研究と報告
華僑にみられた「家族内多文化葛藤」について
著者:
湖海正尋1
大原一幸1
三和千徳1
守田嘉男1
所属機関:
1兵庫医科大学精神科神経科
ページ範囲:P.203 - P.209
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【抄録】 神戸の老華僑である2人の寡婦とその家族におけるエスニシティの拡散について考察した。寡婦らは共に資産家であったが,阪神大震災による甚大な被害のため,おのおのうつ病発症,痴呆症状の増悪を呈し事例化に至った。両家族とも,長男は伝統的民族社会における一族の後継者としての意識が希薄であり,華僑の伝統的習慣に反し,他省人ないし日本人と結婚していた。そのため,伝統的家族形態が変化し,患者にとって同郷主義的世界観や築き上げた資産の継承が不安定な状況にあった。本稿では(1)報告の稀有な華僑症例を紹介し,(2)このような家族内にみられた比較文化的状況を,これまでの文化摩擦や文化葛藤という概念の包摂する中に“家族内多文化葛藤”という現象として見いだし,ささやかな分節化を試みた。さらに,これについては外国人社会の特殊な現象ではなく,確実に進む国際化の中,日本人の家族や社会にも生じかねない問題と考えた。