文献詳細
特集 司法精神医学の今日的課題
精神保健福祉法通報制度の問題点と司法精神医学的課題—触法精神障害者治療現場の現状から
著者: 武井満1
所属機関: 1群馬県立精神医療センター
ページ範囲:P.619 - P.625
文献概要
当群馬県立精神医療センターは,県立病院としての使命を担うため,これまでに精神科救急の基幹病院機能,原則として他病院に転送なしの治療,県内精神鑑定業務の全面的対応,民間病院処遇困難患者の受け入れ,触法精神障害者の治療,移送制度の立ち上げなどに取り組んできた2,3)。日本の精神医療は諸外国と比べても,驚くほどの少ないマンパワーで医療を行っており,その一方で,精神保健福祉法の第23条から26条まで,社会的に問題とされる人たちに精神障害の存在が疑われると,あるべき適切な処遇が十分吟味されることなしに,便宜的,現場主義的に安易に精神病院に集まる仕組みになっている。触法精神障害者の処遇の在り方は,その象徴的問題である。
日本の場合,行政処分による強制入院であっても,受け皿となる精神病院は赤字が問題となる保険診療で治療している一般の精神病院のみであり,人権に配慮して必要十分な医療を行えるような体制にはない。このような中にあって,日本の精神医療は医療の質的向上を伴うことなしに,過去,ベッド数のみが肥大していき,現在の世界に類を見ない34万床体制が出来上がったものと考えられる。
本稿では,以上の観点から,触法精神障害者問題を通してようやく明らかになりつつある日本の精神医療体制の構造的問題と司法精神医学的な課題について論じることにする。
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