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雑誌目次

論文

精神医学44巻11号

2002年11月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学の中に精神(心理)療法は生き残ることができるか

著者: 成田善弘

ページ範囲:P.1154 - P.1155

 精神医学を医学の他の領域から際立たせている特徴の一つは,その対象が狭義の疾患ばかりでなくパーソナリティ全体に及ぶということであろう。精神科医は疾患を治療して病前の状態が回復することを目指すだけでなく,患者のパーソナリティが成熟し,主体性が育つことを願う。もう一つは,患者の身体や行動といった客観的に観察しうるものを扱うばかりでなく,患者の内面に関心をもつことであろう。そしてさらに,内的世界を推測し,それに基づいて働きかけをしつつ,同時に患者がまわりとの関係の中で(そのまわりの重要な一部が精神科医自身であるが)どのように動いているかを考えてみることであろう。こういう精神医学の特徴つまり主体,内面,関係へのかかわりを可能にするには,観察や測定や説明といった自然科学的方法に加えて,共感や了解や関与が必要となる。こういう精神医学の特徴をとりわけ明確にかつ自覚的に担うのが精神療法である。精神療法こそ精神医学を精神医学たらしめるものである。
 こういうふうに思ってきたのだが,このごろ必ずしもそうとは言えない状況になってきている。医学部の精神科の教授で精神療法を専門とする人は,わが国ではもともと少数であったが,最近ではさらに減少して五指に満たない。教授だけでなく助教授以下大学のスタッフのほとんどが生物学的研究者で占められている。大学の教育スタッフになるには研究業績が必須であるが,業績の数において精神療法家は生物学的研究者にとうてい太刀打ちできないからである。かつては,主任教授が生物学的研究者であればスタッフの中に1人か2人は精神療法家を入れるという配慮があったようだが,このごろは必ずしもそうではない。生物学的研究一辺倒になっている教室が多い。極端な場合,精神療法に関心をもち学ぶこと自体がまっとうな医師のすることではないとみなされたり,禁じられたりしているところもあるらしい。ここ二,三年の間に何人かの精神療法家がバタバタと医学部を去って,文化系大学の教員になったり開業したりしている。精神療法家にとって医学部精神科は住みにくいところになっているようである。

特集 精神疾患の脳画像解析と臨床応用の将来

脳画像解析法:最近の進歩

著者: 一宮哲哉 ,   須原哲也 ,   安野史彦 ,   前田純 ,   岡内隆 ,   生駒洋子

ページ範囲:P.1157 - P.1169

はじめに
 ポジトロンCT(positron emission tomography;PET)は,放射性同位元素の一種であるポジトロン放出核種によって標識された化合物を用いて,生体の生理的あるいは生化学的情報を定量的に画像として描出する技術であり,ポジトロンの物理的特性から定量性に優れたデータを得ることができる。脳神経領域ではPETによって脳血流や糖代謝などの生理学的指標と神経伝達などの生化学的指標の測定が行われている。特に,神経伝達物質受容体などの神経化学的研究において,PETは生体で定量的に評価ができる数少ない方法のひとつであることから,神経伝達機能の変化が想定されている神経精神疾患における有力な研究法となっている。
 本稿では,神経伝達機能の測定に焦点をあて,リガンド開発,定量法などの方法論的側面からPETを論じてみたい。

認知機能の神経心理学的研究と神経機能画像研究

著者: 藤井俊勝 ,   山鳥重

ページ範囲:P.1171 - P.1179

はじめに
 ヒトの脳と心理機能の研究において,脳損傷患者を対象とした伝統的な神経心理学的研究に加えて神経機能画像法(ニューロイメージング:PET;positron emission tomography,fMRI;Functional magnetic resonance imagingなど)を用いた研究が現在活発に行われている。これら2つの研究手法にはそれぞれ長所と短所がある。神経心理学的研究では,患者が呈する症状の分析からヒトの心理機能の構造についての新たな洞察が得られる場合がある。さらに,脳損傷部位は障害された心理機能の正常な遂行に必要な部位と考えられる。しかし,その損傷領域はかなり広範な場合も多く,脳と心理機能の関係については多くを語れない場合も多い。また,その心理機能が複数のサブプロセスのどこで障害されたのかを特定することはかなり困難な場合も多い。一方,神経機能画像法を用いた研究では,ある認知活動を遂行中に活動が認められた部位はその心理機能に参加している領域であり,必須の領域かどうかはわからないという問題がある。また,その実験課題がどのような統制課題と比較されているのかによって結果は異なってくる。しかし,課題の組み方や解析手段を工夫することによって想定される心理機能に関連した脳活動領域をかなり限定することも可能であり,また検証的な研究が可能である。結局のところ,これら2つの研究方法は相補的であり,このような異なる方法からの研究結果がある程度一致した場合には,その結果の信頼性は高まるし,結果の解釈もより正しい方向へ向かうと考えられる。本稿では我々の研究室と共同研究者とで行ってきた研究の中から,作業記憶と外側前頭前野,エピソード記憶再生と前脳基底部,人名想起と左側頭葉の3つのトピックスについての神経心理学的研究と神経機能画像研究を紹介する。

精神薬物療法と脳画像解析—神経伝達系の画像解析と受容体占拠率の臨床的意義

著者: 岩淵健太郎 ,   佐藤光源 ,   谷内一彦

ページ範囲:P.1181 - P.1187

はじめに
 精神薬物療法は,現在までほぼ半世紀の経験を重ねているが,実際の臨床場面における薬物の選択およびその用法,用量の決定に関しては,現在でも主治医の経験や習慣などの主観的な判断に頼るところが大きい。精神医学特有の診断学的方法による制約もあるが,evidence based medicine(EBM)の重要性に対する認識が高まっている昨今,精神薬物療法も例外ではなく,科学的な根拠に基づいた治療選択が求められている。
 動物やヒト死後脳を用いた研究からは,向精神薬の作用機序や薬物療法に関する多くの知見が蓄積されている。特に抗精神病薬の受容体結合実験からは,統合失調症のドーパミン仮説が提唱され,有力な神経伝達物質仮説として現在に至っている。その一方で,近年の脳画像研究の進展と共に,生きたヒト脳の形態や機能をさまざまな方法で調べることが可能になり,それらの知見は精神薬物療法においても重要な客観的指標となっている。
 ここでは,positron emission tomography(PET)や,single photon emission computed tomography(SPECT)を用いた脳機能画像研究のうち,特に神経伝達系の画像解析と受容体占拠率測定の臨床的意義を中心に紹介したい。

精神分裂病の脳画像解析と臨床応用

著者: 笠井清登 ,   山末英典 ,   荒木剛 ,   工藤紀子 ,   岩波明

ページ範囲:P.1189 - P.1196

はじめに
 精神分裂病(以下,分裂病)は,現実の歪曲,認知・情意の障害を主徴とする症候群で,一般人口の生涯罹患率は約1%弱である。思春期から成人早期に発症すること,比較的確立された薬物療法による幻覚妄想状態の消退後もさまざまな認知・行動・情意上の障害が残存し,社会生活上の大きな支障となることから,患者本人・家族にとっても社会経済学的にもきわめて損失が大きい。家族・双生児を対象とした疫学研究から遺伝の関与は確実とされているものの,責任遺伝子の同定をはじめ,決定的な病因は明らかになっていないのが現状である。一方,病因究明とはある程度独立した形で病態を解明する努力が,近年の脳画像技術の進歩に呼応する形で成果を挙げつつあり,分裂病症候の基盤に脳構造・機能異常が存在することが明らかとなってきた10,11)
 分裂病の病態研究の最終目標は,診断・治療への還元である。これまで分裂病の臨床診断や治療は,横断面として認められる臨床症状と現病歴から得られる縦断経過の評価に基づいて行われてきた。診断や治療計画の策定において,簡便で,反復して測定可能で,疾患の本質を反映する生物学的指標の確立が求められている。本稿では,各種脳画像を用いた分裂病の病態研究における我々の成果を中心に紹介しながら,分裂病の疾患診断・病態診断における脳画像検査法の臨床応用可能性について述べる。

気分障害の脳画像解析と臨床応用

著者: 井田逸朗

ページ範囲:P.1199 - P.1206

はじめに
 機能的脳画像診断法が気分障害の病態研究に応用されて以来,すでに多くの研究成果が蓄積している。うつ病相にある気分障害患者の局所脳血流や局所脳糖代謝を健常者と比較することによって,前頭前野背外側部での機能低下と,精神運動抑制や認知機能障害といった抑うつ症状の重症度と相関していることが明らかになった。その他には基底核,頭頂葉や側頭葉皮質の部分的な機能低下が報告されている。一方,前頭前野腹側部では,脳梁膝下部での代謝低下を除いては,活動亢進が報告されている。このようにうつ状態にある気分障害患者において,健常者に比べ機能が低下あるいは亢進している脳部位を同定することが可能となっている。さらに抗うつ薬・電気けいれん療法・断眠療法などの治療を施した後での再検査に行えば,治療反応者を調べることによって,治療反応性と関連した脳部位の検索が可能となる。また,治療抵抗例や,再発を繰り返す症例を対象に検査を繰り返していくことで,再発予測性と関連する可能性のある局所脳部位の候補が明らかとなりつつある。
 一方,最近のライフイベント研究から,気分障害の発症脆弱性の形成に,幼児虐待をはじめとする幼少期の不適切な養育環境が大きく影響しており,こうした既往を持つ小児・思春期症例を調べた結果,社会認知機能の発達と関係の深い上側頭皮質に形態的変化を来していることがわかってきている。
 本稿では最近の気分障害を対象とした画像研究の進展状況とその臨床応用性について述べた。

老年期痴呆の脳機能画像検査と臨床応用

著者: 石渡明子 ,   蓑島聡

ページ範囲:P.1207 - P.1217

はじめに
 現在,日本における65歳以上の老年人口が全人口に占める比率は約16%であるが,2050年には30%を超えると見込まれている。その中でも「痴呆性老人」は厚生省の発表によれば,2000年には約160万人となっており,2050年には400万人を超える可能性が示唆されている。このような状況において,増加する老年期痴呆への対応は急務と言わざるをえない。
 実際の臨床の場における痴呆性疾患の診断は,かつて神経心理学的側面から行われ,その確定診断は剖検脳においてなされてきた。脳の形態学的情報を提供するX-ray computed tomography(CT)や核磁気共鳴装置(Magnetic Resonance Imaging;MRI)は,脳の器質的病変を除外診断する目的で使用されてきた。しかし近年では脳の機能・代謝情報を提供するポジトロン断層装置(Positron Emission Tomography;PET)やシングルフォトン断層装置(Single-photon Emission Tomography;SPECT)といった脳画像診断装置の普及による客観的診断法の確立や,MRIによる局所脳皮質の萎縮の検出によって,より客観性の高い生前診断が可能となってきている。また3D-SSP(Three-dimensional Stereotactic Surface Projections;3次元定位脳表投射法)やSPM(Statistical Parametric Mapping)などの脳マッピングの技術に基づく脳画像解析法の進歩は,老年期痴呆性疾患の病態生理解明の手段の1つとしての礎を担ってきた。そこで得られた多くの情報は,画像診断法としての新しい手段を提供するばかりでなく,アルツハイマー病の薬剤治療戦略上で重要な情報を提供できるまでに発展している。
 本稿ではアルツハイマー病およびその類縁疾患でのSPECT,PETを用いた脳機能画像検査法で得られた知見を紹介するとともに,治療を含めた臨床応用の現状と将来への展望について言及する。

側頭葉てんかんの脳画像解析とその臨床応用

著者: 大坪俊昭 ,   松田一己 ,   八木和一 ,   三原忠紘 ,   鳥取孝安 ,   馬場好一 ,   西林宏起 ,   井上有史 ,   渡辺裕貴

ページ範囲:P.1219 - P.1229

はじめに
 側頭葉てんかんは症候性局在関連性てんかんの中核をなす一方で,薬剤への難治例には切除術によって複雑部分発作が消失する可能性が約80%であり,他のてんかん症候群に比し外科的治療効果が高いという評価が確立されている。これは,脳波を主体とする電気生理学的検査法に加え,形態および機能的な画像診断法が発展してきたこと,かつ最近では両検査法を統合した高解像度で,統計学的処理による客観性の高い表出法が開発されつつある10)という時代的背景にも基づいている。これら新たな診断法は,単にてんかん焦点の同定にとどまらず,術後の機能脱落を回避する目的としてfunctional mappingや言語・記憶優位側の判定にも臨床応用されている。本稿では筆者らがこれまでに経験した側頭葉てんかん手術例380例(病理診断は,内側側頭葉硬化243例,皮質形成異常16例,dysembryoplastic neuroepithelial tumorを主体とする神経上皮性腫瘍76例,脳血管腫13例,その他14例,明らかな異常を認めない18例)をもとに,代表症例の神経画像学的特徴とそれに対応する組織像を呈示するとともに,現在開発中の画像診断機器の中からNear Infrared Spectroscopy(以下NIRS)による言語優位半球の判定法について紹介する。

研究と報告

精神疾患の将来動向—専門家を対象とするアンケート調査のまとめ

著者: 石見盛太 ,   松本健 ,   岩田宜芳 ,   柳沼恵一 ,   高橋清久

ページ範囲:P.1231 - P.1239

【抄録】 「精神疾患に関する将来動向」に関する意見を精神医学専門家を対象にアンケート調査し,約100通の回答を得た。アンケートの設問は(1)精神疾患全般について①患者数の今後の推移予測,②治療薬の研究開発における重要な項目,③日本の研究と欧米の研究との比較,④精神疾患に関する医療上の問題点,(2)精神分裂病,気分障害,神経症性障害について①発症・進展機序はどの程度解明されたか,②発症・進展機序が解明される時期,③発症にかかわる因子の中で重要な項目,④発症にかかわる諸仮説の評価,⑤現在の治療薬の評価であった。
 精神分裂病の患者数は今後とも横這い状態が続くと予測された。また,気分障害,外傷性ストレス障害,睡眠障害,薬物依存症は増加するという予測と変わらないとする予測が相半ばした。治療薬の開発には「脳の高次機能の解明」や「心と脳の統合機能の解明」が重要であるが,それらの解明には今後10年以上かかるとの予測であった。一方,より副作用の少ない有効な抗精神分裂病薬や気分障害治療薬が10年以内に開発されるだろうとの見方も,半数以上の専門家によって示された。

レム睡眠行動障害における患者背景の検討

著者: 竹内暢 ,   内村直尚 ,   小鳥居湛 ,   前田久雄

ページ範囲:P.1241 - P.1245

【抄録】 レム睡眠行動障害の患者35人(男性34人,女性1人:平均年齢65.1歳)について,患者背景を検討した。対象は50歳代以降の男性が多かった。初診時での夜間の異常行動は,睡眠障害国際分類では,全例で重症であったが,ほとんどの症例で症状初発から平均10年以上経過していた。また経過中異常行動により外傷を負った者は,34.3%に上った。症状誘因には,アルコール,ストレスが認められたが,特に誘因のないものも多かった。夢内容は抗争的なものが多く,不快な情動が伴っていた。不眠を訴える者は30%弱であったが,不眠群では非不眠群に比べて飲酒機会が多く,アルコールを入眠目的で使用して,異常行動を増悪させていた。

Risperidoneへのparoxetineの追加投与により悪性症候群を呈した1例

著者: 中谷英夫 ,   眞谷幸介

ページ範囲:P.1247 - P.1251

【抄録】 Risperidoneを投与中の被害妄想,抑うつ,身体症状への強迫的こだわりなどの症状を持つ分裂感情障害患者に対しparoxetineを追加投与したところ悪性症候群(NMS)を呈した例を経験した。本例のNMSの発症に影響を及ぼしたメカニズムとしてセロトニン・ドパミン系間の薬力学的相互作用およびシトクロームP450を介した薬物動態学的相互作用の観点から考察を加え,risperidoneへのparoxetineの追加投与がNMSの発症に重大な影響を与えたと推定した。

短報

精神科外来におけるC型肝癌患者へのリエゾン精神医学的アプローチの経過中,自然退縮を認めた症例—治療チームにおける看護者の役割

著者: 定塚江美子 ,   鈴木美恵子 ,   定塚甫

ページ範囲:P.1253 - P.1256

はじめに
 末期がん患者に対しての精神療法的アプローチは,この十数年足らずの間に,一方では,神経精神医学と免疫学とを総合的に関連づけた研究であるpsychoneuroimlnunologyの分野の発展6,11),他方ではがんが心に与える影響と心や行動ががんの経過に与える影響を調べ,QOL(quality of life)を重要視したpsycho-oncologyの分野における研究の発展9,15)により,盛んに行われている。しかし,柳田が指摘しているように,今日に至ってもなお変わることのないものはがん患者の本質であり,それは死を意識することによって何かをなそうという気持ちと,死を恐れて,滅入り,すべてを放棄してしまう気持ちの両者が激しく揺れ動く矛盾した感情であるという14)。その両価的な気持ちをもつ個々の患者に対して,全人的にいかに援助できるかが,現代の医療および,医療スタッフに課せられた重要な問題であろう。しかしながら,患者の心理状態や今後への心構えなどへの配慮さえ行き届かず,ただ『告知』が行われるようになってきていることも事実である。世を憚りながらも,我々の診療科を訪れる患者は未だ希と言わざるをえない。
 今回,C型原発性肝癌であることを知らされずに医療機関を転々としている間に,がん恐怖のあまり,抑うつ状態となり,当院を訪れた患者に対し,あらん限りの全人的医療を試みたところ,肝癌の自然退縮を認めた。チーム医療の中で看護者として,治療的アプローチに関与する機会を得たので,ここに報告する。

病初期に転換性障害として治療された進行性核上性麻痺の1例

著者: 梶谷康介 ,   梅末正裕 ,   平野羊嗣 ,   野見山晃 ,   尾籠晃司

ページ範囲:P.1257 - P.1260

はじめに
 進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;以下PSP)はパーキンソニズム,垂直性眼球運動麻痺,頸部の後屈を伴う軸性ジストニア,仮性球麻痺,痴呆を呈する神経変性疾患である11)。PSPの病初期に,抑うつ,幻覚,妄想,人格変化を認めた症例は多く報告されているが1,2,4,7,12),失立・失歩様症状を呈した症例は我々が調べるかぎり報告されていない。我々は病初期に失立・失歩と疑われた転倒・歩行障害を呈し,転換性障害として治療されたPSPの1例を経験したのでここに報告する。

私のカルテから

Clobazamにより気分高揚をみたてんかんの2例

著者: 高橋千佳子 ,   須江洋成 ,   中山和彦 ,   牛島定信

ページ範囲:P.1262 - P.1263

 Clobazam(以下,CLB)は従来の1,4-benzodiazepineとは異なり,1,5位に窒素原子を有する新しい抗てんかん薬である。その効果はCLB自体と代謝物である脱メチル体(N-desmethylclobazam)の双方によるが,半減期は長く,特に脱メチル体は定常状態に至るには長時間を要すとされる。そのため副作用の発生に時間がかかるといわれ,注意が促されている1,3)。今回,CLB追加にて気分高揚をみた知的障害を伴うてんかん2例を経験したが,いずれもCLB特有の薬物動態に相関していると考えられたのでここに報告する。

動き

「第27回日本睡眠学会」印象記

著者: 海老沢尚

ページ範囲:P.1264 - P.1265

 日本睡眠学会第27回定期学術集会は,山本光璋会長(東北大学大学院情報科学研究科教授),松岡洋夫副会長(東北大学大学院医学系研究科教授)のもと,2002年7月4日から5日まで,仙台国際センターで行われた。「睡眠と人間性の回復」という全体テーマが示され,特別講演1,会長講演1,ランチョンセミナー4,シンポジウム3(うち一つは市民公開講座),研究奨励賞受賞講演2,一般講演150のほか,7月3日にプレコングレスシンポジウム2,7月6日にはポストコングレスシンポジウムおよび睡眠科学・医療専門研修セミナーが開かれた。学会認定医・歯科医・検査技師・医療機関の制度がスタートした直後でもあり,熱気にあふれた学会となった。7月5日には仙台エクセルホテル東急で懇親会が催され,学会場から引き続く討論や,親交を深める絶好の機会が提供された。
 まず7月3日にプレコングレスシンポジウムが開かれた。I「オレキシン—その基礎と臨床」では,ここ数年で急速にクローズアップされたオレキシンが摂食行動のみでなく,睡眠・覚醒調節にかかわっていることが,分子生物学・生理学・薬理学・臨床医学などさまざまな分野で第一線の研究を行っている研究者の方々の講演で詳細に示された。オレキシンはモデル動物のみならず,ヒトのナルコレプシー発症にもかかわっていること,ナルコレプシーとの相関のあるHLADR2の有無とオレキシンの髄液中濃度が関係しており,今までの蓄積された研究成果とも合致することなど,衝撃的な発表が相次いだ。II「睡眠呼吸障害検査の現状と問題点」では,睡眠呼吸障害を客観的にとらえようとする意欲的な取り組みが次々に提示された。睡眠時呼吸障害は当学会関係者をはじめとする多くの医療関係者の努力により近年社会的認知が浸透し,日々の診療場面で重要性を増してきた疾患であり,まさに時宜を得たテーマと感じられた。特別発言として,立花尚子氏(大阪府立健康科学センター)から米国では睡眠障害の検査・治療が,一定のスタンダードを保証するべくシステマティックに構築されている旨の説明があり,その合理的な取り組みに感銘を受けた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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