文献詳細
展望
操作的診断基準の概念史—精神医学における操作主義
著者: 佐藤裕史1
所属機関: 1東京都立豊島病院神経科 2Cambridge大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.704 - P.713
文献概要
操作的診断基準operational diagnostic criteriaは,米国精神医学会が1980年に制定した「精神障害の診断および統計の手引き」第3版(DSM-III)の代表的な新機軸とされる32,56)。その後20年間に2回の改訂を経てDSMは広く人口に膾炙し,信頼度の高い診断を保証する基準と目されている。精神医学の臨床研究では,研究対象の選択に際してDSM-III,III-R,IVやICD-10などの操作的診断基準に準拠することを国際的水準の学術誌が求めるようになり,臨床でも,若い世代の精神科医や教育病院を中心に,操作的診断基準を診断の根拠とする傾向が目立つ。大学の卒前教育においてもDSMがしばしば提示されるようになり,操作的診断基準は現代精神医学で重要な位置を占めるに至った。
他方,診断基準は精神医学以外の医学分野でも多数存在する。なかでも米国リウマチ協会による全身性紅斑性瘡Systemic Lupus Erythematosus(SLE)の診断基準12)はよく知られているが,その制定や改訂に関する論文12,20,61)には操作的operationalという表現はみられない。精神科診断から極力主観性を排除して客観性を高めるためのDSMが操作的と形容されるのに,臨床検査所見を含み客観性の高いSLEの診断基準が操作的と形容されないのは奇妙である。
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