさまざまな活動が生活に不可欠のものとして組み入れられている。そして,その音楽には,人間の生理的機能,心理的機能,さらに社会的活動にまで広く影響を与える性質があることが知られている。このような力を持つ音楽を精神保健の増進や精神障害の治療に役立てることは,人間の歴史と同じくらい古くから試みられてきたことである8)。このような音楽による精神分裂病に対する治療は,精神医療の発展と共に徐々に系統的に行われるようになり,現在では多彩な音楽療法の技法が開発され,実践されるに至っている。わが国でもその応用は村井靖児,松井紀和などによる精神病院における実践など,これまでに多くの活動が積み重ねられてきた9)。これらを土台にして,さまざまな職種の音楽療法に携わる人々が糾合して1995年に全日本音楽療法連盟が発足し,音楽療法の普及のための重要な足掛かりが作られた。わが国の音楽療法は,現在一層の発展に向けて準備が整いつつあるということができるだろう。
 このような情勢の中で音楽療法の基盤確立のために,その有効性についての検討が重要になってくることはいうまでもないだろう。しかし,この音楽療法の精神分裂病に対する効果の実証的研究は,現在でも,ごく限られているのが実情である。例えば,Medlineの検索で見いだされた対照比較研究は3件のみ7,11,14)であった。これに対して研究されなければならない事項は,音楽療法のさまざまな効果,音楽療法の効果の評価方法,効果の持続性の程度など数多くある。

【パネルディスカッション】精神分裂病の心理社会的治療の進歩

著者: 池淵恵美 ,   大島巌 ,   原田誠一 ,   林直樹

ページ範囲:P.1149 - P.1152

 司会(林) 討論は,本日の発表者の間の質問やコメントのやりとりで始めたいと思います。それでは池淵先生からお願いします。

動き

「第6回日本神経精神医学会」印象記

著者: 木村真人

ページ範囲:P.1154 - P.1155

 第6回日本神経精神医学会は2001年6月1,2日の両日,宮崎医科大学精神医学教室の三山吉夫教授を会長として,南国情緒あふれる宮崎市のJA・AZM(アズム)ホールで開催された。
 初日は一般演題として「意識障害」「高次脳機能」「症状精神病」の3セッションのほかランチョンセミナーとシンポジウムが行われ,2日目は午前中に一般演題として「診断」「痴呆」「脳炎」のセッションが設けられ活発な議論が行われた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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