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文献詳細

雑誌文献

精神医学43巻6号

2001年06月発行

文献概要

特集 社会構造の変化と高齢者問題

高齢化社会での老年期うつ病

著者: 三山吉夫1

所属機関: 1宮崎医科大学精神医学講座

ページ範囲:P.601 - P.605

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はじめに
 老年期の精神障害では,うつ病は痴呆とともに重要な疾患で,高齢化社会での大きな問題となっている。また,加齢とともにうつ病の頻度は増加し1,15),うつ病の前状態とされる抑うつ状態の頻度は,痴呆の頻度をはるかに上回っていると考えられる。老年期うつ病の症状,経過,予後は多様で,老年期うつ病の複雑な臨床特徴を整理することは困難な作業とされる。老年期うつ病を1つの疾患とするには,大きな問題があることは多くの研究者が認めるところである。わが国の経済の低迷から高齢者の経済生活,健康問題は,日々の話題となり不安をかきたてるかのようにある。毎年発表される自殺白書でも自殺者の総数は減少しつつあるものの全自殺者の中で高齢者が占める割合は相変わらず高い。かつては高率を示していた青年期の自殺は減少したが,高齢者の自殺率は依然として高く,高齢になるほど高率となっている。高齢者の自殺の背景に,孤独老人の問題が指摘される。老年期のうつ病に自殺が多いことは広く知られており,社会の変化によって高齢者の自殺率は大きく変動する。高齢者にみられる柔軟性の低下や精神活動の硬直は,生活環境の変化に不適応を生じやすくなり,社会からも孤立化しやすくなる。老年期うつ病の有病率の差異には,地域的・文化的・社会的背景が大きく関与する。老年期では,反応性の要素や身体因性要素(外因)を持っている例が多く,狭義の内因性うつ病の概念では説明できないことが多い。うつ病は基本的には回復可能であるが,老人を取り巻く身体・心理・社会的要因が予後に大きく影響を与える。
 加齢に伴う精神老化と軽症痴呆の主症状は,前頭葉症候群(自発性行動の障害と自発性の調整障害,運動の調整障害,無関心,物忘れ,無欲,抑制低下)で老年期うつ病の症状に共通する。ここでは老年期になって発症するうつ病を抑うつ状態も含めた広義の老年期うつ病とし,高齢社会となった現代社会の構造と老年期うつ病の発症について,身体・心理・環境の観点から,いくつかの代表的要因を挙げて,それらとの関連を述べる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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