icon fsr

雑誌目次

論文

精神医学44巻12号

2002年12月発行

雑誌目次

巻頭言

卒後臨床研修の精神科必修化を受けて

著者: 伊豫雅臣

ページ範囲:P.1274 - P.1275

 平成16年度からの医師の初期研修で精神科が必修科目となりました。この過程において多くの先輩諸氏がご苦労なされ,まだ不十分なのかもしれませんが,このような形となったのは大変すばらしいことと思います。日常の臨床場面で他科の先生方の精神障害への理解の乏しさに落胆することがあります。また,患者さんの問題よりも,接し方に問題があるのではないか,と感じることも少なくありません。やはり,それを改善していくにはできるだけ若い時期に精神障害の患者さん方に接していただくのが大切でしょう。このような研修を通して若い方々の精神疾患への理解が進み,精神科以外の先生方に適切に初期の対応を行っていただけることを期待しております。
 十数年前の話です。地域の単科精神病院に勤務していたとき,その地域の中核的総合病院から高齢男性をご紹介いただき入院治療したことがあります。その方は近県の方で肝機能障害と肺炎で入院しておられましたが,大柄でしっかりとした体格の方でした。入院して二,三日してだと記憶しておりますが,病室においてベッドでバリケードを築き,点滴台を武器に多くの「敵」と戦い始めてしまったのでした。電話連絡を受け,入院を受けることとしました。奥様と主治医の内科医とともに拘束されて救急車で来院されました。情報からせん妄が最も考えられました。そこで内科医にはせん妄の可能性が高く1週間で落ち着くと思うので,その後はまたそちらで身体疾患の治療をしてください,とお話ししました。そして感謝されただけでなく,ご了解を得た,と記憶しております。奥様は心配げで,また私にもその内科医にも申し訳なさそうな表情をされておられました。内科医は往診にはいつでも来るということも約束してくれました。

研究と報告

精神科病院における高齢痴呆患者の転倒

著者: 森山成彬

ページ範囲:P.1277 - P.1286

【抄録】 精神科病院の痴呆病棟において,転倒骨折して整形外科受診となった18名について,転倒の危険要因と最長6年半後の予後を調べた。全員が女性であり,痴呆の種類や重症度はさまざまで,知覚障害やその他の身体合併症はさして重篤ではないが,転倒歴が顕著に多かった。転倒は自室やホールでベッドや椅子からの立ち上がりがけと,廊下やホールで障害物にあたって生じる傾向があった。時間帯による差はなく,患者が終日ホールに集まりスタッフの観察が行き届く曜日に転倒が少なかった。服用している抗精神病薬と抗不安薬・睡眠薬,抗うつ薬の量は決して多いとは言えなかった。骨折の8割は大腿骨頸部骨折であり,予後も悪く,そのうちの4割が死亡,3割が寝たきりになっていた。

進行麻痺8例における初期症状と知的予後

著者: 中西かおる ,   亀井雄一 ,   中嶋常夫 ,   榎本哲郎 ,   早川達郎 ,   工藤吉尚 ,   塚田和美 ,   樋口輝彦

ページ範囲:P.1287 - P.1293

【抄録】 国立精神・神経センター国府台病院にて治療された初発の進行麻癖8例について,初期症状および知的機能における予後を報告した。症例は男性7例,女性1例で,平均年齢は50歳であった。全例とも血清でのTPHA,STSは強陽性を示し,髄液ではTPHA強陽性および細胞数増多を認めた。これらの検査結果と臨床経過から進行麻痺と診断したが,早期診断に当たっては,病歴の中から初期症状を見いだすことが重要であると思われた。さらに,ペニシリン治療によりADLは全例とも回復したが,言語機能は回復しない症例があった。言語機能の予後にかかわる因子としては,発症から治療までの期間と瞳孔異常の有無が挙げられた。

脳血管性痴呆の自殺企図例の臨床的研究

著者: 伊藤敬雄 ,   山寺博史 ,   伊藤理津子 ,   佐藤忠宏 ,   遠藤俊吉

ページ範囲:P.1295 - P.1303

【抄録】 脳血管性痴呆における自殺企図例の特徴を検討した。脳血管性痴呆241例のうち3.7%,9例(未遂5例,既遂4例)に自殺企図を認めた。自殺企図例はすべて痴呆初期に分類された。老年期痴呆例全体と比較して平均年齢は低く,痴呆罹患期間は短く,認知機能障害は軽度であった。自殺企図例全例で身体疾患を罹患しており,長期治療を強いられる心血管系疾患に運動器系疾患や感覚器系疾患の合併が自殺企図へのリスクをいっそう高めていると考えられた。自殺企図前に抑うつ状態と共に不安・心気状態を高率に認め,時に妄想状態も自殺企図と関連していた。特に自殺企図前の抑うつ状態と気分障害の既往歴は自殺企図と重要な関係にあると考えられた。また自殺例では,頭部CT所見において基底核領域の多発性梗塞が特徴として指摘された。そして,縊首,裂傷・切傷など患者にとって容易に施行できる自殺手段を選択する傾向がうかがわれ,多くが自殺の予兆なく突然に自殺を図った。

摂食障害の予後予測因子について

著者: 中井義勝 ,   濱垣誠司 ,   石坂好樹 ,   高木隆郎 ,   高木洲一郎 ,   石川俊男

ページ範囲:P.1305 - P.1309

【抄録】 初診後4〜10年経過した神経性無食欲症(AN)137例と,神経性大食症(BN)86例を対象に半構造化面接による転帰調査を行い,ANとBNの予後予測因子の解析を行った。ANは良好53%,軽快17%,不良30%,BNは良、好58%,軽快16%,不良26%であった。ANは初診時年齢,罹病期間,体格指数(BMI)の最小値,むちゃ食い,嘔吐,親に過剰な依存,対人関係不良,出席(勤)不良,社会適応不良,comorbidityや行動障害の有無,入院歴が,BNは社会適応不良,comorbidityや行動障害の有無が予後と関連した。摂食障害の予後には,身体所見や食行動に加えて,対人関係,社会関係,comorbidityや行動障害の有無も関連することが示唆された。

けいれん発作重積状態後に横紋筋融解症により急性腎不全を呈した1症例

著者: 辻正保 ,   田中久 ,   山川正人 ,   矢田篤司 ,   安藤達志

ページ範囲:P.1311 - P.1315

【抄録】 症例は37歳男性,診断は部分てんかん。二次性全般化強直間代発作の重積状態からおおよそ16日後にrhabdomyolysisによる急性腎不全を引き起こしたが,血液濾過透析によって治癒しえた。本例のrhabdomyolysisは,けいれん発作重積状態,フェニトイン(PHT)による炎症性筋炎,無動状態による筋肉への圧迫および脱水などの要因が重なって生じたものと考えられる。けいれん発作重積状態ではrhabdomyolysisが発生することがあるので,けいれん重積を極力迅速に止めることが肝要である。PHTの組織侵襲性,昏睡下の無動状態による筋肉への圧迫ならびに脱水はrhabdomyolysisから腎不全を引き起こす1要因になると考えられるので注意を要する。

短報

Milnacipranを大量服薬した1症例—Milnacipranの血中濃度と薬物動態学的特徴

著者: 宮川晃一 ,   江渡江 ,   植田由美子 ,   清水隆史 ,   一宮洋介 ,   新井平伊

ページ範囲:P.1317 - P.1320

はじめに
 近年,精神科臨床において選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が広く使用されるようになった。これらの薬剤は,既存の抗うつ薬に比べ副作用が少なく,大量服薬に対しても安全であるといわれ,効果の高い抗うつ薬として期待されている。一方,順天堂浦安病院(以下当院と略す)に救急搬送される急性薬物中毒患者の中で,最近,SSRI,SNRIを大量服薬する症例が散見されるようになってきた。
 今回我々は,milnacipranを大量服薬した症例において,経時的にmilnacipranの血中濃度を測定する機会を経験した。milnacipranを大量服薬した際の薬物血中濃度や対処法に関しては,国内外を問わず報告はなく,興味深い結果を得たため,症例を提示し,milnacipranの薬物動態学的特徴をもとに若干の考察を加える。

Paroxetineが著効した幼児期発症の社会恐怖の1症例

著者: 沼田周助 ,   住谷さつき ,   永峰勲 ,   大森哲郎

ページ範囲:P.1321 - P.1324

はじめに
 社会恐怖は,日本において,従来対人恐怖と呼ばれていた病態と重なりが大きく,青年期に好発すると言われている4)。しかし欧米では社会不安の20%は5歳までに発症するという報告もみられ8),発症は青年期と必ずしも結びつくものではない。今回,我々は,幼児期から会食恐怖症状のある症例を経験した。日本では,幼少期発症の社会恐怖の報告は稀である。この症例に対しparoxetineによる薬物治療を行ったところ,著明な症状の改善がみられたので,若干の考察と共に報告する。

妊娠を契機に解離性亜昏迷状態を呈した女性強迫性障害患者の1例

著者: 吉田卓史 ,   多賀千明 ,   太田純 ,   津川麻子 ,   河瀬雅紀 ,   福居顯二

ページ範囲:P.1325 - P.1327

はじめに
 強迫とは自分自身と環境をすべて一元的にコントロールすることにより,不安の解消を図ろうとする試みである6)と考えられている。一方,解離とは,ICD-10において記憶,同一性,意識,そして身体のコントロールの間の正常な統合が失われた状態と定義され,多元的な方向性をもつ傾向とされている。このように,強迫性と解離性は相反的な方向性をもつものと考えられている4)
 女性の強迫性障害Obsessive-Compulsive Disorder(OCD)患者では,妊娠を契機に強迫症状の悪化を来す例が多いことが知られている5)が,解離症状を呈したとの報告は知られていない。そこで今回,妊娠を契機に解離性亜昏迷状態を呈した女性OCD患者を経験したので報告する。

資料

「日本神経学会」(現:日本精神神経学会)創立以前の日本における19世紀西欧神経心理学の受容史—(2)神経心理学的諸概念・知見の導入と独自の発展への道程(1881〜1902年)

著者: 濱中淑彦

ページ範囲:P.1329 - P.1339

 前編(1)においては,Brocaの報告(1861)以後の西欧神経心理学の受容の歴史を,1861年から1880年までの時期について検討し,神経心理学を開拓したBroca,Trousseau,Sanders,Jackson,Werllickeらの原著を通じて直接に行われたのではなく,彼らの研究と見解を神経学,内科(症状・診断)学,精神医学などに取り入れた他の諸家の著作(Hartmann 1866以後),および邦訳書(特にHartshorne 1879)を通じて明治初期の医学者が受容した過程を明らかにし,他の言語障害と区別される「失語」の概念と用語が三宅秀(1878)の神経診断学講義に登場したことを述べた。
 本稿では,その後1881年から日本神経学会(現在の日本精神神経学会)が創立(呉秀三,三浦謹之助 1902)された時期までの神経心理学受容史について述べる。本文中,太字の語,人名は邦語書として初出と思われるものである。

国立国際医療センター救急部に搬送された自殺企図者の実態について

著者: 三澤仁 ,   伊藤耕一 ,   金井貴夫 ,   関由賀子 ,   香西京子 ,   田吉伸哉 ,   石川喜理子 ,   加藤温 ,   笠原敏彦

ページ範囲:P.1341 - P.1344

はじめに
 国立国際医療センターは,総ベッド数925床の総合病院であり,当院の救急部は東京都新宿区近郊の3次救急の一翼を担っている。そこに搬送される患者の中には,自殺企図と思われる患者も多く,救急医療の現場においてさまざまな形で精神科(以下,当科)が関与する場合が多い。今回我々は,過去1年間に当院救急部に搬送された自殺企図者についてのカルテ調査を行い,特に当院で多く認められる過量服薬者の実情や新傾向を中心に,若干の考察を加えた。

私のカルテから

妊娠中の精神障害と思われたが,絨毛癌脳転移による器質性精神障害であった1例

著者: 山本健治 ,   原田研一

ページ範囲:P.1346 - P.1347

 妊娠中の女性では,性ホルモンをはじめとした内分泌系の変化が生じ,「妊娠中の精神障害」として,不安・焦燥などの気分変調,易刺激性といった情動変化,発動性低下および対人様式の変化などが生じやすい2)。今回我々は,妊娠を契機にそのような精神症状を呈し,「妊娠中の精神障害」が疑われたが,その後,絨毛癌の脳転移が発見された1症例を経験した。脳腫瘍などの器質性障害でも同様の精神症状を呈することはまれではなく3),常に器質性精神障害を念頭に置いた診療を行うことの重要性を再認識した。日常臨床を行う上で示唆に富む症例と思われたので報告する。

シンポジウム WHO精神保健レポートと日本の課題

WHO精神保健レポートと日本の課題—「WHOシンポジウム」開催にあたって

著者: 浅井邦彦

ページ範囲:P.1349 - P.1349

 2002年3月7日〜8日,千葉市幕張メッセ地区のOVTAで開催された第22回日本社会精神医学会で,特別セッションとしてWHOシンポジウム「WHO Health Report on Mental Health-Implication in Japan」が持たれました(同時通訳)。
 このシンポジウムでは,2001年10月WHOから出版された「ワールド・ヘルス・レポート2001-精神保健」およびアトラスを中心に,WHO関係者によって講演が行われましたので,その内容を紹介いたします。

2001年World Health Report—新たなる理解,新たなる希望

著者:

ページ範囲:P.1350 - P.1359

 本日は,ワールド・ヘルス・レポート2001についてお話をさせていただきます。
 2001年のWHOのテーマとして,WHOのG. H. Brunthland事務総長が選びましたのが,初めてのことですが,精神保健(メンタルヘルス)でした。2001年4月7日を“世界精神保健デー”とし,各国で催しが行われ,5月にはWHO総会(世界会議)が開かれ,世界各国の厚生大臣,保健大臣が参加し,精神保健をテーマに話し合いました。そして10月4日に「ワールド・ヘルス・レポート2001」を発表(出版)しました。また,2002年は「精神保健年」という宣言をいたしました。そういう意味では,精神保健の分野で働く全世界の人々にとって,この報告書がキー・メッセージを届けてくれることになるだろうと思っています。特に,WHOの2001年報告書は,政策立案者,あるいは厚生省の人,あるいは各国の第一線で働く精神科医の先生方,あるいは精神保健に従事している人たちなどに読んでいただきたいと思います。

精神保健のストーリー—WHO西太平洋地区精神保健戦略

著者:

ページ範囲:P.1361 - P.1365

WHOヘルス・レポートの意味
 私は今日の講演で,WHO西太平洋地区事務局でどんなことが行われているのか,特にWHOのワールド・ヘルス・レポートのメッセージをこの地区に適用するためにどのように活動しているのかをお伝えしようと思います。
 精神保健というのは,西太平洋地区においても,またWHO全体においても重要課題です。日本はこの西太平洋地区の37か国の一員として,2001年9月の地域委員会において提案された戦略計画を承認しました。したがって日本国政府は,このWHOのワールド・ヘルス・レポートの戦略計画に語られていることに従うと誓約していることになります。各国政府がこのような形で約束して,精神保健ならびに身体的な健康増進のために努力するということです。この戦略は地域委員会の全体会議において,全会一致で採択されました。

精神保健における社会資源—日本,西太平洋諸国,世界の比較

著者: ,  

ページ範囲:P.1367 - P.1372

WHO精神保健アトラスのメッセージ
 本日は,WHOジュネーブでの私どもの活動の一部を紹介させていただきます。またいかに各国が,このWHO地区事務局と共に協力していくことができるかを考えていきたいと思います。私の目的は,WHOプロジェクト・アトラスの結果の一部をご紹介することです。このプロジェクトに関しては同僚のDr. Pabllab Maulik氏(ジュネーブ)に,かなりの仕事をしていただきました。彼にまず謝意を表明したいと思います。特に日本に関連した結果を紹介しますが,日本は西太平洋地区あるいは世界全体と比べてどのようなところにあるのかという内容になります。まずこのプロジェクトの背景ですが,皆さんよくご存知のように,精神障害,神経障害の発生率,罹患率は非常に高くなっています。しかし,Herrman先生もおっしゃいましたようにこれは回避ができる,もっと下げることができるはずです。ただこれを回避するために必要な社会資源が入手不可能であったり,あるいはあっても適正に利用されていないのが現在の状況です。そこで私たちがこのプロジェクト・アトラスをスタートさせました。その目的はこの精神保健に関する社会資源を世界各国において見つめていき,モニターしていこうということです。もう1つ申し上げたいことは,精神神経疾患の疫学データがかなり出ております。少なくとも先進国におきましては何十もの研究・調査が行われており,例えば,うつ病患者あるいは統合失調症(精神分裂病)の患者がどのくらいいるかという数字が出ております。ただ,どのようなデータが実際にあるのかということに関する情報が不十分です。そしていかにこのリソース(資源)を効果的に活用できるかということに関しての知識が欠落しているということで,このプロジェクトではこの点に注目したわけです。
 まず,精神保健の社会資源に関して,全世界から関連性のある情報を収集し編纂して,それを普及させるということ,そしてどのような事実があるかを解明するためにアンケートを開発し実施しました。また,メンタルヘルスに関する用語集も作りました。これはWHOの公用語に翻訳しております。これらの用語の一部は各国で使い方がバラバラだったので標準化し,統一を図ったわけです。非常に簡単ですぐわかるような言葉,例えば,“psychiatrist”(精神科医)という言葉でも国によっては意味が違います。国によっては何年も訓練・研修をしないと精神科医になれない,あるいは1年研修を受ければ精神科医になることができる国もあるわけです。したがって統一が必要であったということで,WHOの各地区事務局と緊密に協力し合いながら行いました。全世界のWHOに加盟している191か国で今回の調査を行いました。また,保健省のほか,各国の保健省からの情報のみならず他にも出ている文献であるとか,資料も参考にしております。そして2001年10月に最初のワールド・ヘルス・レポートが発刊され,2冊目の報告書がごく最近出ました。

「精神医学」への手紙

精神科領域における危険な不整脈予防のための心電図自動計測について

著者: 八尾博史 ,   福田賢治 ,   定永史子 ,   定永恒明

ページ範囲:P.1373 - P.1374

 向精神薬を服用中の患者では,薬剤誘発性の危険な不整脈を予防するため,QTc時間の定期的な測定が必要である1,2)。QTc時間をどの誘導で計測するかは一定の見解はないが,標準12誘導心電図でもっとも長いQTc時間をとるのが一般的である。しかしながら従来の心電図検査で自動計測されるQTc時間の値は,QTc時間延長の評価に必ずしも有用とはいえない。最近,コンピュータ化したQTc時間測定法について検討がなされ3),当所においても同方法による心電図計を使用する機会を得たので,一定期間に心電図検査を受けた連続17例において得られた知見について報告する。
 従来使用していた心電図計によるQTc時間の自動計測値(A),コンピュータ化したQTc時間測定法による値(B)および循環器内科専門医による測定値(C)を表に示している。今回検討したコンピュータ化QTc時間測定法と専門医による測定値は非常によく近接した値であった(r=0.879,p<0.0001)。しかし,表から明らかなようにこれまで当所において日常診療に用いてきた心電図計からは危険な状態(特に症例1)を予測することはできなかった(AとCの相関係数r=0.167,p=0.5288)。以前にも我々はQTc時間602msecという著明延長例を従来型の心電図計で65msecも過小評価した経験がある。このように従来型の心電図計がしばしば不正確である理由として,特別に用意されたプログラムを使用しないとQTc時間の正確な自動測定はできないことと,今回使用した従来法心電図検査では全12誘導のQTc時間を平均値として表示しているため,各誘導間でQTc時間のバラツキが大きい場合,著明なQTc時間延長を見逃してしまうことがあげられる。

--------------------

精神医学 第44巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

KEY WORDS INDEX

ページ範囲:P. - P.

精神医学 第44巻 著者名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?