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日本語版せん妄評価尺度98年改訂版
著者: 岸泰宏2 保坂隆3 吉川栄省2 中村優里3
所属機関: 1 2日本医科大学千葉北総病院精神科 3東海大学医学部精神科
ページ範囲:P.1365 - P.1371
文献購入ページに移動せん妄は身体疾患治療の現場において最も頻繁に認められる精神症状の1つである。せん妄の発症率は治療セッティングにより異なるが,総合病院に入院した症例の18〜20%に生じるとされている7)。高頻度の発症率ならびにせん妄が引き起こすさまざまな悪影響が示されているにもかかわらず6,7),他の精神疾患や痴呆などと比べてせん妄についての研究は少ない。せん妄研究の問題の1つに,適切な評価尺度や診断基準の欠如があった。1980年よりDSM-III,DSM-III-R,DSM-IVによるせん妄の診断基準が設けられ,せん妄の客観的診断が可能となった。最近では,さまざまなせん妄評価尺度が開発されているが,この中で,最も頻繁に使用されているのはDelirium Rating Scale(DRS)である5)。日本語版もすでに一瀬ら2)により翻訳されている。
DRSは10項目からなる評価尺度である。この評価尺度はせん妄の種々の研究に最も使用されており,その有用性ならびに信頼性は確立されている5,8)。しかしながら,DRSにも以下のような問題点がいくつか挙げられている4,8)。せん妄の症状は変動性である点ならびに睡眠覚醒サイクルの破綻を特定するために,この評価尺度は24時間以上あけて使用するように薦められている。したがって,それより短い時間間隔で評価する場合に,問題が生じる。たとえば項目1“短時間に症状が発症”や項目7“身体疾患”などにおいて,同一症例を継続的に評価していく際に問題が生じてくる。そのため,せん妄の介入研究などにおいては,DRSの項目を減らして継続的に評価を行った研究も認められる3,10)。また,DRSはせん妄のphenomenologyを評価するのには向いていない。たとえば,認知機能は1つの項目にまとめられ(項目6),失見当識,注意,記憶などを評価している。また,精神運動行動においても,hyperactiveとhypoactiveの分類がなされていない。
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