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文献詳細

雑誌文献

精神医学44巻7号

2002年07月発行

文献概要

動き

「感情障害国際学会第1回大会」印象記

著者: 大塚公一郎1 阿部隆明1

所属機関: 1自治医科大学精神医学教室

ページ範囲:P.798 - P.799

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 2001年3月9日から3月12日の4日間,感情障害国際学会第1回大会(International Society for Affective Disorders Conference:ISAD)が,Chris Thompson(UK)会長のもと,シチリア島のタオルミーナ近郊で開かれた。会場は,イオニア海に面したリゾートホテルで,エムペドクレスが身を投げたという伝説で名高い活火山エトナ山を背後にした絶好の景勝地であった。200人あまりの参加者があり,4つの会場で,4つのプレナリーレクチャー,11のシンポジウム,40あまりの口演発表,30近くのポスター発表が行われた。さまざまな研究分野の優れた専門家たちの出会いと交流を通して,現在の感情障害に関する研究課題や方法論の全体を見きわめるというこの学会の趣旨にふさわしく,主としてヨーロッパ圏(とりわけイギリスを中心とする英語圏)の一流の研究者が一堂に会していた。ヨーロッパからの参加者の多くが,家族を伴い会場のホテルに連泊していたため,ホテルのレストランでの同席やオプショナルツアーの同行を通して,参加者たちのパーソナルな交流も活発であった。
 感情障害の遺伝子研究の権威であるロンドンのキングズ・カレッジのPeter McGuffin氏は,「ポストゲノム時代の気分障害」と題した講演で,これまでの研究成果を要約しつつ,性急な「遺伝子化(geneticisation)」の風潮が,精神障害のスティグマ化を促してしまうのではないかとの懸念を表明していた。また,複合的要因を持つ感情障害における遺伝子治療の将来の実現についても疑問を投げかけていた。イスラエルの精神薬理学者のBemard Lerer氏は,「感情障害の薬理遺伝学」というタイトルで,特定のSSRI薬剤への治療的感受性は,複数の遺伝子の関与が想定されていること,ある特定の遺伝子の薬剤感受性への寄与は人種や民族によっても異なるなどの指摘をしたうえで,研究所見から臨床的応用までの距離は世論が考えているよりも大きいとコメントしていた。これらの生物学的研究分野からの演者の発表は,当事者の側からの科学の暴走への警鐘といった論調であり,好感を覚えた。また,同じくプレナリーレクチャーの枠で,合衆国のエモリー大学のCharles Nemeroff氏は,「臨床的うつ病と双極性うつ病の神経—生物学的所見」という演題で,内分泌障害のうつ病への影響に関する一連の研究について報告していた。うつ病の患者は,対照群に比べて,内臓に蓄積された脂肪が多く,高コルチゾール血症が認められるといった所見が提示された。彼らの研究で,melancholic depressionという用語を患者群のラベルに用いていることに質問が出たが,CRF血中濃度において,大うつ病(major depression)の患者群の一部と対照群との間に一致が認められ,大うつ病の異種性を想定して,対象の均一性を追究するためにmelancholic depressionという狭い基準を用いたという興味深い応答がなされていた。Nemeroff氏らの研究グループは,PTSDと視床下部一下垂体—副腎皮質系の内分泌機能の関係についても取り組んでおり,昨今のPTSD研究の興隆の影響を受けて,感情障害の内分泌研究が新たに脚光を浴びていることが感じられた。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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