icon fsr

雑誌目次

論文

精神医学44巻5号

2002年05月発行

雑誌目次

巻頭言

PTSD概念の拡散

著者: 浅野弘毅

ページ範囲:P.478 - P.479

 1980年にアメリカで刊行されたDSM-IIIにPTSD(外傷後ストレス障害)という診断名がはじめて登場して以来,わが国の精神科臨床においてもPTSDの診断が急速に広まっている。
 一般の人々の間でも,阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件を契機にして,PTSDと「心のケア」への関心が高まっている。

展望

電気けいれん療法の適応と今後の課題

著者: 粟田主一

ページ範囲:P.480 - P.490

はじめに
 電気けいれん療法(ECT)は1930年代に始まり,その後の20年間に,精神分裂病やうつ病に対する治療法として世界に広く普及した。が,1950年代後半以降,向精神薬の導入によってECTに対する関心が急速に薄れ,1960年代以降には,ECTの乱用に対する批判,安全性に対する危惧から,ECTそのものが社会的に排斥される傾向を強めていった23)
 しかし,20世紀最後の20年間に,本治療法が改めて見直されるようになった23,25)。その背景には,第一に,薬物療法の限界が明らかになるとともに,薬物療法困難例に対するECTに再び関心が向けられるようになり,その有効性を支持するデータが次第に蓄積されつっあったこと,第二に,欧米では,それまでにすでに静脈麻酔薬と筋弛緩薬の使用,酸素化,抗コリン薬の前投与など,安全面での改良が加えられた修正型ECTが広く普及しており,その安全性が臨床の中で繰り返し確認されてきたこと,などがある。

研究と報告

精神障害無自覚度評定尺度日本語版(SUMD-J)の信頼性と妥当性の検討

著者: 酒井佳永 ,   金吉晴 ,   秋山剛 ,   栗田広

ページ範囲:P.491 - P.500

【抄録】 精神障害無自覚度評定尺度日本語版(the Scale to Assess Unawareness of Mental Disorder Japanese Version:SUMD-J)を作成し,43人の精神分裂病患者を対象に信頼性と妥当性を検討した。全般的病識項目においてCohenのк係数は0.60を超えており,Cronbachのα係数は0.71であったことから一定の評価者間信頼性,内部一貫性が確認された。陽性陰性症状評価尺度の「病識と判断力の欠如」項目,病識評価尺度日本語版(SAI-J)を外的基準とした併存的妥当性の検討では,尺度全体として一定の併存的妥当性が示された。SUMD-Jは一定の信頼性と妥当性を持つ有用な病識評価尺度であるが,今後より多数の重症例を対象に検討を行う必要がある。

日本語版National Adult Reading Test(JART)の作成

著者: 松岡恵子 ,   金吉晴 ,   廣尚典 ,   宮本有紀 ,   藤田久美子 ,   田中邦明 ,   小山恵子 ,   香月菜々子

ページ範囲:P.503 - P.511

【抄録】 National Adult Reading Test(NART)は不規則な音読を持つ50英単語の音読課題である。その音読が痴呆患者では保持され,健常者ではIQと相関することから,痴呆患者の病前IQを推定できる。筆者らは漢字100熟語音読課題を用いて日本語版NART(Japanese Adult Reading Test:JART)を作成し,その信頼性・妥当性を予備的に検討した。健常者140名にJARTとWechsler Adult lntelligence Scale-Revisedを施行した。JART全項目のα係数は0.94であった。またJART正答数とIQとは強い相関(r=0.72)を示したことからJART誤答数よりIQを推定する回帰式を作成した。軽度脳血管性痴呆患者13名,軽度アルツハイマー型痴呆患者29名に対してJARTとWAIS-Rを行ったところ,JARTによる推定IQはほぼすべての患者で実際のIQを上回っていた。これよりJARTの信頼性・妥当性が予備的に支持された。

妄想性うつ病と非妄想性うつ病の比較研究

著者: 葉室篤 ,   大坪天平 ,   田中克俊 ,   秋元洋一 ,   秋庭秀紀 ,   平井里江子 ,   宮岡等 ,   上島国利

ページ範囲:P.513 - P.520

【抄録】 入院治療を必要とした大うつ病性障害患者131人を,精神病像の有無により妄想群28人(21.4%)と非妄想群103人(78.6%)に分け,さまざまな項目に関し比較検討した。単変量解析では,妄想群が非妄想群より有意に,入院時年齢,入院中最重症時17項目ハミルトンうつ病評価尺度(HRSD-17)得点,入院中最高抗うつ薬用量,ECT施行率が高く,入院時Global Assessment Function(GAF)得点が低く,入院期間が長かった。寛解退院後2年間の再燃・再発率は,妄想群が68.9%,非妄想群が60.1%で有意な差はなかった。妄想の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析では,入院中最重症時HRSD-17得点が高いこと,入院期間が長いことが有意な関連要因として挙げられた。精神病像を伴う大うつ病性障害は,うつ病の重症型とするというDSM-IVの位置づけを支持する結果となった。

女子大学生における食行動の実態とその社会・心理的要因について

著者: 吾妻ゆみ ,   大野弘之 ,   稲富宏之 ,   田中悟郎 ,   太田保之

ページ範囲:P.521 - P.527

【抄録】 女子学生554名を対象に摂食障害と共通の摂食行動・態度と,影響を及ぼしていると思われる要因との関連について,質問紙調査を行った。尺度にはEAT-26(Eating Attitude Test-26),外見重視尺度,イイコ行動特性尺度を用いた。EAT-26の因子分析においてα係数が0.70以上であった「ダイエット」「過食傾向」「肥満恐怖」の3因子の合計得点を「摂食障害傾向得点」と設定し,外見重視,イイコ行動特性,BMI,やせ願望指標との相関分析・重回帰分析を行った結果,摂食障害傾向は,これらすべての要因によって高められることが認められた。

精神疾患患者におけるbacterial translocation

著者: 長嶺敬彦 ,   村田正人 ,   安部公朗 ,   池田まな美 ,   大賀哲夫 ,   岡村功 ,   添田光一郎 ,   本間純子 ,   渡広子 ,   和田方義

ページ範囲:P.529 - P.533

【抄録】 精神分裂病で入院中の患者で,原因不明の腸内グラム陰性桿菌による敗血症を2例経験した。2例とも糞便中と血液から同じ種類の腸内細菌が検出され,なおかつ消化管穿孔が否定的であったので,病態としてbacterial translocationが考えられた。bacterial translocationとは,本来腸管内に存在する細菌が腸管上皮や粘膜固有層を通過して腸管外に侵入する現象であり,集中治療の現場で注目されている。精神疾患患者は長期の抗精神病薬内服や生活環境から排便習慣の退廃を来しやすく,bacterial translocationを起こしやすい集団と考えられる。日常精神科臨床でbacterial translocationに言及した論文は見当たらないので,文献的考察を加えて報告した。

短報

ウエルニッケ脳症の経過中に多彩な不随意運動を呈した1症例

著者: 末永貴美 ,   長岡幾雄 ,   片桐秀晃 ,   植本香織 ,   山本修 ,   森岡壯充

ページ範囲:P.535 - P.538

はじめに
 ウエルニッケ脳症の古典的三徴は意識障害・眼球運動障害・失調性歩行であり,不随意運動を伴うことはまれである。今回我々は,眼球運動障害を伴わず,四肢体幹失調と意識障害に加えバリスム・舞踏運動・アテトーシスといった多彩な不随意運動,横紋筋融解,SIADHを呈した後,両下肢のミオクローヌスを認めたウエルニッケ脳症の1症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

アルツハイマー型痴呆に伴う妄想にperospironeが有効であった1例

著者: 花田一志 ,   辻井農亜 ,   柴育太郎 ,   飯田仁

ページ範囲:P.539 - P.541

はじめに
 近年,新しい非定型抗精神病薬が発売され,注目されている。これらの薬剤の適応は精神分裂病しか認められていない。従来から使用されている定型抗精神病薬は,精神分裂病以外にも幻覚妄想を伴うさまざまな疾患に使用され,その効果が確認されてきた。しかし,非定型抗精神病薬の中でもperospirone(PER)は本邦で開発されたが,さまざまな疾患に対する使用報告は少ない。
 今回,アルツハイマー型痴呆に伴った妄想に対してPERを投与したところ有効な結果を得た。症例報告し,高齢者に対するPERの特徴などについて若干の考察を加える。

Clonazepamが奏効したけいれん性発声障害の1症例

著者: 宮岡剛 ,   笠原恭輔 ,   三浦星治 ,   大城隆太郎 ,   岡崎四方 ,   山崎繁 ,   三原卓巳 ,   清水予旨子 ,   安川玲 ,   坪内健 ,   水野創一 ,   前田孝弘 ,   上垣淳 ,   助川鶴平 ,   稲垣卓司 ,   堀口淳

ページ範囲:P.543 - P.545

はじめに
 けいれん性発声障害(spasmodic dysphonia,以下SDと略す)は稀な疾患である7)。発声時に声帯の過緊張と声門の過剰閉鎖を起こし,声は圧迫性,努力性となり,不随意に渋滞してとぎれとぎれの声になる。一般に知的レベルの高いものに多く,過緊張やストレスのある時のほうが声が不良である。SDの病因は不明であり,心因から神経生理学的な障害までさまざまな仮説が立てられているが,治療は困難である。主に近年では耳鼻科領域で扱われている疾患であるが,欧米ではSDの治療には精神科的関与が必要であると考えられている9)。しかし,我々の知るかぎりにおいて,本邦の精神科領域における報告は皆無である。clonazepamはbenzodiazepine系の抗てんかん薬であるが,強迫性障害,気分障害,恐慌性障害などの精神障害の治療にも使用されている。しかし,これまでにSDの治療にclonazepamが使用され有効であったという報告はみられない。
 今回,SDの1症例にclonazepamによる治療を試みたところ,著明に症状の改善がみられたのでこの症例について報告し,若干の考察を加える。

Paroxetineが著効した疼痛性障害の2例

著者: 挾間玄以 ,   広江ゆう ,   川原隆造

ページ範囲:P.547 - P.549

はじめに
 疼痛性障害は,疼痛により日常生活に著しい苦痛と機能の障害をもたらし,さらにその痛みの形成に心理的要因が密接に関与している病態(DSM-IV:307.80)であるとされている。従来薬物療法として,三環系抗うつ薬が第一選択として使われていたが,近年選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)の慢性疼痛への応用も試みられている1)。今回,SSRIの1つであるparoxetine投与が著効した疼痛性障害の2例を経験したので報告する。

フルボキサミンが奏効した夜間摂食飲水症候群の1症例

著者: 安川玲 ,   三原卓巳 ,   清水予旨子 ,   笠原恭輔 ,   大城隆太郎 ,   三浦星治 ,   坪内健 ,   宮岡剛 ,   水野創一 ,   前田孝弘 ,   稲見康司 ,   助川鶴平 ,   稲垣卓司 ,   山下英尚 ,   堀口淳

ページ範囲:P.551 - P.554

はじめに
 夜間摂食飲水症候群(Nocturnal Eating/Drinking Syndrome;以下,NE/DS)は1955年Stunkardらによってはじめて25例の難治性の症例が報告された症候群である10)。1990年に,その診断基準がアメリカ睡眠障害連合による睡眠障害国際分類診断1)に記載された。しかし,今口に至るまでNE/DSについての詳細な症例報告や治療に関する報告は極めて少ない8,9)。しかも,報告されたものの大部分は夜間摂食行動を合併する神経性食思不振症や神経性過食症などの摂食障害の患者に関する報告である2,6)。今回,我々は摂食障害の診断基準を満たさない症例で,fluvoxamineの投与が摂食エピソードの回数と摂食量の減少とに奏効したNE/DSの1症例を経験したので,終夜睡眠ポリグラフ検査所見をまじえて報告する。

髄液中アミロイドβ蛋白・タウ蛋白を検討しえた石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)の1例

著者: 奥村匡敏 ,   北端裕司 ,   志波充 ,   郭哲次 ,   吉益文夫

ページ範囲:P.555 - P.557

はじめに
 石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(Diffuse neurofibrillary tangles with calcification;DNTC)は1965年に安藤烝らが初めて報告し,1992年に小阪が1疾患単位として提唱した初老期痴呆性疾患3,4)である。Shibayamaらはこれをnon-Alzheimer non-Pick dementia with Fahr's syndromeと名づけ,Kosaka-Shibayama's diseaseとも呼ばれる5)。有病率は明らかではないが,田辺らの報告11)によれば,3,000人の痴呆患者中に占める割合は0.13%である。臨床像は初老期に記憶障害で発症し緩徐に進行する。失行,失認や視空間障害は目立たず,感情的接触性が保たれ,初期に精神症状(幻覚妄想状態)を伴ったり10),入格変化や言語機能の障害などの症状が混在する。また,神経学的にはパーキンソン症状がみられることがあり,末期にはけいれん発作,ミオクローヌスが出現し,失外套症候群に近い状態となり,感染症などにて死亡する。放射線学的には,側頭葉や前頭葉優位の萎縮と広範な石灰化を認める。病理学的には,大脳皮質に多数の神経原線維変化をみるが,老人斑やピック嗜銀球を欠くなどの特徴を有する。今回,我々は臨床的にDNTCと診断された1例を経験し,髄液中アミロイドβ蛋白(Aβ)とタウ蛋白を測定しえたので報告する。

高齢発症の周期性躁病の1例

著者: 丸井和美 ,   井関栄三 ,   二橋那美子 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.559 - P.561

はじめに
 老年期の感情障害はうつ病あるいはうつ状態として注目されることが多く,躁病や躁状態が問題とされることは少ない。一方,発症年齢にかかわらず単極性の躁病は稀であることから,周期性の躁病は双極性障害の中に含められている。双極性障害の発症年齢は20歳代にピークがあり,年齢とともに減少し,ほとんどが50歳までに発症する。しかし近年,欧米では老年期の躁病に関するまとまった研究報告がなされており5),わが国でも最近では,老年期の躁病に関心が寄せられるようになってきた2,3)。老年期の躁病の発症要因の検討もなされ,病前性格や心理社会的要因以外に,合併する身体疾患や脳器質障害との関係が問題とされている。
 今回,我々は78歳で躁状態で初発し,その後周期的に躁状態を繰り返し,明らかな脳器質障害の認められない82歳の女性例を報告する。高齢発症の躁病でも,本例のような周期的な経過をとった症例の報告は少ない。

試論

分裂病型人格障害の内包と外延

著者: 高岡健 ,   高田知二

ページ範囲:P.563 - P.570

はじめに
 Gunderson8)は,境界例研究を方向づけた3つの重要な研究の1つとして,Ketyら10)の養子研究をあげた。デンマーク養子研究と呼ばれるこの研究は,養育上の家族よりも,生物学的家族において,精神分裂病に関連する障害が多く認められると結論づけた。そこで見いだされた境界分裂病(borderline schizophrenia)に関する研究は,「境界例の定義を明確にすることによってのみ精神分裂病の遺伝様式が解明されること」を示したという意味で「衝撃的」であり,また,性格病理に対応する遺伝的基盤への着目を促したという意味では「生物学的精神医学の興隆の道標」であるとさえ,Gundersonは述べたのである。
 Ketyらの一連の研究は,1960年代以降の米国におけるサイエンス至上主義注1)にとって,確かに衝撃的な役割を演じたであろう。境界分裂病に関する,その後の研究の展開は,1950年代におけるRado16)の「スキゾタイプ」(schizotype)という概念を復活させ,分裂病型人格障害(schizotypal personality disorder)という概念を生み出した9,19)。そして,分裂病型人格障害が精神分裂病と遺伝的に関連を持つことを証明するための努力を,次々と重ねていった1,2)。反面,分裂病型人格障害は境界例(DSM-III以降は境界性人格障害)とは関連を持たず,また,境界例は精神分裂病と関係しないという研究も積み重ねられていった9,23)。その結果,Gundersonは,境界例(境界性人格障害)の範疇から境界分裂病(分裂病型人格障害)の概念を分離することが有益であると,主張するに至ったのである。
 はたして,分裂病型人格障害は,いまや精神分裂病の周縁に位置づけられる遺伝学的概念としてのみ,存在を認められているということになるのだろうか。換言するなら,分裂病型人格障害は,境界例としての意義を失ったといえるのだろうか。ここでいう境界例とは,固定した人格を指すものではなく,病像もしくは状態像としてのそれを意味する19)。換言するなら,本稿の目的は,固定した人格障害としての分裂病型人格障害という視点に疑問を差し挟み,人格と,病像もしくは状態像とを区別する中から,分裂病型人格障害の概念を再構成しようとするところにある。

特別寄稿

NIH/NIMH(米国国立衛生機関)にリードされるアメリカの精神医学研究の実態(第3回)—日本生物学的精神医学会における報告と討論,その後の比較考察

著者: 澤明

ページ範囲:P.571 - P.578

はじめに
 過去2回にわたり,アメリカで医学研究を制度上リードする立場にある米国国立衛生機関(National Institute of Health:NIH)のNational Institute of Mental Health(NIMH)副所長リチャード中村のアレンジによって私が行った,アメリカの研究に対する考え方,機構についてのインタビューを連載したが,今回はその最終回となった。第1回目は,NIHの機構とその基本理念,そしてその理念に基づく研究評価の考え方とグラント申請のあり方について述べ,第2回目は,その研究実践と倫理のあり方について述べた。
 本稿では,こうした調査結果に対して,日本との比較を念頭に置いて,考察を行いたい。これらのインタビューに基づく調査結果については,昨年日本生物学的精神医学会に招いていただき,私の発表に対して,指定討論者の先生方(追記参照),会場参加者の方々から意見を頂戴するという討論形式の場を設けていただいた。本稿前半では,その討論内容をまとめたいと思う。これらの討論を通し,現在の日本では研究制度の変革が進んでおり少なくとも形式的には(「ハード」の側面では),私が調査してきたアメリカの制度に近づきつつあるが,「ソフト」な面ではまだずいぶんと違いがあるのではないか,ということが明らかになってきた。本稿後半では,この「ソフト」面で日本が真に国際化し発展していく上で何が必要とされるかについて,自身の経験に立った主観的な側面も若干交えて,論じていく。

私のカルテから

幻嗅を共有した感応精神病の1症例

著者: 佐藤大輔 ,   長友医継 ,   滝川守国 ,   大迫政智

ページ範囲:P.580 - P.581

 感応精神病は,精神症状,とりわけ妄想が,患者と親しい結びつきを持つ者にそのまま移入伝達され,2人が同じ内容の妄想を共有し合うようになった場合を言い,共有される症状は,被害・関係妄想や憑依・宗教妄想などが多く7),幻覚についての報告はほとんどみられない。今回我々は,母親(発端者)と息子(継発者)の間で妄想とともに幻覚(幻嗅)を共有した症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?