icon fsr

雑誌目次

論文

精神医学43巻8号

2001年08月発行

雑誌目次

巻頭言

遠くにある精神科チーム医療・保健

著者: 齋藤利和

ページ範囲:P.816 - P.817

 精神分裂病者をはじめとする精神障害者の治療も病院内に限定されたものから地域社会での生活を視野に入れた活動へと急速に変わりつつある。すなわち,福祉ホーム,援護寮,授産施設,生活支援センターなどの精神保健福祉法による社会資源も不十分ながら整備されつつある。こうした患者さんの生活と人生の質にも配慮した良質な,適切かつ効率的な精神医療を受けられるよう医師は医師以外の医療・保健の専門家との連携・協調が求められている。しかし現状では問題が山積みしているように思える。
 まず大学病院における臨床教育の問題である。私のいる大学病院では,こうしたチーム医療のための研修・教育の現状を考えると気の遠くなるような現実がある。当院では精神医療を専門とする作業療法士,ソーシャルワーカーの定員枠はない(心理士については今年度から臨時職員1名の枠がやっと認められた)。看護婦も院内の業務に専念しており,訪問看護などの活動は困難な状況にある。加えて,先端機能病院であるために,在院日数の短縮が求められている。そのためリハビリテーションを視野に入れた治療計画は立てづらい。建物の構造にも問題がある。チーム医療の基盤になる相互理解は医療保健の専門家が働くスペース,不断の連携を保証する場所が用意されなくてはならないが,現状からは遠い状況にある。さらに,医療機関の機能分化が叫ばれ,進行している現在,大学病院が上記のような機能を持つこと自体が難しい。民間の病院に教育関連病院になってもらいチーム医療や精神科リハビリテーションの現場に触れてもらう努力はしているがそれも限界がある。医学生に対する精神科の臨床教育はこれでいいのかという思いにいつも苛まれている。

展望

児童虐待—児童精神科の臨床から

著者: 岩田泰子

ページ範囲:P.818 - P.830

はじめに
 近年,児童虐待がそれと認識されるようになり,社会学や医学の分野でも取り上げられるようになった。わが国では取り組みが遅れているといわれているが,この数年は虐待件数の急激な増加が報告され,関係機関も認識を新たにし,新聞やテレビでも報道され,議会でも取り上げられるようになってきた。
 虐待件数の急増は,虐待の実数の増加とともに,虐待の定義の範囲の拡大,認知発見度が高くなったことによると考えられる42)。都市部では児童相談所の一時保護所,乳児院,児童養護施設は被虐待児が入所児の多くを占め,満員に近いと聞く。保護した後の子どもや家族へのケアをどのようにするのか,虐待ケースへの対応はこれからの大きな課題であるとされている。

研究と報告

DSM診断はどこまで受け入れられたか?

著者: 高橋誠 ,   高橋三郎 ,   染矢俊幸

ページ範囲:P.831 - P.839

【抄録】 精神疾患の分類を目的として米国精神医学会から出版されたDSMが,わが国でどの程度普及しているかを調べるため,「DSM-IVについてのアンケート」を実施し,212名の精神科医から回答を得た。その結果,若い世代にはDSMが広く普及していること,40代を境にそれより上の世代ではDSMへの関心が低いこと,DSMが研究を中心に利用され日常診療ではまだ十分に活用されていないことが明らかになった。一方,文献検索によってわが国の精神医学研究の動向を調査した結果では,DSMの導入以後,研究の急速な国際化が進んでいることがわかった。DSMを活用することは精神医学の進歩につながると考え,現状と今後の課題について考察した。

医療機関における精神分裂病家族教室の効果—生活者としての家族機能に焦点を当てて

著者: 牧尾一彦 ,   西尾雅明 ,   小原聡子 ,   大島巌 ,   伊藤順一郎

ページ範囲:P.841 - P.847

【抄録】 精神分裂病患者を抱える家族は,患者を支える存在であると同時に,社会的圧力にさらされるという意味で,二重の負担を強いられている。近年そうした家族への介入が患者の福祉を目的とするのみならず家族の福祉にも寄与するべきものとして明確に認識されつつあるのは当然の趨勢と言わねばならない。しかし,家族自身に焦点を当て,家族介入がどのような家族にどのように有効であるのかを検討した研究はなお少ない。今回我々は1996年9月から1997年2月にかけて全国の7医療施設において行われた全国精神障害者家族会連合会(以下,全家連)の家族支援プログラムモデル事業に参加した精神分裂病患者の家族を対象とし,家族教室の家族に対する効果につき解析を行った。結果として,罹病期間の長短によって家族教室の効果の及ぶ側面が異なることが認められ,家族支援は,罹病の早期から始められることが支援の有用性を高めることが示唆された。

摂食障害患者の家族機能についての検討—Family Assessment Device(FAD)を用いて

著者: 大田垣洋子 ,   岩本泰行 ,   米澤治文 ,   大森寛 ,   西山聡 ,   高橋俊文 ,   志々田一宏

ページ範囲:P.849 - P.854

【抄録】 摂食障害患者の家族機能についてFADを用いて評価し,家族成員間での比較を行い,さらに摂食態度や心理状態との関連について検討するとともに,患者群を神経性無食欲症(AN群)と神経性大食症(BN群)に分類し,健康対照者との比較検討を行った。患者と家族成員の比較では,患者が最も家族機能に問題があるととらえており,同胞でも同様の傾向が認められた。また摂食態度,抑うつ,不安,衝動のいずれもが家族機能の障害との関連を認めた。一方,BN群では対照群よりも家族機能の有意な低下を認めたが,AN群では対照群よりも低下を認めたものの有意ではなかった。AN家族では家族機能の障害を無意識に否認し,BN家族では罹病期間の長期化による無力感から顕在化していることが推測された。

甲状腺機能低下に伴うせん妄症状の早期改善に少量のリスペリドンが有効であった1例

著者: 花田一志 ,   宮田陽子 ,   高野守秀 ,   花田雅憲

ページ範囲:P.855 - P.860

【抄録】 甲状腺機能が低下したり亢進した時には,さまざまな精神症状が出現することは知られている。今回,橋本病に伴う器質性精神障害で入院中,甲状腺機能低下に伴いせん妄状態を呈した69歳女性に少量のrisperidoneを使用した。20歳台より感情には波のある「循環気質」であったが,35歳時に指摘された橋本病の甲状腺機能の変化に伴い,幻覚,妄想などの精神症状が出現し,入退院を繰り返していた。68歳時に誘因なく錐体外路症状が出現し,それにより行動が制限された。その後,血中free T3値,free T4値の低下に伴いせん妄症状を呈したため,T4の補充とrisperidone 1.5mgを使用したところ早期に精神症状は改善した。

頭頂後頭葉症状を示したレビー小体型痴呆(probable dementia with Lewy bodies)と考えられる1例

著者: 大原一幸 ,   杉野栄太 ,   真城英孝 ,   大橋直哉 ,   湖海正尋 ,   守田嘉男

ページ範囲:P.861 - P.866

【抄録】 患者は83歳の女性。68歳頃右上肢の筋強剛で発症。l-dopaが有効であり典型的なパーキンソン病(PD)で経過し,79歳頃にはYahrのstage IV〜Vでon-off現象がみられた。加えて痴呆,頻回の幻視,注意の変動,構成障害,Balint症候群,書字障害,失行がみられ,MRIで両側頭頂後頭葉の萎縮,SPECTで両側頭頂後頭葉の血流低下が認められた。本例はPDの長期経過後に,頭頂後頭葉症状を呈したレビー小体型痴呆と考えられたが,頭頂後頭葉症状にも変動がみられたという特徴とともに,呼称障害や感覚性失語様状態はなかったこと,SPECTで内側側頭回の血流低下や閃光刺激視覚誘発電位のP2潜時延長はなかったことから,著しいアルツハイマー病変の合併は否定的であった。

自傷を機に精神症状の特異な変遷を呈した妄想性うつ病の1例

著者: 西岡玄太郎 ,   三村將 ,   佐野奈々 ,   秋庭秀樹 ,   平井里江子 ,   渡辺壮一郎 ,   吉邨善孝 ,   上島国利

ページ範囲:P.869 - P.873

【抄録】 妄想性うつ病の経過中に激しい自傷行為を契機に抑うつ症状の消退と妄想内容の変遷を生じた特異な1例を経験した。症例は74歳,女性。72歳時に,抑うつ感,易疲労感,不眠を呈する単極性うつ病として発症し,いったん寛解した。その後,うつ症状の再燃と,「子宮のあたりがもやもやする」「おなかの中がねじれている」という訴えが出現し,近医婦人科へ連日受診し,膣洗浄を受けていた。婦人科疾患は否定的で,心気妄想と体感異常を伴う,妄想性うつ病と診断した。その後,腹部と頸部を多数刺傷する自殺企図を認めたが,企図後は一貫してその自殺企図を否認し,「外国人に襲われた」という追想的な妄想を生じた。自殺企図を契機に,抑うつ症状,心気妄想,体感異常は消退し,新たな被害妄想へ症状に変遷を来したと考えられた。また,本症例では,経過とともに,前頭葉萎縮の進行を認め,器質的な変化が症状修飾に影響した可能性も考えられた。

ライター用ブタンガス乱用者の臨床的特徴

著者: 松本俊彦 ,   宮川朋大 ,   上條敦史 ,   遠藤桂子 ,   矢花辰夫 ,   奥平謙一 ,   岸本英爾 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.875 - P.883

【抄録】 中高生を中心に「ガスパン遊び」と通称されるライター用ブタンガスの乱用が話題となっているが,乱川の実態やその精神症状の詳細には不明な点も多い。我々は,1997年4月から2000年3月に神奈川県立精神医療センターせりがや病院に初診したライター用ブタンガス乱用者全15例の臨床的特徴を,後方視的な方法によって,同時期に初診したトルエン乱用者23例と比較した。その結果,ブタンガス乱用者では,公的相談機関を介しての受診が多く,単独使用による乱用者が有意に多かった。また,ブタンガス乱用者では吸引時の病的体験の経験が有意に多かったが,病的体験の内容は幻視が最多で,次いで幻聴であり,トルエン乱用者との差はなかった。

性欲過多(satyriasis)の1例

著者: 小林聡幸 ,   加藤敏

ページ範囲:P.885 - P.890

【抄録】 性欲過多(satyriasis)を主訴に受診した症例を報告した。生活歴を詳細に問診していくと,職場適応の悪化とともに種々の異常な行為があることが判明し,知能検査で軽度精神遅滞と診断されたが,器質的な要因は認められなかった。症例は初診時29歳の男性で,22歳頃から性欲亢進と,幼児用品を買ってしまうという行為を呈するようになった。28歳で結婚したのを機に歯止めが利かなくなり,日に何回も妻に性交を求めるために1年ほどで離婚に至った。自ら性欲亢進を悩んで受診した。性欲過多に対しては抗精神病薬が奏効したが,幼児用品を買う行為は持続している。精神遅滞ゆえに頓挫した性倒錯の1形態と考えられた。

短報

Risperidoneによる持続勃起症

著者: 平井茂夫 ,   田名部茂 ,   鈴木泰

ページ範囲:P.892 - P.893

はじめに
 非定型抗精神病薬の稀な副作用として,持続勃起症が知られている10)。我々は,risperidoneを含む処方をいったん中断した後,同一処方の再投与にて持続勃起症を発症した1症例を経験したので報告する。

試論

精神科診療における電話—その功罪と対策

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.895 - P.903

はじめに
 患者からの電話への応対は,精神科医に少なからぬ時間と手間を要求する。電話が今ほど気安く用いられなかった頃は,大平21)が回顧するように「電話で診察はしてはならぬ」という教えに従って「それは今度の面接の時にうかがいます」と答えてすみ,「周りをみても,名人級の人は別として,電話で患者の相談に応じている精神科医なんてひとりも居ない」ということだった。しかし生村10)の診療所では電話が日に50本はかかり「ふりかかる電話の嵐をかいくぐって診察する」という。今では,頻回の厄介な電話に困窮したり,自殺を予告する電話にたじろいだりした経験のない精神科医はあるまい。すでに精神科当直医の仕事の相当部分は電話の応対である。初心者は当惑し対処に迷うが,参照すべき論文も少なく2,14,17),先輩医師から習うにせよ,ことが電話という日常的なものであるだけに上級医とて格別方針もないのが実情である。しかし近年医療における電話の利用は急激に拡大し,精神医学への影響も大きい。本稿では精神科診療で遭遇する電話の類型分類を試み,文献を総覧し,問題点について論じて対策を考える。

ディベート

「Evidence-Based Psychiatryの視点から見た初期分裂病」(加藤忠史:本誌42:983-989,2000)における‘奇妙な批判’—問題発見的研究 VS. 問題解決的研究

著者: 中安信夫

ページ範囲:P.905 - P.911

 加藤忠史氏により本誌に試論として表題にあげた論文が掲載された。小生がこの10年来提唱してきた初期分裂病をEvidence-Based Psychiatry(EBP)の視点・考え方から論じられたもので,今後の研究にとって傾聴すべき有益な意見も散見されるものの,小生の初期分裂病論に対する‘奇妙な批判’にも当惑させられた。いろいろ考えるに,その‘奇妙な批判’はどうやら加藤氏には問題発見的(ないし問題提起的)研究と問題解決的研究の違いがわかっていないことからくるのではないかと思い至った。よって,こうした観点から‘奇妙な批判’に反論を加えるが,紙数の都合上,それらのうち小生の初期分裂病論において最も肝要な「初期症状の特異性」と「臨床単位としての初期分裂病」をめぐっての批判のみを取り上げることにした。
 反論に先立って問題発見的研究と問題解決的研究という用語について解説を与えておくが,かつて小生10)が「虚飾と徒花―<精神病理学vs.生物学的精神医学>に寄せて」という論文で引用したことのある,神経内科医の岩田誠氏3)の文章がそれを的確に語っていると思われる。小生の論文から引用する。

私のカルテから

タリペキソールで改善した睡眠時無呼吸症候群の1例

著者: 稲永和豊 ,   森信弘

ページ範囲:P.912 - P.913

 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の薬物治療に,筆者らは漢方薬(主に大柴胡湯)を用いて効果を上げているが2〜4,6),漢方薬で服薬を規則正しく守れない患者に対して現在抗パーキンソン薬として用いられているタリペキソール(ドミン)を用いたところ,著しい改善がみられた数例を経験した4)。ここではその効果を簡易スリープモニタで確認した1例を報告する。

動き

「第8回多文化間精神医学会」印象記

著者: 阿部裕

ページ範囲:P.914 - P.915

 「文化・風土と癒し」を基本テーマとした,第8回多文化間精神医学会が横浜の神奈川県民ホールで,2001年2月16,17日の両日開かれた。まだこの学会が生まれてほやほやだったころの,第2回多文化間精神医学ワークショップがちょうどここで,秋晴れのもとに開催され,特別講演としてノーベル賞受賞直前の大江健三郎氏をお招きしたのを記憶している。同年の春,山形で開かれた第1回のこの学会から7年,ようやく多文化間精神医学という言葉も市民権を得てきたように思う。最近では,多文化共生という言葉も頻繁に新聞や雑誌に使われ,隣近所に住む外国人と挨拶を交わすのも日常のこととなっている。
 そもそも,この学会が創設された経緯は,1980年代後半に増えた,インドシナ難民,中国残留孤児,外国人労働者,外国人花嫁などが抱える多文化葛藤に対して,我々精神医学や心理の専門家がいかなる形でサポートが可能なのか,という素朴な疑問に端を発し,そこから出発したのであった。だが実践的な支援だけでは底の浅いものになってしまうため,医療人類学や文化人類学からの多文化間精神医学への理論的意味づけが必要であった。実践と理論,この両輪がうまくかみ合うことが,この学会の発展にとって不可欠と考えられた。

「第48回日本病跡学会総会」印象記

著者: 南健一

ページ範囲:P.916 - P.917

 第48回日本病跡学会総会は,香川県高松市で香川医科大学精神神経科教授洲脇寛会長の主催のもと,2001年4月20日,21日の両日にわたり,高松港に隣接する香川県県民ホールで開催された。学会の2日間はあいにくの小糠雨が続いたが,県民ホール5階の学会会場からは霧翳む瀬戸内海の幽美な眺望が愉しめた。参加人数は一般参加者を含め,123名を数えたとのことであった。
 一般演題は22題で例年より少ないものであったが,どれも内容は充実したものであり,とくに,大家の活躍が目立ったように思われた。慈雲堂内科病院武正建一氏の「佐伯祐三」に関する論考は,パリ滞在中に生じた精神錯乱を,わざわざフランス政府と交渉されて入手したカルテを元に,今日的視点から再検討されたもので,「佐伯祐三」の基礎論として非常に重要なものと思われるし,また,東京都精神医学総合研究所松下正明氏の「エミール・クレペリンと内村祐之」の発表は,それぞれが残した自伝を一次的な研究資料としたものであるが,氏の詳細な検討により,欧米および日本を代表する精神医学者である両者の気質,問題意識といったものが見事に対比・描出されていた。とりわけ,内村祐之が抱いた当時の精神医学への危機意識について論じた条りは,氏自らの現在の精神医学への問題意識を仮託されているようにも思え,感銘深いものであった。その他,愛仁会高槻病院杉林稔氏の「宮沢賢治」,横浜舞岡病院三木和平氏の「テネシー・ウィリアムズ」,松蔭病院渡邊俊之氏の「フレデリック・ショパン」についての発表などが,それぞれに尖鋭な病跡学的問題が設定され,優れたものであったように思われた。

「第97回日本精神神経学会総会」印象記

著者: 保坂隆

ページ範囲:P.918 - P.919

 第97回日本精神神経学会総会が「心の医学・医療:新ステージ」を基本テーマとして,2001年5月17〜19日の3日間,武田雅俊(大阪大学医学部)会長・小池淳(小池診療所)副会長のもとで行われた。今回の総会は,21世紀の最初の日本精神神経学会という重要な役割を担っていたが,その期待に十分応えられる充実した内容であった。
 本総会は「包括的・学際的・国際的」(篠崎和弘事務局長)という特色を見事に演出していた総会であったというのが第1印象であった。まず「包括的」と言った理由は,たとえば本総会の12題のシンポジウムがそれを象徴している。すなわち,12題のテーマを列挙すると「精神医学教育―臨床研修の必修化に向けて」「認知科学の最近の知見」「老年期精神医学の医療・看護・介護福祉の統合」「海外から見た日本の精神医療」「地域生活支援の充実―精神障害者ケアガイドラインをめぐって」「21世紀の精神科医療―機能分化とその条件」「未来医療における精神医学への期待」「WPA関連シンポジウム―Needs and Resources:Postgraduate Education for Psychiatrists」「精神科臨床における画像診断」「刑事司法における精神障害者の現状」「薬物・精神療法の新ステージ」「ゲノムサイエンスと精神医学」などである。ここからもわかるように,本総会のシンポジウムは,精神医学教育・生物学的精神医学・診断と治療・介護と福祉・近未来的な精神医学,などBio-Psycho-Socio-Ethicalのすべてを包括していた。

「精神医学」への手紙

向精神薬と心電図QTc時間延長もしくはTorsades de pointesについて

著者: 定永恒明 ,   定永史予 ,   八尾博史

ページ範囲:P.921 - P.921

 Torsades de pointesとはQRS波が螺旋状に極性を次々と変えていく多形性心室頻拍である。通常数拍〜十数拍続いて自然停止するが,時として心室細動へと移行し突然死を来すこともある危険な不整脈である。心電図ではQT延長を伴って出現することが多い。その原因として遺伝性QT延長症候群以外には薬剤の副作用が多い。薬剤では抗不整脈薬の副作用による場合が最も多いが,抗生物質,抗真菌薬,向精神薬でも出現することがある。向精神薬(特に抗精神病薬,抗うつ薬)には抗不整脈薬であるキニジン様の薬理作用を有することが多く,心電図上QT延長を来すことが少なくなく,精神科領域での突然死にはQT延長を背景とした不整脈によるものが多いといわれている。通常,心拍数で補正したQTc値で440msec以上をQT延長と診断している。
 国立肥前療養所の向精神薬内服患者(平均クロルプロマジン換算量1,000mg/日)350人による検討では,約50%の患者のQTcが440msec以上であり,さらに5%の患者ではQTcは500msec以上であった。この検討では専門医がQT時間を測定したが,通常の心電図の自動解析によるQT時間測定にはかなりの誤差がみられることが多いので注意が必要である。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?