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雑誌目次

雑誌文献

精神医学43巻5号

2001年05月発行

雑誌目次

巻頭言

子ども臨床

著者: 清水將之

ページ範囲:P.468 - P.469

 子どもはかわいい,などと迂闊には言えない時代なのか。子どものしでかす驚くような事件が賑々しく報道される。でも,コクトーがレ・ザンファン・テリブルを発表したのは1929年。その数十年前のロンドンでは,中学生が暴動を起こして軍隊が鎮圧に乗り出すという事態が繰り返されていた(高田宏『子供誌』,平凡社)。
 わざわざ外国に例を求める必要もない。スサノオを家庭内暴力の元祖という人がいるし,200年前の子どものけんかが並大抵でなかったことも記録されている(氏家幹人『江戸の少年』,平凡社)。若者が大人を困らせるのは今も昔も変わりないようである。

特別企画 薬物依存者に対する精神保健・精神科医療体制 国立精神科医療施設における3つの治療モデル

脳に鍵をかける—行動薬理学的視点からの治療

著者: 小宮山徳太郎 ,   三ツ汐洋 ,   関本正規

ページ範囲:P.470 - P.476

はじめに
 薬物依存症は医学教育課程でごく短時間扱われるかまたは素通りになっている。専門病院や専門病棟があることに利点がある一方で欠点もある。精神科医の多くは薬物依存症に出会うと専門病院への紹介で事足りるとし,薬物依存症に対する臨床能力を身に付ける機会を失してしまう。このような事情から臨床家の薬物依存症に対する誤解が解けない。脳に鍵をかけるという表現は誤解をいっそう強めかねないかと危惧するが,副題にした「行動薬理学的視点」から薬物依存症をとらえることで誤解の一部でも解けることを願って,以下に報告したい。

病棟に鍵をかける—薬物依存専門病棟での治療

著者: 小沼杏坪

ページ範囲:P.477 - P.483

はじめに
 ここでは,主に筆者らが国立下総療養所における薬物関連精神疾患の臨床的実践の中で培ってきた治療的対応について述べ,それらが法令上に表されたわが国の精神科医療におけるアルコールをはじめとする薬物依存症の治療・処遇の進歩・発展の歴史的経過と呼応するものであることを主張したい。

心に鍵をかける—自助グループとの連携による治療

著者: 村上優 ,   比江島誠人 ,   杠岳文 ,   遠藤光一

ページ範囲:P.485 - P.491

はじめに
 わが国における薬物依存症の治療は,これまで国立下総療養所の小沼らによって中毒性精神病モデルを中心に体系化されてきた6)。薬物依存症の専門医療機関の必要性は国の政策医療として取り上げられていることでもわかるように緊急の課題であるが,現在では国立の専門病棟が1か所で,アルコール症患者を併せて受け入れる病棟を持つ施設を入れても10か所にも満たないのが実情である。
 そこで国立肥前療養所では,1995年九州に薬物依存回復者施設であるダルク(Drug Addiction Rehabilitation Center;DARC)が発足したのを契機として,薬物依存の治療体制を整えることになり,アルコール病棟をアルコール・薬物病棟に転換した。さらにそれを機会に,アルコール・リハビリテーション・プログラム(Alcoholism Rehabilitation Program;ARP)に模して薬物依存リハビリテーション・プログラム(Drug Dependence Rehabilitation Program;DRPと略)を整備した。DRPはダルクと密接な関係を有し,自助グループであるNA(Narcotics Anonymous)の発展の影響を受けながら構成されてきた。
 ここではダルクにおける回復過程の調査を紹介し,DRPの内容,治療期間,ダルクなどの社会資源や司法との連携について検討し,DRPを利用した入院患者のプロフィールを紹介する。我々はこの試みを既存のアルコール病棟の機能に加えて,薬物依存症の治療を提供する医療のモデルとしたい。

資料

精神保健福祉センターにおける薬物関連問題相談事業の現状と課題

著者: 佐野光正

ページ範囲:P.493 - P.498

はじめに
 精神保健福祉センター(以下,一部「センター」と略)は,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の第6条に規定されており,都道府県における精神保健および精神障害者の福祉に関する総合的技術センターとして,地域精神保健福祉活動の中核となる機関であり,知識の普及,調査研究ならびに複雑困難な相談指導事業を行うとともに,保健所,市町村その他精神保健福祉関係機関に対し,技術指導,技術援助を行う施設である。センターは,1965年の精神衛生法改正以後,各都道府県に1か所ずつ設置され(東京都は3か所),12政令指定都市中9市に設置されている。
 センターにおける薬物関連問題対策については,地域差が大きく,全体として貧弱であることを認めざるをえない。しかし,薬物関連問題は,今後センターとして取り組みを強化していくべき課題の1つであり,ここでは,福岡,神奈川,宮崎の各県の現状と課題を通じてこれらのセンターにおける薬物関連問題対策について検討する。

都道府県における薬物関連精神障害の治療体制について

著者: 花輪昭太郎

ページ範囲:P.499 - P.502

はじめに
 国立精神・神経センター高橋清久総長が述べられているとおり,「薬物関連精神障害に関する精神保健・医療関係者による今後の相互の連携とローカル・モデルの集積によって,精神科政策医療ネットワークの構築をめざす」ことが求められている今日,都道府県における薬物関連精神障害の治療体制についても,その整備・拡充が課題になっている。
 ここでは,薬物関連精神障害の治療体制について,埼玉県立精神保健総合センター,群馬県立精神医療センター,東京都精神医学総合研究所からの報告を紹介したい。

わが国における薬物乱用の実態調査

著者: 和田清

ページ範囲:P.503 - P.505

はじめに
 違法性薬物の使用は1回といえども違法行為であり,その乱用実態の把握は違法行為の掘り起こしという性質を有しているため,事実上,正確には不可能である。どのような調査を実施しようが,乱用者は違法行為を隠そうとする傾向があるからである。そのため,1つの調査結果をもって全体状況とすることは危険であり,多角的かつ複数の調査結果を総合的に評価することによって,全体のトレンドを見ることが重要である。
 わが国では,これまで,薬物事犯者数の年次推移(犯罪白書)が代表的に用いられてきたが,薬物事犯者には譲渡譲受犯,所持犯なども含まれており,乱用者そのものを表しているわけではなく,さらに,その中の使用犯にしても乱用者の「氷山の一角」にすぎないことは明らかである。
 そこで本稿では,一般住民を対象とした薬物乱用の実態調査を紹介したい。

薬物乱用問題に対する相談指導の基礎知識

著者: 平井愼二

ページ範囲:P.506 - P.507

薬物乱用者とアルコール症者の異同
 日本において対応する対象となっている薬物乱用者の多くは覚せい剤あるいは有機溶剤を乱用している。これらの薬物の反復乱用者の精神病理はアルコール依存症者のそれと同様のものである。一方,法的にはこれらの薬物は規制の対象となっており,このことが薬物乱用問題への対応において,アルコール症へのそれと異なる点である。相談指導においても,規制対象の物質の乱用であることに対する態勢を整理して,現場に臨むことが求められる。

研究と報告

家族による摂食障害症状評価の有用性—日本語版ABOSの信頼性と妥当性の検討

著者: 上原徹 ,   川嶋義章 ,   後藤雅博 ,   竹内一夫 ,   三國雅彦 ,  

ページ範囲:P.509 - P.515

【抄録】 家族が実際に観察した情報を基に摂食障害症状評価を行うABOSの日本語版を作成し,摂食障害患者の家族延べ93名と一般女子大生の母親20名を対象にその信頼性・妥当性を検討した。ABOSの内的整合性,再テスト法による信頼性は十分優れていた。尺度構成信頼性もおおむね良好だった。併存妥当性の検討では,客観尺度,自己評価尺度とABOSとの有意相関が認められた。対照群と症例群との間でABOS総得点,下位尺度ともに有意な判別妥当性を示した。ABOSは患者が来院できない場合や家族介入の時など,多面的な情報を得るために有用な尺度であることが示唆された。しかし患者と接する時間や状況の違う家族成員間では結果が異なる可能性もあり,重要なキーパーソンに記入してもらうほうがよいと思われた。今後より大きい対象で,因子構造と判別妥当性を確認する必要がある。

全般性不安障害とパニック障害—病前気質,行動パターン,comorbidityの比較

著者: 大曽根彰

ページ範囲:P.517 - P.526

【抄録】 DSM-IV診断による107例の全般性不安障害(GAD)と127例のパニック障害を,病前気質,行動パターン,comorbidityなどの観点から比較検討した。その結果,GADはパニック障害と比較し,うつ病のcomorbidityが有意に少なく,これはうつ病に親和性のあるタイプA行動パターンが少ないことにも表されていた。一方,GADと人格障害のcomorbidityは高く,回避性人格障害が多かった。遺伝的に規定された病前気質からは,GADと広場恐怖を伴うパニック障害間に共通性を認めたが,その後の人格障害やうつ病などのcomorbidityからは,両疾患の異なる発展が示唆された。概して,GADではII軸の,パニック障害ではI軸の精神病理が前景と考えられた。

病的多飲水による尿路系異常の治療について

著者: 梅本陽子 ,   林邦雄 ,   平井彰 ,   中村嘉宏 ,   柳雄二 ,   黒田悦弘

ページ範囲:P.527 - P.535

【抄録】 尿路系の合併症がみられた病的多飲水患者2症例の長期経過を報告した。症例1では,水中毒発作は観察されなかったが,多飲水発症から早期に慢性的な低Na血症と尿路系障害が発生した。症例2では,頻回に水中毒発作を起こしたが,多飲水発症より低Na血症の慢性化は14年以上経過してから,尿路系障害も15年以上経過してから観察された。2症例では,“reset osmostat”(浸透圧定常状態の再設定)の時期や膀胱の収縮力低下の程度に個人差があったと思われる。尿路系障害は,発症から長期間経過していても改善することができたが,多飲水そのものの治療については,症例2では困難であった。

髄液細胞数に異常を認めず側頭・頭頂・後頭葉に病変を示した単純ヘルペス脳炎の1例

著者: 斎藤浩 ,   末永貴美 ,   寺田道元 ,   長岡幾雄 ,   植本香織 ,   森岡壯充

ページ範囲:P.537 - P.541

【抄録】 症例は63歳,女性。X年1月中旬より左下肢脱力,2日後に頭痛,4日後には軽度の意識障害を認めた。その後,左下肢の間代性けいれんが出現し,意識障害も悪化したため,急性脳炎が疑われて入院となった。経過中,髄液の細胞数は正常であったが,臨床経過,脳波での周期性同期性放電,頭部MRI T2強調画像での側頭・頭頂・後頭領域における高信号といった所見から単純ヘルペス脳炎を疑いacyclovirの投与を開始した。その後,ウイルス抗体価からヘルペス脳炎と診断した。症状は41病日にはほぼ消失し,51病日に退院となった。本症例は臨床経過中に髄液細胞数に異常を認めず,側頭・頭頂・後頭葉に病変を示した点が特徴的であった。このように脳炎が疑われる場合には,髄液所見が正常であっても早期診断,早期治療が重要であると考えられた。

短報

SLE精神病の症状推移がSPECT所見と一致して改善をみた1例

著者: 四戸靖子 ,   伊藤耕一 ,   堀田哲也 ,   小山司

ページ範囲:P.543 - P.546

はじめに
 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)は,その経過中に中枢神経系への障害を引き起こすと,精神症状を呈する。このSLE精神病が悪化した場合,内科のみでは治療が困難な患者も多く,また,精神症状に関しては,その病状を評価する客観的な指標がないため,治療がより困難になっていると考えられる。今回,私たちはSPECT所見に一致して精神症状の改善をみた症例を経験したので,若干の考察を加え報告する。

Fluvoxamineの漸減中止によりSSRI離脱症候群を呈したうつ病の1例

著者: 田所千代子 ,   衛藤暁美 ,   加藤高裕 ,   上島国利

ページ範囲:P.547 - P.549

 SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)は従来の三環系抗うつ薬とは異なり,その安全性と臨床適応の広さから汎用されている。その一方で,欧米ではSSRI離脱症候群(SSRI discontinuation syndrome)が注目を集めるようになったが,本邦ではそれに関する報告は少ないようである。今回我々はfluvoxamineの漸減中止により,SSRI離脱症候群を呈したうつ病患者の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

夏季に発症した悪性症候群の2例

著者: 山本朗 ,   大家尚文 ,   井谷隆典 ,   郭哲次 ,   志波充 ,   吉益文夫 ,   新居延浩一

ページ範囲:P.551 - P.553

はじめに
 悪性症候群は1960年にDelayらによって最初に報告され,その後主にフランスと日本で多くの症例報告がなされてきた。これは抗精神病薬の副作用として生じ,発熱,錐体外路症状,自律神経症状,意識障害などの症状を呈する病態である。その機序としてはGABA欠乏仮説,ドーパミン・セロトニン不均衡仮説なども唱えられているが,視床下部ないし線条体のドーパミン受容体遮断仮説が最も有力である。また発症の危険因子として,薬物の種類や投与量の急激な変更3),夏季の高温状態2),性,年齢,精神科的基礎疾患,内科的合併症,高力価の抗精神病薬,精神状態,身体状態4)などが指摘されている。今回筆者らは夏季に発症した悪性症候群の2症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

アルツハイマー型痴呆の行動心理学的症候に対する塩酸ドネペジルの効果—2症例の検討より

著者: 堀宏治 ,   稲田俊也 ,   織田辰郎 ,   冨永格 ,   保科光紀 ,   竹下裕行 ,   田上修 ,   寺元弘

ページ範囲:P.555 - P.558

はじめに
 わが国最初のアルツハイマー型痴呆治療薬である塩酸ドネペジル(商品名,アリセプト)は,軽度ないし中等度と限定されてはいるが,アルツハイマー型痴呆に対して保険適用が得られた唯一の薬剤であり,それによる認知機能の改善,痴呆の進行の緩徐化が期待されている5)。しかし,痴呆の行動心理学的症候の改善に関しての検討は不十分である。今回,筆者らは塩酸ドネペジル投与により幻覚妄想状態が改善した2症例を経験した。それらの報告とともに,こうした症状の改善に塩酸ドネペジルが果たした役割について若干の考察を加える。

精神医学における日本の業績

加藤普佐次郎の業績—作業療法への寄与

著者: 加藤伸勝

ページ範囲:P.559 - P.564

はじめに
 我が国の精神科作業療法(作業治療)について語るとき,まず挙げられるのは加藤普佐次郎の名である。加藤は作業治療の創始者ではないが,これを組織化し,今日の生活療法の基礎を築いた先覚者である。
 加藤の学問的業績は多々あるが,ここでは彼の博士論文となった「精神病者に対する作業治療」(略称)に焦点を絞り,後年精神衛生の啓蒙に努めた業績に若干触れることで担当の責を果たしたい。
 加藤普佐次郎(1887〜1969)は愛知県香久山村で,俳人出原三敬の次男として出生した。10歳の時加藤家の養子となり,長じて名の如く「普く人を佐ける」(外国人にはHelper of the universeと説明した)べく,医師を目指し千葉医学専門学校に学び,九州帝國大学医学部法医学教室の助手を経て,母校の千葉医専の精神病学教室の講師となったが,1919(大正8)年に東京帝國大学精神病学教室の呉秀三教授を頼って同教室の副手となり,同年11月から東京府立松沢病院医員になった。1925(大正14)年に松沢病院を辞し,一時戸山脳病院長になったが,1928(昭和3)年8月から,内科精神科医院を開業した。1939(昭和14)年,明治大学法学部に入学(三男天白が病死し,その志望していた法律を学ぶためという),1949(昭和24)年,同大学の法学部教授に就任,精神衛生学を講じた。なお,開業後,指圧療法の普及に努め,また,妊娠中絶の反対を叫び,人類愛と世界平和を希求する幅広い運動を展開したが,1968(昭和43)年,81歳で他界した10)。独特の風格とユニークな発想を示す点で,精神医学界では異色の存在であった。

紹介

ポートマンクリニック・ジェンダーアイデンティティ発達ユニットの実践—児童思春期青年期への取り組み

著者: 木村一優

ページ範囲:P.567 - P.570

はじめに
 ポートマンクリニックは,ロンドン北部に位置し,ジェンダーアイデンティティ発達に問題を持つ患者を対象にしたジェンダーアイデンティティ発達ユニット(GIDU)および司法精神医学ユニットから構成されているThe Tavistock and Portman NHS Trust注)のクリニックである。
 私がタビストッククリニック思春期青年期部門でトレーニングを受けていた際,私のpersonal tutor(個人指導教官)であったDr. Di Ceglieがポートマンクリニック・ジェンダーアイデンティティ発達ユニットのチーフであったため,私が希望してこのユニットに参加させてもらうこととなった。その経験からこのユニットの実践について,ここで報告したいと思う。

動き

「第13回日本総合病院精神医学会総会」印象記

著者: 金子晃一

ページ範囲:P.572 - P.573

 第13回日本総合病院精神医学会総会は,2000年11月30日,12月1日の両日,世紀末の東京において,東京慈恵会医科大学の牛島定信教授を会長として,ホテルエドモントを会場に多数の会員の参加を得て行われた。
 本学会は1988年に第1回総会が東京で開かれて以来,今回で13回目という「右手に総合病院精神医学の学問としての発展を,左手に総合病院精神科に勤務する者の地位の向上を。」をスローガンに活動している実践的な学会である。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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