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雑誌目次

雑誌文献

精神医学44巻8号

2002年08月発行

雑誌目次

巻頭言

子どもは小さな大人か—精神医学におけるADHDな断絶

著者: 石川元

ページ範囲:P.816 - P.817

 香川に赴任して十年,精神科医とよりも小児科医との付き合いが増え,己が意識も変わってきた。病理(退行)よりも発達に目がいくようになった。数年前から,県下の教育機関にも参加を呼びかけ,香川県学校精神保健研究会を発足させた。大都会に比べれば,児童精神科医は皆無に等しい。長尾圭造氏に顧問を依頼し,高名な講師を毎回招いて,軽度発達障害を中心テーマにワークショップを重ねてきた。また,文部省委嘱LD調査研究専門家チーム会議での活動の際モデル校だった小学校を,その後も,リエゾン精神医学の「御用聞き」よろしく,数名で定期的に訪問。教諭の「気に掛かり度」が高い生徒について相談を受けている。それとは別に受診したADHDについては,リタリン投与の前後あるいは投与量変更の際も含めて,必ず授業参観に学校へ出向く。そのせいか教諭経由の紹介が少しずつ増えてきた。まもなく「ADHD学校・医療連絡協議会」を発足させる。
 ADHDで,症状の社会的意味が最も問われる現場である授業光景を掌握しておくことは,てんかん発作を目撃するのと同様,臨床活動には欠かせないと思っている。地方の小学校でも,転勤族の多い市街地と,一年生に入った時から学年に関係なく所属する家の格ですでにその子どもの序列が決まっている離島では,症状の影響も介入の効果もニュアンスを異にする。

特集 精神疾患と認知機能

認知機能とは何か

著者: 山内俊雄

ページ範囲:P.818 - P.820

はじめに
 最近,非定型抗精神病薬と呼ばれる薬が認知機能を改善する,あるいは少なくとも障害することが少ないということがいわれるようになったこともあり,にわかに認知機能,あるいは認知機能障害という言葉があちこちで聞かれるようになった。
 しかし,認知機能という言葉はきわめて広範な概念を含んでいるので,そこで問題にされている認知機能とは何を指しているのか,今ひとつはっきりしないことも少なくない。そもそも,認知機能とは何であるのか,それが精神疾患とどのように関連するのかについての十分な検証もないまま,お互いに何となく「認知機能」という言葉を用いていることも多く,言葉だけが一人歩きしている感があり,好ましくないことである。
 認知機能とは何か,精神症状とどのような関連があるのか,治療によってどのような側面が改善するのかなどなど,数々の疑問に答えるべく,今後の検討が必要である。
 そこで,ここでは認知機能について検討する際に明らかにしなくてはならない問題を考えておきたい。

認知機能の測定—心理テストと機能的MRIを中心に

著者: 杉下守弘

ページ範囲:P.821 - P.824

 科学ではその領域で使用される専門用語の定義の厳密さが求められる。しかし,一方では,時代の流れとともに,同じ内容を別の専門用語で表すことがしばしば生ずる。認知機能という専門用語もそのような例の1つで,従来,精神機能といわれてきた内容が認知機能と称せられているといって良いであろう。認知機能は,具体的には知覚・記憶・思考・学習.感情などを指している2)

認知機能の脳内基盤について—視覚と聴覚

著者: 川村光毅

ページ範囲:P.827 - P.837

はじめに
 認知機能は情動機能と共に高次神経活動を支える大きな要素である。本稿で考察の対象とする視覚機能と聴覚機能は,霊長類においてコミュニケーションの手段として発達した系である。特に言語を獲得したヒトにおいて,その精神機能は視覚と聴覚の系に大きく依存している。そのうち研究がより進んでいる視覚系に重きを置いて,それらの脳内機構について基礎医学の立場から比較検討を試みる。
 そのまえに,光と音の物理的性質について触れておく。音については空気や水など媒質の波動によって伝播するという波動説が17〜18世紀には定まっていたが,当時,光に関しては,「大粒子は赤色,小粒子は紫色」というふうに,光の(微)粒子が網膜に光の感覚を与えるという17世紀以来のニュートンの粒子説が有力で,これに対して,「あらゆる現象は物質の運動によって起こる」と主張したホイヘンスは「光を微粒子の運動とみることによっては,光の伝播の速さや光線の交叉は説明できない」として1690年,光の波動説を唱えた。爾来,粒子論者と波動論者との論争が続いたが,19世紀に入り約30年の間は,旧来のニュートンの粒子説が否定されて光をエーテルの運動の波とみるホイヘンスの波動説が復活した。19世紀半ばを過ぎて,マクスウエルは電磁場の理論を展開し,「マクスウェルの方程式」の基本的な結論として,光速度で伝播する電磁波の存在を導きだし,光と電磁気を結びつけた。しかしこの立証は電子が原子の構造と密接に結びついているとして光の粒子性を基礎づけた,アインシュタインの光量子説(1905)の出現を俟たねばならなかった。すなわち,量子の発見(1900)後に,古典物理学の概念がそのままでは微視的領域で成立しないことが明らかになった。次いで,光を含めてすべての物質は粒子性と波動性を持っているとするド・ブロイらの古典論と量子論との折衷である前期量子論の期間を経て,1925〜26年,量子論あるいは量子力学がハイゼンベルクやシュレーディンガーらによって理論的に体系づけられた。量子論では,状態と観測量の概念が古典論とまったく異なり,これが量子論の論理構造の基礎となっている。大きさのない1個の粒子を考えるとき,その状態は,古典論ではその粒子の位置と速度によって表されるが,量子論では粒子的性質と波動的性質とを同時に備えた波動関数で表される。

精神分裂病症状の脳機構の検討のために—視知覚を中心に

著者: 鹿島晴雄

ページ範囲:P.839 - P.844

はじめに
 筆者は精神分裂病の症状の神経心理学的検討に関心をもってきた。分裂病の症状を脳機能との関連で検討することで,症状の形成に関する何らかのヒントが得られないかと考えてきた。脳損傷による高次脳機能の障害に対しては,近年,認知リハビリテーションの名のもとに症状解析に基づいた症状の代償方略をはじめとするさまざまな治療の試みがなされるようになっているが,分裂病においても,神経心理学的なアプローチにより,症状を検討し,それらに対する対処方略などを何とか考えることができないかと思っている。以前,分裂病と前頭葉損傷を比較,検討したことがあるが,神経心理学的には両者の症状は似ているが,やはり異なるという当たり前の結果が得られただけであった3)。前頭葉損傷との対比では分裂病の陰性症状が対象であり,診断において特異性の高い陽性症状は対象としえなかった。
 しかるに,最近共同研究者の前田が視知覚の体制化を検証する目的で,グラフィック・ロールシャッハテストの改変を試み,限局性脳損傷や分裂病の視知覚に関する予備的な検討をはじめている7〜11)。グラフィック・ロールシャッハテストはすでに1943年にGrassiら2)により試みられており,最近では田形15)も検討を行っているが,改変したグラフィック・ロールシャッハテストでは視知覚の体制化を神経心理学的により詳細に検討しうるよう,検査法・評価法に工夫がなされている。本グラフィック・ロールシャッハテストは後述するように,視知覚の体制化をbottom up organizationとtop down organizationの両面,つまり視覚刺激という“外界”と思考,意味,表象といった“内界”の両面から検証することを目的に作成されたものである。

分裂病型障害患者と精神分裂病患者の神経心理学的プロフィールの比較

著者: 山下委希子 ,   松井三枝 ,   倉知正佳 ,   野原茂 ,   高橋努 ,   米山英一 ,   加藤奏 ,   黒川賢造

ページ範囲:P.845 - P.851

はじめに
 精神分裂病患者に対して神経心理学的検査を行うことの意義について,松井と倉知8)は,病相期の病態生理の解明に寄与し,残遺期ないしは寛解期に内在する機能障害の評価としても有用であり,前駆期に施行することにより,発病予測や早期診断の参考にもなる可能性があると述べている。近年,分裂病患者に対する神経心理学的アプローチは臨床症状や脳画像所見との関連からも盛んに行われている。それらによると,言語性記憶課題時の前頭葉—視床—小脳回路の賦活低下1)や,前頭葉と上側頭領域の賦活低下3),さらには左側の下前頭回を含む前頭葉の機能障害が指摘されている11)。また,遂行機能課題時の前頭前野の活性低下も報告されている6)。しかし,病期ごとの機能評価,発病予測や早期診断に役立てるためには,前駆期と病相期といった病期ごとの特徴について検討する必要がある。さらに,その結果をもとに,より感度の高い検査バッテリーを開発することが重要になると思われる。
 そこで,我々は,前駆期にも相当する分裂病型障害患者と,分裂病患者の神経心理学的プロフィールを比較し,その結果について検討した。

精神分裂病患者の加齢,罹病期間とP300の性差に関する検討

著者: 森由紀子 ,   黒須貞利 ,   廣山祐治 ,   林田征起 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.853 - P.860

はじめに
 近年の脳画像研究の進歩に伴い,精神分裂病患者の脳の形態異常が発症後も進行している可能性が示唆されるなど,精神分裂病が神経変性過程を伴う進行性の疾患である可能性を支持する所見が得られてきている12,20)。このように精神分裂病の発病後の進行の可能性が示されてきている中で,非侵襲的に脳機能を反映し,繰り返し測定する方法を用いた研究が期待されている。事象関連電位(Event-Related Potentials;ERPs)の代表的な成分であるP300は,oddball課題のような典型的な2音弁別課題で標的刺激に対して潜時約300msに誘発される陽性成分で,非侵襲的に脳機能や認知機能を測定できる内因性の電位成分である。P300は,さまざまな疾患について検討されており,精神分裂病患者ではP300振幅の減衰と潜時の延長が認められ,一方,アルツハイマー病やパーキンソン病などを含む神経変性過程を伴う初老期から老年期発症の痴呆性疾患では潜時の延長が広く報告されている。また,健常者でも加齢に伴いP300潜時が延長していくことが知られている。
 そして,近年では精神分裂病患者についてP300を用いて,年齢や罹病期間に伴うP300成分の変化から,電気生理学的に発病後の進行の可能性を検討しようという研究が行われている。現在までに精神分裂病患者について,年齢とP300潜時に正の相関を認めたという報告がいくつかある5,9,11,14,16)。また,罹病期間とP300潜時に正の相関を認めた報告11,14)や,罹病期間とP300振幅に負の相関を認めた報告17)がある。しかし,これらの報告の中には慢性期の男性患者のみを対象とした報告11,16),高齢期の患者のみを対象とした報告17),家族性の精神分裂病患者のみを対象とした報告5)など,対象患者が限定されている報告も多い。さらに,初発の患者から慢性期の患者までを対象にして,加齢や罹病期間に伴うP300成分の変化の男女差について検討した報告はまだない。そこで,我々は急性期から慢性期の精神分裂病患者を対象にして,P300振幅や潜時の異常が年齢,罹病期間さらに性差と関連してどのように変化するかを検討し,精神分裂病が発病後も進行する疾患かどうか,さらにその進行の経過に性差があるかどうか電気生理学的な点から検討しようと試みた。

精神分裂病の認知障害と覚醒水準との関係について

著者: 相川博 ,   豊嶋良一 ,   太田敏男 ,   岡島宏明 ,   松岡孝裕 ,   中西正人 ,   井上清子 ,   中江雅人 ,   古田龍太郎 ,   奥山有里子 ,   山内俊雄

ページ範囲:P.861 - P.865

はじめに
 近年,精神分裂病の注意・情報処理障害について多くの関心が寄せられており,分裂病患者では種々の認知機能の障害があると考えられている。分裂病の認知障害の背景には神経伝達物質の異常,脳の形態学的変化や脳血流量の低下などさまざまな原因が想定されているが,1970年代から80年代にかけて分裂病の過覚醒説5,6,8)が唱えられ,分裂病の認知障害の原因の1つとして過覚醒状態が存在するためであるとの仮説が提唱された3)
 そこで我々は,生理学的覚醒水準の指標として休息や音刺激反応時間課題時にみられるα波帯域振幅の変化を,認知機能の指標として事象関連電位(ERP)の後期陽性成分(LPC)や反応時間を用いて,分裂病患者の覚醒水準と認知機能の関連について検討してきたので,その結果について述べる。

研究と報告

精神分裂病患者の描画特徴による予後予測の試み

著者: 横田正夫 ,   伊藤菜穂子 ,   青木英美 ,   清水修

ページ範囲:P.867 - P.875

【抄録】 精神分裂病患者の描画特徴による予後予測について検討するために,DSM-IVの診断基準を満たす30名の分裂病患者を対象にして,描画を,3回,間隔をあけて実施し,それらの特徴の変化を調べた。患者は,3回目の描画から退院時までの月数によって,直後退院群,退院群,継続入院群に分けられ,描画特徴が比べられた。直後退院群では写実性,整合性は高く,活動性は改善した。退院群では活動性,写実性,整合性のいずれも改善した。継続入院群では活動性,写実性,整合性のいずれも改善傾向がみられず,変動が大きかった。こうしたことから描画特徴の改善が退院を予測し,その変動は継続入院を予測しうると考えられた。

日本帝国陸軍と精神障害兵士(VIII)—国府台陸軍病院『病床日誌〔1938(昭和13)〜1945(20)年度〕』にみる戦争神経症患者の生活史的検討

著者: 細渕富夫 ,   清水寛 ,   飯塚希世

ページ範囲:P.877 - P.883

【抄録】 アジア・太平洋戦争下,旧・国府台陸軍病院(現国立精神・神経センター国府台病院)は陸軍における「戦時精神疾患」問題に対応する専門病院としてセンター的役割を担っていた。国府台陸軍病院に収容された精神障害患者総数は10,453人であった。患者の診療記録である『病床日誌』は軍の焼却命令に抗して秘匿・保管され,8,002冊が現存している。筆者らは浅井利勇氏(元・本病院陸軍少佐)作成の複写版8,002冊を資料として,戦争神経症の症例について検討した。本稿では「臓躁病(ヒステリー)」として分類整理された『病床日誌』(複写版)805冊を分析し,生活史的にみて興味深い2症例について,その発症経緯,治療経過などを紹介,考察した。

汚染に関する強迫観念の内容を分類基準とした汚染/洗浄強迫の均質性に関する検討

著者: 松永寿人 ,   松井徳造 ,   大矢健造 ,   越宗佳世 ,   切池信夫

ページ範囲:P.885 - P.892

【抄録】 Obsessive-Compulsive Disorder(OCD)の汚染/洗浄強迫の均質性を検討するため,初診時洗浄行為を有したOCD患者90例を対象に,最も洗浄行為に関連する恐怖刺激や心配の内容を,Yale-Brown Obsessive-Compulsive Scaleの症状評価リストの「汚染に関する強迫観念」の下位項目に従い評価した。そして出現頻度が上位であった汚れやばい菌の心配(28例),排泄物への嫌悪(22例),病気の心配(16例)の3群を比較した。
 病気の心配群は他群に比し,汚染自体の感じ方よりも結果を心配する割合が有意に高率で,不安惹起の認知的プロセスに相違を認めた。しかし患者背景や心理テスト結果,1年後の治療反応性などで発症年齢以外の有意な群間差はなく,この分類法を用いた場合,汚染/洗浄強迫の高度の均質性がうかがわれた。

他者の視線方向に対する自閉症者の反応—表象的処理と反射的機序の乖離

著者: 岡田俊 ,   佐藤弥 ,   村井俊哉 ,   十一元三 ,   久保田泰考 ,   石坂好樹

ページ範囲:P.893 - P.901

【抄録】 自閉症者において対人場面で観察される共同注意の障害が,認知行動過程のどの段階における障害であるかを明らかにするため,1次,2次の心の理論課題を通過せず,対人場面での共同注意に障害のみられる自閉症者を対象として,視線方向による手がかり課題を用いた注意定位実験を行ったところ,反射的な共同注意が認められた。反射的な共同注意は必ずしも注意の共有を必要とせず,心の理論や対人場面での共同注意と異なり他者の心の状態に対する認知表象を必要としない。本研究で両者の間に乖離を認めたことは,今後,自閉症の対人表象理論について認知表象の有無を明確にした理論構築が必要であることを示している。

短報

オランザピンの関与が疑われた悪性症候群の1例

著者: 宮澤泰輔 ,   村上真里

ページ範囲:P.903 - P.905

はじめに
 オランザピンが本邦で一般的に使用できるようになったのは2001年6月からであり,本邦における副作用を含めた評価も徐々に確立されつつあるように思われる。今回,筆者らは30歳の男性の精神分裂病患者でリスペリドンとビペリデンの処方からオランザピンとプロメタジンの処方に切り替えて,オランザピン20mg/日とプロメタジン25mg/日眠前1回の内服治療中に悪性症候群を発症した1例を経験した。オランザピンが関係したと考えられる悪性症候群の報告は少ない。それに関する文献による報告も筆者らの知るかぎり海外を含めて数例しかなされていない。

ハロペリドールの中止後に体幹ジストニアを来した1例

著者: 坪内健 ,   岸敏郎 ,   稲垣卓司 ,   福田賢司 ,   堀口淳

ページ範囲:P.906 - P.908

 ジストニアは持続性の骨格筋収縮による異常姿勢,捻転,反復運動をもって定義され3),その一因として抗精神病薬が知られている2)。今回我々は,ハロペリドールの中止後に体幹ジストニアを来した1例を経験した。この発生様式が興味深く,また貴重な症例と考えられたので報告する。

Quetiapineの投与によって病的多飲,陽性症状の改善をみた精神分裂病患者の1例

著者: 三澤仁 ,   伊藤耕一 ,   加藤温 ,   南裕二

ページ範囲:P.909 - P.911

はじめに
 近年,精神科領域において,SDAなど新規抗精神病薬の登場により従来の精神分裂病に対するアルゴリズムが変わりつつある。今回我々は,10年間も寛解,増悪を繰り返し,入退院を繰り返していた精神分裂病患者にquetiapineを投与した。その結果,病的多飲をはじめ誇大妄想,興奮,易怒性,攻撃性などの陽性症状が著明に改善したので,この症例について,quetiapineの多飲,水中毒などの諸症状に対する効果を中心に,若干の考察を含め検討した。

試論

思春期・青年期の問題行動に関する1考察—いわゆる登校拒否,自殺,いじめ,暴力などの関連について

著者: 宮本洋

ページ範囲:P.913 - P.918

 近年,無差別殺人,バスジャック事件,通り魔的暴力事件など思春期・青年期の病理がとりざたされる事件が多発している。これらの事件の被疑者となった少年たちの背景は,我々が日常の臨床場面で接している,不登校やひきこもり,非行,あるいは突発性暴力などの問題行動を抱える少年たちとよく似ている。
 これらの問題行動と報道されている事件との間には,共通の社会病理が存在するように見える。かつて吹き荒れ,現在もまた再燃の兆しの見えている校内暴力,そして,いじめや自殺など,学校場面を中心として次々と生じてきた一連の問題とも何らかの関連が推定された。

動き

「第24回日本生物学的精神医学会」印象記

著者: 越野好文

ページ範囲:P.920 - P.921

 第24回日本生物学的精神医学会は,現在の学会が取り組むべき最重要課題である「精神医学の基礎と臨床の統合をめざして」をメインテーマに,埼玉医科大学精神医学講座の山内俊雄会長のお世話で,例年より開花の早かった桜の季節に引き続き,2002年4月10〜12日にさいたま市の大宮駅前に位置する大宮ソニックシティで開催された。古くからの交通の要所である大宮は,近くの武蔵一宮の氷川神社で知られる。その印象を少し綴りたい。
 まず,学会の正式プログラムとなった従来の若手プレシンポジウムの「精神医学研究を遺伝学から今一度見直す」は,遺伝の基本の基本から最先端の研究まで,まことに見事な構成であり,しかも「わかりやすく,わかりやすく」とシンポジウムの司会者から注文されたという演者の「難しい理論もいったんわかれば後は簡単」という言葉に励まされ鎌谷直之氏の「形質関連ゲノム配列探索の理論と手法」,中堀豊氏の「遺伝学の基本と多因子遺伝」を傾聴した。厳しい倫理的配慮が求められる遺伝子研究に対して,三省「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が発表された折から福嶋義光氏の「遺伝子研究の倫理的側面」は,指針はあくまで指針でありその運用は研究者の判断で行うことであり,ともすればマニュアル頼りになることへの反省を込め,研究者の自己責任を考える機会になった。藤田芳司氏の臨床的に確かな成果が期待される「ゲノム創薬」,海老澤尚氏の概日リズムに関する遺伝子の発見という臨床に密着した「時計遺伝子と睡眠覚醒障害」はいずれも,シンポジウムの意図に沿った刺激的な講演であり,ディスカッションも活発で実り多いものであった。学会初日から実りある学会になる予感がした。

「第49回日本病跡学会」印象記

著者: 渡辺由紀子

ページ範囲:P.922 - P.923

 第49回日本病跡学会総会は,長谷川病院院長柏瀬宏隆会長主催のもと,2002年4月19,20日の両日にわたり,東京都中央区日本橋の山ノ内製薬本社ビル2階ホールで開催された。1966年創立という長い伝統を持つ本学会は,毎年春に総会を持ち,年に2回の機関紙を刊行している。
 病跡学とは,傑出した才能を持つ人物の創造性と病理の関係について精神医学的に考察していく学問であるが,近年その研究対象は文学,科学,絵画,映像,音楽,ポップカルチャーなどにジャンルを拡げ,エピバトグラフィや犯罪学など新たな方法論の導入や多彩な領域に踏み込んだ表現病理的考察も試みられるようになっている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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